デジタル簡約『言海』(あ~あかす)
あ 五十音圖、阿行《あぎやう》第一の假名。此の一行のノ假名、「あ、い、う、え、お」の五音は、喉より單一に出で、又|發聲《はつせい》の韻《ひびき》ともなりて、熟音《じゅくおん》を成さしむ、故に單音、又|母韻《ぼいん》の稱あり。「あ」は、下ニ、「う」、或は「ふ」(「う」に轉じて呼ぶもの)を受くるときは、「お」の如く呼ぶことあり、「あうむ」(鸚鵡)「あふぎ」(扇)の如し。
あ(代)【吾】「われ」に同じ。「あが妻」あが君」あが兄《せ》」
あ(代)【彼】「あれ」に同じ。「あはと見る月」
あ(感)呼ぶに應《こた》ふる聲。「あと應《いら》へて」【唯】
あ(感)「ああ」に同じ。
ああ(感)【鳴呼】泛《ひろ》く感ずるにつきて發する聲。あ。あな。あら。
?あい(名)鮎《あゆ》の轉。
あい(名)【愛】愛《め》づること。いつくしむこと。かはゆさ。「子のあいに溺る」
あい(感)應《こた》ふる聲。唯
あいきやう(名)[愛敬]顏色にかはゆげのあること。「あいきやうこぼる」
あいきよう→あいきやう
あいきょう→あいきやう
?あいぎやう(名)[愛敬]「あいきやう」に同じ。
?あいさ(名)鳥の名、「あきさ」の音便。
あいぎよう→あいぎやう
あいぎょう→あいぎやう
あいさう(名)[愛想]人?をもてなすに、禮あり情あること。「あいさうよし」あいそうなし」
あいそう→あいさう
あいそ→あいさう
あいさつ(名)[挨拶]①答《こた》ふること。返答。返辭。【應答】②答禮。返禮。
あいし(名)[愛子]愛《め》づる子。殊にかはゆがる子。
あいしふ(名)【愛執】愛の情に執着《しふぢゃく》すること。(佛經の語)
あいしう→あいしふ
あいしゅう→あいしふ
あいす(他動)不規ニ【愛】①愛《め》づ。いつくしむ。いとほしむ。かはゆく思ふ。「子を愛す」②大切になす。だいじに思ふ。「君を愛す」國を愛す」③面白しと思ふ。好み樂しむ。「山水を愛す」
あいせふ(名)【愛妾】意にかなひたる妾《そばめ》。
あいしよう→あいせふ
あいしょう→あいせふ
あいぜん(名)【愛染】〔梵語〕佛經に、明王の一、三目六臂にして、頂に獅の面あり、威怒の相をなす。
あいぞう(名)【愛憎】愛すると憎《にく》むと。「愛憎心に任す」
あいそづかし(名)愛想盡他に對して、情愛を棄つること。
あいだちなし(形)「あひだちなし」の音便。
あいだてなし(形)「あいだちなし」の轉、「あひだちなし」に同じ。
あいたところ(名)[朝所]「あしたとろ」の音便。
あいたんところ(名)[朝所]「あいたところ」の音便、「あしたところ」に同じ。
あいだる(自動)(規ニ)[「あい」は愛の音]あまゆ。あまえたる。
あいぢやく(名)【愛着】かはゆしと思ひ込むこと。(佛經の語)
あいちゃく→あいぢやく
あいつ(代)彼奴《あやつ》の訛。
あいなし(形一?)[無愛]かはゆらしげ無し。面白みなし。
あいなだのみ(名)[敢無《あへな》頼の轉かと云]たのみがひなき頼《たのみ》。當《あて》にならぬたのみ。
?あいなめ(名)魚の名、「あゆなめ」の轉。
あいにく(副)「あやにく」の訛。
アイノ(名)蝦夷語、其人種の自稱。
アイヌ→アイノ
あいべつりく(名)【愛別離苦】佛經の語、生死《いきしに》共に、親しみ愛する人と別離する悲み。
あいまい(名)【曖昧】①薄暗きこと。分明ならぬこと。②事のはきとせぬこと。定まれる目當なきこと。
あいらし(形ニ)[愛]かわゆらし。いつくし。いとほし。【可憐】
あいれん(名)【愛隣】いつくしみあはれむこと。いとほしむこと。
あいろ(名)〔文色《あやいろ》の約〕文目《あやめ》に同じ。「あいろもわかず」
あういく(自動)(規一)[奧行]人の後より行く。
おういく→あういく
あうぎ(名)【奧義】奧深き義《わけ》。秘密にて肝要なる意義《すぢ》。(藝術などに)
おうぎ→あうぎ
あうじち(名)【鶯?實】「うぐひすのき」の實《み》。
