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やらない夫と月は綺麗なようです ◆7eXksgQP86




「様子はどうだ?」
 展望台の外を双眼鏡で眺める少年に、面長の少年が身長に声をかけた。
 それに応じて少年は双眼鏡から顔を離し首を左右に振る。
「電気が点いているのはやはり南東の街だけだね。今の所変わった様子も無い」
「そうか……それにしても何でまだあの街なんだろうな」
「現場にいない以上はまだ情報不足だな。それに僕達はまだ現状すら把握仕切れていないんだ」
 近くの壁に寄りかかり腰を落ち着けると、改まって窓の外に浮かぶ満月を仰ぎ見る。
 それにつられ、面長の少年もまたその美しく輝く衛星を見やった。

 月が綺麗な夜だった。



 端正な顔立ちの少年は夜神月。面長の少年はやらない夫。
 この東京タワーらしき建造物の展望台で出会った二人は、はじめこそ警戒し合ったもののやがて互いに警戒を解き、友好関係を結ぶ。
 高所でありつつ遠くまで見渡せる眼が備わっているという立地を利用し周囲の探知も行ったが、得られたのは南の街以外に灯が見えないという成果のみだった。
「……さて、やらない夫。そろそろ今後の方針について話しあおうか」
「ああ……さっきも言ったが、俺はやる夫の奴を探してやりたい」
「うん、差し当たっての目標は人探しになるだろうね。この島から脱出する方法を当るにせよ、流石に一介の高校生2人じゃ手が足らなすぎる」
 喋りながら月は手元のメモ帳にペンを走らせ、それをやらない夫に差し出した。

『後は道具、技術、環境……僕らの命の手綱を取るこれも処理する必要がある。
 僕も知識が無い訳じゃあないけど、流石に爆薬が仕込まれた未知の機械を対策無しに弄るほど猪武者にはなれないね』
『環境……何かありそうなには南の研究所みたいな建物か?』
 やらない夫もまたそれに答え、メモ帳にペンを走らせ月の筆談に応じた。
 出会って間もなく。やらない夫が友人を救いたいと声を上げそれに答えた月が、賛同と同時にここから脱出する為の鍵として提案したのがこの筆談である。
 あの凄惨な光景に追い詰められてもなお、月の聡明な頭脳はすぐさま主催者による監視の可能性に至っていたのだ。

『調べる価値が無いとは言えないが、少なくともあれだけで脱出が出来るとまでは言えないだろうな。それはいくら何でもお粗末過ぎる。
 それと……移動するにしても、夜が明けるのを待たなくてはね。月明かりが強いとはいえ、それでも夜の視界が悪いことに変わりはない』
『分かった』「……こうしてる間にもやる夫の奴は……!」
 筆談を続けながらも、その間の空白に違和感を持たせぬ為に他愛のない会話で間を持たせていたやらない夫の語調が荒くなる。
 彼とやる夫はかつてからの仲であり、そして腐れ縁だった。兄弟のように付き合いは長く、そして親しい友だった。
 幼馴染の翠星石との仲を取り持ってやったこともあったし、迷惑をかけられることも多かったが、掛け替えの無い彼の日常の一部だった。

 だからこそ――親を目の前で奪われたやる夫をほうってはおけない。やらない夫は太い腕に繋がる握りこぶしを固くする。

「……君の気持ちは分かる……と言うと陳腐に聞こえるかもしれないけど。
 少なくとも僕は君の感情を無碍にする気はないよ。僕だって妹や友人が巻き込まれてるかもしれないし――」
 その痛々しげな様子を見かね口を開いた月だったが、彼もまたその面持ちを鋭くしながら顔を上げる。
「何より、人命というものがこんな軽々しく弄ばれて良いはずがない。
 神様の気取りの子供じゃあるまいしね。――僕個人としても、ああいうのは腹に据えかねるな」

 夜神月は――本来の世界でこそは、彼が今正に言った通りに、死神として人の命を片手で軽々と操っていた。
 新世界の神を名乗り、悪人を裁き、キラと恐れ崇められ――警察機構と戦い、最期には惨めな死を迎えるはずだった。

 しかし運命がどういたずらしたのか。彼はその道を辿らぬ、全うな人間としてここに居た。
 消えた悪辣さの代わりにいくらかの三枚目具合まで貰ってしまったものの、様々なものに恵まれた彼からは「新世界の神」は間違いなく消え去っていたのである。

 しかし――

「……なあ月」『ところでお前が持ってたアレは筆談には使えないのか? どうせ危険ならさっさと使いきった方が……』
『止めた方がいい。誤って名前を書いてしまわないとも限らない。それに僕もその可能性を考えて一度適当な文字を書きなぐって見たんだ。
 結果、どんな仕組みになっているのやら……書いた側からページが増えてしまってね。流石は死神のアイテムだ』

