アットウィキロゴ

電撃!! 閉ざされたセカイを守る人の驚愕 Escape from The World ◆7ediZa7/Ag




サンタクロースを何時まで信じていたかという問い掛けに答えるとき、それに付随して考えなくてはならないことがある。
何時からサンタクロースを信じていたかという問題だ。何ならば「何時」を「何故」あるいは「どうやって」「何処で」と言い換えてもいい。
最後のは少々ニュアンスが変ってしまうかもしれないが、ともかく5W1Hからwhoとwhatを抜いた疑問詞(whoも使えなくもないが些末なことなので無視しよう)で語られる疑問にもまた答えるべきなのである。
僕らは如何にして、何時何処で、何故教父聖ニコラウスに起源を持つという老年の男性にして守護聖人の存在を知ったのだろうか。
気を付けなければならないのは、ここでいうサンタクロースというのは「教父聖ニコラウスに起源を持ち奇蹟的な力を子供に振りまく老人」であり「教父聖ニコラウス」そのものではないということだ。

幼年期を過ぎ去った人間は必ず何処かで蹴躓く。ある種偶像を無垢に信じていた主体は、時間を経ると自ずと周りを支配する法則の絶対性に気付く。
そこで一つの幻想が死ぬ、というのが一つの不可欠な成長プロセスであり、誰しもが通る通過儀礼だ。
その過程は、聖パウロ的、コペルニクス的転回と呼ぶにふさわしいパラダイムシフトである。
そうしてサンタ・クロースに代表される「奇蹟者」の存在は虚像へと早変わりし、見切りを付けられる。それでも一部のエンターテイメント症候群の者は後ろ髪を引かれる思いをそこに感じている。
が、彼らにしたところでその存在を虚像と知っているからこそ渇望している訳であり、虚像でしか存在できないものは虚像以外になりえないことは誰よりも分かっているだろう。

だが、だ。
ここで更なる転回があるとしたらどうだろうか。一度くるりと半回転した後、更に同じくらいのパラダイムシフトが起これば、それは初期の幻想の復活を意味するのだろうか。
要は絶対性の否定である。サンタクロースを殺した筈の絶対性のナイフが、実はフェイクに過ぎなかった場合だ。

僕はこの春にそんな転回に値するような事態に遭遇した。
リミテッドな超能力者に、我らが現在の延長線上に居る未来人、そして天蓋領域なる地球外生命体から人型イントルーダー。
彼らと出会ったのはもう少し前のことだが、その存在を確信したのはつい最近のことであるから、一次接触はそことするべきだろう。
そしてそんなスリーカードにして三重苦の彼らが、僕という存在に負わせようとしたのが「神」という定義の時点で存在が危ぶまれる概念である。
紆余曲折を経てそんな役目からは僕は逃れることができた訳だが、僕の知る法則の絶対性が音を立てて崩れるには十分過ぎる経験、あるいは物語だった。

にも関わらず今の僕は表面上何ら変わるところがない。ここでいう表面上というのは僕という主体が己に向けて観測し得る範囲のことをいい、つまるところ僕自身の心境の変化は特にないという訳だ。
少なくともサンタ・クロースの存在を相変らず否定できる程度には、僕の思考に何ら転回は訪れていない。
確かに僕は法則が崩れる絶対的な瞬間や物的証拠を捉えた訳ではないのだが、それでも法則外の存在を感知するのには十分過ぎる経験をしたというのに。

ここで話は最初に戻るが、そもそも僕がサンタクロースなる聖人の存在を観測したのは何時のことだったのだろう。
イデア論にも通じることだが、この疑問に答えを出せる人間は恐らくはいまい。
最初から与えられていたに等しいこの概念から飛躍して、それらの「知」は全て「神」から与えられたなどと嘯くのは一笑に付すしかない。
が、今この瞬間の僕はそれと似たような可能性を考えているのだった。

「殺し合い……か。これはこれはエキサイティングかつエキセントリックな舞台だ」

コミカルな風体をした青い狸による開幕の言葉。
そのギャップも相まって事態は実にホラー的だ。エンターテイメント的ともいえる。
昨今バトルロワイアル形式の創作物の存在は多いと聞くが、これは単純明快に僕ら人間の本能に働きかけるものであるからだろう。
生物的な本能は考えるまでもなく「遺伝子を残す」こと。これに尽きる。子をなして自らの構成要素を後世に残すことこそが生物の目標であり本質である。
ここで人とその他の生物で本質を分けて考えることは、僕自身あまり好きな考え方ではない。人は何故生きるのかとか、そんな設問は観念的に見えてその実何の意味もないからだ。
しかし、そこで敢えて差を見出すとするならば、人は「思考すること」と「思考を継続すること」が本質であるといえるのかもしれない。
その点において、バトルロワイアルという舞台は分かり易い。これは動物的環境に人を叩き込み、人とその他の生物の差異を際立たせることによって、人の本能という奴に訴えかける構造なのだ。
この構造は実にエンターテイメント的に有効であり、そしてそうであるが故に現実からは程遠い場となっている。


