680 @Wiki内検索 / 「3」で検索した結果
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3
Cross over the Line 3 「・・・なんか聞こえないか?前の方から。」 さっきのアナウンスがあってから5分くらいが経過しようとしていた。 二人が座っているのは先頭の席なので、その前はトイレがあって、更にカーテン一枚を隔てた先がコックピットになっている。 通常コックピット内の物音は、防音設備が良いため客席側に聞こえないようになっているのだが、二人には妙な感の冴えがあって、何となく普通と違うざわついた様子が感じられるのだ。 機内アナウンスも、その後は何も言って来ない。 「だな。何か揉めてるみたいだけど・・・。やっぱり思った通りか・・・?」 「ん?誰か出てきたみたいよ、神さん。」 前方のコックピット部の扉が開いた事を示すように、客室との間の目隠しになっているカーテンがわずかに揺れて動いている。 「・・・どうか嫌な予感が的中しませんように。」 ... -
One Night Stand
...ずどっか店入ろうぜ。3人で飲むのも久しぶりだしよ。」 けれど、そこは頑なに拒む栗原だった。 「明日の朝イチの定期便で帰るから、お前らとは付き合えないの。悪いね。」 朝イチという牽制にでる栗原に、伊達も容赦なく、 「へぇ、そのクセ、ダンナにはわざわざ札幌までコートを届けに来たりするわけだ。お熱いこって。幸せだなぁ、お前はよぅ。」 と、牽制の応酬と、ついでに言いながら神田の頭をバシっと叩いた。 「いてっ。」 叩かれた神田は伊達を睨むが、伊達はそんなのお構いなしという調子で続ける。 「まぁ、かわいい栗ちゃんの良妻っぷりに免じて、官用機に乗らなくても明日百里まで帰れる手段を俺が考えてやっからよ。一緒に飲もうぜ。」 「はぁ、どういう事よ?」 「定期便ったって三沢、松島と寄り道して降りるの入間だろ?そっからの陸路考えたら朝イチ乗っても百里には昼過ぎだ。それ... -
LAT43°N
LAT43°N ある日の事だ。 飛行後のブリーフィングを終えてダラダラしていた神田は、なんとなくその部屋の様子がおかしい事に気がついた。 視線を感じるのだ。 だが、それを感じているのはどうやら神田だけではないらしく、相棒である栗原も時折それが気になるのか、同僚との会話の合間に視線を宙に漂わせている。 だが、その視線が向けられるのは神田よりも栗原に対してのほうが圧倒的に多いようで、神田が栗原の動きを注意深く観察していると、その視線の主を簡単に発見することができた。 知らない顔だ、と神田は思った。 おそらく今期の操縦過程が終わって配属になったばかりの新人だろう。それが事あるごとに栗原の一挙手一投足を観察しているのだから気味が悪い。 (栗のやろう、また新人からかって恨み持たれたんじゃねーだろうな。) と神田は一人そんな事を考えたが、更に視線の主を観察している... -
Next Day
...計を確かめると夜中の3時、情事の余韻すら味わう暇もなく、二人は手早く服を身に着けると部屋を飛び出していく。 こうなる事ははじめからわかっていたのだ。 それは今が訓練でも演習中でもなく、「緊迫した状況」だったから。 いつかは始まるであろう交戦状態、その矢面に立たされるのが戦闘機乗り。 部屋を出る寸前に、ふいに神田が前を行く栗原の腕を強引に掴んでそしてその体を引き寄せた。 「愛してる。」 抱きしめて、荒々しく口付けをして、そしてそれだけを告げると今度は神田の方から先に部屋を出る。 そうやって言葉で感情を告げるのは初めての事で、 …そしてそれが最後になるのかもしれなかった。 車を走らせて基地へと向かう。 もう既に警戒態勢が敷かれていて、二人もすぐに緊急発進の体制をとった。窮屈な耐G服に身を包み、ヘルメットを手元に置いて待機につく。 列線に並んだ戦... -
BBS-BBS/3
