「タカちゃん頑張るねぇ。そのシリーズ何作目だっけ?」
「ん……14作目」
放課後、あたしと紗織は部室に来ていた。
「『イ・ケ・ナ・イ放課後~野薔薇の鎮魂歌~』」
「ふふっ……見てなさいよ、紗織! 今回のあたしは一味違うんだから!」
「もう何回も聞いたよその台詞。前回のイベントだって同じこと言ってたし」
「今回もあたしは全力投球なのよっ!」
執筆する手を休めず紗織に答える。
「まぁね……漫研部員でこれだけ売れてる作品も少ないよね」
漫研。それがあたしたちの所属する部活動、と言うか研究会。
部員は10人弱。漫研と銘打っておきながら、ただの同人同好会だったりもする。
文芸部員と混同され、部屋も同じ。まぁ、内容は文を書くか漫画を描くかの違いだけだ。
「あんたも結構売ってんでしょうが。ジャンルはあたしと正反対だけどね」
今はまだ2人しかこの場にいない。
実際、イベントで売れるのはあたしたち二人のものが群を抜いている。
他の部員には申し訳ないが、ちょっと鼻は高い。
「薔薇と百合……一応同じサークルで男女どっちもに需要があるのはそうそうないんじゃない?」
「ま、そりゃぁ好みでしょ。うちはどっちも好きだけどね!」
「あたしだって読みはするけど。ふふふ……今回のは売れる、売れるよ!!」
あたしはたった今描き上げた一枚の原稿を高らかに掲げた。
「見せて見せて! おぉ~! 今回のは濃厚ですなぁ」
「そりゃぁもう攻め一方だったアキラくんが攻められちゃうなんて! な展開を今回初の試みとしてやってみたんだもの!」
「『う、アァッ! ソウスケ……』、『ア、アキラ……入った、よ……くぅッ!?』」
「どぉどぉ!? もう描いててあたしまで興奮しちゃった!」
「うん、すごくいいよこれ! またイベントでファン増えるんじゃない? タカちゃん、背も高くて格好いいし!」
そう。あたしはしばしば運動部員に間違われるほどの容姿だったりする。
だが実態は、運動音痴でただ背の高いだけの女。
祖父の父が外国人らしく、隔世遺伝で目鼻立ちも少し日本人のそれと違う。
「で、あんたのはどうなってんの? 見せてみなさいよ」
「ん~? うちのはこれ! 隔世遺伝で日本人離れした目鼻立ちの格好いい女の子と、漫研部員のちっちゃい女の子の話!」
で、こんなとこでネタにされたりする。
「あんた……思いっきりあたしら二人じゃん……」
「うん! これ結構いけると思うよ!」
「うわぁ……あんたも濃厚ね……これがあたしだと思うとちょっとなぁ」
「いいじゃんいいじゃん!」
「まぁ、いいけどね。あたしも人のこと言えないし!」
あはははっと二人で笑い、作業を続けていると、いつの間にか下校時間になっていた。

「今日一日、充実してたなぁ」
布団に潜り、一言今日の感想を吐く。
「ああ、アキラくんってば最高! もう飼いたい! 飼って観察して全部漫画にしたい!」
何で彼はあんなに輝いて見えるのだろう。
何で狙ったようにあたしのツボを突くのだろう。
ドキドキする。学校へ行くのが毎日楽しみでいられない。
「あっ! このネタいける! メモしなきゃぁ!」
ああ、今日あたしが寝入るのは何時ごろになるだろうか……

最終更新:2013年03月18日 01:13