680 @Wiki内検索 / 「愛のカタチ」で検索した結果
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愛のカタチ
愛のカタチ その日、栗原と伊達の二人は都内の一等地にあるそこそこお洒落なダイニングで夕食をとっていた。 二人ともスーツ姿で、特に何の変哲もない服装だったのだが、長身で体格の良い伊達と、どこからどう見ても見栄えの点では申し分のない栗原との組み合わせなので、それなりに人目を引く。 「お前なぁ、いい加減に俺にタカルのはやめろよ。」 二人の前には小洒落た料理が並べられていて、グラスには高級そうなワインが注がれていた。 「なんで?いいじゃん、別に。たまには美味しいもの食べないとね。」 言いながら、栗原は非常に穏やかな表情をしている。 「旦那はどうしたんだよ、旦那は。」 電話があったのは今日の昼の事だ。突然に今晩ヒマ?と栗原から誘いをかけてきたものだから、伊達は二つ返事でその誘いに乗った。ほとんどの場合、伊達の方から声をかけることが多くて、そして栗原が誘いに乗ったとし... -
SECRET WING(春日あきら様)
...nations 愛のカタチ POWER BALANCE キミの居る場所 今も昔も・・・ 感想とかありましたら、コメント欄にて。 ふざけんな(#゚Д゚)ゴルァ!!てのも真摯に受け止めめますそ…。 年を経るごとに伊達好きになっているのでw伊達フィーチャーとても嬉しいです。伊達っち頑張れ。 -- 桃次 (2012-10-21 20 30 50) はじめして。あの神×栗で伊達もプラスのショートショートが読めるなんて、素敵過ぎます(T▽T) 末永く続けてくださいませ♪ -- めい (2012-10-27 21 57 00) 「はじめまして」だった、すみません(^^;) -- めい (2012-10-27 22 00 46) 名前 ... -
運命の予感
運命の予感 「てめっ、この野郎優しくしてりゃいい気になりやがってっ。」 「・・・分不相応な期待はするもんじゃないって事だな。そっちこそいい気になるんじゃないよ。」 「なんだと・・・。」 と、誰も居ない筈のブリーフィングルームからそんな声が聞こえてきて、それから激しく何か重量のあるものが床に叩きつけられる音がした。 「ってぇな・・・。上等じゃねぇか・・・。」 それは多分、人間の身体が叩きつけられた音で、でもそれからすぐに、何かアルミのパイプの様なものが、いくつも音を立てて散乱する音が聞こえた。どうやら、パイプ椅子がいくつも倒れたらしい。 「ちっくしょうっ。」 と、そんな声がしたかと思うと・・・、 ブリーフィングルームの扉が開いて、1期上のパイロットが左腕を押さえながらそこから出てくる。顔をしかめているのを見るとどうやらそこに怪我でもしているらしい、顔もど... -
Take a Look at Me Now
Take a Look at Me Now その日の朝早く、千歳基地を後にした栗原は、午前中の早い時間帯に百里に帰り着いていた。 ターミナルからそのまま飛行隊に顔を出して、その日の課業を坦々とこなしていく。 栗原は、神田の居ないこの3日間の間に、溜まっていた仕事を片付けたり、職場や家の整理整頓をしようとしていた。神田が居ると、その相手をするのに追われてなかなか自分のやりたい事ができないからだ。 けれど、千歳行きという多少のハプニングはあったものの、そんな安息の日もとうとう終りに近づいていて、明日には神田が帰ってきてしまう。 結局その日、栗原が仕事を全部終えたのはもう夜も遅くなってからで、着替えてショップの出勤札を反しに来た時には当直しか残っていない。 そんな時、丁度栗原の近くで電話が鳴った。 時間外の電話を取るのは当直の仕事だったが、栗原がその方向を振り返ると... -
