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やる太はアルター使いと出会うようです ◆OKkwqts/S2




「ひっく……えぐっ……」

 辺り一面に木々が生い茂る森林の中で、ひとりの少年が嗚咽を漏らしながら立ち尽くしていた。
 名前はやる太。どこにでもいる普通の少年である。
 雲ひとつ無い夜空に輝く月や星の光は、天幕のように森を覆う枝葉にほとんどが遮られているため、彼の周りは薄暗い。
 更に時折吹き付ける夜風がその枝葉を揺らすたびに、ざわざわと不安を掻き立てる音が鳴る。
 まだ年齢が二桁になったかどうかの子どもがひとりぼっちでこのような場所に放り出されては、泣き出しても無理は無いだろう。

「父ちゃん……母ちゃん……」

 涙や鼻水を垂れ流す合間に、やる太は両親の名を呟く。
 しかし、今は殺し合いの真っ最中。
 日常で彼を護ってくれる存在は、この場にはいない。
 そして、見るからにひ弱な少年は、いつ近くを通りかかった危険人物に狩られてもおかしくはないのだ。


 その時、パキリッという音が少年の背後から響いた。


 反射的に肩をびくつかせた彼は、恐る恐る振り向く。
 目と目が合った。
 薄暗い中では判然としなかったが、それでも、そこに立つ誰かと視線が合ったと何故か分かった。
 そうしている間に、相手はこちらに向かって歩き出す。
 声は出ないし、動けなかった。
 泣きすぎて喉がひくついたからか、それとも段々と近づいてくる得体の知れない誰かが怖いからか。
 とうとう手を伸ばせば触れられる位置まで接近した相手を、やる太は見上げる。

「おい」

 ほぼ同時に相手が話しかけてきた。まだ年若い男の声だった。
 どことなく威圧的に感じられたのでつい一歩下がりそうになり、

「そんなにビクつくなよ。別に取って食ったりはしねえから」

 今度は呆れの混じった声を掛けられた。
 その声色にもしかしたら怖い人ではないのかと思い、返事をしようとする。

「な、なんですかお?」
「お前、何で泣いてんだ?」

 本当に疑問に思っただけだと分かる、泣いている子どもを気遣う様子は一切ない声だった。
 率直な問いかけにまた悲しみが湧き上がり視界がにじんできたので、思わず俯いてしまう。
 それでも、このまま黙っているわけにはいかないので口を開く。

「と……父ちゃんが…………死んじまったんだお……」

 自分が思った以上にか細い涙声ではあったが、何とか言い切った。
 対する男は答えない。
 俯いているせいで相手の顔は見えないが、どうやら何か考えているらしい。

「お前の父ちゃんって、あの青狸に殺されたおっさんか?」
「そうだお……」
「……お前、父ちゃん好きだったか?」
「うん」
「そうか。で、お前はこれからどうするんだ?」
「え?」

 思いがけない問い掛けに、やる太は顔を上げる。
 再度、男と目が合う。
 今更ながら、その瞳が何者にも曲げられないほど強い意思をたたえていることを、やる太は幼心に理解した。

「大好きな父ちゃんを殺されたんだろ。なのにずっとここで泣いてるのか?」
「……」
「そうしててもここじゃ誰も助けちゃくれねえぞ。自分で何とかしないと、何もかも持っていかれるだけだ」
「でも……怖いお」
「痛いのも怖いのもどこにでもあるだろ。それから逃げるか、逆らって徹底的に立ち向かうかはお前次第だがな」

 男の言葉に、やる太はすぐに答えられなかった。
 彼の言っていることが正しいのは何となくだが分かる。
 だが、それはやる太が今までに掛けられたことがない類の厳しい言葉だった。
 そして、自分が弱いことも分かりきっているので、はっきりと返事ができない。
 そうしてやる太がまごついている間に、男は踵を返す。

「まあ、どっちを選ぶにしろ後悔だけはすんなよ。じゃあ、俺はもう行くぜ。こんなところでグズグズしてる暇はないからな」

 そのまま立ち去ろうとする男の背中を、やる太は見つめる。
 このまま彼と別れてもいいのだろうかと焦りに似た思いが心中に沸き立ち、

「待、待って!……くださいお」

 気がつけば声を張り上げ、追いかけていた。

「何だよ」

 近づいてきた少年に驚いた様子もなく、男は顔だけをこちらに向ける。
 その目は若干鋭くなり、下らないことで引き止めたなら容赦はしないと語っていた。
 思わず怯みそうになるが何とか堪え、やる太は自分の思いを口に出す。