...22) サングラス3削除完了でーす。 んで、お題ページのタイトルの横に作者名とかいれちゃっていい?>皆様 作業は週末になるがの。 -- あきら (2005-11-22 23 32 46) 遅まきレス。お題の横に名前賛成。でもファイル名も変更だからすっごい手間と思われ・・・手伝えそうなら言ってw -- hig (2005-12-05 13 03 22) -
Winding Road
...わされているのは国道355号線、丁度霞ヶ浦を千葉方面に回り込む道路だ。運転席は栗原、助手席に伊達、めずらしい組み合わせで乗用車は一路成田空港を目指していた。 神田の姿は後席にあって、うつぶせにリアシートに体を投げ出したまま動かない。かなりぐったりしているようだ。 車は中途半端なスピードで千葉方面に向かっている。 明け方のまだ薄暗い時間。海の方向だけが少し明るくなり始めている。 伊達は急いでいた。成田空港への出勤時間が迫っているのだ。そしてかなり焦ってもいた。しかし肝心のドライバーは比較的ゆっくりと車を走らせている。 道が込んでいるわけでもなく、道路状況が悪いわけでもない。 しかし運転手は法定速度を24キロオーバーした状態を続けていた。丁度検挙されても反則金で済むギリギリの速度だ。これなら処罰の対象にもならない。 「遅れたらどうしてくれるっ??」 「るせ... -
DISTANCE~千歳~
...に送り届けて、そして3日後にまた百里に連れて帰る事だった。なぜファントムなのかと言うと、その千歳への行程がそのまま司令の年次飛行の時間消化に当てられているという無茶苦茶な計画によるもので、つまり千歳にいる3日間、神田は特にする事もなくフリーなのだ。 朝イチで百里を発って千歳についたので、基地の見学も午前中にしてしまってたし、民航のターミナルに行って忘れないうちにと早々と栗原と飛行隊への土産も買った。 そして、もう既に退屈しはじめていた。 さすがにこの時間からすすき野の繰り出すのも気が咎める。同期や知り合いがこの基地に居なくもないが、みんな仕事中だ。遊んでくれる相手もいなかった。 仕方なく、宿舎に割り当てられた幹部隊舎の一室で昼間からゴロゴロとしている。 普段は外来用に誰も使っていない部屋だから、そこにはベッドとロッカー以外何もなかった。テレビすら娯楽室まで行かない... -
勝手にしやがれ
...ろよ、去年より確実に3センチは腹が前に出てんな。」 「それより、俺なんか黄ばみがひどくってさー。」 「あー、そりゃひでぇや。今年あたり被服更新してもらえよ。」 「補給係の奴なまけてやがってさー。」 と、朝礼前の飛行隊では隊員が集まって口々にそんな会話がかわされていた。今日は6月1日、全国一斉に衣替えの日である。 朝イチのフライトにあたっている隊員がやむおえず飛行服や整備服でいるのを覗けば、服装点検があるため隊員はほとんど夏制服で朝礼場に並んでいた。 当然、西川と水沢の姿もそこにある。 二人は飛行服姿だ。けれども出勤時は当然夏制服で、お互いに体型が崩れていっているのを嘆きあっている。 「飛行服に着替えてほっとしましたよ、僕。」 「俺も。どうにも下から2、3番目のボタンが張ってる感じでね。」 「最初に貰ったときは、ピシっと見せるために脇で折って着て... -
体温
...を連れたまま2件目、3件目と店を換え、酒を重ねた。 「あ・・・、スマン・・・昨夜は世話になった。」 笑っていて、揺れていた栗原の身体が止まる。 「神田って記憶があるタイプなんだな。」 感心したように告げられてますます居心地が悪くなる。 「最後の方は実は・・・無い。でも、布団の上で寝てるって事は栗原さんが何とかしてくれたんだろ?」 「・・・まぁ・・・な。」 やはり、クスクスと笑われて何があったのかと神田の身が竦む。 「え~~~と~~~~~俺・・・なんかした?」 その夜の栗原の記憶と言えば3件目の店で裸踊りをしようとした神田を取り押さえて流石に店から逃げ出し。 謝りと支払いをしに3件目の店に戻って置きざりにしていた側道のベンチに神田を連れに戻ったら、いなくなっていて・・・すわや迷子かと焦ってみたら。 何と何故かベンチ脇、植え込みの影になるに部分に座り込み通りかかった... -
おすすめ新谷作品について語る!