衝動 -The Winter Moment-
衝動 -The Winter Moment- 「あーあ、また潰れてるよコイツ。」 「しょうがない、ピッチが早かったからね、随分。」 やれやれ、といった感じで伊達と栗原は神田をはさんでそんな会話をしていた。そこは札幌市内の深夜までやっているバーのカウンター席で、神田を挟んで左に伊達、右に栗原が座っていた。 栗原は苦笑しながら、外套をとってカウンターに突っ伏している神田の肩にそれを着せ掛けた。それから、自分のグラスを手にすると、伊達の左隣の空いている席へと移動する。 スツールに腰かけると、ほとんど空になっていたグラスの残りを飲み干して、2杯目をオーダーする。 「お、めずらしく飲むねぇ。どしたの?栗ちゃん。」 と、伊達がからかうのに、 「俺だってたまには酔いたい。伊達が居るなら平気かなって思って。」 と栗原が牽制する。 「バカ言うなよ、俺が一番あぶねぇぜ... -
二世問題
二世問題 「な、栗。大丈夫だ、お前に不可能はない筈だ!」 「馬鹿言ってんじゃねぇ!あっちいけこのボケがっ!!」 根拠のない説得をしつつジリジリと迫ってくる相棒から、栗原は必死で逃げ回っている。 二人が居る場所は、課業終了から幾分時間の過ぎた誰もいないブリーフィングルーム。部屋の中央にある10人は座れるくらいの大きな会議机の周りで、二人はくるくると右に左に追いかけあいっこをしている。 そもそもの始まりは夕日がラッパがなる直前のこの部屋での飛行隊のメンバーとの他愛のない会話から・・・・。 「男が生まれたら、将来は戦闘機乗りだな。」 「あ~、その頃にはイーグルだな。」 「いや、更に最新鋭のものごっついのが配備されてるかもしれねーぞ。」 来月に新妻が臨月を迎える隊員を囲んで、みんな好き勝手にものを言っていた。 話題に火をつけたのは神田2尉の心な... -
BBS-BBS/1
投票について -- hig 2005-11-19 22 55 31 ごめん、増やしすぎたw 改行もテーブルも効かなさげなので、許してたもれw 一応2巻以上のものばっかりだったと思うけど・・・。 まびきもok-っと。 ワースト投票もいいよな・・・きいちご賞(暴走スマソw もひとつ。リンクですが、本家にもリンクどうでしょう?久しぶりに行ったら、mailんとこに無頼のカラーがあってにやついてきました。公式サイト http //www.area88.jp/top.html -- hig (2005-11-19 23 09 53) しばらく様子見るですw<投票 本家は・・・いいのかしら。ちょっと躊躇。 -- akr (2005-11-19 23 46 49) ... -
The Begining Place
The Begining Place 「神さん、メシ食い終わったか?」 「おぅ。」 「着替え終わった?ハンカチ持った?テレビとコタツのスイッチ切った?」 「おう。」 「んじゃ、俺はゴミ出してくるから、車のエンジンお願いね。」 ・・・というのが、神田・栗原のいつもの朝の光景だ。 いや、これに至るまでにはもっとある。 例えば、栗原の朝は早い。 目覚まし時計を一応セットしているものの、大抵はその5分くらい前に目をさましてしまう。そして、隣で寝ている神田を起こさないように起き出して、そして目覚ましのアラームのセッティングを止めてしまう。もちろん神田がそれで起きてしまわなくていいようにと気遣って、だ。 それから、炊飯器のスイッチを入れて身支度をして、朝食の用意をしてから神田を起こすのだ。それが栗原の朝の日課だった。 一緒に住み始めた当初は、それを交代でや... -
余韻