「一緒に連れて行ってくださいお!」
「嫌だね」

 即答だった。

「どうしてお前を連れて行かなきゃいけないんだよ」
「あ、あいつを、あの青狸をやっつけるためですお! そうするって決めたんだお!」
「そうか。それで?」
「で、でも、やる太ひとりじゃ何にもできないから、だから、だから、お兄さんに手伝ってほしいんだお!」

 たどたどしくも自分の考えを訴える少年を、男は見返す。
 こちらを値踏みするかのような視線に、やる太は身を硬くした。

「どうしても俺に協力してほしいのか」

 男の問いかけに、少年はコクコクと頷く。

「そうかい。だがな、これを見ても同じことが言えるかい?」

 そういうと男は自分の右腕を前に突き出し、硬く拳を握った。


 次の瞬間に起こった出来事を、やる太は一生忘れないだろう。
 まず男の頭上を覆っていた枝葉や、周囲に生い茂っていた木々の一部が金属質な音を立てながら砕け散り、虹色の粒子となる。
 遮るものが無くなったおかげで男の顔が今までよりはっきりわかるようになったが、それに気を取られている暇はない。
 粒子はまたたく間に男の背中に集まっていき、右の肩甲骨のあたりに三枚の真紅の羽を形成していく。
 更に男の右腕が手先から根元まで三つに分かれ、直後に繋ぎ止めるかのように出現した黄色の紐状の金属がその腕を縛り上げた。
 次いで腕の根元から手首までに黄色と橙色の装甲が覆う。
 最後に手首から指先までを羽と同じ真紅を加えた三色の装甲が装着されたところで、その現象は終わりを迎えた。


 時間にすればほんの一瞬の間だっただろう。
 それでも少年にとってはとても長い時間に感じられ、目の前で生じた現象にただただ口をポカンと開けるしかなかった。
 その様子を眺めていた男は獰猛な笑みを浮かべている。

「どうした、またびびッちまったか?」
「か……」
「ん?」
「かっこいいーー!!」
「はあ!?」

 それまで余裕をたたえていた男の表情が、一瞬で驚愕に彩られる。
 しかし、やる太は構うことなく今までより男に接近すると、その右腕に触れ始めた。

「すごいお、すごいお! まるで変身ヒーローみたいだお!」

 遠慮なくベタベタと触りまくるやる太に、男は戸惑いを露わにする。
 どうやら相手が喜ぶとはまったく思っていなかったようだ。
 対するやる太は大興奮である。
 テレビの中でしか見たことがない超能力を持った存在が目の前に居るのだから、まだ子どもの彼がこうなるのもおかしくはない。
 加えて興奮状態になったおかげで、この時だけは先ほどまで心中に溜まっていた悲しみを薄れていた。

「お兄さん、もしかしたら口だけの人かと思ったけど、そんな強そうな力を持っているなんて本当にすっごいお!
 だから、もう一回お願いするお。あいつを倒す手伝いをしてください!」

 鼻息を荒くしながら話すやる太に、男は返事をしなかった。
 それどころか腕を組み、時折「あー」だの「うー」だの呻き声まで出し始めた。
 話し始めてから初めて男が思い悩んでいる間も、やる太は彼の右腕に視線を注ぎながら待ち続けた。
 そのまま数分が経過してひとつ溜息を吐くと、ようやく男が口を開いた。

「おい、坊主。ちょっと後ろを向け」
「こうかお」

 やる太が素直に後ろを向くと、男はやる太が背負っていたデイパックを開け、勝手に中を漁りだした。
 それでもやる太は抵抗せず、黙って男の好きにさせる。
 しばらくしてデイパックの留め金を留め直すと、男はやる太から離れた。

「こっち向いていいぞ」

 許可が出たので振り返ると、男は右腕に先ほどまでなかった長方形の弁当箱を持っていた。
 どうやらやる太のデイパックから取り出したらしい。
 それを自分のデイパックに入れてから、男はやる太の目を見据えながら話し出した。

「手付け代わりだ」
「え?」
「本当ならちゃんと金を貰うんだがな。どうみてもお前は一銭も持ってなさそうだから今のところはこれで勘弁してやる。」
「それじゃあ……」
「ああ、一緒に行ってやるよ。だがな、あの青狸をぶっ飛ばしたらちゃんと払うものを払え。分かったな」
「はい! よろしくおねがいしますお!」