...エラン 全3巻です。今は無き徳間のキャプテンコミックス。 商業ベースの話って読むの大好きで、海老の話とか、ワインの話とか薀蓄増えます。素敵な新谷テイストです(知識欲が充填される)。 絶対長編かける話の展開だったのに、口惜しい。 またこういう話連載されないかな~~~~つか、こういう話が書ける雑誌は無いのかよ。 つー事で私もお試しです。でもこれどこまで長くなって良いの? (かずえ) 新谷作品投票所 選択肢 投票 エリア88 (10) ファントム無頼 (50) 戦場ロマンシリーズ (0) 紅たん碧たん (0) 砂の薔薇 (3) ぶっとび!!CPU (0) ... -
二死満塁
...裏、ツーアウトですが3人のランナーを背負っております、 ここでホームランが出れば逆転勝利、ヒットでも同点・延長にもつれ込むというこの場面、…” 「抑えろよ~抑えろよ~」 テレビの前で念じているのはオレの相棒、神田鉄雄。 これで打たれて負けるものなら荒れて荒れて大変なんだから…と違う意味合いも込めて期待する。 ”ピッチャー、振りかぶった、あーっとど真ん中だ!打ったー!ホームランー!” ぶちっ。 なにも消さなくても・・・。見たい番組あったんだけどなぁ。 「お茶入れようか?」 「ん」 ダメだ。反応が薄い。触らぬ神に祟りなし、か? (そして翌日) 無機質な、時には(特にこういった状況下では)耳障りな機械音。 というのも、スクランブルの対応に予想以上に手間がかかり、 十分に入れたはずの燃料が基地にたどり着く前にピンチを迎えたというわけだ。 ... -
Take a Look at Me Now
...は、神田の居ないこの3日間の間に、溜まっていた仕事を片付けたり、職場や家の整理整頓をしようとしていた。神田が居ると、その相手をするのに追われてなかなか自分のやりたい事ができないからだ。 けれど、千歳行きという多少のハプニングはあったものの、そんな安息の日もとうとう終りに近づいていて、明日には神田が帰ってきてしまう。 結局その日、栗原が仕事を全部終えたのはもう夜も遅くなってからで、着替えてショップの出勤札を反しに来た時には当直しか残っていない。 そんな時、丁度栗原の近くで電話が鳴った。 時間外の電話を取るのは当直の仕事だったが、栗原がその方向を振り返ると、当直の隊員は丁度別の電話の対応の最中で、目があった栗原に、電話に出てくれないかと視線で訴えている。 別に帰りを急ぐわけでもなかったので、栗原がその電話に出ると、相手は千歳に居る神田だった。 「なんだ、神さんか。... -
SECRET WING(春日あきら様)
...ne 1 2 3 4 Secret Base Fragile Eternal 優しい気持ち Pinup Girlのアヤマチ Next Day 朝が来るまで 夏の日 伊達をフィーチャーw、一つにまとめてあります。伊達マニアの方はこちらからどうぞw。 FIRST CONTACT 昔語り 桜の花の咲く頃に・・・ モーニング・ムーン 衝動 -The Winter Moment- 桜の花の咲く頃に・・・2 Missing Destinations 愛のカタチ POWER BALANCE キミの居る場所 今も昔も・・・ 感想とかありましたら、コメント欄にて。 ふざけんな(#゚Д゚)ゴルァ!!てのも真摯に受け止めめますそ…。 年を経るごとに伊達好きになっているのでw伊達フィーチャーとて... -
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...曜最終便で出りゃ丁度3日分代休使って4泊6日だ。」 と、得意げに休暇をとって旅行しようぜ、の計画を語る神田を前に栗原の口からはため息がもれた。 「あのねぇ、代休たって、今から申請あげて間に合うわけないでしょうが。それも海外なんてとても・・・。」 「ところが、それが大丈夫なんだな。」 ため息ついでにそうゆっくりと諭そうとする口調の栗原に、神田は得意げに机の上から数枚の紙を持ち上げて、ヒラヒラと栗原の眼前にかざして見せた。 「何だ?休暇申請書・・・って、既に決済降りてんじゃねぇかよ。」 「その通りっ。ほれほれ、見ての通り、休暇も海外渡航申請ももう取ってあるんだなー。後は栗がオーケーするだけなのよ。」 「・・・たく、人の印鑑勝手に使いやがって・・・。チケットは?」 「ふふふ、もちろん手配済みだ。」 だんだんと調子に乗ってきて得意満面に神田に対して、栗原の... -
