大好きな彼へ - yariba @ ウィキ

大好きな彼へ【だいすきなかれへ】

公輝

「遅いなぁ…」

別に約束なんてしてないけど

「つーか俺はりきりすぎだろ…」

目の前に並んだ料理を見て一言
サプライズしてやろうと合鍵で勝手に侵入して買ってきた食材を使用して、時々冷蔵庫から拝借して調理
理由は単純に「瑛士の誕生日だから」

瑛士とは長い付き合いで、親友だと思えるくらい仲良くて、一緒に居て凄く楽しくて、大好きだ
「大好き」の意味を最近疑問に思うようになったのはきっと瑛士のせい

「つーかこれで帰って来なかったら俺すげーバカっぽい」

加藤さんの時は帰って来ないだろうと思ってたから何もしなかったけど、意外にも加藤さんは帰って来て、一緒にご飯作ってお祝いした
あれはあれで凄く楽しかった

けど瑛士は帰って来るかもしれない
もしかしたら、なんて思うからこんなサプライズを考えて実行してしまった

瑛士が帰って来なかったら、すげーバカっぽいだけでなく、すげー虚しい

もうすぐ瑛士の誕生日が終わる
０時を過ぎたら、帰ろう

瑛士が家に帰って来なかったら、だけど
瑛士が家に帰って来たら、おめでとうって言って、帰ろうかな

いくら加藤さんと違っても瑛士は瑛士で忙しい人
仕事で疲れてるかもしれないし、もしかしたら付き合いで飲みに行ってるかもしれないし、女の子とイイコトしてんのかもしんないし…

「女の子とイイコトしてんだったら今日は帰って来ないよな…」

そうじゃなくても帰って来ないかもしれない

「…帰って来ないかな…」

携帯に表示される時計を眺めながら

―――――

突然、携帯が鳴り響いて目が覚める
「目が覚める」というのも、いつの間にか俺は寝てしまっていたからだった
携帯が鳴ったのは、俺がセットしたアラームが０時を知らせたからだ

結局瑛士は帰って来なかった
直接おめでとうって言いたくてメールも送らなかったし電話もしなかったし会いにも行かなかった
行ったところで会えたか、電話に出たかは疑問だが

(…かーえろ)

どうせ待っても来ないんだろうな
並べた料理にラップをかけたのは何時間前だったか
ケーキも冷蔵庫にしまったまんま
料理も冷蔵庫にしまって置くべきかな、なんて思ったから冷蔵庫へしまう

書き置きしておこうか
いややっぱりやめとこう
仕事後に女の子をお持ち帰りかもしれないし、そんな時にそんな書き置き萎えるだろうし

ラップした料理を冷蔵庫にしまって、調理後に洗った器具類は乾いたので元に戻して俺が居た跡を残さないようにした
勿論冷蔵庫開ければ分かってしまうかも知れないが、俺だと思わないといいな、はりきり過ぎな感じだから恥ずかしいし

瑛士の家の鍵をかけて自分の家へと向かう
途中で瑛士に会えたらいいな、と何処かで期待していたがそんな事もなく

(熊木ん家でも行こうかな…)

何となく一人が寂しくてそんな事を考えていると、携帯が鳴った

一瞬期待したけどやっぱり瑛士では無く

(瑛士はいっつもそーだもんな…)

呼べば来る、は嘘だ
知ってるはずなのにな
知ってるはずだからこそ「もしかしたら」を期待しちゃうんだよな…

(…“嘘吐き瑛士”は当分返上出来ねーな)

そんな事を考えながら俺は携帯に表示された瑛士の誕生日の前日が誕生日な彼の電話に出た

「…もしもし？…うん、分かった。今から行く」

瑛士はきっと朝まで帰ってこない
それが仕事でも遊びでも

(俺、何やってんだろ…)

end

(瑛士の事は大好きだ)
大好きの意味はいまでもわからない