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姉らしい姉

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hime0210|姉らしい姉

@bg file="heya_m.jpg" time=700
[cm]
@bgm file="n07.ogg"
@texton
 頭に何か喰らっちゃいけないモノを喰らったような鈍い痛みを感じつつ、ベッドの上でうっすらと両目を開く。[lr]
 妙な感じがした。[lr]
 なにやら頭が随分と重く感じる。重いのではなく、痛みのせいで上手く動かせないだけだと気づくのには、数秒の時間を要した。[lr]
 おかしい。[lr]
 基本的に、俺は朝には強い。姉さんと違って、ベッドの中で強烈な不快感に打ちひしがれつつ目を覚ますなんて事は、今までそんなに多く経験したことはない。[lr]
 にも関わらず、この倦怠感。冬用の暖かい布団の中で、必要以上に身体が熱い。[pcm]
「うぁ…………」[lr]
 これは……まさか、風邪をひいた?[lr]
 痛く重い頭、気怠い身体、熱い自分の吐息。[lr]
 間違いない。風邪をひいたらしい。[lr]
「風邪かぁ……何年ぶりだろ」[lr]
 ああしまったと思う傍ら、自分が風邪をひくなんて珍しいなと少し思ってしまった。[lr]
 馬鹿は風邪をひかないと言われる。うーん、あまり風邪をひかない俺は適度に馬鹿だったのかも知れない。[lr]
;馬鹿じゃなかったのかもしれない にすべき?
 それにしても。[lr]
「何で……風邪なんか……」[lr]
 心当たりが無い。昨夜は特に身体を冷やした覚えもなければ、周囲の誰かが風邪をひいていた覚えもない。[pcm]
「……あれ?」[lr]
 と、そこまで考えて、あることに気づいた。[lr]
 そもそも、昨日は何時に寝たのか記憶にない。風呂に入ったのかどうかすら記憶にない。というか、何にも記憶にない。[lr]
 あれ?[lr]
 これは、一体?[lr]
 とりあえず無くなった記憶の最後尾を求めて、鈍痛のハンマーを喰らい続ける頭を働かせる。[lr]
 覚えていない。覚えていない。覚えていない。覚えて……ん?[lr]
 脳が昨夜の最後の記憶に辿り着いた。[pcm]
 そこで覚えているのは、なにやら赤い液体を手に持って楽しそうな自分と姉。[lr]
「あれ、もしかして」[lr]
 段々と思い出してきた。[lr]
 昨日の夜は、姉さんが地下から発掘したワインを飲もうとか言い始めたのだった。[lr]
「あー」[lr]
 鈍痛ハンマーの正体は二日酔いだったのか。[lr]
 なんだ、風邪じゃなかったのか。安心した。[lr]
 そうと分かれば、少しベッドの中で休めばそのうち良くなるだろう。[pcm]
 ちらりと枕元に置いてある時計を見ると、時間は朝の九時前。お寝坊な姉さんは、放っておいたらあと二時間ほどの睡眠を楽しむだろう、多分。適当に起こしに行くという約束を守れないのは申し訳ないが、今日はもう少しゆっくりと寝ていて貰おう。[lr]
 それにしても、頭が痛い。早く引いてくれないか。[lr]
 そう思った矢先。コンコン、と。誰かが部屋のドアをノックした。[lr]
 伊万里か? そうならばナイスタイミングだ。体調が悪いことを伝えて、少し家事を手伝って貰おう。[pcm]
 持つべきモノは世話焼きな幼馴染みだと、微妙に伊万里のありがたさを思いつつ、[lr]
「入って良いよ」[lr]
 と、痛みのせいで情けない声で答える。[lr]
 だがしかし。ガチャ、とドアの開く音が聞こえる頃に、俺は思い出した。[lr]
 もし伊万里だとしたら、あいつはどうやってうちに入ってきたんだ?[lr]
 合い鍵を持っているとはいえ、チェーンで施錠してあるから、中には入れないはずだ。[lr]
 それとも、昨日の夜は酔っていて戸締まりを怠ったか? そうかもしれない。というか、多分そうだ。[pcm]
 うんうん、と自分を納得させ、寝返りをうってドアの方へと顔を向ける。[lr]
 だがしかし、どうやら我が家のセキュリティはいつも通りだったようだ。[lr]
[ld pos=rc name="hime" wear=u pose=1 b=8 e=8a m=8]
 見慣れた部屋のドアから覗くのは、やはり見慣れた顔が微妙にぷっくりとふくれている様子であり、それはつまり、半分開いたドアからやや恨めしい顔を半分だけ突き出してこっちをジト目で睨んでいる、どう見ても我が姉である。[lr]
「稔くんが……起こしに来てくれない~」[lr]
 何という自分勝手な恨み言。休日くらい、俺にもゆっくり休む権利を。[lr]