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...曜最終便で出りゃ丁度3日分代休使って4泊6日だ。」 と、得意げに休暇をとって旅行しようぜ、の計画を語る神田を前に栗原の口からはため息がもれた。 「あのねぇ、代休たって、今から申請あげて間に合うわけないでしょうが。それも海外なんてとても・・・。」 「ところが、それが大丈夫なんだな。」 ため息ついでにそうゆっくりと諭そうとする口調の栗原に、神田は得意げに机の上から数枚の紙を持ち上げて、ヒラヒラと栗原の眼前にかざして見せた。 「何だ?休暇申請書・・・って、既に決済降りてんじゃねぇかよ。」 「その通りっ。ほれほれ、見ての通り、休暇も海外渡航申請ももう取ってあるんだなー。後は栗がオーケーするだけなのよ。」 「・・・たく、人の印鑑勝手に使いやがって・・・。チケットは?」 「ふふふ、もちろん手配済みだ。」 だんだんと調子に乗ってきて得意満面に神田に対して、栗原の... -
愛のカタチ
...原は、更に、 「3日くらい大丈夫だと思ったんだけどな・・・。」 とそう続ける。 その言葉の意味を伊達はすぐに理解した。自分にも多少心あたりのある事だったからだ。 「・・・お前、メシ食ってないのか?」 栗原が食堂に行く姿を見かけていない。この所宴会もなかったので仕事が終わった後栗原がどうしているのかを伊達は把握してもいなかった。 つまり栗原が言うには、この3日間程まともに食事をしていないことになる。 「学生の頃はそれくらい普通だったんだけど・・・、やっぱキツイや。」 その言葉に、伊達はやや口調を荒げる、そして栗原の頬を軽く叩いた。 「お前なぁ、体調管理くらいちゃんとしろよ。メシ食って体力付けるくらい基本中の基本だろうが。普段俺に言いたい事言ってるくせに、つまらねぇ事で世話焼かせてんじゃねぇよ。」 そして、栗原が何か言い返す暇を与えずにその腕を掴ん... -
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...いた。 残された3人は、また顔を付き合わせてヒソヒソと会話を交わしている。 伊達の最初の予定通りなら、そろそろ栗原が戻ってきても良さそうな時間だった。そして、もしも栗原が言うように中で捕り物劇があるのだとすれば、もう少し騒がしくなっていてもおかしくはない。 けれど、そうこうしているうちに、 「あっ。」 と3人ほぼ同時に声が上がる。 通常の人は気づかない、機体の微妙な動きを察知したからだった。 「方向転換したよな、今。」 「・・・ちょっと様子見てくる。」 そう言って伊達は立ち上がった。 中で何かあって、自動操縦がアウトになったのだとすれば、高度もバランスも何もかもが滅茶苦茶になる筈で、でもそうでなく機体の向きだけが変えられたということは、中で栗原が予定通りの飛行経路に戻るように修正をかけたからだろう。 と、そう考えたので、伊達はそれ程心配はし... -
DISTANCE~千歳~2
...が、栗原の階級章が「3等空尉」なのを見れば、おそらく24~5歳くらいの写真なのだろう。 それは神田の知らない栗原の顔だった。 それを見つけた直後、最初に頼んだ生ビールが運ばれてきて、神田は席に戻ったのだが、北海盛と、ジンギスカン焼肉をオーダーすると、またジョッキを片手に神田はその写真のある壁際に戻ってきた。 写真の中の栗原に惹きつけられて。 今現在の、幾分砕けた人間味のある表情とはもちろん違う。コンピューターと呼ばれるように緻密な演算をやってのけるときの冷静でかつ怜悧な表情とも違う。 そして、神田にだけ見せる甘く溶けて乱れた表情でもない。 その顔は、百里に来たばかりの頃の人を見下したような寄せ付けないような、その上に孤高とも言うべき悟り済ましたような、そんな表情でもなかった。 もちろん穏やかとか優しいとかでもなくて。 危うい。それが神田にで... -
They Say "All's fair in love and war."
