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俺の物語第一話


学校から誰も待っていない家へ帰ると馬鹿でかい一つの段ボールが置いてあった
ダンボールには「天地無用」のシールが貼ってある。
心臓の音が五月蝿い。落ち着け俺。この内容物が工業用の綿だったってオチだったら
心臓を動かして無駄になるだろ。さあ、深呼吸をするんだ。


俺の名前は山口健。今中学三年生で彼女はいない。
成績は平均点の辺りを彷徨っている。これは合計点の話であって、英語の成績はヤバイ。
毎回自分に「勉強しろ」と言い聞かせるんだが体がいう事を聞かない。
一方理科の成績は学年でもトップクラスのはずだ。少なくとも授業中寝てても45点は取れる。
親が離婚してて父さんに引き取られた。でも父さんは全国を転々としてて3ヶ月に1回くらいしか帰ってこない。
収入は良いらしくてとりあえず金には困ってない。
身長が低いのが悩みだ。今まで「前ならえ」で腰に手を当てなかったことはない。
ところで、初音ミクだがこのたび世界五台だけ等身大のロボットが作られることになった。
ネットの公式HPで見た限りではそうとう人間味を帯びている。
本来だったらオークションとかで売られて俺には手が届かないであろうそれが
一台
抽選で当たった者にプレゼントされるとのことだった

俺はもちろん周辺のミックミクにされてる奴等は全員応募した。
それから数週間が過ぎて、今俺の目の前にはでかい段ボールがある。
公式HPに「配達物(初音ミク)が盗難にあいにくいよう45kgの『工業用綿』として配達させていただきます」
と書いてあった。綿を購入した覚えはない。
段ボールの前で何回も深呼吸してみたが心臓が大人しくなる様子を見せない。
玄関の鍵を開けて重い荷物を中に入れる。
通学鞄を床に投げ飛ばしてその前にしゃがみ込んだ。
ああ、今の俺を鏡で見たら死にたくなるほど気持ち悪いだろうな。
何て思いながら段ボールに貼ってある紙を見ると「工業用綿」と書いてある。
いよいよ心臓が破裂しそうになった。
ガムテープを乱暴に引き剥がすと段ボールを開く。
中には綿が大量に詰まっていた。
思わず笑ったね。本物の綿だ。きっと近所の人のもの間違えて配達されてきたんだろう
うん。きっとそうだ。
単なる綿にこんなワクワクしてたのか。アホだな俺。
学校で疲れている俺は後でこの配達物の受け取り先を探すことにし二階にある自室のベッドに寝転がった。
そこそこ金をかけたCDプレイヤーでミクソングを聴く。
機嫌よく三曲ほど聴いたところである考えが浮かんだ。
「あの綿、梱包材じゃね?」
そう思うが先か、駆け出すのが先か玄関に放置してある段ボールの綿を掻き分けた。そこには

ミクがいた

体育座りを横に倒した感じで丁寧に段ボールに入れられていた。
興奮が絶頂に達した。友達と話したときに「騒ぐかも」とか言ってたが意外にも声は出てこなかった。
目を閉じて深呼吸した。意味はたいして分かっていたが深呼吸した。
ニュースで「配達物に興奮して中3男児がショック死」と報道されたら洒落にならないからな。そう考えるだけの成長はしている。
ゆっくりと目を開けた。
公式絵と同じ服装をしている。組まれた腕と足の隙間に説明書が挟まっていた。
それを引き抜くと説明書を読んだ。簡略化するとこんなことが書いてあった。
  • 商用目的でつかうなそれ以外だったら基本なんでもOK
  • 初音ミクは感情を持つロボット。どんな性格に育つかは貴方しだい。
  • 学習能力あり
  • 中学卒業までの知識がある。
  • 修理は受け持ちます
  • TV出演は一応OKですが、出る場合は会社に相談してからにしてね
  • よく分かんないことあったら問い合わせてね
とか色々だ。
説明書に書いてあったようにミクを起動させることにした。

