アセラエクスプレス

Acela Express(アセラエクスプレス)は、アムトラックが運行する高速列車。

概要

アセラエクスプレスは、アムトラックのフラッグシップトレインであり、同時にアメリカを代表する列車でもあり、そしてアメリカ大陸で唯一の高速列車である。
アムトラックが自社で所有する、全線電化されたノースイーストコリドーを走行、マサチューセッツ州ボストンから、ニューヘイブン、ニューヨーク、ペンシルベニア、ボルチモアを経由しワシントンD.C.までの約700kmを7時間で結ぶ。最高速度は240km/hであるが、最高速度で走行する区間はほぼわずかである。アセラエクスプレスはおおむね一時間ヘッドで運行しており、特にニューヨークからワシントンD.C.では利用旅客が多く、航空機に鉄道が唯一対抗できている区間でもある。
列車は客車を電気機関車で両側から挟み込むプッシュプル方式であり、ほぼ事実上の固定編成であり、増解結は行わない。

歴史

ここではアメリカの高速鉄道導入までの歴史も記載する。

ペンシルベニア鉄道の電化とメトロライナー電車の導入

 ニューヨークから南へ進路をとりペンシルベニア州フィラデルフィア、そして西のシカゴへと抜ける路線をもつペンシルベニア鉄道は、20世紀初頭より本線の電化を率先しておこなってきた。同じくニューヨークとシカゴを結ぶニューヨークセントラル鉄道は、ニューヨーク~シカゴ間を北側の五大湖沿いに路線を所有しており、ウォーターレベルルートと呼ばれる勾配の少なく直線的な線形であり平均速度が高かった。ペンシルベニア鉄道はニューヨークセントラル鉄道に所要時間で負けぬようカーブが多いながらも加減速で有利な電気機関車を運行すべく、ニューヨークからハリスバーグ、そしてワシントンD.C.までを電化させ、有名なGG1電気機関車を投入し。最高速度160km/hでの運行を開始した。
 1950年代になると、自家用車の普及と性能向上、さらに旅客飛行機の登場により鉄道には不利な時代へとなっていく。都市間輸送はこれまで鉄道が主流であったが、
アメリカの中部から西部にかけては都市と都市がかなり離れており、鉄道の移動でも丸一日ほどかかるのが当たり前であった。また当時の鉄道輸送は細かな地域輸送までサービスが行き届いているとは言えぬ状況で、旅客の鉄道離れをより加速させる事態になっていた。
 しかし、1964年に日本で世界初の高速列車新幹線が開業され、鉄道先進国であった国々は衝撃を受ける。アメリカの、そしてペンシルベニア鉄道にとってこれは大事件であり、また鉄道復権のための希望でもあった。ペンシルベニア鉄道の技術陣はすぐさま開発に着手、1969年には高速運転が可能な電車、メトロライナー電車を登場させる。しかし時はすでに遅く、都市間輸送の手段として鉄道を選択する人はほぼいなくなってしまう。会社自体の存続が厳しくなったためペンシルベニア鉄道とそのライバルであったニューヨークセントラル鉄道は合併、ペンセントラル鉄道として再スタートすることとなった。

鉄道衰退期と混沌の時代

 ペンセントラル鉄道後、メトロライナー電車は営業を開始したが、重すぎる車両とそれに耐えられぬ軌道など設備上の問題や、かつてライバルであった会社同士が合併したことによる経営上の問題などさまざまな問題に頭を抱えることとなった。1974年には旅客事業をアムトラックへと移管したが転々とする経営に加え整備士の士気の低下、もともとの車両の問題などが続いていたことからメトロライナー電車は1980年代には新型機関車であるAEM-7と客車での運行に置き換えられてしまう。しかし、メトロライナー電車がのこした高速運転のノウハウはこれらに引き継がれ、最高速度201km/hでの高速運転は継続された。同じくしてこの時期、欧州ではTGVを始めとする高速鉄道が次々に開発、開業されてゆき、すっかりかつての勢いを失ったアメリカの鉄道にもこれらを導入しようという話が出てくるようになっていく。

欧州の高速鉄道の導入

 1991年に、米国連邦鉄道局はかつてのペンシルベニア鉄道の本線を含むノースイーストコリドーほか5つの路線で新しい高速鉄道の運行を許可した。アムトラックは、各鉄道メーカーに対してこれらの新しく運行される高速鉄道車両の提案書を提出するように依頼、入札により車両を決定することとした。この時点でフランスアルストム社のTGV、ドイツシーメンス社のICE、スウェーデンのX2000、イタリアのペンドリーノ、そしてスペインのタルゴが名乗りを上げた。特にドイツのICEとスウェーデンのX2000は実際に車両をアメリカまで持ち込み、実際に営業運転を行いつつテストするという力の入れようであった。残念ながら入札の結果はフランスのアルストムとボンバルディアが共同で設計するTGVをベースとした車両に決定したが、この二つの国の車両がアメリカを走った事実は人々の記憶に残るものとなった。