...0iタイム、デフコン3!」 と、栗原のほうはもうすでに起きて制服に着替え始めているところだった。そして 「あいよっ。」 と、神田の方に制服を投げてよこす。 「先に出てるぞ。」 と着替え終わった栗原は車の鍵を持って飛び出していく。アパートの駐車場に停まっている車のうち、出て行った車はまだ一台もない。呼集を知らせる警報が鳴ってから二人が家を出るまでのスピードはトップクラスだった。 同じアパートの別の部屋からは、ドタバタと何かをひっくり返す音や、ヒステリックな叫び声や子供の泣き声が聞こえている。 こういう時こそ、同業者同士で暮らしているのが良かったと思える日はない。何も説明する必要もなく、お互いその時に何をするべきかがわかっているからだ。 「忘れ物はないかい?」 「おう。」 「んじゃ、行くよ。」 車が走り出してしばらくして、 「訓練だよな?」... -
平行回路
...言うと、話掛けていた3曹の階級賞をつけた整備係はうれしそうな顔をする。丁度、栗原がこの千歳で伊達と組んでいた頃に、その機体を担当していて、機付き長から怒鳴られながら走り回っていた士長だった。 「ええ、お陰様で。あ、BOQまで案内・・・しなくても別にいいんでしょうけど、荷物くらい持ちますよ。俺も早番だったんで、今から営内戻るんで。」 「軽いから別にいいんだけどな。」 「んーと、ここじゃちょっとマズイ話があるんで・・・聞いて欲しいんスけど、いいですか?」 と、そう言われて栗原も、なんだろうと首をかしげながらもその隊員と連れ立って飛行隊の外にでた。BOQまでは結構遠くて、その途中で、 「実は昼過ぎくらいなんスけど、外線から電話がかかって来てですね、俺宛に。」 「変な電話なのか?」 「いや、えーと・・・その伊達さんからなんスよ。で、隊の車で民航のターミナルに向かえ... -
Secret Base
...りしながら神田の2~3メートル先を舞っていた。 どうやら神田が首から掛けていたタオルが風に煽られて、吹き飛ばされたらしい。 仕方がないので、栗原も足を止めて神田がそれを無事に捕獲して戻ってくるのを待つ事にした。 神田はなかなか戻って来なかったが、随分と向こう側まで飛ばされたタオルはようやく小さな木の枝に引っ掛かってそこで止まっていた。 それならば、もうすぐ戻って来るだろうと、栗原は神田のいる窪地の方向から目を反らして、反対側の外柵沿いに目をやる。春一番の風はなかなかに冷たいが、空気はもう随分と穏やかに暖かくなってきていて、外柵沿いの緑も空の色ももう冬の色をしていない。基地の桜ももうほどなく蕾をつけ始めるだろう。冬の駆け足は辛いが、これから走りやすい季節になる、なまっていた体力を取り戻すにはいいかもしれない、とそんな事を考えていた時。 「おーい、栗ー、来てみろよ。お... -
One Night Celebration
...見咎めて西川と水沢の320号コンビが声をかけてくる。 「あれ、神田さんは一緒じゃないんですか?」 「神さんにはたまってる報告書を仕上げて貰わないといけないからね。」 「神田2尉がおとなしく書き物なんてしてると思えませんけど。」 「いや、大丈夫だろ今日は。時間がなくなるから、とにかく俺は帰る。そうだ、西川、水沢、神田には報告書全部仕上げるまで帰ってくるなって言ってあるんだ、ちゃんと見張っててくれ。」 と、言うなり廊下を走って出口に向かう栗原だった。余程急いでいるらしい。 その背中に向けて、 「りょーかいしました。」 と水沢はいささか間の抜けた返事をしたのだったが、 「あれ、ちゃんとやってるみたいだぞ。」 と、西川の方は隅のミーティングテーブルでせっせと鉛筆を動かしている神田を見つけていた。 「神田2尉、栗原さん先に帰っちゃいましたよ?」 ... -
CROSSROAD
...奴だって15で望めば3分とかからず落とせるぜ。」 と。 それへ栗原は、 「行ってこいよ、神さん。15に・・・乗ればわかるさ。神さんの腕が悪いわけじゃないって事がさ。」 「・・・あんまり乗り気がしねぇんだけど・・・。」 「下で見てるよ。行ってきな、折角の機会なんだから。」 と、栗原は笑ってそれを見送る。 そして、15を駆る神田の腕は米軍パイロットに混じっていても秀逸で、すぐにそれが神田機とわかるほどに機敏な動きを見せていた。 降りてきた神田は、めずらしく興奮して子供のように無邪気にはしゃいで、 「いや、やっぱ最新鋭機はすげぇや。」 とそんな事を言っていて、そしてJASDFにもすごいパイロットがいる、とUSAFも一目置いた状態のまま、非常に良い状態で日米の共同訓練を終えた。 神田に再び機種転換の話が出たのはそれから数週間後の事だった... -