狭い段ボールに詰められた状態でミクを起こすほど俺は外道じゃない。小柄な体を使って何とかミクを段ボールからだす。
ミクの起動など此方からミクに何かをする場合には自分の意思を口や字で伝えるか
腕についている……なんて言うんだあれ……とにかく袖らしき部分についているキーボードで入力するらしい
起動のスイッチもキーボードについている。ちなみにこの袖は取り外し可能だった。
テレビのリモコンのようなものだろうか。
俺は震える手でキーボードのスイッチを入れた。自分の憧れのキャラクターに実際にあって手が震えないやつはいないだろう。
始めにミクの目が開いた。やはり人間味を帯びた目だ。
組んでいた腕を解いて立ち上がるとご丁寧にお辞儀をしてくれた。
「こんにちわ、初音ミクです!えっと……あなたのこと何てお呼びしたら良いでしょうか?」
小首を傾げるなどの動作がいちいち可愛らしい。昇天しそうだ。
「俺の名前は『山口 健』そうだね……うん。好きに呼んでくれ。」
「では……『健さん』で良いでしょうか?」
好きにしてくれとしか言えない。マスターとか、ご主人様なんて呼ばせる変態じゃないからな。そんな奴がリアルにいるとは思わない。
「良いよ。『健さん』でいい。」
気がつくと正座して話していた。馬鹿か俺は。そんなに固まることも無いだろうに。
仕方ないと言われればそうだが。
「健さんのことを教えて頂けませんでしょうか? 年齢や職種とかです。」
「歳は14で職種は……中学生で良いのかな。家族構成は俺と父さんだけど、ほとんど家に帰らないから実質俺だけ。他に必要なことはそのときに聞いて。」
玄関でずっと話すのも気が引けるので俺はミクを俺の父さんによって選ばれた白を基調とする家具が大量に置かれているリビングのソファにミクを座らせると、冷蔵庫から林檎ジュースを取り出し、二つのコップに注ぎ、それをもって俺はテーブルを挟んでミクの向かいに座った。
「ミクってさ、食べ物とか食べられるの?」
少し緊張気味の彼女は
「はっはい。食べられます。私は有機物を摂取してそれからエネルギーを得られるようになってるんです。もちろん電気を充電してそれで動くことも可能ですが結構電気を消費するので推奨はしません。」
すると排泄もするのか気になったが聞かないでおいた。それくらいの分別は俺にだってあるぞ。
「あの、私は健さんが学校に行っている間何をすれば良いでしょうか?」
とっさに
「一緒に学校へ行くのはどう?」
と言っちまった。
いや、無理だよな普通。面倒な手続きとかあるだろうしアンドロイドが学校はいいのだろうかね。
青緑の髪だって短く切って黒に染めなきゃいけないだろうしな。
家事でもやってもらうかね。
「大丈夫ですよ、学校。転校などの面倒な手続きは会社がやってくれるそうです。」
便利だな。どういうわけでそんなことをやってくれるんだ?
聞くとミクはこう答えた。
「世界で五台「初音ミク」が発売されます。そして私たちには学習能力があります。
自分で言うのもなんですけども、私以外の四台中三台は個人への販売用、残り一台は企業への販売用です。その四台はTV、CM出演が自由です。自分で言うのもなんですけどネットで人気のある私たちは、希少性、経済効果があるのでほぼ確実に購入金額は億単位になると予想されます。」
えっと、要するに……。四台は無茶苦茶高い値段で購入されるんだね?
「はい、そうです。企業は自分の会社のイメージを良くするための教育を受けさせるはずです。個人用の三台を買う余裕のある家庭の「初音ミク」は一般家庭を知らずに育ちます。
結果、両方とも特殊な性格になる可能性が高いです。」
「企業はともかく、お金持ちなだけでそんなに特殊な性格になるかな?」
コップの林檎ジュースを飲んで聞く。
「うーんと……。健さんは相当なお金持ちの家に生まれて、大抵の欲しいものは手に入り、親からは「欲しいものは無い?」と結構な頻度で聞かれる環境に育って一般家庭と同じ性格や考えを持つと思いますか?それが「初音ミク」にも当てはまります。」
「確かに持てないと思うな。俺が口を挟む前の続きを話してくれ」
ミクは林檎ジュースを一口飲んでまた話し出した。
「私は抽選で選ばれた結果、健さんのような少し特殊ですけど、とりあえず一般的な環境に触れることができます。そんな状況で育った私は、他の四台とは性格、考えが全然違うはずです。その違いをとるために私は抽選で選ばれた人の下、つまり健さんのところに来ました。データを取る手間は私の会社は惜しみません。だから面倒な手続きをやってくれるんです。」
なるほどね、つまり会社側が「一般的な環境に触れて育ったミク」のデータをとるために、その邪魔になることを取り払ってくれるってことね。深く考えなくていいか。
「なあ、そのデータってどういう風にとるの?」
「担当の人がこの家に定期的にきてとるようになってます。一ヶ月おきですかね大体。後、会社の呼び出しが来るかもしれません。さあ、手続きをしてもらうために電話しましょう。」
コップのジュースを全部飲み干してミクは立ち上がる。
続いて俺もジュースを飲んで立ち上がり、固定電話の受話器を取り上げた。
説明書の番号に電話をかける。すぐに電話はつながった。女性の声で流れる会社名とか、電話への御礼を聞き流して用件を言った。
「抽選で初音ミクが当たったんですけど、学校への転校の手続きをお願いします。」
『おめでとう御座います。担当のものに替わりますので少々お待ちください。』
保留の音楽が流れる。少しして男の人の声が電話から聞こえてきた。
『ただいま替わりました。担当の鈴木ですよろしく。転校の手続きですよね?』
「そうです。」
『では、電話番号と住所、学校名、使ってる教科書の書籍を教えてくれるかな』
電話番号と住所に学校名――某県立北中学――と書籍を教えた。
『わかりました。手続きが出来ましたら連絡します。』
「はーい。」
電話終了。
受話器を戻してミクに向き合う。
「これでいいの?」
彼女はにっこりと笑って言ったよ。
「会社側の質問に答えたなら大丈夫です。」
そうか。
俺はミクを手招きして「ついてきて」と言うと家の中を案内した。別に豪邸でもなければ隠し通路満載の忍者屋敷でもないので一通りキッチン、リビング、風呂にトイレや俺の部屋などを紹介して3分も立たずに終わった。
「ミクは自分の部屋……欲しい?」
部屋なら2つほど余ってる。俺の部屋の隣が空いてるからそこが適当ではないか。
部屋を振り当てずにソファで寝ろと言うのは俺の良心が痛む。
「くれるんですか?ありがとうございます。」
ミクは程よい感じに会釈した。
「じゃあ、俺の隣の部屋使って。まだ家具も何もないから買わなきゃね。」
彼女はえへへと笑って
「ですね。」
と言った。