 というか、わざわざそんな恨みもんもんな顔で言う程のことですか。[pcm]
「ごめん、姉さん。ちょっと体調悪くて」[lr]
 でもこうして謝ってしまう辺り、俺は絶対に姉に甘い。何とかしなくては。[lr]
 いや待てよ?[lr]
 姉が既に目を覚ましていて、不機嫌。[lr]
 これはまさか……姉さん、お腹が減っている?[lr]
 いやいや、寝起きの姉さんが進んで何か食べようなんて気は太陽が西から昇っても起こさない。[lr]
 あれ? じゃあ一体?[pcm]
@cl
[ld pos=c name="hime" wear=u pose=1 b=6 e=1a m=5]
「稔くん、気分が悪いの?」[lr]
 姉さんがぷっくりと膨らませた顔を元に戻して、いつもの彼女の顔、それも何かきょとんとしたような愛らしい顔で、隠れていた残り半分もドアからひょいと覗かせて聞いてくる。[lr]
;↑原文 元に戻して、いつもの姉さんの顔
 どちらかというと気分が悪いよりも頭が痛いのだが、どっちも大して変わりが無いので、首肯。[lr]
[ld pos=c name="hime" wear=u pose=1 b=5 e=1a m=9 size=L]
 それを見た姉さんは、顔だけをドアから突き出すのを止め、可愛らしいパジャマ姿でソロソロとこっちに近づいてくると、小さい手を俺の額にあてた。[pcm]
@fadeoutbgm time=1500
「…………姉さん?」[lr]
「…………お熱」[lr]
 何だって?[lr]
@bgm file="n18.ogg"
[ld pos=c name="hime" wear=u pose=1 b=6 e=6a m=7 size=L]
「稔くん、熱がある!」[lr]
 熱だって?[lr]
[ld pos=c name="hime" wear=u pose=1 b=9 e=7a m=7 t=1 size=L]
「稔くんが……風邪ひいたー!」[lr]
@cl
 姉さんはそう言うと、なんだか銃を突きつけられたみたいに両手を万歳の形で振り上げたまま、漫画のような慌てっぷりで部屋を飛び出していった。一体何なんだ。[lr]
 それにしても、やっぱり二日酔いでは無く風邪だったようだ。いや、どちらかと言えば、併発と言った方が正しいかも知れない。風邪と二日酔いのダブルパンチ。かなり強烈な一撃を現在進行形で喰らっているのか。[pcm]
 今まで経験した感じの風邪とはなんだか毛並みが違う、無駄な頭痛がこびり付いているような感覚で一杯だ。[lr]
[ld pos=c name="hime" wear=u pose=1 b=4 e=7a m=9]
 やがて姉さんが駆けだしていった時と同じように、トトトという慌ただしくも可愛らしい駆け足で戻ってきた。と同時に、部屋のドアがブチ開けられ、そこには体温計を手にした姉さんが、またもやどこかのトゥーンさながらのポーズで立っていた。[lr]
[ld pos=c name="hime" wear=u pose=1 b=9 e=1a m=7 size=L]
「稔くん、体温!」[lr]
 そう言いながらこっちに近づいてきて、体温計を突き出す姉。[lr]
 何となく言いたいことは分かるが、日本語的にどうなんですかそれは。[pcm]
 微妙に釈然としない気持ちのまま体温計を無言で受け取り、スイッチを入れ脇に挟む。[lr]
[ld pos=c name="hime" wear=u pose=1 b=9 e=1a m=9 t=1 size=L]
 横を見ると、姉さんがなんだか泣きそうな顔でこっちを見ているので、気まずくて体温計のアラームが鳴るまではずっと上を見ていた。[lr]
 やがて、ピピピと文明の利器が俺の体温を把握したということを単調な周波数の繰り返しで伝えてくるので、寝間着の中から取りだして表示を見てみると、そこにはばっちりと38.0℃の表示が出ていた。[lr]
「稔くん、見せて」[lr]
 姉さんが俺から体温計をひったくる。そして表示を一瞥すると、「ゃぁぁ」みたいな声を出してその場に崩れ落ちた。[pcm]
[ld pos=c name="hime" wear=u pose=1 b=4 e=7a m=9 t=1 size=L]
「稔くん……お熱」[lr]
 ポツリとつぶやいた姉さんの声は、どこか悲痛な感じだった。[lr]
「姉さん、ごめん。今日はちょっと家事は難しいかも」[lr]
 難しいかも、ではなく無理だろうとは思いつつ、姉さんにあまり心配を掛けたくないので、柔らかめに言ってみる。[lr]
;↑原文 心配を掛けたくないので、ソフト目に
[ld pos=c name="hime" wear=u pose=1 b=9 e=1a m=1 size=L]
「ううん、いいの。稔くんは休んで」[lr]