THE RECON FRIGHT
...・・・。い・・・一枚300円で取引されてる・・・。」 「お・・・お前それを買ったのかっ?!信じられん、このヘンタイ、ヘンタイ、ヘンタイっ・・・ってまてよ。偵空・・・?」 偵空、それは偵察航空隊。前線に飛んでいって、高精度の写真を撮ってくるプロの集団だ。見敵必撮!を豪語しているプロ中のプロ。よくよく見れば、神田の持っていた写真はかなり上空から撮りおろした形の写真になっている。 「・・・あいつら官品を何だと思ってるだ。」 「ま・・・まぁ、そう怒るなよ、栗。ほら、窓ふさげばいいだけの事で・・・。」 「偵空隊か・・・、気に入らん・・・。」 栗原の目つきがいつもと違う。神田が恐怖を覚えるほどの殺気。爪を研ぐ寸前のおそろしさ。 やばい、ここで止めなければ、飛行隊と偵空隊の全面戦争になりかねない、と神田は一人うろたえる。 「く・・・栗、別に写真くらい・・・その、減る... -
POWER BALANCE
...きている。 2、3発適当にかましてそれで終りにしようと思っていたのが、なかなか長引いて、こっちも息が上がってくる。 これ以上は不利だ、と判断して俺は隙を見て相手の手首を掴んで、それから一気に引き寄せてそのまま組み伏せた。 丁度、格納庫の隅の休憩コーナーのソファーの上に、そのまま乗り上げる姿勢になって相手の動きを封じる。 「ばかやろうっ、離せよっ。」 俺の方を睨んで、悔しそうに栗原はそう声を荒げた。 見てくれ通りに力はそう強くないらしい。瞬発力や判断力でなんとかなる喧嘩と違って、押さえつけて動きを封じてしまえば、こっちのモンだ。 「るせぇな。弱っちいクセして毎度毎度俺に喧嘩売ってくんじゃねぇよ。」 俺は、その瞳を覗き込みながらそう凄んだ。 栗原は、俺から見ればパイロットとしては幾分後輩になる。見てくれの線の細さの割りに、獰猛というか手に負えない山猫み... -
そこにあった運命
...たのは、出会ってから3日後の事だった。 「栗原2尉、荷物が届いてますよー。」 飛行隊本部付の若い士長がそう声をかけてきて、奴・・・栗原は、 「わかった、すぐ取りにいくからおいといてくれ。」 とそう返している。 丁度、課業の終了直前で、俺と明日のフライトについての打ち合わせをしている所だった。ここで綿密に計画を立てておかないと、明日のブリーフィングでケチョンケチョンにされるのだ。 「引越しの荷物か?」 栗原にそう尋ねると、 「あぁ、引越し先がなかなか決まらなくて。とりあえず部隊に運んで貰った。」 「え?今どこ住んでるんだ?お前。」 「外来だよ。BOQは一杯だっていうからさ。外にアパートでも探すつもりでいるんだが、なかなか思うような物件がなくてさ。」 「アパートねぇ・・・。」 と俺がどうでも良さそうに答えると、栗原はパタンと手に... -
昔語り
...どうか・・・。 3度目の呼び出し音で栗原が電話口に出る。 けれど、 「なんだ、伊達か・・・。」 電話に出た栗原は開口一番そう言った。声が眠そうだ。寝てたのか? 「なんだじゃねぇよ。お前の相棒を預かってんだ。早く引き取りに来い。」 「えーっ、今何時よ?いいよ、その店に放っておいてて。朝に迎えに行くからさ。」 相変わらずの冷たい物言いだ。そう思うとなんとなく懐かしくなった。存外愛されてねぇなと、隣の男を見て思う。 久しぶりに会ってみたい、とそう思った。 「・・・わかった、俺が送って行ってやるから鍵あけて待ってろ。」 栗原に会うついでにこの男をを送り届けてやるのは悪くないことだと思った。久しぶりに話がしたい。 けど、電話の向こうで栗原は 「来なくていい・・・。」 と、相変わらず可愛くない反応を示して、そして電話はそのままツーツーと詰めたい... -
DISTANCE~百里~
...った。 もともと3日間の課業後をフルに使って仕上げようとしていた仕事だった。 早く帰ったところでする事もないからだ。 神田が居れば居たで、家事だの何だのする事が山のように出てくるが、居なければ家にいてもする事がない。 一人なら食事を作る必要もないし、散らかす人間も居ないから片付けもしなくていい、風呂だってわかさなくても飛行隊でシャワーでも使って帰ればいい、布団だって一組敷けばそれでいいのだ。 報告書だって、横で邪魔する神田が居ない分、早く書きあがってしまうのも仕方のないことだった。 まだ何か残したままの仕事はないか、と栗原は書類の束をデスクの引き出しに入れながら、その中のファイルを取り出す。けれども、取り立ててしなければならないような事もなくて、栗原は家路に着いた。 一人、家に帰り着いた栗原は、そこでようやく自分がまだ夕食をとっていなかったことを思い出した... -
