yariba @ ウィキ

君はずっと知らないでいて欲しい

最終更新:

Bot(ページ名リンク)

- view
だれでも歓迎! 編集
君はずっと知らないでいて欲しい【きみはずっとしらないでいてほしい】




「里穂ってさ、斗真の事好きだろ」
確信があっての問いかけ

「…えっ!?えぇえぇえっっ!?」
「声でけーよ」
里穂は多少大袈裟なくらいの反応を見せた

「なっ何で分かったの…?」
「何でって…里穂の好みまんまじゃん」
「たっ確かに…」
「それに見てりゃ分かるし」
そうだよ、見てりゃ気付くんだよ

―――嫌でも、な

「えっ嘘!?」
「そんな嘘ついてどうすんだよ」
「それ…本人には…」
「言ってない。多分本人も気付いてないと思う。鈍感だし」

だって、里穂からの視線に気付いてたら
俺からの視線にも気付くはず

「…本人には言わないでね?」
「言わねーよ」

それで斗真が里穂を気にしだしたら嫌だし


―――だって、俺、斗真が好きだもん


―――

「…何?」
「え?」
授業中に隣の席になった斗真をじっと見てたら気付かれた
「いや、ずっとこっち見てたから」
「あ、マジで?悪い、ちょっと考え事してた」
斗真が気付くぐらい見つめてたのか
少し恥ずかしい

「俺の顔に何か付いてんのかと思った」
「悪い悪い」
「そんな見つめるなよ。気になるだろ?」
―――いっそ、気にしてくれたらいいのに
「分かった」
素直に従って前を見ると、前列の右端の方で里穂がチラチラ見ていたのに気付いた

隣を見ると、どうやら斗真は気付いてない様子だった

いいな、と思った
気付かれないのも寂しいかもしれないが気付かれずにずっと見ていられるなんて羨ましい

何より、里穂が女である事が羨ましかった


「…何だよ」
ふと隣から視線を感じてそちらを見る
すると斗真が俺を見ていて目が合った
「さっきの仕返し」
「もー…ちゃんと授業受けろよ」
「前田に言われたくねーよ」
斗真は可笑しそうに笑ったから、俺も一緒になって笑ったが
内心ドキドキだった

「誰見てたの?」
「え?」
「誰か見てたんじゃないの?百面相して」
「…別に誰も…ってか百面相なんてしてねーし」
「してたって!何か悲しそうな顔したり複雑そうな顔したり…」
俺は里穂を見ながらそんな表情をしていたのか
「お前何見てんだよやめろよ恥ずかしい」
「前田が先に見てきたんだろ?いいじゃん、前田面白かったし」
「面白がるなよなー」
「ははっ」

「コラ、前田に生田。そんなに俺の授業つまんねぇか?」
「「あ」」
気付いたら加藤さんがそばに立っていた
「ったく…珍しく授業出てると思ったら…生田はお前が居ないと真面目なのにな」
加藤さんは俺に向かって言った
「えー嘘だー斗真が真面目?」
「何疑ってんの、マジだよマジ。俺真面目だし」
「うっそだー斗真が真面目だったら俺も真面目だし!」
本当は斗真が真面目な事は知っていた
だから最初は、ただ羨ましかった
それがいつから“好き”に変わったかは分からない

「前田は生田と違って普段から不真面目だろうが。その証拠にその首にある装飾品」
「あ、これ?俺の体の一部」
「そうか、ならその着脱可能な体の一部は没収な」
「えー!マジで!?やだやだダメだって!」
「後で俺のとこ来い」
「…はーい」
加藤さんが手を差し出すので意味が分からす手を重ねると斗真に爆笑された
そして加藤さんには「バカかお前。ちげぇよ装飾品外して渡せっつってんだよ。没収だっつったろ?」と言われた



「あーマジウケた!素でそういう事するんだもん」
「公輝そんな事したの?マナも見たかったー」
「伊倉さん病院行ってて遅刻したんだから仕方ないよ」
授業が終わった後、斗真は俺を見るなりまた爆笑し始めた
それを見たさっき来たばかりの愛美が何事かと寄ってきた
「ホント病院なんて行かなきゃ良かったー」
「あの時加藤さんも驚き通り越して呆れてたし」
「だって何してんのか分かんなかったし」
「クラス皆爆笑してたもんなー」
「今度はマナも居る時にやってね」
「もうやんねーし」

少し恥ずかしいその話題を、俺は早く忘れて欲しいと思っていた

だがしかし、自分の話を彼にしていて欲しいとも思った


―――


「なぁ、斗真の好きなタイプってどんな奴?」

瑛士が遅刻してきたある日
俺はまだ瑛士が来てないから珍しく斗真と2人屋上で昼食をとっていた

2人だけで話すのは久しぶりだった

「天然入ってて笑顔が似合う子かな」
「男?」
「女で。男でなんて勘弁してよ。そっちの趣味は無いし、気持ち悪いだろ?」

それはきっと、同性愛者を否定する意味じゃなく自分がそうだったら、という意味だろう

だけど俺には
心臓を抉られるようなくらい残酷な言葉で

「ははっ…それもそうだな」
笑って言ったつもりのそれが、不自然になった
「何で?」
幸いにも、斗真はそれには気付いてなかった
「いや…知り合いにさ、女なら誰にでも手を出しちゃう奴が居てさ。もし今気になってる奴とか居るなら俺が言っといてやろうと思って」
それは半分瑛士の事で
瑛士なら俺から言わなくても、自分でその辺は上手くやっていけるだろうけど