 妙に聞き分けの良い姉。[lr]
「稔くんはお酒あんまり強くないって知ってたのに、沢山飲ませちゃったお姉ちゃんが良くなかったんだよね」[lr]
 ……そういうことか。姉さんは、俺の風邪の原因が昨夜の飲み過ぎにあると考えているらしい。いや、多分事実そうなんだろうけど、姉さんが気に病むことでもないのに。[pcm]
「姉さんのせいじゃないよ。それより、今日の家事は伊万里を呼んで……」[lr]
[ld pos=c name="hime" wear=u pose=1 b=7 e=1a m=4 size=L]
「お姉ちゃんがやる!」[lr]
「手伝って貰って…………って何?」[lr]
「お姉ちゃんが、今日は稔くんの代わりに家事をやる」[lr]
 何ですと?[lr]
「姉さん?」[lr]
「お姉ちゃんはいっつも稔くんにお世話して貰ってるから、今日はお姉ちゃんが稔くんをお世話してあげるの!」[lr]
 言い切った。宣言した。[pcm]
「姉さん、家事出来るの?」[lr]
 姉さんが家事をするところはあまり見たことがない。と言うか、ほぼ皆無だ。[lr]
 姉さんはこう見えて凄く器用だから、家事なんかもある程度はこなせるだろう。が、その器用さが果たしてどれくらいブランクを埋められるかと言われれば、分からないとしか言いようがない。[lr]
「やっぱり伊万里を呼んだ方が……」[lr]
 姉さんが怪我をしないかと思うと、心配で仕方ない。[lr]
[ld pos=c name="hime" wear=u pose=1 b=1 e=3a m=1 size=L]
「稔くん、お姉ちゃんは稔くんのためだったら何でも出来るんだよ。はい、これ」[lr]
 そう言いながら姉さんは、手に持った二粒の錠剤を俺に突き出してきた。[pcm]
「……何、これ」[lr]
「風邪のお薬」[lr]
 いや、まあそりゃそうなんだろうけど。[lr]
「大丈夫だよ、稔くん。おやつの時間になったら目が覚めるはずだから」[lr]
 なんだか急激に飲みたくなくなる台詞を吐く姉。まさかとは思うが、自作の薬ではあるまいか。いや、そんな。[lr]
「大丈夫だよ、稔くん。一応市販の薬だから」[lr]
 一応?[lr]
[ld pos=c name="hime" wear=u pose=1 b=1 e=8a m=11 size=L]
「むー、飲まないとお注射の方にしちゃうよ?」[lr]
「飲みます、スイマセン、飲ませてください」[lr]
[ld pos=c name="hime" wear=u pose=1 b=9 e=1a m=4 c=1 size=L]
「稔くん、お姉ちゃんに飲ませて欲しいの? しょうがないなーもう」[lr]
 いや、そういう意味では無いんですが。[pcm]
 しかし、姉さんはどこからか取り出した水入りのコップを手に持って嬉しそうに薬を飲ませようとしてくるので、俺は仕方ないとばかりに大人しく従う。[lr]
 風邪薬とおぼしき薬を飲む。というか、二日酔いなのに薬なんて飲んで平気なんだろうか?[lr]
[ld pos=c name="hime" wear=u pose=1 b=1 e=3a m=1 c=1 size=L]
「三十分くらいしたら眠くなってくるはずだから、稔くんはゆっくり寝ててね? おやつの時間になったら、おかゆ作って持ってきてあげるから」[lr]
 俺に薬を飲ませた後の姉さんは、嬉々揚々としてそう宣言する。[pcm]
 姉さんの手料理……最後に口にしたのはいつのことだろうか? 子供の頃には何度もあった気がするが、もうよく覚えていない。[lr]
@cl
 姉さんがパタパタと部屋を出て行くと同時、今まで鈍く痛んでいた頭がぐらぐらしてきた。[lr]
 あの薬、三十分どころか凄く即効性がある気がする……というか、これはマズイ。[lr]
 頭痛と眠気の板挟みにより最悪の倦怠感と喪失感に嘖まれ、身体の軸がぶれた様な錯覚と同時、強烈な吐き気が首の裏側から手術用のメスみたいに切り込んでくる錯覚に陥る。[pcm]
 急加速で悪化した気分と体調が俺の身体を乗っ取ろうとするのを防ごうとするも、眠気のせいでそれに抵抗できない。[lr]
;改行クリック待ちをはさんだ
 それどころか、むしろ不快感に拍車を掛けるように脊髄をぬるま湯で洗われているイメージを朦朧とした脳に映し出し、吐瀉物になろうとするものが喉を駆け上がる準備を手助けしているようにしか思えない。[lr]
 最悪の気分。姉さん、一体俺に何の薬を飲ませたんですか。[lr]
 麻痺の悪魔が咽頭を撫で回す頃になると、既に姉が俺に何を飲ませたか何て事を考える余裕も無くなってきて、そして急激に襲ってくる意識のブラックアウトにより、俺の記憶はそこで途絶えて消えた。[pcm]