アセラエクスプレス誕生

 1999年より、ノースイーストコリドーのさらなる軌道強化、また電化区間の拡大を行い、設備側も新しい高速列車の導入に備えた。2000年11月、ついにアメリカで念願の真の高速列車、アセラエクスプレスがデビューする。新たなアムトラックの時代の幕が上がったのだ。
 導入時は、ノースイーストコリドーをブランド化するプロジェクトとして「アセラブランド」といわれるマーケティング戦略を行った。これは、速達のアセラエクスプレス、そして急行のアセラリージョナル、通勤用のアセラコミューターからなるもので、統一したブランドネーミングにより利用促進しようとするものであったが、のちに縮小されアセラエクスプレスのみになった。なおクレジットカードやファーストクラスラウンジにこのブランドが使用されている。
 アセラエクスプレスは、順調な出だしを踏み出すと思われていたものの、現実はそうではなかった。フランス基準のベース車両を衝突安全性能を向上させるために、TGVの機関車の2倍の重量がり、想像以上に軌道への負担が大きかった。またカーブが多いため加速、減速を頻繁に繰り返すハードデューティーな運用でブレーキや台車に亀裂が発生し一時運休するというアクシデントも発生した。車体傾斜システムが建築限界を越えることもあった。だが、アメリカで唯一の、そして真の高速列車であり、フラッグシップであるアセラエクスプレスを運行し続けてこそが鉄道の未来につながると信じ、アムトラックのエンジニアはアセラエクスプレスの改良を行い続けた。結果、アセラエクスプレスの利用客はたった10年で350万人を突破するに至った。これは、ほとんどの列車のチケットが80%以上埋まっているということである。また鉄道の長所である定時運行、アクセスの良さ、ゆったりした車内空間を前面に売り出し、とくにニューヨーク~ワシントンD.C.では対航空機シャアで69%、ボストン~ニューヨークで同じく52%のシェアを獲得するなど、近年まれにみる成功した旅客列車となった。アセラエクスプレスは、アメリカの鉄道の未来を切り開いたのである。
 2015年には開業15周年を迎え、アセラブレーションというキャンペーンを行った。一世代目のアセラエクスプレスは20年で耐用年数がくることから、新型車両の導入が計画されている。今後もビジネスマン、そして観光客の優れた移動手段として、東海岸都市部とアメリカ経済を支え続けるだろう。

車両設備

アセラエクスプレスは、専用の形式名のついていない8両のトレインセットが使用される。このアセラエクスプレス専用車両がほかの運用につくことはない。客車6両を両端から2両の電気機関車で挟み込むプッシュプル方式である。
車両はボンバルディアとアルストムの共同設計である。先頭の機関車は6200hpを発揮するTGVベースの電気機関車で、貨物列車と衝突しても耐えうる車体強度を持つ。中間の客車はエアサスペンションによる車体傾斜システムを搭載しており、曲線もスムーズに通過できる。機関車の隣に連結される車両はエンドファーストクラス、およびエンドビジネスクラスとなっており、他の車両とは構造が若干異なる。通常のビジネスクラスのほかにもカフェカーが単体で連結されており、売店および軽食が食べれるカウンタースペースが設置されている。
車内は転換可能なクロスシートだが、一部大型のテーブルを備えるボックスシートが準備されている。また網棚はすべて飛行機のような扉のあるタイプで、さらにデッキと客室間には荷物スペースを設けてある。
基本的には8両の固定編成であるが、アセラエクスプレスの中間車と同じ形状の検測車である#10003を増結し9両編成で運転することがある。

運行形態

ボストン~ワシントンD.C.のノースイーストコリドーを走行、列車番号は2100から2297列車まで存在し、平日運行が2100番台、休日運行が2200番台である。
ボストンからワシントンD.C.の通し列車のほかにニューヨークとワシントンの区間列車、ボストンとニューヨークの区間列車が設定されている。
座席は指定がされていないが座席分のみチケットを販売する座席定員制である。料金は同じ区間を走るノースイーストリージョナルより高めの設定で、アムトラックの列車では唯一通常座席がコーチではなくビジネスクラスになっており、通常のビジネスクラスに値する座席がファーストクラスである。
おおむね1時間~2時間に一本運転されている。全列車全区間でカフェカーのサービスとWi-Fiが使用できる。バゲッジサービスはないが各車に手荷物スペースが設けられている。ファーストクラスの隣の車両はクワイエットカー。全区間457マイルを7時間で走破する。

停車駅

※アセラエクスプレスの停車駅のみ記載
駅名 停車
ボストン サウス MA
ボストン バックベイ MA
ルート128 MA
プロヴィデンス RI
ニューヘイブン CT
スタンフォード CT
ニューヨーク ペン NY
ニューアーク ペン NJ
メトロパーク NJ
フィラデルフィア 30thストリート PA
ウィルミントン DE
ボルティモア ペン MD
BWI マーシャルエアポート MD
ワシントンD.C.ユニオン DC

凡例
●-全列車が停車
〇-土日のみ停車
MA-マサチューセッツ
RI-ロードアイランド
CT-コネチカット
NY-ニューヨーク
NJ-ニュージャージー
PA-ペンシルベニア
DE-デラウェア
MD-メリーランド
DC-ワシントンD.C.

編成表

Acela Powercar EFC BCQ BC Cafe BC EBC Acela Powercar
←ボストン         ワシントンD.C.→
凡例
EFC-エンドファーストクラス
BCQ-ビジネスクラス(クワイエットカー)
BC-ビジネスクラス
EBC-エンドビジネスクラス
Cafe-カフェカー


関連項目

最終更新:2017年02月06日 21:28