ミクの力を借りつつどっさり出された本日の宿題にシャーペンと言う剣で戦っていると電話がかかってきた。戦闘を一時中断して受話器を持ち上げると鈴木さんの声が聞こえた。
『初音ミクの転校が許可された。今からFAXで証明書みたいなものを送るから月曜日に登校したら学校長に渡して。学校の制服も送ったよ。』
「制服までありがとうございます。じゃ、電話切りますね。」
『はい。』
受話器を戻してしばらくするとFAXが送られてきた。
紙の内容を簡単に言うと
「この紙は「初音ミク」の転校を証明するものである。」
その紙を鞄の中に丁寧に入れると俺はまたシャーペンを握って敵にダメージを与える作業に入った。

ちょこんとソファに座っているミクと自分の分のパンを焼く。
薄い焦げ目がついたパンがトースターから出てきた。よし、今日は最高の焼き上がりだ。何て、うまく壷を焼いた職人のようなことを思いながらバターを塗る。
適当にレタスを切って缶詰のとうもろこしをかけてゴマドレッシングを適当にかける。
ベーコン入りの目玉焼きを半熟で焼くと皿に入れた。この作業、長年料理をしているせいでもう習慣になっている。サラダの彩りや栄養価なんて知るか、
彩りや栄養が多少欠落してても死にはしない。冷凍食品だって使う。
とにかく二人分の朝食をテーブルに運んだ。
申し訳なさそうに首を下げるミク。いや、いいんだそんな感謝しなくても。君がいるだけで俺は幸せだ。
朝食を食べ始めると頬を染めたミクが口を開いた。
「あ……あのっ……私もお料理したいなあ……なんて。」
「じゃあ、今夜にでもやってもらうかな」
即答。
「はいっ。頑張ります。」
ミクの料理楽しみだ。ミクも食べ始めた。細い指でフォークをうまく使い目玉焼きを口に運ぶ。美味しそうな顔をしてくれた。
食べ初めて気がついたことだが、サラダの量を間違えた。多すぎる。

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最終更新:2008年10月07日 17:00
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