@fadeoutbgm time=2000
@bg file="black.jpg" time=2000
@wait time=1000
@bg file="heya_m.jpg" rule="円形(中から外へ)"
@bgm file="n07.ogg"

 ふと目を覚ます。[lr]
 枕元の時計をちらりと見ると、デジタル式の時計はシャープな14:52を描いていた。[lr]
 はて、どうして俺はこんな時間にベッドに入っているのか。[lr]
 一瞬疑問が頭を過ぎるも、その頭を使った瞬間に訪れる軽い痛みが自分の不調を思い出させてくれる。[lr]
 そうだった。確か俺は、姉さんに変な薬を飲まされて……ん?[lr]
「そういえば姉さん、自分で家事やるって……」[lr]
 大丈夫なんだろうか?[lr]
 今頃ドアの外で大惨事が繰り広げられていたら、笑うに笑えない。[lr]
;↑原文 今頃そこのドア

;;選択肢
;;気になる。怠いが起きあがって様子を見に行く。
;;気になるが、怠くて起きあがれない。

[nowait]
[r]
[link target="*okiru"]1.気になる。怠いが起きあがって様子を見に行く。[endlink][r]
[link target="*neteru"]2.気になるが、怠くて起きあがれない。[endlink]
[endnowait]
[s]
;選択肢は後で変更予定。



okiru|

[cm]
;;気になる。怠いが起きあがって様子を見に行くの場合
 気になる。というか、姉さんが無事かどうかが心配で、安心して休めない。[lr]
 姉さんの薬のおかげかは知らないが、多少マシに感じるとはいえまだ身体は怠い。だがそれ以上に、その五メートル先のドアの向こうが気になって仕方がない。[lr]
「んっ……はぁ」[lr]
 ベッドから起きあがる。やや頭がズキズキとするが、朝ほど酷くはない。[lr]
 立ち上がってみても、足下がふらつくこともなく、ゆっくりではあるが歩くことは出来た。姉さんの薬は意外にも効いているようだ。[pcm]
 ドアを開ける。と同時、漂ってきたお米の良い匂いが鼻腔を優しくくすぐる。[lr]
 これは、おかゆの匂いだろうか?[lr]
 身体の具合が悪いので食欲が湧くことは無いが、それにも関わらず不快な気分にさせることのない不思議な香りだ。[pcm]

@bg2 file="genkan.jpg" rule="縦ブラインド(左から右へ)"
@bg file="ribing.jpg" rule="縦ブラインド(左から右へ)"