空の王様
...っている。2機編隊が3組だ。そのうちの一組の編隊長として自分の名前を入れようとしているのだった。 その計画を覗き込んだ部下が言う。 「あれ、隊長参加されるんすか?」 「なんだよ、出ちゃ悪いかよ。」 「いや、だって、年が年ですし。」 「言ったな。まだまだ若い奴らに負けっかよ。・・・いや、気になる事があってさ。下で見ててもいいんだが、一応戦競の前に近い所で全員の動きをチェックしておこうと思ってさ。」 神田にも確かめておきたいことがあった。技量の未熟さは仕方ないこととしても、「勝とう」というモチベーションが若いパイロットから感じられないのも事実だ。それが実戦にどう影響するのか隊長としてそれを実際に目で確認しておかなければならない。 結局、自分が乗る機体をDJに変更して、本来の編隊長をその後席になるように調整する。 そして、訓練プログラム自体にも多少手直しを加えた... -
Pinup Girlのアヤマチ
... 「5!? せめて3くらいで何とか。」 「何ならやめてもいいんだぜ?」 「わかった。その代わり5カット撮らせてもらう。」 「1カットに付き1ねぇ。悪くねぇな。」 と、当初は写真を撮るために女装しろ、というとんでもない依頼に血液が沸騰しかけた栗原だったが、モデル料の事で折り合いがついたらしく、話はとんとん拍子に進みつつあった。 撮影に付き合えば半日は拘束されるだろうが、それでも破格のバイト料だ。それに写真展に出されるとは言え、おそろしくマイナーな展示会なので、ほとんど人目に付くこともなく、何よりフルメイクで仕上げた自分の顔に、誰もそれが自分だと気付く事はないだろう、と栗原は踏んでいた。 そして撮影の日になって。 「…うわ、何その顔。」 「何って、エロカッコイイ風だな、これは。」 丁寧に化粧をして作り上げられた栗原の顔を見て、神田は思わず驚きの声を漏... -
DISTANCE~百里2~
...」 時刻は11時30分、そろそろ千歳基地のゲートクローズの時間だ。たとえ神田がそこから飲みに出ていたとしても、何事もなければ外来の幹部隊舎に戻っている筈である。 どこか居心地の良い場所で、一夜を過ごしていたりしなければ、の話だ。 伊達の読みでは、神田は繰り出したすすき野で、かなりイイ思いをしている筈だ。 「それは・・・、俺にとってかなり分が悪くないか?」 と、栗原は余り乗り気ではない。 「悪くねぇよ。今の時機のクソ寒い北海道で朝まで帰らねぇバカはそうそう居ない筈だろ?」 だが、その問いに、 「・・・あいつはバカなんだが・・・。」 淡々と栗原がそう答えたので、伊達は思わず噴出した。 「くくくっ、相変わらず、ひでぇ女房だぜ、お前。で、どうよ?やる?やんない?」 「何を賭けるんだ?」 「俺が勝ったら、お前んトコに泊まらせて貰う。お前が勝ったら... -
His Phantom
...が丁度居ないから、と3日間詰めに詰めていたのを外すのに奔走する。それからロッカー室に行って、一日分の着替えを用意した。そこで何かを思い出して、神田のロッカーを合鍵であけて、その中からごそごそと奥の方に突っ込まれていた何かを取り出すと、自分の荷物と一緒に一まとめにしてトラベルポッドの入りやすく折りたたむ。 どうせ千歳まで飛んで終わる機体だ。念の為にセンターの610ガロンのタンクは増槽して出るが、左右翼下は燃料タンクではなく、私物やお土産をいれる為の空のポッドに換装している。 案の定、栗原がチェックを含めた色々な準備をしていると、飛行隊や整備小隊をはじめ、色んな部署から、かつて千歳飛行隊となんらかの繋がりがあったのであろう人々がお土産を手に、これをどこそこへ持って行って欲しい、といった注文が殺到した。 できる限りその希望をきいていたが、さすがにポッドが閉まらなくなりそうで、栗原は... -
衝動 -The Winter Moment-