だが斗真は瑛士を知らない

「へぇー公輝、本当色んな知り合いが居るのな。気になってる奴かぁ…」
「誰か居るのか?心当たり」
「心当たりって言うか…最近ちょっと飯田さんが気になってるかな、みたいな」

ああ
2人はいつか近い未来に結ばれるのだろう

だって、2人は両思いじゃないか
しかもきっと、2人を結び付けるのは俺だろう

「へぇ…里穂かぁ…」
「あっ本人には言うなよ?」
「言わねーよ」
いつかの里穂に言われた時と、全く同じ返し方をした



「あ、公輝」
「…おう」
昼からの授業は出る気になれなくて、そして何となく風に吹かれたくなって屋上に行く
そこには今日初めて会う瑛士の姿があった
「お前何処行ってたんだよ」
「授業でも出ようかなって教室に。あ、そうだ。瑛士、里穂には手出しちゃダメだからな」
「…ああ、いいけど」
柵にもたれかかった時、ちょうど向かいの校舎の俺達のクラスに、斗真と里穂の姿が見えた


「…好きなのか?」
「え?」
2人が仲良さげに笑いあって話しているのをぼんやりと見ていると、隣に並んで同じように柵にもたれかかった瑛士が俺に聞いた
「里穂ちゃんってあの子だろ?公輝の幼なじみの」
ちょうどあそこに見える子、と瑛士が指差した
「うん」
「好きなのか?」
瑛士は俺を見てもう一度聞いた
「…いや」
「?じゃあ何で」
「斗真が気になってんだってさ」
ほら、今一緒に居る子
そう言うと瑛士はまた二人を見た

「…好きなのか?」
また同じ質問
だけど今度は里穂の事じゃなく、斗真の事

「…好き…だよ」
自分で思っていた以上に弱々しい声が出た

「…そっか」
「…さっきさ、『男は勘弁してくれ』って『気持ち悪いだろ?』って言われた。気持ち悪いってのは自分が、斗真自身が男好きだったらって事だろうけど」

それでもキツいよなこの言葉
そう言った俺の声が、自分自身が思っている以上に自分はショックを受けている事を証明した

「…ごめん瑛士、瑛士もそういうの嫌いだったら今の話、」
「嫌いじゃない。前から興味はあった」
「…そっか」

前から興味はあった、なんてサラリとすげー爆弾発言だな
そう考えて、何も深く考えずに

「…そういう経験、してみる?俺と」
そう口にしていた

「…そんな泣きそうな顔して言われたら、断れねーだろ」
「あー俺今そんな顔してんの?…いいんだぜ?断っても」
「いや…断る気なんてサラサラねーよ」
「そっか」

そうやって誰かを巻き込んで
この思いは無かった事に出来ればいいのに



―――

「公輝ー!」
「ん?何?」
「里穂ってこういう映画平気!?」

あれから何日かして、斗真は里穂と付き合い出した
そしてちょっとした心配事ややりとりについてなど色々な事がある度に斗真か里穂のどちらかは俺に報告したり相談したりする

―――同性だからか、斗真からの相談のが多いが

「それくらい本人に相談すればいーじゃん」
「だって里穂には楽しんで欲しいしさーちょっとしたサプライズな感じのが嬉しいかなって」
「バカじゃねーのお前。一緒にデートの計画立てるのも楽しみの一つだろ」
「そうそう。それに里穂みたいなタイプはサプライズより一緒に計画立てる方が喜ぶって」

今日はたまたま瑛士と一緒に居る時だったから良かった


―――

「そっかーなるほどね!いやー公輝に相談して良かったわ」
「そりゃどーも」
「それじゃ早速里穂のとこ行ってくる!」
斗真は嬉しそうに笑うと急いで里穂の居る教室へと向かった

「…もう平気なのか?」
斗真が出て行った扉をぼんやり見つめていると、瑛士が言った
「何が?」
「斗真の事、もう諦めたのか?」
「…ああ、それ?…うん…っていうか斗真が幸せならそれでいいよ」

好きな人には幸せで居て欲しい
なんて俺は乙女なんだ
なんて俺は良い人なんだ

―――諦めれてなんか無いけど

「…泣きたきゃ俺の胸貸しますよ?」
「泣かねーよバーカ」
「そー。ならいいけど」
瑛士と2人、俺のクラスの教室前の廊下が見えるフェンスへと移動し、もたれかかる

ちょうど斗真が急いで教室に入るのが見えた



「………瑛士」
「ん?」
「胸はいいから手借りてもいい?」
「おう、いくらでもどーぞ」

いつかこの想いが消えてしまって
俺がちゃんと心の底から2人を祝福出来るようになるように

今日もただ願っている事を

どうか、君はずっと知らないでいて欲しい

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
ウィキ募集バナー