 匂いを追いつつ階段を下り、居間へと出たところで、俺は硬直する。[lr]
[ld pos=c name="hime" wear=u pose=1 b=6 e=6a m=5]
 俺の目に飛び込んできたのは、台所で小さな土鍋を手にしている姉さんだったのだが、あり得ないのはその格好だった。[lr]
 熱のせいで妙な幻を見たかと思って軽く目を擦ってみるが、現実は揺るがない。[lr]
 姉さんは間違いなく、フリフリのロリータ衣装の上から割烹着を着て、土鍋を手にしている。[lr]
 整理しよう。フリフリなゴシックチックのモノクロームなロリータ服、それを覆う割烹着、スカートのスリットから覗くガーターベルト、それらを着こなす(一見)幼女、調理のために髪を纏めるかんざし、手にするのは小さな土鍋。[pcm]
 和洋折衷とかいう甘っちょろいモノではない。何か根本的に衣服というものを勘違いしたとしか思えない程にプログレッシブでぶっ飛んだ、あるいは東西のシュルレアリスト達が挨拶代わりに気まぐれを起こして作った「優美な屍骸」の傑作であるかの形相。[lr]
;改行クリック待ちをはさんだ
 偶発的な機能美と様式美の交わりを体現したように、端的に言ってしまえばクレイジーな格好の姉が、驚いた表情でこっちを見ている。[lr]
[ld pos=c name="hime" wear=u pose=1 b=9 e=7a m=5]
「稔くん……大丈夫なの?」[lr]
 姉さんの格好の方が大丈夫なんだろうか? と問いたいが、言うと何故か風邪が酷くなりそうな気がしたので止めた。[pcm]
「一応、結構楽になったみたい」[lr]
[ld pos=c name="hime" wear=u pose=1 b=5 e=1a m=1]
 俺がそう言ったのを聞くと、姉さんの驚いていた表情がホッとした感情の形に溶けていった。[lr]
「はぁー、お姉ちゃん安心したよ、稔くん」[lr]
 姉さんはそう言って軽くため息をつくと、思い出した様にトコトコとテーブルまで歩いていって、両手で持っていた土鍋を鍋敷きの上に置き、俺の方に改めて向かっておいでおいでのポーズをした。[pcm]
「おかゆ。稔くんのために作ったの。食べられるくらい身体が良くなったら、食べて?」[lr]
;↑原文 食べられるくらい身体が良くなってたら、食べて?
 姉さんがふたをパカッと開けると、中からは真っ白な湯気に負けないくらい真っ白なおかゆが、中央の梅干しの紅色に引き立てられて、俺の心を刺激する。小ネギの輪切りがさり気なくぱらつかせてあるのも良い。風邪をひいたときはネギだ。[lr]
 そういえば、朝から何も食べていなかった。[lr]
 ずっと寝ていたから大してカロリーは消費していないと思いきや、汗をかいたり体温を上げたり下げたりで結構な負担が掛かっていたようだ。そう思うと、朝よりマシになった体調も相まって、急に空腹感が胃の中で寝転がっている気がしてきた。[pcm]
;胃の中に にすべきかどうか。両選択肢にある。
 クレイジーな格好の姉さんがこれまたクレイジーなポーズでおいでおいでをしているのに釣られてしまい、フラフラとテーブルに向けて歩き出す。[lr]
 テーブルに近づくと、姉さんがスッと椅子を引いてくれたので、無意識にその椅子に座る。[lr]
 姉さんがどこからともなく蓮華を差し出してくる。受け取ろうかと思うのも束の間、姉さんはおもむろにおかゆをすくい上げると、ふーっ、ふーっと優しく息を吹きかけ、それを数回繰り返すと、蓮華を俺の鼻先へと持ってきた。[lr]
[ld pos=c name="hime" wear=u pose=1 b=5 e=3a m=1 c=1 size=L]
「はい、稔くん」[lr]
 これはいわゆる、あーんという奴だ。たまに姉さんに要求されるが、逆にされるのは少し新鮮だ。[pcm]
 鼻先にあるおかゆをすくった蓮華から立ち上る芳香は、とろとろに炊きあげた米の甘い匂いと、味にしまりを持たせる塩の香り、そして薬味の小ネギと梅干しから染み出した酸っぱい刺激が見事に調和して嗅覚を撫で回し、食せずとも病人の胃と心を優しく癒さんばかりにその存在の暖かさを主張している。[lr]
 ぱくっと、その蓮華に食いつく。[lr]
 ふーふーしてくれたとはいえ、できたてのかゆだ。熱くないわけがない。しかしその熱さが、かえって頭の中をシャープにしてくれる。[lr]
[ld pos=c name="hime" wear=u pose=1 b=5 e=1a m=1 c=1 size=L]
「稔くん、美味しい?」[lr]
 問いに、口の中におかゆが入っている俺は、頷くことでしか肯定できない。[pcm]