88title/no.037 余韻 元旦の灯を空で眺める事もなく、湿気て重い綿布団の中で、惰眠を貪りながら過ごすのは、いつ振りだろうか? 大晦日から元日にかけての、年越しを休日として迎える事は、この仕事についてからは、極稀な事だったから。独身貴族を返上するまで、それは避けられない事のように思われていたのだけれど。 幾つかの偶然と、偽善と呼ぶには流石に哀れな好意によって、この新しい年は狭くも過ごしなれた自室で、迎える事となったのだ。 そうは言えどこの数時間後には、新年初のシフトが回ってくる訳で、決してのんびり正月休を味わう閑など無い訳だが。 この部屋を我が物顔出で入りする、ゴリラも画やと揶揄される天然野生児には、何の関係もないらしい。ここぞとばかり、大晦日から乗り込んできて、やれ蕎麦を食うだの、紅白を観るだの、騒ぎ立て。人の部屋で好き勝手わがままを、押し通し... -
His Phantom
His Phantom 「ったく、なんて世話のやけるガキんちょなんだ。」 一方的に切れた電話の受話器を手に、伊達は公衆電話コーナーの隅でそう呟いた。 「しゃあねぇ、会って話してくっか。」 そこは羽田空港の出発ロビー前だ。伊達はそのまま、羽田空港内の紅空のカウンターに向かった。そこで社員証を見せて言う。 「なぁ、千歳まで行きたいんだけど、クルー席どっか空いてねぇか?」 受付の女の子に軽くウィンクしてそう尋ねると、 「・・・社用で移動されるのでしょうか?客席をご用意できますが?」 「まぁ、社用っちゃ社用だな。」 と、適当な事を言う伊達だったが、受付係はそれを疑うこともなく、淡々と業務を進めている。冬の平日、しかも雪祭りでも何でもない時期の千歳便だ、それ程込み合っているわけでもなく、座席はすんなりととれそうだった。 予約表と座席表を見比べていた受付係は、よう... -
POWER BALANCE
POWER BALANCE 近頃じゃ、毎日のフライトが憂鬱だ。 訓練が嫌いなわけじゃない。操縦にもちったぁ自信はある。けど、ここの所は不調でもないのに後席からのダメ出しをくらうのだ。 けど、それは俺にはどうしようもない機体の性能上の問題だったり、どう考えても人間の身体にとっては無茶なオーダーの連続で、飛行後のブリーフィングのまたその後で、いつだって言い争いになるし、そして今みたいな取っ組み合いの喧嘩だって、もう何度目の事になるだろう。 ブリーフィングルームもその前の廊下も、喧嘩をするには目立ちすぎる。俺がそう思って先に立って格納庫の隅へと歩いていくと、相手も後ろから無言で付いてくる。 俺が振り返った途端に、向こうは何も言わずに掴みかかろうとしてきたので、俺は思わずその頬を拳で殴り返して牽制する。 もちろん小僧相手に本気で殴る蹴るなんてしやしねぇが、相手は結構本気ら... -
昔語り
昔語り 「なぁ、なんで民航に行ったんだ?」 と、目の前の男が無邪気にそう尋ねる。 ここは、航空基地からそう遠くない街のスナックだ。目の前の自衛隊の制服を着た男は、かなり酔っ払ってるらしく、普通なら「奴ら」が話題しない事を俺に聞いてくる。 俺は民航のパイロットだ。かつて空自にいたことがある。だから、普通のパイロットにそんな事きかれても、俺も金だ女だ外国だ、とそれらしい台詞で逃げるところだ。本当の事なんてわざわざ明かす必要ないだろう。 けど、今俺の目の前に居る男はまさしく俺がかつて目指していた「戦闘機乗り」だった。それも一人前の腕を持ったファントム乗りだ。俺が望んで得られなかったポジションにこいつは居るのだ。 「さぁな、つまらん話さ。」 「栗と組んでたんだろ?」 「千歳でな。」 そう、遠い昔に栗原と組んでいたのはこの俺だった筈だ。 千歳で。 遠い街で... -
キミの居る場所
