警死庁24時


街の路上で二人の男が何やら話し込んでいる。
一人は赤髪をトサカのようにおっ立てた、気性の荒そうな男。
そして、もうひとりは半月状の眼鏡をかけた神経質そうな男だ。

山吹千晴と時雨賢人。
二人は警視庁が誇る捜査2課のエリート刑事……だった。

――だが、彼らは敗けた。
覚醒した獅子と睨めつける蛇の罠にかかったのだ。

「クソッ! あの医者と……獅子神の野郎もいやがる!」

名簿を確認し、思わず壁を殴りつける山吹。
二人を絶望の淵へと送り込んだ「獅子神敬一」と「村雨礼二」の二人もゲームに参加しているのだ。

「……大丈夫ですよ、千晴君。これはギャンブルではなく、デスゲームです。警察学校で訓練を受け、そして早々に結託した我々の敵ではありません。
 しかも……私たちにはこれがありますからね。彼らの頭など一瞬で輪ゴムを巻きすぎたスイカのように吹き飛ぶでしょう」

息を荒げる山吹を制し、時雨が冷徹に笑う。
彼がデイパックから取り出したのは、自動小銃であった。
しかも、山吹と時雨の分を併せて2丁ずつ支給されている。

「ハアッ……ハアッ……」

それを見、山吹も徐々に落ち着きを取り戻し、そして最終的に笑顔を見せた。

「そうだな……あいつらは……"悪"! そして、オレたちが"正義"。銃なんていう強力な支給品を貰ってることからもそれは明らかだ。
 悪ィやつには何をしてもいいからなあ……」

そして山吹も自慢のトサカのような髪型をクイッと上げ、下品に笑った。

そう、なんと二人はゲーム開始早々に奇跡的な邂逅を果たしていた。
ゲームに敗北して電流を受け、死んだはずの時雨がなぜ生きているかなど、それに比べれば些細な問題であった。

二人の、刑事たちの笑い声が道にこだました……。

「ほーお、そうなのか」

その笑い声は一瞬で静まる。

一人の男が道の真ん中に立っていたからだ。

妙に丈の長いコートを着た、壮年の男だった。
眉毛はない。そして、身長が高く、それに比例するかのように肩幅も広かった。
明らかになにかの格闘技をやっている。それは時雨の目から見ても明らかであった。

「なッ、なんだよ。オッサン!」

山吹がバツの悪そうに詰め寄る。
当然、後ろ手には銃を隠したままだ。

「フンっ、オレに近寄るのなら気をつけろよ。お前らはこの世でもっとも汚く、そして蔑まれる存在……警察官なんだからなあっ」

何をトチ狂ったか、急にこの眉なしの男は刑事である二人の前で警察批判をブチ上げ始めた。
これまでの話を少しでも聞いていたのなら、数的有利、武器の有無、公権力の介入の可能性等からも挑発は避けたほうが良さそうだが……?

山吹はプッと吹き出し、男のコートの胸ぐらを掴む。

「オイ、オッサン。オレらの気が変わらねェ内に消えな。オレらは狙ってるヤツらがいるんだ。
 そいつらをブッ殺すまでオッサンは殺さないでおいてやるから――――」

しかし、山吹は最後まで話すことは叶わなかった。
コートの男――宮沢鬼龍が目にも止まらぬスピードで山吹の顎の骨を外したのだ。

ちなみにこれは灘神影流の技ではない。
ただ物凄いスピードで手を動かし、相手の顎関節を正確に狙って少し揺らしただけである。

「ふがッ……!」

驚き、尻もちをつく山吹。

「オレに近寄るなら命を賭けろと言ったよなあっ? ……お前ら、"悪"になら何をしてもいいってか。オレも悪だよ。悪は悪でも……"悪魔"だがなあっ」

「い、いや、命を賭けろとは言ってな――――」

山吹はそう言いかけ、顎が外れていて発声ができないことに気づいた。
そして男の、宮沢鬼龍の姿が明らかに膨張していく。

「ハアーっ! 気が漲る! 滾るわっ!」

完全に弱者を蹂躙するモードの鬼龍になっていた。
こうなったらもうお終いである。

「ひっ、ひいいいいいっ!!」

山吹と時雨は腰から銃を抜き、鬼龍に突きつけた。
さしもの鬼龍もこれで大人しくなるか、はたまた驚き、許しを請うだろうか……?

答えはNOだ。

灘神影流・弾丸滑り。
命中した弾丸を全て体表から滑らせ、逸らしてしまうという反則技が鬼龍をさらに凶悪な存在へ押し上げていた。
いくら銃弾を撃っても、それら全てが一瞬の内に逸らされていく。

「はあっ」

鬼龍は一瞬で山吹の首の骨を折る。

「かぺっ」

山吹は阿呆みたいな最期の台詞を吐いて事切れた。
刑事・山吹千晴、殉職である。


【山吹千晴@ジャンケットバンク 死亡】
残り 42/46


「ひ、ひいいいいいいいいいいいっ! やめてくださいっ!」

時雨は小便を撒き散らし、地に頭を擦り付けて命乞いをする。

「面白いことを言うなあ、この蛆虫は。お前らは虫のいうことに耳を貸すのか?」

鬼龍の態度は全く変わらなかった。

そして――――


【時雨賢人@ジャンケットバンク 死亡】
残り 41/46


現実は時に残酷なものである。

時雨が鬼龍に負わされた責め苦は、これまでに彼が他者に与えてきた苦しみに見合うだろうか。
いや、それは時雨賢人本人を除いて誰にもわからない。願わくば彼の魂に安らぎが訪れんことを……。

そして、鬼龍はひたすら己の道を闊歩する。
それは究極のエゴイズムと呼んでも差し支えないほどの強烈な自己肯定感が生んだ怪物を越えた怪物のみが持つ力である。
そんな彼に対抗するためには、怪物となる他ないのか。はたまた、元から怪物であれば彼と闘いうるのか――

深淵を覗き込んでいるのは、誰だ。


【D-5/住宅街/1日目・午前】
【宮沢鬼龍@TOUGH外伝 龍を継ぐ男】
[状態]:気の昂ぶり
[装備]:コート
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×2
[思考・状況]
基本行動方針:皆殺し?
1:はあーっ

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熊腿(ベアー・フット) 投下順 霊長類最強の生物
熊腿(ベアー・フット) 時系列順 霊長類最強の生物

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最終更新:2024年05月01日 19:45