 姉さんが作ったおかゆは、米の炊き具合といい塩加減と言い、普段全く料理をしていないとは思えないほどに適切な塩梅であった。もしかしたら、普段家事を受け持っている俺が作るおかゆよりも美味しいかも知れないのが驚きで、ある意味ショックだ。[lr]
 口の中でゆっくりと味わってから、暖かいおかゆを飲み込む。[lr]
「美味しいよ、姉さん」[lr]
[ld pos=c name="hime" wear=u pose=1 b=5 e=3a m=1 c=1 size=L]
 それ以外に言いようの無い感想を聞いて、姉さんはにっこりと笑い、二口目のおかゆを蓮華にすくってまたふーふーをしてくれた。[pcm]
 ふーふーして、食べて、笑って。ゆっくりと何度も繰り返していくうちに、小さな土鍋一杯分のおかゆを食べ尽くしてしまった。[lr]
「ごちそうさま」[lr]
 そう言って姉さんにお辞儀をすると、姉さんは優しく笑ってくれる。[lr]
「稔くん、ご飯が食べられるくらい元気になって良かった」[lr]
「うん。ありがとう、姉さん」[lr]
 ゆっくりと眠って、優しいものでお腹を満たすと、朝の苦痛が嘘みたいに楽になったのがよく分かる。[pcm]
 楽になったついでに、辺りを見回す。[lr]
 姉さんが家事をやると言い始めたときは不安で仕方なかったが、居間や台所、それから洗面所などには目立つ破壊の痕跡はなく、むしろ掃除でもしたかのように美しく整っているという印象の方が強かった。[lr]
 窓から外を見ても、昨日の洗濯かごの中身が太陽の光を浴びて気持ちよさそうに風に揺らいでいる様子が目に映る。[lr]
 平和そうな我が家を目にすると、朝からの心配が消え去り、代わりにどっと安心感が身体を包んでくる。[lr]
 そうなると、やはり疲れた身体が再び休むことを要求してくるのか、微妙な眠気が頭頂部から水を垂らしたみたいに広がっていくのを感じた。[pcm]
;↑原文 そして安心すると、やはり
[ld pos=c name="hime" wear=u pose=1 b=5 e=1a m=5 size=L]
「稔くん、眠いの?」[lr]
 それが顔に表れていたのか、姉さんがそう聞いてくる。[lr]
;↑原文 やや眠さが顔に
「うん。お腹が一杯になったら、なんだか眠くなってきた」[lr]
 姉さんはうんうんと首を縦にふって、[lr]
[ld pos=c name="hime" wear=u pose=1 b=5 e=1a m=1 size=L]
「それはね、稔くんの身体が元気になってる証拠だよ」[lr]
 と言った。[lr]
 たっぷりとった睡眠と、薬、そして姉さんのおかゆのおかげで、もう一度眠ってしまえば次に目が覚めるときはすっかり体調が良くなっているような気がした。[pcm]
「あれ? 眠い……」[lr]
 椅子から立ち上がって歩き出そうとするも、眠気と体調不良からくる疲れで上手く歩けない。[lr]
 なんだか貧血を起こしたみたいに、自分の立っている場所がはっきりとしない。[lr]
[ld pos=c name="hime" wear=u pose=1 b=9 e=1a m=5 size=L]
「稔くん?」[lr]
 姉が心配そうにこっちを見ている。[lr]
「姉さん……疲れて歩けない……」[lr]
 ふらふらするような力の抜け方ではなく、立ったその場から動けないような力の抜け方。[lr]
 歩きたくても、足が床に張り付いたような。[pcm]
[ld pos=c name="hime" wear=u pose=1 b=4 e=1a m=1 size=L]
「稔くん、お姉ちゃんがお布団持ってきてあげるから、ソファで寝なさい」[lr]
 ソファ。そうか、ソファなら居間から動かずに済むし、眠り心地も悪くはないだろう。少し冷えるかも知れないが、布団をしっかりとかぶればそれも解決できるはずだ。[lr]
 そうと決まれば。歩ける気がしてきた。[lr]
 ゆっくりと、さっきまで座っていた椅子の位置から三メートルほどの距離のソファまで、姉さんに支えられて移動。そしてそのままソファに倒れ込んだ。[lr]
 ああ、きっと満たすだけ満たしたから、身体が最後の休息を急いているんだろう。[pcm]
[ld pos=c name="hime" wear=u pose=1 b=5 e=1a m=1 size=L]
 ソファに倒れ込んでから意識のブレーカーを落とすまで。姉さんが側にいてくれた。[lr]
 例のクレイジーな格好で、甘えたくなるような優しい匂いをした姉さんが、ずっと俺の頭を撫でてくれていた。[lr]
 お休み、姉さん。今日は本当にごめん。[lr]
 心の中でそう謝ると同時、俺の電源は切れた。[pcm]