キミの居る場所 「何でお前、こんな所に居るんだ?」 と、寝室に足を踏み入れた瞬間に、伊達は驚いてそう言った。 そこは空港に程近い成田市内のマンションの一室で、フライト前にゆっくり出来るようにと、生活に余裕が出てきた頃に購入した物件だ。 だからそこに予想外の人物が寝そべって本なんて読んでいたとしたら、驚くのも無理はない。カーテンは開けられたままだったが、夕刻を過ぎた部屋はもうとっくに薄暗くて、ベッドサイドの明かりだけが、その人物の手元と俯いた横顔を照らしているだけだったが、伊達にはその相手が誰かがすぐにわかった。 「何だ、帰ってきたのか。・・・じゃあ、出て行こうかな。」 物憂げな顔を上げたその相手は、その視線上に伊達の顔を捉えるなり、そう答える。 「いいさ、ゆっくりしてろよ。いつから居たんだ?お前。」 そして、伊達からそう尋ねられて、その相手・・・ベッドの上... -
DISTANCE~百里~
DISTANCE~百里~ 「あー、やっと終わった~。」 あちこちでそんな声が聞こえる課業後の1700、ラッパの吹奏音が終わるや否や、バタバタと帰り支度を始める隊員達の姿が見える。 「栗原2尉、まだ帰んないですか?」 そんな中、数冊の書類の束を抱えてブリーフィング用のテーブルの席に着いた栗原に、隊員から声がかかった。 「あぁ、神田が居ない間にデスクワークを片付けちまおうと思ってさ。」 言いながら、ページを開き、せっせとそこに文字を埋めて報告書を作りあげていく。まるで頭の中にその完成形が出来上がっているかのように、それはスラスラと進んでいく。 「まーた、神田さんの分まで書いてるんですか。甘やかすの良くないですよ。」 とそう言うのは水沢だった。 「神田が居ないんだからしょうがないだろ。」 甘やかして、の部分に反応して、栗原はちょっとムっとしたように水沢の... -
再会 ~A Hundred Miles~
再会 ~A Hundred Miles~ 「俺がここに来たのは、二つやらなきゃならん事があるからだ。」 神田を前にして栗原がそう切り出す。 そんな台詞が出るのははもう何度目かだ。大抵、神田が馬鹿なことをやらかした時に栗原はそれを言うことが多い。 「一つはこの基地を日本一精強にする事。もう一つは何だと思う?神田2佐」 「・・・わからん・・・いや、思いつきません、司令。」 そう訊ねられた時、神田は必ずそうごまかすようにしていた。 テーブルを挟んだソファに腰かけたまま神田を見つめる栗原の目が鋭く光った。 「それはな・・・、お前をまっとうな社会人に教育しなおす事だ。」 それは栗原が基地への初登庁の途中だった。 いや、正確には「基地司令」として赴任して、最初の出勤の日の事である。 その栗原を乗せたVIP用の官用車、所謂その黒塗りをゲートの直前... -
睫毛の先
88title/no.30 睫毛の先 ビューラーで根元から毛先へカールさせる。 繊維入りの下地をつける。 マスカラを「だま」にならないようつける。 マスカラ液が乾く前にコームで梳き、もう一度重ねづけする。 乾いた上からさらに透明マスカラをつけると、クマにならない。 阿呆みたいに口をポカンと開けたまま、神田が俺を見ていた。 俺の手順を魔法か何かでも見るみたいに。 「栗、キレー」 言葉までガキに戻ってやがる。俺は笑って、赤い口紅を引いた。 あ、クソ。ちょっと歪んだ。ティッシュで拭き取ってもう一回。 金髪のカツラを付けて、ブラシで整えて、 「どうだ?美人だろ」 振り返ってあだっぽく笑みを作ってやると、神田の顔がだらしなく垂れ下がる。 「うん。栗すんげー綺麗!!」 そうか、そうか。素直な返事だ。うんうん。俺は色白だから金髪も不自然じゃないし。 俺以... -
They Say "All's fair in love and war."