...シャッフルしてから、3枚を両手でぴったりと挟み込んで、 「上から何枚目だ?先に選べ。」 「・・・何考えてるんだか・・・。」 「最初にお前が選んで、次に俺が選ぶ。残ったのが神田の分だ。つまり、お前が今夜誰と寝るか自分の運次第ってわけだな。どうだ?」 「くっだらない・・・。いいよ、じゃあ。一番上だ。」 躊躇することなく栗原はそう指定する。 伊達は手を開いて見せて、栗原に一番上のカードをとるように促した。まだ表替えすなよ、と指示してから、自分は2番目のカードを選んでそれをカウンターの上に裏返しのまま置くと、残りのカードキーを無雑作に隣で寝ている神田の胸ポケットにねじ込んだ。 「さて、じゃあ見てみっか・・・。」 と、二人同時にカードキーの部屋番号を確認する。 その瞬間、栗原は勝ち誇ったようにカードキーの表を伊達に見せ付けた。 「ま、じゃあそういう事で。... -
Fragile Eternal
...時には繰り上がり組の30分待機、2時間待機までもが出撃していき、さらに予備待機のグループがその日のうちにまた出撃していかなければならない事態にまで陥る日もあった。 それでもまだ、2つの飛行隊でその任務を分け合っている分、2日に一回はなんとか通常勤務という名の「休養」にありつけてはいたのだったが。 「…悪ぃ、ちょっとだけ寝ててもかまわねぇか?」 アラート格から飛行隊に戻って、ようやく身に着けていた窮屈な装備を解く。それから汗に汚れた飛行服を着替えるためにロッカールームに向かう。そこで完全に緊張の糸が切れたのか、神田は栗原にそう尋ねて部屋の隅の長椅子にゴロリと横になった。 「あぁ。隊長にバレそうになったら起こしてやるよ。」 めずらしく栗原はそれを咎めない。いや、もとより今の飛行隊に、そうやって束の間の休息をとろうとするパイロット達を咎める雰囲気はなかった。 いや、... -
Love the Island...
...のの、ペアで上がった320号機を先に帰してエスコートを引き受けたのがますかった。いつものウラジオストック発のベトナム行き定期便だ。調子に乗って帰る燃料ギリギリ、東シナ海付近まで送っていったのも災いした。 「神さんが調子に乗るから。」 「んな事言ってないで、オルタネート探してくれよ、栗。このままじゃ墜落しちまう・・・。」 「・・・お、ありましたぜ。降りられそうな所が。」 「どこだよ。」 「北と南とどっちがお好み?」 んな悠長な事を聞いてる場合じゃないだろうが、と神田は思う。けれど、どちらを選ぶにせよ残燃料やコースについては栗原はもう算出済みなのだろう。 「えーっと、じゃあ南だ!」 「OK! Turn light headding zero-niner-zero」 「Rojer!」 台風の上空から離れ、680号機はそのまま南東へと進路をとる。 ... -
モーニング・ムーン
... 「あのー、栗原3尉、よろしいですか?」 とそんな二人に一人の隊員が遠慮がちに声を掛けてきた。どこかで見た顔だと思ったら、基地司令の副官付きだ。 「司令がお呼びですので、メインシートの方にお願いできますか?」 そう言う副官の態度は恭しくはあったものの、明らかに強制的でもあった。彼とてそれが仕事でもあり、責めるわけにもいかないのだが、 伊達が「ホレ、来たぞ。」という意味の目配せをするのを栗原はきつく睨みつける。 それでも、 「あぁ、じゃあ行くよ。」 と仕方なく言って栗原は立ち上がった。 メインシートにはその変態ジジイとやらも居るのだろう。どうせこんな公の席ではどんなに下心があったとて、大した事はできないだろう、と。どうせなら目一杯愛想を振りまいて酌のひとつもしてやっても悪くはない、と栗原は思った。 まだ酔っているわけではない。相手がそこまで挑戦的... -
LAST FLIGHT
...すぐ行く。」 (30年か・・・。長いようで短かったな。) パイロットとして一人前になってからの年月を彼は振り返る。何度も死線を潜り抜け、時に褒められ、時には上官からこっぴどく怒られ。 いつからか編隊長として部下を従えて飛ぶようになり、一時は戦闘航空団を離れて、テストパイロットとして何種類もの航空機に搭乗したりもした。操縦課程や機種転換課程の指導教官もやった。 そして、再び思い出深いこの基地に帰ってきた時、彼は飛行隊長という役職を任されることになったのだ。 管制塔も格納庫も飛行隊もランウェイも昔と変わらない懐かしい景色。ただ、そんな景色の中でそこにはもうファントムは存在してはいなかった。隣の偵空隊のRF-4Jを除いては。 もうここは最新鋭機F-15Jの居場所になったのだ。 ファントムがこの地を去ったのはもう随分昔のこと。 (やっぱ那覇あたりで定年向かえり... - @wiki全体から「3」で調べる