しかし、それがこうして今僕を含む現実の世界で展開されている。
エンターテイメントでしか有り得ないような空間が、現実とラベルの張られた場で発生している。
この前提から得られる結論は、実に逆説的で突飛なものでしかないのだが、僕はそれにそれなりの説得力を感じているのだった。

エンターテイメントでしか存在することのできない現象が起こり、そして同一世界内で僕という存在がある。
それはつまり僕がエンターテイメント作品の登場人物だということではないだろうか。

「神」――ここでは「作者」などと言った方がいいかもしれない。
僕には観測することが決してできないような存在が僕を設定し、そこからぶれないように固定している。
その設定こそ絶対的であり、僕、そして僕と同階層にある人間には改変はおろか認識さえもできないだろう。
サンタクロースを与えられ、そして否定されたプロセスなど本来は設定の内でしか存在せず、だから僕は春先の一見でも特にパラダイムシフトを起こさなかったのではないか。

妄想だ。自分が誰かの書いた創作物のキャラクターに過ぎないなどという考えは、妄想にしてもいささか陳腐過ぎる。
が、だ。目の前のこのバトルロワイアルという場は、どう考えても現実に合致するような現象ではないのだ。

「ん?」

僕が思考を巡らしていると、不意に誰かの足音が聞こえてきた。
さて、僕が今居るのは病院の廊下である。地図を見るに病院は島に一つしかないようだから、自ずと自分の居る場所が分かる。
病院三階の廊下に一人佇みながら、僕は色々と考えていたのだけどどうやらその時間も終わりのようだ。
窓ガラスを見た。夜空の広がる景色に僕の薄っぺらい鏡像がぺたりと張り付けられている。
茶色混じりの髪に、それなりに形の良い鼻、時たま褒められるくっきりとした目元。地味な配色の制服に身を包んだ生徒がそこに居る。
僕は女性だ。ただの女子高生に過ぎない。神様候補なんて祭り上げられようと、物理的な力はないし、この場ではただの非力な一般人に過ぎない。
今ここに来ようとしている者がどんな人物かは分からないが、このエキセントリックな状況に頭をやられ、ある種精神疾患のような行いを見せるかもしれない。
具体的には、動物的本能、リビドーに結びついた行いを。そして恐らく僕はそれに対抗できないだろう。

こつんこつんと一歩一歩踏みしめるように靴音が近づいてくる。
階段を上っているのだろう。僕は向こうが現れるのを待った。白のリノリウムの床が、蛍光灯の光を受け不気味に光った。その向こうから音は来る。
そうして現れた人間は――見覚えのある制服に身を包んだ一人の女生徒だった。ポニーテールに結われた髪がゆらりと舞う。

「やぁ」

僕は微笑みそう挨拶した。
正直なところ僕は安堵の溜息を吐きたい気分だった。危険な人間がやってくるという可能性が潰れたこともだが、少なからず縁のあるらしい人間が来たことも原因だ。
たった今現れた彼女の着ている制服。それは紛れもなく北高の、つい最近まで何かと会っていた僕の親友のものだった。

「こんなことに巻き込まれて弱ちゃったね。私もいま困ってるところ」

相手が同年代の女子生徒だと、僕はこんな口調になる。まぁ所謂普通の女の子の喋りという奴だ。
これが男生徒なら、また違う気取った言い回しになってしまうのだけど。まぁどちらも別に僕の本来の口調という訳ではない。そんなものが存在するかは知らないが。
と、僕は可能な限り柔和な挨拶を試してみたのだが、相手の女生徒の反応は芳しくなかった。


「う……」

彼女は何かに打たれたように目を丸くし、言葉にならない声を口元から漏らした。
そのよく分からない反応に僕が戸惑っていると、彼女は次にこう言った。

「佐々木」
「え?」
「佐々木、か。卒業式以来になるのかな。まさかこんな形で再会することになるとは思わなかった」

彼女は言い終えると、ふぅと疲れたように溜息を吐いた。まるで危険地帯で旧知の知り合いに会って安堵に胸を撫で下ろしているみたいに。
佐々木――僕の名前を確かに彼女は口にした。
誓って言うが、僕は彼女のような可愛らしい女性を知らなかった。卒業式、というからには中学時代の同級生だろうが、僕の記憶が正しければアルバムには彼女の顔はなかった筈だ。
北高に行って女子生徒を僕の知る限り思い浮かべてみるが、そのどれも当てはまらなかった。
彼女が嘘を言っているだけだろうか。いや、彼女の様子はとてもじゃないが嘘には見えなかった。吐くにしてももっと良い偽り方もありそうだ。
ならば何かイメージチェンジでもしたせいで僕が気付かないのだろうか。

