熊腿(ベアー・フット)
利根川幸雄。
言わずとしれた帝愛グループの最高幹部である。
そんな男が今、煩悶している。
「ぐっ……! ぐがががっ……!」
実をいうと彼は以前から、このヤング・ロワイアルの存在を認知していた。
いや、それどころか本来なら主催者の一人として兵藤会長と共に死にゆく参加者たちを笑い、酒でも飲んでいるはずだったのだ。
それをあの宇佐美とかいう男が全て持っていってしまった。
参加者の選出からギャンブルの
ルール決めまで、突如カラス銀行などというわけのわからないところから現れたあの行員が、利根川の仕事を……。
そして今はこのザマだ。
薬で眠らされたところをいつの間にか運ばれ、ヤング・ロワイアルに参戦させられている。
主催者から参加者への降格、というわけである。
利根川は自身が死の淵にいるということはさて置き、ゲームの参加者などというクズの仲間入りをさせられたことが途方もなく悔しかった。
「殺すっ……! 今すぐ全員ブチ殺してやるっ……!」
口ではそう言ってみたものの、それが現実可能かと言うとかなり厳しいというのが現状であった。
なぜなら、参加者には武芸に秀でたものから超常的な能力を操るものまで様々な戦闘力を持った者が名を連ねていたのだ。
極めつけはヒグマたちだ。この殺し合いには、人間でない者も何名か招かれていた。
こいつらは人間ですらない。よって言葉で騙して闇討ちしようにも効果がない。
利根川は意気消沈しながらタブレットの名簿を弄り、こいつはダメ、こいつも殺せない……などと参加者の選別を行っていく。
すると、利根川はなにかに気づき、名簿の途中で指を止めた。
伊 藤 開 司
「クク……ククククっ……! いるではないか、不世出のクズが一人っ……!」
こいつに関しては殺し合いに呼ぶよう進言したのは利根川自身である。
カイジなら簡単に騙せる。そう、あんなクズなどに負けるはずがないのだ。
利根川はデイパックから銃とナタを取り出した。銃は小口径の短銃である。
兵藤会長のせめてものお情けか、利根川のランダム支給品は比較的"使える"モノであった。
「待っていろよ、カイジっ……! 貴様を必ず殺すっ……!」
利根川はまだ見ぬ宿敵への漆黒の意志を強く固めた。
「……グルルルッ」
しかし先ほどから何かが唸るような音がする。
はて、会場内に猫はいなかったはずだが……?
猫……猫……猫!?
利根川はハッと後ろを振り向く。
そこには、腹を減らしたヒグマが唸りながら利根川を睨めつけていた。
「ひっ……!」
利根川は必死でデイパックを漁る。
ナタと短銃が入っているはず。
刃物と銃ならどちらが野生生物に対して有効か。
刃物は取り回しが効くが、銃なら大きな音がする。
やはり銃だ。
利根川はデイパックから短銃を取り出した。
震える手で取り出し、照準をヒグマの額に向ける。
「死ねっ……!」
しかし。
利根川は初心者が銃を使う時にありがちなミスを犯していた。
そう、安全装置を外していないのだ。
引き金を何度も引くが、奮励も虚しく銃口は空を切る。
「クソっ……クソっ……! クソ~~~~~~っ!」
バ ゴ ス !
ヒグマの一撃で利根川の首は吹き飛んだ。
【利根川幸雄@カイジシリーズ 死亡】
残り 43/46
血に濡れそぼった手をペロペロと舐めながらクマは利根川の死体へと向かう。
これから利根川の肉体を味わうつもりなのだ。
「待ってください」
すると、ヒグマに声をかける人影がいた。
一見すると、冴えないサラリーマンのような姿だが、その体格の逞しさ、
そして全身からみなぎる覇気が、その男を只者ではないと知らしめていた。
「ヒグマさん、あなたのお腹が減っているのはわかります。自然界では、食べたいものを食べていい、それが掟です。
ですが、ここは人々が住んでいる場所です。大変申し訳ありませんが、ここでは私たちの
ルールにも従ってもらいますっ!」
そう言うなり男は、体格に見合わぬスピードでヒグマへと駆け寄り、拳をヒグマの鼻先へと突き出した。
「幻魔拳」
しばらく静寂が一人と一匹の間を支配する。
傍目から見ると、何も起きてはいないように見える。
だが、ヒグマの脳内では今、信じられないような現象が起きていた。
――自我の崩壊。
灘神影流に伝わる奥義『幻魔拳』は、寸止めした相手に拳をくらって顔面がグチャグチャになるという幻影を見せ、相手の精神を崩壊させる技である。
それを、ヒグマはモロに食らってしまった。
「……グルル」
ヒグマは静かに唸りながら、時折こちらを気にするような仕草を見せ、そして去っていった。
誰であっても、何があろうとも"たった一人の兄"以外は殺めようとしない。
『静かなる虎』、『地上最強のモラリスト』の宮沢静虎が宮沢静虎たる所以であった。
「間に合わなかった……」
利根川の死体と、そして去っていくヒグマを交互に見やりながらそう呟く静虎。
危険な気の気配を感じ、押っ取り刀で駆け付けたがそれでも間に合わなかった自身の至らなさを悔いているのだ。
――悪い神(ウェンカムイ)。
アイヌ語では、人を一度でも食べたクマのことをそう呼ぶという。
アイヌの人たちはウェンカムイを必ず討ち取り、懲らしめる必要があると考えている。
それは、人の弱さを知って、人の味を覚えた危険なヒグマを野放しにしないようにするためなのかもしれない。
そしてそれは、当然先ほどのヒグマにも同じことが言えるだろう。
ヒグマは怒っていた。
静虎に対し、ひいては人間に対して怒っていた。
自身から美味しいものを奪った罪を。
自身に"こんなもの"を植え付けた罪を。
ヒグマはひたすらに爪を研ぐ。
【E-4/住宅街/1日目・午前】
【ヒグマ@ゴールデンカムイ】
[状態]:幻魔(小)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:人を喰う
1:もっと人肉を喰らいたい
2:静虎が許せない
【宮沢静虎@TOUGH外伝 龍を継ぐ男】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×2
[思考・状況]
基本行動方針:弱い参加者を守る
1:すみません……
2:とりあえず他の参加者を探す
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利根川幸雄 |
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ヒグマ |
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START |
宮沢静虎 |
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最終更新:2024年04月30日 22:16