恐ろしくとも可愛い「怪物」との付き合いかた
最初に白状するとおれはパンフロシリーズをPS2のB型から始めて、その後PS1のbisをプレイする変則的なルートをたどっている。B型
に対して手も足も出ず、その後A型をプレイしてパンフロにどハマりした次第だ。だから今回のプレイはその昔のリベンジマッチの意
味も含まれている。リベンジであるからこそもちろん目指すは全クリである。かなり苦労したが全マップ全陣営でのクリアを達成した。
その最中に色々思ったことがある。
まずひとつ。以前のコラムで「建造物が何もないため遮蔽物で敵の攻撃をかわすとか物陰に隠れて相手を引きつけるといった駆け引き
が出来ない」などと書いているがこれは真っ赤な嘘に思える。むしろ話は逆でわずかな起伏を探してハルダウンしたり射線を切ったり
とあちこち戦場を動き回りベストな場所へ移動して戦う必要があると感じた。アゲダビア英、ベダフォム英なんかはプレイヤーによっ
て陣取る場所が相当変わってくるはずだ。
次に強く感じたのが敵戦車をまず正面から撃ち抜けない難易度。敵味方ともに相手の砲塔・車体正面を抜けるのはベダフォムくらいで、
あとはトレーニング独のIII号→巡航戦車Mk.IV、フォート・ピラストリノ豪のM13→M11,M13くらいか。かといって横合いを取れば良い
のかと言えばさにあらず、避弾経始がかなりキツく計算されているようでちょっとでも角度が付くと全然貫徹できない。敵戦車を撃破
するためにはあらゆる手段で真横を取りに行く必要がある。逆に真横さえ取れていれば1500m程度の遠距離からあっけなく撃破できた
りする。ベダフォム英、モスクの隣にいる巡航戦車Mk.IIでプレイするとわかるが、スタート地点が完全に敵の側面なので射的のごと
くイタリア戦車隊を始末できる。トレーニング英は「どこがトレーニングやねん!」と言いたくなる高難易度だが、プレイヤーはここ
で徹底的に敵側面の突き方をたたき込まれるのだ。そしてあれだけ硬く感じたIII号をいともたやすく撃破できる方法を見つけたとき
妙な達成感を覚えることひとしおである。「有利な位置を探るため少ない遮蔽を探す」「敵戦車の正面が抜けないので横合いへ回り込
む必要がある」、この2点がプレイヤーへ機動戦を要求する。どこで待ち伏せてどこへ撤退するのか、どのタイミングで前に出るのか
の駆け引きはやり応えを味わえた。
再び前回のコラムに戻って、「撃破した敵戦車から乗員が湧き出し、その乗員に対戦車銃で撃破された日にはふて寝したくもなる」と
書いたがこれはおれの勘違い。さすがに対戦車ライフルを持って出てくる乗員はいない。よくよく歩兵一人一人を見ると、手榴弾を投
げたり、迫撃砲を背負っていたり、機関銃を抱えていたりと役割が色々ある。「B型はものすごく細かいところにこだわっている。そ
ういうこだわりはおれも大好きだし評価したい。でも、そうじゃなくても良くないか?」と書いたが、ゲーム的にも意味のあるこだわ
りがちゃんとある。その一つが「制圧した敵の塹壕に飛び込んで自分の塹壕として使う」点。ベダフォム伊でやれば分かるが、ナチュ
ラルに塹壕を奪って使うためうっかり敵と間違えて機銃弾を撃ち込んでしまったことも何度かあった。塹壕に隠れた歩兵はもちろんそ
の分あたり判定が小さくなる。また迫撃砲を展開する敵兵はしっかり潰しておかないとこちらに砲弾を撃ち込んできてあっさり機関炎
上からの車輌放棄を引き起こす。つまりゲーム上の意味がしっかり存在している。マップ上にも細かい作り込みが散見される。wikiに
も記載があるが
ジャンディェヌイルに現実と同じ形をした塔が同じ場所に建っている のはゲームと実際の歴史がリンクしたようで非常
に感じ入るものがあった。
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左:見づらいが中央でしゃがんでいる歩兵は迫撃砲を担いでいるのがわかる。歩兵ごとにそれぞれ役割があるのだ 中:右端の兵士だけブレンガンを持っている。モデリングの出来はともかく小銃のボルトを前後させるなど動きは細かい 右:奪った塹壕を進む友軍歩兵の頭だけが見えている。ここまで深い塹壕だと機銃で掃討するのは無理。しかし英戦車には…。
前回プレイした以上に理不尽を感じた、正確に言えば「やられた!」と思った点もある。地雷である。アゲダビア独で英軍陣地を突破
しどんどん進撃していたその瞬間、対戦車地雷を踏んで履帯を吹っ飛ばされた時の衝撃は忘れられない。またラス・エル・メダウェル
伊の初見殺し以外の何物でもないトラップには、さまざまなゲームでさまざまに理不尽な死を経験していたおれとてしばしの間ショッ
クを隠せなかった。だがよくよく考えて地雷の配置図を見ると、「プレイヤー心理としてここ通るよね」といういかにもな場所に仕掛
けられている。製作者の思惑通りまんまとそれに引っかかってしまったわけで、戦車兵冥利に尽きる……というのはドMが過ぎる感想
だろうか。ちなみに前回プレイ時のおれがなぜ地雷についてあんまり書いていないかというと、話は簡単で「そこまでプレイを進めて
さえいなかったから」だろう。ベダフォム伊でバカ正直に道路の上を走っていたら地雷で履帯が吹っ飛んだことは覚えているのだが…。
一応、履帯が破損しても時間経過で修理できるし、(WoTやWTに比べるとえらい時間がかかるが、Steel Armorの永遠とも思える長さに