 返事をしながら、やる太は右手を男に突き出した。
 意味が分からないというようにその手を見つめる男に、少年は言った。
 ヒーローショーなどに行けば必ずする要求を。

「握手してくださいお!」
「……これでいいか」

 無愛想ながら男はやる太の手を握る。
 無骨で金属質ながら確かに体温が感じられる手を、やる太はしっかりと握り締めた。

「カズマだ」
「え?」
「俺の名前はカズマだ。苗字は無い。ただのカズマだ」
「やる太はやる太だお」
「やる太か。覚えておいてやるよ。自信はねえけどな」

 これまでとは違う気安い笑みを浮かべるカズマに、やる太も精一杯の笑みを返す。




 晴れて同行者を得れたやる太だが、彼は気づいていない。
 自分の父親は死んでいないことを。
 死んだのはやる太ではなくやる夫が生まれた世界の父親であることを。
 これから先、そのことに彼が気づくかどうかは誰も知らない。

 ■  ■  ■

(面倒なことになっちまったなぁ……)

 目の前の少年の手を握りながら、カズマは考える。
 彼の住むロストグラウンドではアルター使いとは畏怖の対象である。
 だからアルターを見せれば怖がって逃げだすかと思ったのだが、逆に懐かれるとは予想できなかった。

(余計なものまで背負い込んでる場合じゃねえつうのに)

 この場に来るまでカズマは急いでいた。
 彼は数日中に攻めてくるだろうと思われるホーリーに対抗する力を得るために、アルターの森へとおもむく途中だったのだ。
 だというのに、気がついたら目の前にドラえもんと名乗る狸のような奴が居て、あまつさえ殺し合いをしろと強制してきた。
 余りにもふざけた態度と言葉、更にホーリーを思い起こさせるドラえもんの青と白の色合いが無性にカズマを苛立たせ、反射的に殴りかかろうとした。
 しかし、直後に響いた男の大笑いと、二人が見せしめになり示された首輪の威力が、彼の足を押しとどめた。
 悔しくはあったが、今殴りかかれば自分の首も吹き飛ぶと嫌でも理解したからだ。
 そして、そのまま会場に移動させられてしまい、直後に子どものすすり泣きを聞きつけ、現在に至るわけだ。
 うっかり木の枝を踏み折ってしまったので、姿を現したのが運の尽きだったらしい。

(……まあいい。引き受けちまった以上はちゃんとやるさ。それにだ……)

 自分を見つめてくるやる太の、涙と鼻水の跡が残る顔を見ながらカズマは思う。

(ガキの目の前で親を殺したり、泣き叫ぶ女を平気で殺すような奴は一発殴らないと気が済まねえよな) 

 決意を新たにするとカズマは握っていた手を離し、再び歩を進めようとする。

「んじゃ行くぞ。付いてこれないようなら置いてくからな」
「はいですお!」

 超常の力を目撃して興奮しているのか、返事に先ほどまでの悲しみはない。
 代わりにその目にはカズマに対する純粋な憧れが込められている。
 それはアルター使いとしてのカズマが向けられたことのない、こそばゆい視線だった。

(本当にめんどくせえなぁ)

 アルター化していない左手で逆立った髪を一掻きしながら、カズマは歩き出した。



【C-8南部 森 初日 深夜】

【カズマ@スクライド】
[状態]健康
[装備]シェルブリット第一形態
[道具]支給品一式、特上桜弁当@Fate/EXTRA、ランダム支給品(0~3)
[思考]
基本:殺し合いを潰してさっさと帰る。
1:やる太と同行。

[備考]
※参戦時期は9話でアルターの森に向かう最中です。シェルブリット第二形態は会得していません。


【やる太@やる夫派生】
[状態]健康、興奮、悲しみ
[装備]なし
[道具]支給品一式、ランダム支給品(0~2)
[思考]
基本:カズマと一緒に行動。殺し合いには乗らない。
1:カズマさんはかっこいいお!
2:殺し合いから脱出したらカズマにお金を払う。

[備考]
※OPで死んだのは自分の父親だと思っています。

【支給品紹介】

【特上桜弁当】
 Fate/EXTRAにて七回戦進出時に桜から支給される弁当。
 原作での効果はサーヴァントHP大回復&不利状態解除。


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最終更新:2013年07月28日 22:52