「全く。どこの国際組織の陰謀かは知らないけど青狸に拉致されて殺し合いなんて……」

彼女は幾分緊張を和らげたようで、そう親しげに語りながら僕へ近づいてきた。
対する僕は身体に力が入る。目の前の女性の存在は一体何なのだろうか。曖昧に微笑みながらも僕は思考を巡らしていた。

「やれやれ、だよね。全く」

僕の目の前に立った彼女はそう言って肩を竦めた。
僕はその動作に見覚えがあった。そして、彼女の言動にも。そのデジャヴが意味することは果たして。

「付かぬことをお聞きしますけど、貴女の名前は何ですか?」
「は? 佐々木、何その口調は。それに私の名前だって? さては私の本名を忘れたのか。まぁニックネームでしか呼ばれないけどさ」

そう言って彼女は怪訝な顔をしつつも、名前を告げた。
その名前はどことなく高貴で、壮大なイメージを思わせる名前だった。
そこで僕はある可能性を思い立つ。

「君はもしかして……キョンかい?」
「え?」

僕の質問を受け、彼女の顔に再び驚きが灯った。
その様子がまた僕の唯一無二の親友を思い出させ、自分の仮説の信憑性がますます高まっていくように思えた。
案の定と言うべきか、彼女は戸惑いながらも頷いた。

「キョン子ってみんなから呼ばれてるけど。佐々木も呼んでたじゃない」
「キョン子。そう、キョン子か。なるほど……四枚目は僕が引いたって訳か」

僕はぼそりと呟いた。口調も何時の間にか女性へ向けてのものではなくなっている。
超能力者。未来人。宇宙人。恐らく彼女はそこに加わった新たなカード。
フォーカードともなれば随分と役が上がったものだ。四苦だとしても人の業に並び立つ。

「キョン子、落ち着いて聞いてほしい。僕の知るキョンは男なんだ」
「えっ……?」
「確認するが、君の記憶の中の僕と今この場に居る僕は寸分違わず同じかい?」

僕の言葉に絶句しているのだろう。キョン子は何も言わずこくりと頷いた。
その調子で困惑しつつも情報を交換する。そうして出来上がったのは中々興味深い人間関係だった。
キョン、そして涼宮さんの周りの人間関係がそっくりそのまま反転していた。その癖僕は女のままなのだから不思議な感じがするものだ。
僕は素直に驚き、そしてその驚きは彼女――キョン子も同じだった。ベクトルは真逆とはいえ、僕らは同じ驚きを共有していたといえる。
更にキョン子はまだ橘さんを初めとする勢力とは接触していないようで、僕の身の回りに起こった顛末を説明すると、再び驚愕していた。
その際の相槌の打ち方なんかもキョンそのものであり、それを見た僕は、なるほどこれが並行世界というものかとインタレスティングな心地に浸ることができた。

「異世界人……ついに来たと思ったら、まさか佐々木とはね」
「僕からしたら君の方が異世界人なんだけどね。まぁそれはお互い様だろう。
 くっくっくっ――まぁ何にしても」

僕はそこでキョン子に向き直った。
並行世界。それをこうして移動できたということは、世界間の距離は有限。ならば世界の数は有限なのだろうか。興味は尽きない。
まぁ何はともあれ確かなことがある。

「君と僕は親友だよ。キョン」


【F-2 病院 初日 深夜】

【佐々木@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]支給品一式、不明支給品(0~3)
[思考]
1:キョン子について色々知りたい
2:どうにも自分が創作されたキャラクターであるような気がしてならない
[備考]
※時期は驚愕終了後。

【キョン子@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]支給品一式、不明支給品(0~3)
[思考]
1:ついに異世界人きたー
[備考]
※彼女の世界でも佐々木は女だったようです。



13:やらない夫と月は綺麗なようです 時系列順に読む 15:グリーン・グリーン
13:やらない夫と月は綺麗なようです 投下順に読む 15:グリーン・グリーン

GAME START 佐々木 [[]]
GAME START キョン子 [[]]

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2013年02月24日 00:49