あうしゆくばい(名)[鶯宿梅]梅の名木の稱、八重あり、一重ありて、花白く、香最高きものなりと云、或云、紅白交りて、共花最も異なるものなりと。
おうしゆくばい→あうしゆくばい
あうなし(形一)[無奧]遠き慮りなし。考へ淺はかなり。【淺慮】
おうなし→あうなし
あうむ(名)【鸚鵡】①鳥の名、熱地の産にて、舶來する者を畜ふ、形、鷄の雌に似て、枝に立つこと鷹の如し、羽は白きを常とす、頭、觜、共に大く、頂に冠毛ありて、上に聳ゆ、開けば菊の花の如し、種類多し、能く人の語をまねて物云ふをもて名あり。②鸚鵡貝の略。「鸚鵡の杯《つき》」
あうん(名)【阿吽】佛經の語、息《いき》の出入《でいり》の稱。
あうむがひ(名)【鸚鵡貝】螺《にし》の類、形、鸚鵡の觜に似て大く、色白くして、紫黒の美しき斑《ふ》あり、花瓶又は盃などに製し、又|螺鈿《らでん》にも用ゐる。【鸚鵡螺】
おうむがい→あうむがひ
あうむがへし(名)[鸚鵡返]和歌にいふ語、人より云ひかけられたる歌を、いささか變えて、返歌《かへし》すること、鸚鵡の人語を眞似るに譬へていふ。
おうむがえし→あうむがへし
あうむせき(名)【鸚鵡石】①一種の石の、物の響きに應へて、同じ響きを發する性あるものの名。【響石】②俳優の假聲《こわいろ》をつかはむ爲に、演劇《しばゐ》の詞を書拔きて記したるもの。③孔雀石の一種、色の淺きもの、笙の簧《した》に塗るに用ゐる。
おうむせき→あうむせき
あうよる(自動)(規一)[奧寄]奧の方へ寄る。
おうよる→あうよる
あうら(名)[足占]古へ占《うらなひ》の一法、足を踏みてせしもの。あしうら。
あえかに(副)〔危氣《あやふげ》にの意かと云ふ〕かよわく。たよわく。「世の人に似ずあえかに見えたまひ」
あえる(動)「あゆ」の訛。
あおぐ(動)仰《あふ》ぐの訛。
あおひ(名)葵《あふひ》の訛。
あおい→あおひ
あおり(名)障泥《あふり》の訛。
あおる(動)煽《あふ》るの訛。
あか(名)【赤】①色の名、色の血の如くにてかがやくもの。②|赤小豆《あづき》。「赤の飯《めし》」赤の飯《まま》」③「あかがね」の略。
あか(名)【垢】①脂?、汗《あせ》などの埃《ほこり》に汚《よご》れて肌に附き居るもの。②水より生じて物につく滓《かす》、苔《こけ》の如きもの。「水あか」湯あか」
アカ(名)【閼伽】〔梵語〕①佛に供すべき水又は香水を盛る器の名。②轉じて、佛に手向くる水。③船底に溜《たま》れる水。(舟人の語)【淦】
あかあかと(副)甚だ明《あか》るく。「あかあかと日の差入りて」【赫赫】
あかあしげ(名)[赤葦毛]馬の毛色の名、葦毛に赤みあるもの。
あかあは(名)(名)[赤粟]「もちあは」の赤みあるもの
あかあわ→あかあは
あかあり[赤蟻]蟻の一種、多く庭中に棲む、長さ一分許にして、赤くして黒みあり。一名、いひあり。【黄蟻】
あかいぬ(名)[赤犬]犬の毛の黄にして赤みあるもの。【黄犬】
あかいも(名)[赤薯]「さつまいも」の一種、味殊に甘きもの、皮赤く肉白し、種類あり。【朱藷】
あかいわし(名)[赤鰯]①鰯を鹽漬にし又は乾したるもの、古へは食用とせり、後には節分の夜に柊《ひひらぎ》に添えて、戸口にさし、儺鬼《おにやらひ》の具とす。②俗に、鈍刀の錆びたるを嘲りいふ語。
あかう(名)【阿衡】〔殷の官名、伊尹の故事に起る〕攝政の異稱。
あこう→あかう
?あかうなぎ(名)[赤鰻]「うなぎ」の類、形、「うみどぢやう」に似て圓く、全身赤くして、眼の甚だ細そく小きもの。一名、めくらうなぎ。
あかえひ(名)[赤・]「えひ」の條を見よ。
あかえい→あかえひ
あかかうじ(名)[赤柑子]「たちばな」の一種、色赤くして美しきもの。【朱橘】
あかこうじ→あかかうじ
あかかがち(名)草の名、「ほほづき」に同じ。
あかかげ(名)[赤鹿毛]馬の毛色に、鹿毛《かげ》の色の赤みあるもの。
あかがさ(名)[赤瘡]麻疹《はしか》の古言。
あかがし(名)[赤樫]樫《かし》の一種、葉の形、楕圓にして厚く堅く、材の色赤きもの。【血・】
あかがしは(名)[赤柏]「あかめがしは」に同じ。