They say ”All’s fair in love and war.” 「なぁ、栗ぃ~。」 「なぁってば~。」 「くーりーはーらーさーん!」 と栗原の周りでじゃれついているのは神田だ。もうとっぷりと日も暮れて、夕食も終わって、風呂にも入り終わって、そしてゴールデンタイムのテレビがすべて終了した頃。 さっきまで大人しく横になってテレビを見ていた神田は、ニュース番組になるなり興味を失ったらしく、そして退屈し始めたようだ。もちろん、ただ退屈しているだけでない事はそのじゃれ具合から明らかである。 だが栗原はと言えば。 「今日はダメだ。」 と、まったく相手にしようとしない。 「栗・・・冷たい・・・。」 「うるさい、する事がないんなら、はやく寝ちまえ!」 結果、神田は一人でトボトボと布団を敷いた部屋へと向かったのだった。 そして、夜が... -
モーニング・ムーン
モーニング・ムーン それは、夏の始まり頃の事だった。千歳の夏は始まりが遅く、そして終わるのは早い。人々はほんの少しの夏気分を味わおうと躍起になる。 それはここ、千歳の航空隊でも同じことで、夏になればやれ花火大会だ、やれ水泳訓練だ、と精一杯の行事をこなす。 そんな花火大会の日のことだった。 基地をあげての花火大会で、そこには基地司令以下名だたるVIPが顔をそろえ、そして基地隊員は勤務に支障をきたす人員を除いて全員参加が達せられていた。 「いつまでもブウブウ言ってんじゃないの。」 と伊達は隣に居た栗原の頭を軽く小突いた。 グラウンドでバーベキュー、しかも大した花火でもない、そんな飲み会に出なきゃならないくらいなら、部屋で寝てた方がマシと言い張っていた栗原だった。 それを今回は隊長から厳しく咎められて、伊達には「必ず連れて来い」との厳命が下っていて、なだめすかし... -
One Night Stand
One Night Stand 栗原の予想外の行動に一瞬呆然となった神田と伊達だったが、ふと我にかえって階段を駆け下り、栗原を追いかける。 「ちょっと待てってば。」 神田より一足先に栗原に追いついた伊達が、その肩を掴んで栗原を立ち止まらせた。 「何?それよりも、そもそもなんで伊達がここに居るのさ?」 人通りの多い地下通路で、大声を出すわけにもいかずに、栗原はしぶしぶ二人の方を振り向いた。そこへ神田が追いついて二人して栗原を取り囲んだ。 「そ・・・それはだな・・・。」 状況を説明するには昨夜の電話の話からしないと説明がつかない。それを話してしまえば、神田からも栗原からも責められるのは目に見えている。 「電話したら神田がヒマそうだったから遊んでやろうかと・・・。」 「嘘つけ。そんな事でわざわざ千歳まで来るのか?本当のこと言えよ。」 「本当だって。それよ... -
3
Cross over the Line 3 「・・・なんか聞こえないか?前の方から。」 さっきのアナウンスがあってから5分くらいが経過しようとしていた。 二人が座っているのは先頭の席なので、その前はトイレがあって、更にカーテン一枚を隔てた先がコックピットになっている。 通常コックピット内の物音は、防音設備が良いため客席側に聞こえないようになっているのだが、二人には妙な感の冴えがあって、何となく普通と違うざわついた様子が感じられるのだ。 機内アナウンスも、その後は何も言って来ない。 「だな。何か揉めてるみたいだけど・・・。やっぱり思った通りか・・・?」 「ん?誰か出てきたみたいよ、神さん。」 前方のコックピット部の扉が開いた事を示すように、客室との間の目隠しになっているカーテンがわずかに揺れて動いている。 「・・・どうか嫌な予感が的中しませんように。」 ... -
二律背反
