戦車砲の命中精度
●目的
第二次大戦中の各戦車砲がどれくらいの距離でどの程度命中するのか、命中精度はどの程度かを調査する。
「何mの距離で何mmの装甲を貫徹するか」は多くの書籍やウェブサイトで述べられているが、
命中精度に関しては記述が少ない。手持ちの資料をまとめ、それらを推測する。
●詳細
以下にドイツ軍が試験した各戦車砲のデータを記述する。標的は高さ2m、横2.5mの大きさである。
参考数値として、T-34戦車の全幅は約3m、車体高は約2.5mである。命中率はパーセントである。
ドイツ軍は2種類の命中率を記録している。ひとつは試験下で発砲した際の命中率であり、
もうひとつは実際の戦闘下における諸々の要素を考慮に入れ、試験下の数値からいくらかを割引いた命中率である。
砲の名称 |
使用弾種 |
状況 |
500m |
1000m |
1500m |
2000m |
2500m |
3000m |
8.8cmKwK36 |
Pzgr39 |
訓練 |
100 |
100 |
98 |
87 |
71 |
53 |
8.8cmKwK36 |
Pzgr39 |
実戦 |
100 |
93 |
74 |
50 |
31 |
19 |
8.8cmKwK43 |
Pzgr39 |
訓練 |
100 |
100 |
95 |
85 |
74 |
61 |
8.8cmKwK43 |
Pzgr39 |
実戦 |
100 |
85 |
61 |
43 |
30 |
23 |
7.5cmKwK42 |
Pzgr39 |
訓練 |
100 |
100 |
100 |
92 |
73 |
55 |
7.5cmKwK42 |
Pzgr39 |
実戦 |
100 |
97 |
72 |
49 |
29 |
18 |
7.5cmKwK40 |
不明 |
訓練 |
|
99 |
77 |
|
|
|
7.5cmKwK40 |
不明 |
実戦 |
|
71 |
33 |
|
|
|
また、各車両が搭載していた照準機の倍率と、通常徹甲弾用の照準目盛りが何mまで対応していたかを以下に示す。
照準機の名称 |
砲の名称 |
倍率(倍) |
最大照準距離(m) |
代表的な装備車両 |
TZF5e |
5cmKwK39 |
2.4 |
3000 |
III号戦車J型-M型 |
TZF5f |
7.5cmKwK40(L/43) |
2.4 |
2500 |
IV号戦車F2型-G型 |
TZF5f/1 |
7.5cmKwK40(L/48) |
2.4 |
3000 |
IV号戦車G型-H型 |
TZF9b |
8.8cmKwK36 |
2.5 |
4000 |
ティーガーI |
TZF9b/1 |
8.8cmKwK43 |
2.5 |
4000 |
ティーガーII(ポルシェ砲塔) |
TZF9d |
8.8cmKwK43 |
2.5 |
3000 |
ティーガーII |
TZF12a |
7.5cmKwK42 |
2.5/5 |
3000 |
パンターA型-G型 |
ティーガーIより後に作られ、しかもより遠距離での戦闘も想定しているであろうティーガーIIに搭載された照準機が、
元より短い距離にしか対応していないというのは興味深い。正確にはポルシェ砲塔のティーガーIIに搭載された
TZF9b/1は4000mまで対応しているので、ヘンシェル砲塔に生産ラインを切り替える際にわざわざ照準機も変えたことになる。
しかし意外なことに表を見るとKwK43はKwK36より若干命中率が低い。だから不必要と判断されたのだろうか?
それともそもそも4000m級の射撃は好条件が重なっても現実的で無いと考えられたのだろうか?