 忌々しげに月が視線をくれた先、彼のデイバッグの中にはあのノートが眠っている。
 死のノート――「デスノート」が。

 新世界の神への道を歩んでいた彼はこれを持って悪人を裁き、これに殺された。
 しかしその考えを持たぬ彼は同じくしてこのノートと、それを落とした死神に出逢いつつもこれを拒んだのだ。
 死神リュークが出てこない以上は偽物かもしれないが、逆に本物である可能性が否定されない以上はやはり危険な代物である事に変わりはない。

「とにかく、この『地雷』も処分しなくちゃならない。隠すのもいいけど、海に沈めるのが確実かな」
「……燃やすにしても火元が無ぇしな。あ、いやそれなら普通にバッグに隠してればいいんじゃないのか?」
「そうだな、それも良いが……問題がある。これを僕らが持つことで危険が封印される保証は無いんだよ」
 何故? と首を傾けるやらない夫に月が指を立て、説明に出る。
「何らかの拍子で誰かに盗まれてしまったり、落としてしまう可能性もあるし……
 何より、これがバッグにあって安全なのはあくまで『僕たちが生きている』間だけなんだ」
「ッ……!?」
 やらない夫が顔を強ばらせた。まるで自分たちはいつか死ぬとでもいうような物言いに、さらに不快感を覚え抗議を申し立てようとするがその言葉を予見していた月の続く説明がそれを遮る。

「勿論諦観に囚われた訳でもないし、死ぬつもりも無い。だが僕らはそれでもただの人間なんだよ、やらない夫。
 銃を撃ち込まれれば死ぬし、刺されたら死ぬ。創作の主人公じゃない僕らに生き残る保証なんて誰も与えてくれない。
 ――だから、最悪を想定するとこのノートを持ち続ける訳にはいかないんだ」
 自分たちが死ねば、残った荷物は下手人に回収されるだろう。それは人殺しを考える者の手に、最悪の兵器が渡ってしまうという悪夢のような状況を意味する。
 なればこそ、誰の手にも渡らない場所にこれを封じなくてはならなかった。

「……分かった。けど出来ればなるだけ自分が死んだら、とかは考えないで欲しいだろ……常識的に考えて」
「そうさせて貰うよ。無闇に最悪を想定したら、それはそれで士気にも関わるだろうしね」
 その言葉にやらない夫は一息をついたかのように見えたが、それでも身を硬くしたままだ。
 彼の周りには、指先一つで起爆してしまいそうな地雷が多すぎる。月はその事実もまた察知しており、そして頭を悩ませていた。

 地雷とはデスノートのことでもあるし、殺し合いのことでもあるし、彼の友人やる夫のことでもある。
 やらない夫によれば、あの会場で唯一この殺し合いを喜ぶという狂気を見せたあの男に、自の友人がそっくりだというのだ。
 つまり、殺人鬼と間違われる――これほどわかりやすい危険に、彼の友人は晒されることとなる。

 その大きな口や正気を纏わぬ視線こそ似通っていないが、顔立ちや後ろ姿はよく似ているらしい。ならばそれだけで不安要素としては十分のはずだ。
 殺し合いの最中という逼迫された状況で、似た人間を正確に見分けるのは決して感嘆な話ではない。
 それがやらない夫や、それを聞かされた月のように「似ている」という情報を持たぬ者なら拍車がかかるだろう。

(問題は山積みだな……後は食料なんかもそうだな。節約するにしても、十分な行動力を得られる程の量じゃないだろうし……)

 二人の少年が再び窓を見る。
 月は相変わらず綺麗だった。


【G-2 高層ビル展望台 初日 深夜】

【やらない夫@やる夫派生】
[状態]健康
[装備]なしう
[道具]支給品一式、不明支給品(0~2)
[思考]
基本:殺し合いから脱出する。
1:やる夫を探す。
2:脱出に使えそうな道具や場所を探す。
3:デスノートを誰の手にも渡らないよう処分する。
[備考]
※やる夫と友人関係であり、彼の世界では翠星石とも親交があるようです。


【夜神月@DEATH NOTE】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]支給品一式、デスノート@DEATH NOTE、不明支給品(0~1)
[思考]
基本:殺し合いから脱出する。
1:脱出に使えそうな道具や場所を探す。
2:デスノートを誰の手にも渡らないよう処分する。
3:やる夫に似た殺人鬼(キル夫)を警戒する。
※友人等に恵まれて危険思考に囚われなかった、所謂「綺麗な月」です。(やる夫スレ的改変)
 ただし原作よりマイルドになった代わりに、多少三枚目よりになっています。

※支給品解説

【デスノート@DEATH NOTE】
死のノート。名前(本名)を記すと人を殺す事ができる。
死神リュークはついてこない。
このロワでは死因・死亡時刻の指定は出来ず、
1度使うと6時間後まで再び効果を発揮出来ない。



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最終更新:2013年02月24日 00:44