88title/no.20 二律背反 汗ばんだ肌が乾いていく感触と、体の奥の鈍い痛みとが、彼をして 浅い眠りから醒めさせた。 思いがけず長い時間を浪費してしまった事に舌打ちをして、彼は身を起こした。 既に部屋に差し込む影は長くなっていて、夕刻近い事は時計を見ずとも明らかだった。 床に散らばる服の中から適当にシャツを引っ張り出し、肩に羽織ながら 隣でだらしない顔をして眠っている男の髪を引っ張った。 「神さん、神さん、もう起きないと」 「ん・・・・・?ああ・・・後、10分・・」 「10分じゃないよ、まったく。今日中に各務原に戻らないといけないんでしょ、 いい加減に起きてください」 「お前、送ってくれよ・・・明日は非番だろ・・・・?頼むよ・・・栗ィ・・」 「俺はタクシーじゃないぞ、自力で帰れ。それともまた始末書を書くか?」 答えは無かった。 ... -
爪
88title/no.55 爪 帰宅して、スーツの代わりにいつもの部屋着のスウェットに着換えようとしたら奇妙に指先が裏の布地のボアの部分に引っ掛かった。 無理に引っ張ったら着れることは着れたが、よく見てみると人差し指の爪が斜めに裂けてぶら下がっていた。 「栗~、『爪切り』・・・知らないか?」 ストーブで幾分暖まった部屋に、明日の分の食糧を買い込んで来た為に自分より遅く帰って来た栗原に向かって、勇気を出して聞いてみる事にした。 自分はと言えば台所に立ったまま、食事の用意をしながらドアの方を振り返ることも出来ずに声を掛ける、へたれ振りで。 「はぁ?、いつもの所に在る・・・だろう・・・。」 いつものように玄関先に荷物を放り出している事が音で分かる。 普通に返って来た言葉が末尾に行く程、不安を滲ませて語尾が濁る。 「お前また失くしたな!!」 多分、睨まれているだ... -
運命と呼ぶには
運命と呼ぶには 不覚だ・・・。 と、朝布団の中でそう後悔してももう遅い。 頭がガンガンと割れるように痛く、体は気だるさで動くこともできない。 何よりも寒くてガタガタ震えが来て、布団から出ることもできなかった。 昨日の帰りだ。 「神田、顔色悪いぞ?大丈夫か?」 と、俺の顔を覗き込んでそう言う飛行隊の先輩。 「いや、大丈夫っすよ。ちょっと今日の訓練でヤられたもんで。」 と適当に返して、そして俺はそのままアパートまで10キロの道のりを走って帰ったんだった。 ・・・小雨の降る中をだ。 気持ちよく汗をかいて、それで寝たはいいけど、どうやら思い切り風邪を引いたらしい。 せっかくの週末に、この分じゃ寝込んで過ごすことになりそうだ・・・。 とりあえず、布団をかぶりながらなんとか起き上がって、電話口まで這っていく。 飛行隊に電話をかけて、今日は休ませ... -
Love the Island...
Love the Island... 「神さ~ん、百里降りれないってよ。どうするよ?」 眼下に見えるのは巨大な台風の目だ。しかも首都圏を中心に三陸沖、日本海側まですっぽり覆い隠してしまう程の巨大な台風。台風の中を飛ぶ事はなんとかできるにしても、滑走路付近の風速が50ノットを超えていては、着陸はとても不可能だ。 「あん?オルタネートはどこよ?」 「最初のフライトプランのは全滅よ。三沢、松島、小松全部ダメ。成田ももちろん。」 アラートで上がったはいいものの、ペアで上がった320号機を先に帰してエスコートを引き受けたのがますかった。いつものウラジオストック発のベトナム行き定期便だ。調子に乗って帰る燃料ギリギリ、東シナ海付近まで送っていったのも災いした。 「神さんが調子に乗るから。」 「んな事言ってないで、オルタネート探してくれよ、栗。このままじゃ墜落しちまう・・・。... - @wiki全体から「愛のカタチ」で調べる