@fadeoutbgm time=1000
@cl
@bg file="black.jpg" time=1000

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;[jump storage="cmmn.ks" target="*0210n"]
[jump storage="scenemenu.ks"]

[s]



neteru|

[cm]
;;気になるが、怠くて起きあがれないの場合
 気になる。が、思うように身体は動いてくれないようだ。[lr]
 少しばかり長く寝ていたせいか、身体が重い。身体がまだまだ調子を取り戻していないのも原因の一つだろう。[lr]
 頭痛はマシになった気はする。しかし、起きあがって扉の向こうを確認しに行くほどの元気は出なかった。[lr]
 とりあえず、ベッドの中で体調を整えてから、姉さんの様子を見に行くことにしよう。[lr]
[ld pos=rc name="hime" wear=u pose=1 b=9 e=1a m=5]
 そう思った瞬間、ドアのノブが突然ガチャリと音を立てて動いた。そしてドアがゆっくりと開いたかと思うと、フリフリのロリータ衣装の上から割烹着を着て、土鍋と蓮華と水を乗せた盆を手にした姉さんが、部屋の様子をうかがうようにゆっくりと現れた。[lr]
 唐突に視界に飛び込んだエキセントリックな風貌の姉に、一瞬たじろぐ。[pcm]
 姉さんの格好を、脳内で整理しよう。フリフリなゴシックチックのモノクロームなロリータ服、それを覆う割烹着、スカートのスリットから覗くガーターベルト、それらを着こなす(一見)幼女、調理のために髪を纏めたとおぼしきかんざし、手にするのは小さな土鍋と水差しの乗るお盆。[lr]
 和洋折衷とかいう甘っちょろいモノではない。何か根本的に衣服というものを勘違いしたとしか思えない程にプログレッシブでぶっ飛んだ、あるいは東西のシュルレアリスト達が挨拶代わりに気まぐれを起こして作った「優美な屍骸」の傑作であるかの形相。[lr]
;改行クリック待ちをはさんだ
 偶発的な機能美と様式美の交わりを体現したように、端的に言ってしまえばクレイジーな格好の姉が、心配しながら盗み見するという感じのする微妙な表情でこっちを見ている。[pcm]
「ね、姉さん?」[lr]
@cl
[ld pos=c name="hime" wear=u pose=1 b=9 e=7a m=5]
「稔くん、もう起きてたの?大丈夫?」[lr]
 姉さんの格好の方が大丈夫なんだろうか? と問いたいが、言うと何故か風邪が酷くなりそうな気がしたので止めた。[lr]
「一応、結構楽になったみたいだけど、ちょっと起きあがるのはきついかも」[lr]
[ld pos=c name="hime" wear=u pose=1 b=9 e=1a m=1]
 姉さんの表情はあまり晴れないが、一応少しはマシになったというのは伝わったのだろうか、表情が少し安心したように見えた。[lr]
 そして俺の椅子をベッドの側まで引き寄せ、そこにちょこんと座り自らの膝の上に持ってきたお盆を置く。[pcm]
「稔くん、上の体だけ起こせる?」[lr]
「うん、上半身くらいなら……」[lr]
 そう言って、試しに軽く手でベッドを押してみると、意外にもスルッと上半身が持ち上がり、そのままベッドの上に座る形になった。[lr]
 姉さんはその様子を見て、[lr]
[ld pos=c name="hime" wear=u pose=1 b=5 e=1a m=1]
「おかゆ。稔くんのために作ったの。食べられるくらい身体が良くなったら、食べて?」[lr]
 と言いながら土鍋のふたをパカッと開けると、中からは真っ白な湯気に負けないくらい真っ白なおかゆが、中央の梅干しの紅色に引き立てられて、俺の心を刺激する。小ネギの輪切りがさり気なくぱらつかせてあるのも良い。風邪をひいたときはネギだ。[pcm]
 そういえば、朝から何も食べていなかった。[lr]
 ずっと寝ていたから大してカロリーは消費していないと思いきや、汗をかいたり体温を上げたり下げたりで結構な負担が掛かっていたようだ。そう思うと、朝よりマシになった体調も相まって、急に空腹感が胃の中で寝転がっている気がしてきた。[lr]
 姉さんが蓮華を手に取る。受け取ろうかと思うのも束の間、姉さんはおもむろにおかゆをすくい上げると、ふーっ、ふーっと優しく息を吹きかけ、それを数回繰り返すと、蓮華を俺の鼻先へと持ってきた。[pcm]
[ld pos=c name="hime" wear=u pose=1 b=5 e=3a m=1 c=1 size=L]
「はい、稔くん」[lr]
 これはいわゆる、あーんという奴だ。たまに姉さんに要求されるが、逆にされるのは少し新鮮だ。[lr]