他に4000mまで対応している照準機には、後期型のヤークトパンターが搭載するWZF1/4が挙げられる。
8.8cmStuK43はKwK43に匹敵する砲であり、妥当な措置だと考えられるが、WZF1/4は倍率が10倍と他に類を見ない非常な高倍率である。
逆に言うと、このぐらいの倍率が無ければ4000m先の目標への射撃は不可能と見られたのだろう。
後期型パンターは目盛り上の最大射程は既存の車両と変わらない物の、2.5倍と5倍の切り替え機構を持つ照準機を装備している。
従来の照準機の倍率では2000m以遠の目標を狙うのは困難ということだろうか。
さて、
パンターフィーベルの1944年度版によると、
パンターはT-34の砲塔正面を1500m、車体正面を800m、側面・後面を2000mの距離で撃破できるとある。
T-34の全幅が約3m、車体高が約2.5m、車体長が約6mであることを考慮すれば、実戦下における命中率の低下を計算に入れても、
ぎりぎり撃破可能な距離からでも複数発発砲すれば十分命中弾を見込めることが分かる。
砲の威力が高くとも、命中精度が悪ければ「撃破できるのに狙えない」ケースが発生しうる。
その点については、パンターは威力と命中精度のバランスが良いと言えるだろう。
余談であるが簡単な計算から、砲手には2000m先でこちらに正面を向けているT-34は1.5シュトリヒ、
真横を向けているT-34は3シュトリヒに見えることが分かる。全く狙えないことは無いと思われる。
距離(km) |
0.5km |
1km |
1.5km |
2km |
2.5km |
3km |
M728(APDS) |
94% |
86% |
61% |
44% |
25% |
8% |
M456A2(HEAT) |
89% |
69% |
50% |
28% |
17% |
3% |
M393(HEP) |
89% |
56% |
47% |
28% |
17% |
3% |
目標は2.3m大(縦なのか横なのか四方なのかは不明)。目標・砲共に静止状態。光学照準機のみを使用した試験である。
M60には弾道コンピューターと接続された照準機が装備されており、戦車長が測距儀で目標までの距離を正しく測りさえすれば
百発百中…というのが売りだが、意外にも戦時中のドイツ戦車より命中率が低い。もっとも、これが実戦を見越して割引かれた
数値である可能性や、米独間で「命中」の定義が違うといった可能性も否定できず、一概に比較するのは困難である。
ただ、戦後の戦車をもってしても2kmを超える目標に対する射撃は難しい、くらいは言えるだろう。
ここまでは口径7.5cm以上の砲を取り上げたが、それ以下の口径では命中精度はどのような物だろうか。
日本軍がまとめた一式四十七粍戦車砲の「砲命中公算表」によると、
戦車大の目標に対し300mまでは100%、900mで45.6%、1000mで33.1%、1100mで28.6%の命中率が見込めるという。
同じく「砲射撃の実用半数必中界」に以下のような記述がある。
これは、ある距離で発射された砲弾のうち、半数が命中する的の大きさを記した物である。
砲の名称 |
方向 |
100m |
200m |
300m |
400m |
500m |
600m |
700m |
800m |
900m |
1000m |
一式四十七粍戦車砲 |
縦 |
10 |
13 |
18 |
23 |
28 |
33 |
38 |
44 |
51 |
59 |
横 |
6 |
12 |
18 |
24 |
30 |
36 |
43 |
50 |
57 |
64 |
九七式五糎七戦車砲 |
縦 |
5 |
14 |
23 |
36 |
49 |
63 |
76 |
91 |
112 |
136 |
横 |
7 |
14 |
21 |
29 |
38 |
51 |
64 |
77 |
94 |
113 |
九四式三十七粍戦車砲 |
縦 |
6 |
10 |
15 |
22 |
30 |
40 |
51 |
63 |
78 |
97 |
横 |
4 |
7 |
10 |
15 |
21 |
28 |
35 |
44 |
54 |
66 |
つまり、一式四十七粍戦車砲は距離800mで縦44cm,横50cmの目標に砲弾の半数が命中する、というわけである。
表は停止した状態での射撃結果であるが、行進射を行った際の半数必中界も記載がある。
どの砲も縦横の数値が跳ね上がり、命中精度が著しく低下している。
以上より、一式四十七粍戦車砲が900m先の目標を狙ったとすると
縦51cm,横57cmに半数が命中し、一方戦車大の目標に対し45.6%の命中が見込めるということになる。
この数値とそのまま比較できると仮定すると、九七式五糎七戦車砲は約600m,
九四式三十七粍戦車砲は約800mの距離で40%前後の命中率が期待できる。
以上のような結果となったが、
「40口径クラスの75mm砲は1500mくらい、88mmクラスの砲は2000mくらい、37~50mmクラスの砲は800mくらいまで当たる」
と単純に結論づけることは出来ない。なぜならこれらのデータは砲の性能と照準機の性能を組み合わせた結果であり、
同クラスの砲でも照準機の優劣によってまた結果は異なると考えられるためだ。
ただ、おおまかな傾向や参考にはなると思われる。
●備考
照準機についてはジャーマンタンクスからの引用である。
「砲命中公算表」と「砲射撃の実用半数必中界」はグランドパワーNo.199から引用した。
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最終更新:2024年09月18日 20:37