比べれば短い)一度引っかかったら次は引っかからないだろうし、通過儀礼としてはありだと言わせて欲しい。
さて、B型を語るならどうしても触れなければならない話題が一つ。プレイヤーの99%が「あいつは本当に倒せるのか?」と感じたマ
チルダのことだ。ゲームを通じてマチルダを撃破するのは運と実力が絡む。というか9割方のマチルダは乗員に戦車を放棄させて撃破
扱いとなったものだろう。最初から接近戦闘でかっこ良く撃破することなど諦めて機関銃で主砲破損を狙った方が精神的ストレスがな
いし、撃破するときも主砲を壊して無力化して初めて接近できる条件が整う。気晴らしにIV号F2でプレイすると紙切れのように易々と
マチルダの正面装甲を抜けてしまい、嬉しさよりもむなしさがこみ上げたのはきっとおれだけではないと信じたい。B型の鉄則その1は
「敵の正面は抜けないものと思え」である。抜けもしないのに主砲弾を撃ち込み続けるのは無意味だ。そこで鉄則その2「敵の側面へ
機動せよ」を実行し真横を狙う。だがマチルダは側面もカチカチでまぁったく、ホントにこっちが発狂したくなるくらい抜けない。そ
してプレイヤーは鉄則その3「側面から撃っても倒せないなら機銃で砲身を破損させろ」をひたむきに実施する。主砲さえ撃てなくな
ればあとは味方が砲弾でガンガン叩いて乗員を追い出してくれる。A型をやりこんでいたプレイヤーほど「正面を向けている敵をスル
ーする」ことが出来なかったんじゃないかと思う。1500m先からこちらに正面を向けて迫るT-34やシャーマンをティーガーで撃ってい
たプレイヤーほどドツボにハマったのは想像に難くない。ちなみにB型初見時のおれはとうとうマチルダを撃破できませんでした…。
ラス・エル・メダウェル独で敵陣地をしらみつぶしにしながら前進し、戦力と神経をすり減らしながらも「突破は目前!」とクリアが
近いことを示唆する無線の直後に敵戦車発見を知らせるセリフが表示され、さらには「敵は重戦車『マークII』の可能性あり」との無
線とともに4両のマチルダが現れたときは本当にこのゲーム鬼畜だよ(褒め言葉)と泣きたくなる。
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全プレイヤーが絶望する瞬間。周囲に無数の地雷が張り巡らされているため接近できない。 同軸機銃で主砲を壊した後、袋だたきにして乗員を追い出すほかない。
今回改めてB型をプレイして、おれの中でのB型の評価がグンと上がったのだが、それゆえいただけない点についても正直に書く必要が
あるだろう。一番気になったのはFPSが低すぎること。エミュ環境でプレイしたため初めて分かったのだが、このゲームは戦闘中たっ
たの12FPSしか出ていないのである。B型が発売した2004年の年末にはグランツーリスモ4が出ている。予算も開発規模も何もかも違う
ため単純比較は失礼の極みだが、FPSにせよモデリングにせよもう一声欲しかった。またマップ数がトレーニング込みで7つなのは、複
数の陣営でプレイできるにせよ物足りない。これは石津監督が語っていたとおり開発期間の制約によるものなので、恨みはパブリッシ
ャーにぶつけるべきであり製作者たちにもの申したってしょうがないのではあるが。またマップのクリア条件が明確に指示されていな
いのも気になった。これはA型からなので意図的に曖昧にしているのかもしれないが、フォート・カプッツォ独はブリーフィングや開
始時の無線をそのまま読むと「イタリア軍砲兵隊を救援し、カプッツォ砦も守る」ことが任務に思えるが実際は砲兵隊が全滅しようが
砦が無数のマチルダに占領されようがミッション失敗にはならない。見殺しにしてもいいことに気づくまでマチルダに接近戦闘を挑ん
では返り討ちに遭うこと数度であった。
前回は楽しめなかったのに今回は何故楽しめたのか?を考えるに、冒頭に書いたとおり「ゲーマーとして軍事マニアとしていくらかの
経験値を得た」からだろう。高い難易度、理不尽な死に方、こっぴどい敗北を記した戦史、目を覆いたくなる兵器の性能差を色々知っ
たことで自分の中で耐性がついたものと思われる。逆に言えば、多少、いやかなりしんどい目に遭う覚悟をした人にしかパンフロB型
は勧められない。今からやるなら絶対にA型からにしたほうがいい。前回のコラムの最後に「おれは「面白い。面白いが、唐辛子の辛
さのような、痛みや汗を伴う面白さだ」と答える他に言葉を見つけられない」なんて偉そうなことを書いたが、これは今もそう的外れ
でないと思う。B型は確かに怪物だ。だが怪物には怪物なりの手懐け方があるのだ。12年かけておれはようやく手懐け方を覚えること
ができた。そしてまじまじとB型と向き合ってみると、こいつがなかなか愛嬌のある怪物なのである。
発売から20年経ったゲームを完全クリアしましたと報告するのもなかなかない体験。個人的な難易度は 並:メルドープ仏、カプッツォ英、ピラストリノ英、トレーニング伊、ベダフォム伊、メダウェル英 難:トレーニング独・英、ピラストリノ豪、メダウェル伊、ベダフォム英、アゲダビア独・英 辛口:メルドープ独、カプッツォ伊 激辛:カプッツォ独、メダウェル独、ピラストリノ伊
外部リンク
更新履歴
2024/12/12 初版
2025/01/10 外部リンク追加
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最終更新:2025年01月10日 20:08