あかがしわ→あかがしは
あかかすげ(名)[赤糟毛]馬の毛色に、糟毛に赤みあるもの。【・脂馬】
あかかたばみ(名)[赤酢]「かたばみ」の一種、莖も葉も紅紫にて、花も赤みあるもの。【赤孫施】
あかガッパ(名)[赤合羽]赤く染めたる桐油紙にて作れる合羽、下人の用とす。
あかがに(名)[赤蟹]「やまがに」に同じ。
あかがね(名)【銅】〔赤金の義〕「かね」の色、色赤くして黒みあり、諸金の中にて、鐵に次ぎて最も用をなし、金、銀、プラチナに次ぎて、最も鍛え延ばすへく、鋼を除きては最も彈力あり、而して響きの高きは諸金の第一たり。
あかがねしぎ(名)[銅鷸]「しぎ」の類、形、略、鷭《ばん》に似て、頸と背とは、淡灰紫色にて、黒き班あり。
あかがひ(名)[赤貝]古名、きさ。介《かひ》の名、形、「はまぐり」に似て圓く深し、大なるは三四寸に至る、殼の表に、縱道《たてすぢ》ありて微毛あり、色黒し、殼の裏・に肉は紫赤なり、肉甘く旨し。【蛤】【魁蛤】
あかがい→あかがひ
☆あかがへる(名)[赤蛙]「かへる」の一種、山谷に多し、體痩せて、形、「あをがへる」に似て淡赤くして黄を帶ぶ、草の間に棲みて、跳ねること捷し《はや》し、疳を治すとて、皮と脂?とを去りて、炙りて小兒に食はす。【赤蛤】【山蛤】
あかがえる→あかがへる
あかがり(名)「あかぎれ」に同じ。
あかぎ(名)[赤木]紫檀の類、色赤し。
あがき(名)[足掻]①足掻《あが》くこと。「馬のあがき」②動きはたらくこと。「あがきがつかぬ」
あかきじ(名)[赤雉]「きんけい」に同じ。
あかぎぬ(名)〔赤衣の義〕緋色の袍《はう》。
あかぎれ(名)〔古言あかがりの轉か、或は赤切の義か〕寒に傷められて、手足の皮を裂くこと。あかがり。【皸】
あがく(自動)(規一)[足掻]①前足にて地を掻く。(馬にいふ)【?】②手足をうごかす、もがく。(人にいふ)
あかくさ(名)[赤草]①ははきぎ。②蓼の類、形小く、野邊又は路傍に生じ、穗を出して、紅なる花を開くもの。【野蓼】
あかぐま(名)[赤熊]熊の一種、長、八九尺に至る、毛、茶褐色にして長く、つきのわ無し、性甚だ猛し、多く北海道に棲む、土人、其幼なるより畜ひて祭事に供す。【・?】
あかくりげ(名)[赤栗毛]馬の毛色の、栗毛に赤みあるもの。
あかげ(名)[赤毛]①髮の毛の赤みたるもの。②馬の毛色の名、赤くして黄を帶びたるもの。【・】
あかこ(名)[赤子]蟲の名、溝などに生ず、甚だ小くして赤し、捕りて金魚の餌とす。【小紅蟲】
あかご(名)[赤子]生れて程歴ぬ小兒の稱。
あかごけ(名)[赤苔]苔の類、濕地に生ず、甚だ細かく、泥土に似て、色赤く紫なり。【紫衣】
あかごめ(名)[赤米]①米の微紅《うすあか》き班《ふ》あるもの。②陳米《ひち?まい》の赤みたるもの。③だいたうまい。
あかざ(名)【藜】〔若葉の赤き故の名か〕一年草の名、葉は互生して、三角にして長みあり、周にきざみありて厚し、若葉は紅にして後に緑となる、莖高さ三四尺、亞紀、穗をなして粒の如き花を開く、色緑なり、莖を乾して杖とす。一名、あかあかざ。又、一種、若葉の時、白くして灰をまきたる如きものを「あをあかざ」、又「しろあかざ」と云ふ。【灰礰?】又、「のあかざ」あり、其條に注す。
あかし(名)【明】ともしび。あかり。「御あかし」【燈】【燭】
あかし(名)【明】明《あか》すこと。たしかなるしるし。證據。【證】
あかし(形一)【赤】①赤《あか》の色したり。②あきらかなり。あかるし。(燈など)【明】
あかしだま(名)[明石玉]擬製《まがひ》の珊瑚珠、播州明石より産ず。
あかしちぢみ(名)[明石縮]絹絲と綿絲とにて織れる縮布《ちゞみ》、播州明石郡に産ず、夏の服とす。
あかじみ(名)[垢染]垢の染《そ》みたる汚《よごれ》。
あかじむ(自動)(規一)[垢染]垢に染《そ》みて汚《よご》る。
あかす(他動)(規一)[明]經《へ》過《すご》す。送る。「夜をあかす」年をあかす」【過了】【送】
最終更新:2010年12月15日 20:59