 鼻先にあるおかゆをすくった蓮華から立ち上る芳香は、とろとろに炊きあげた米の甘い匂いと、味にしまりを持たせる塩の香り、そして薬味の小ネギと梅干しから染み出した酸っぱい刺激が見事に調和して嗅覚を撫で回す。[lr]
;改行クリック待ちをはさむ
 食せずとも病人の胃と心を優しく癒さんばかりにその存在の暖かさを主張している。[lr]
 ぱくっと、その蓮華に食いつく。[lr]
 ふーふーしてくれたとはいえ、できたてのかゆだ。熱くないわけがない。しかしその熱さが、かえって頭の中をシャープにしてくれる。[pcm]
[ld pos=c name="hime" wear=u pose=1 b=5 e=1a m=1 c=1 size=L]
「稔くん、美味しい?」[lr]
 問いに、口の中におかゆが入っている俺は、頷くことでしか肯定できない。[lr]
 姉さんが作ったおかゆは、米の炊き具合といい塩加減と言い、普段全く料理をしていないとは思えないほどに適切な塩梅であった。もしかしたら、普段家事を受け持っている俺が作るおかゆよりも美味しいかも知れないのが驚きで、ある意味ショックだ。[lr]
 口の中でゆっくりと味わってから、暖かいおかゆを飲み込む。[pcm]
「美味しいよ、姉さん」[lr]
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 それ以外に言いようの無い感想を聞いて、姉さんはにっこりと笑い、二口目のおかゆを蓮華にすくってまたふーふーをしてくれた。[lr]
 ふーふーして、食べて、笑って。ゆっくりと何度も繰り返していくうちに、小さな土鍋一杯分のおかゆを食べ尽くしてしまった。[lr]
「ごちそうさま」[lr]
 そう言って姉さんにお辞儀をすると、姉さんは優しく笑ってくれる。[pcm]
「稔くん、ご飯が食べられるくらい元気になって良かった」[lr]
「うん。ありがとう、姉さん」[lr]
 ゆっくりと眠って、優しいものでお腹を満たすと、朝の苦痛が嘘みたいに楽になったのがよく分かる。[lr]
「姉さん、家のこと上手く出来てる?」[lr]
 唯一心配だったことを聞いてみる。[lr]
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「うん。大丈夫だよ、稔くん」[lr]
 姉さんは俺を安心させようと、優しくそう言った。[lr]
「姉さん一人だと大変だから、やっぱり伊万里を呼んだ方が……」[lr]
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「稔くん?どうしてそこでいっちゃんの名前が出てくるの? そんなにお姉ちゃんが信じられない?」[lr]
 一転、姉の目はマジだった。[pcm]
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「稔くん、お姉ちゃんに家の事は任せて、稔くんはゆっくり寝てても良いんだよ? 稔くんがいつも一人で出来るんだから、お姉ちゃんにも出来るんだよ?」[lr]
 その姉さんの言葉を聞くと同時、微妙な眠気が頭頂部から水を垂らしたみたいに広がっていくのを感じた。[lr]
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「稔くん、眠いの?」[lr]
 それが顔に表れていたのか、姉さんがそう聞いてくる。[lr]
「うん。お腹が一杯になったら、なんだか眠くなってきた」[lr]
 姉さんはうんうんと首を縦にふって、[lr]
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「それはね、稔くんの身体が元気になってる証拠だよ」[lr]
 と言った。[pcm]
 確かに。たっぷりとった睡眠と、薬、そして姉さんのおかゆのおかげで、もう一度眠ってしまえば次に目が覚めるときはすっかり体調が良くなっている様な気がした。[lr]
「……っう?」[lr]
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「稔くん?」[lr]
 姉が心配そうにこっちを見ている。[lr]
「姉さん……凄く……眠い」[lr]
 ああ、きっと満たすだけ満たしたから、身体が最後の休息を急いているんだろう。[lr]
 意図せずに、上半身がベッドに倒れ込む。[pcm]
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 倒れ込んでから意識のブレーカーを落とすまで。姉さんが側にいてくれた。[lr]
 例のクレイジーな格好で、甘えたくなるような優しい匂いをした姉さんが、ずっと俺の頭を撫でてくれていた。[lr]
 お休み、姉さん。今日は本当にごめん。[lr]
 心の中でそう謝ると同時、俺の電源は切れた。[pcm]



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