霊長類最強の生物


――――最強の生物は何か!?

多種いる地球上の生物たちがルール無しで戦った時……。

興行ではなく……ガチンコ、サイズ差なしの『喧嘩』で戦った時、最強の生物は何か?

今現在、最強の生物は決まっていない。


◆ ◆ ◆


畳のど真ん中にちゃぶ台が置かれた、典型的な座敷で二人の男が相対していた。

なぜか既に二人の周囲には険悪な雰囲気が漂っている。

「照英、ガッツ石松、あとはFUJIWARAの原西」

「どこがだよ、似てね―よ!」

「ガレッジセールのゴリは?」

「全然似てね―ってば! ってかゴリラ顔の芸能人ばっかり挙げるな! 悲しくなるだろ!」

ツンツン髪の少年にツッコミを入れるのは、アネックス2号の艦長「小町小吉」である。
小吉は先ほど例の箱から脱出したのでとりあえず周囲でも散策するか、と思って民家に上がり込んだところ、座敷でゴロ寝をしていた妻夫木聡を名乗るこの少年と出会ったのだった。

若い子と仲良くなるにはとりあえず芸能界の話から……ということで、似ている芸能人を挙げてもらうことにしたのだが、2620年から来た小吉と平成生まれの少年――佐藤十兵衛(妻夫木聡)とでは、まるで話が噛み合わなかった。

「しかし、妻夫木(本当に本名か?)くん、ゴリラに似ているのは置いておいてなかなかオツな芸能人ばかり挙げるね……。照英なんか令和時代のアーカイブでしか見たことないよ」

「……えーっと、ショーキチさん、大丈夫? さっきからズレた話ばっかりしてるけど、本当にヤバい人じゃないよね?」

小吉の眼の前に人差し指を立て、催眠術の要領でフラフラと振る十兵衛。
だが、小吉の目は至って真面目であった。

「いや、俺は真面目に2600年代を過ごしているんだが……」

十兵衛の口が一瞬引き攣り、スッと元に戻るのを小吉は見逃さなかった。

「ア……ハイ……ソウナンッスネ……じゃ、俺はこれで……」

十兵衛は明らかにヤバい人を見る目で小吉を見、すっと立ち上がった。

ピーンポーン!

すると、玄関先でチャイムが鳴る。

「あ、誰か来たわ。ちょっと俺、出てくるから」

十兵衛がこれ幸いと席を立つ。

「いやいやいや、座ろうよ! なんか俺のこと勘違いしてるでしょ! ねえ、絶対勘違いしてるって!」

小吉の必死の説得にも耳を貸さず、十兵衛は「はーい」などと白々しい台詞を吐きながらドアを開ける。
そこには、日中の住宅街には似つかわしくない異様な出で立ちの人物が立っていた。

神父である。

なぜか神父姿の眼帯を付けた男がアルカイックな笑みを浮かべて立っていた。

「貴方は神を信じるか?」

小吉と十兵衛は無言でドアを閉めた。

「いや何も言わずに閉めるなよ! 失礼だろ!」

「あれは閉めるでしょ。今日びあんな勧誘の方法、田舎の一軒家でも見ないわ」

「そっ、そんなこと言うなよ! 真面目に……なんか……神を信じてる人だっているんだぞ!」

小吉は十兵衛を制し、ドアロックを解除しようとする。

だが、十兵衛のほうが一手速かった。
超高速の反射で、小吉の心臓に直接打撃を打ち込んだ。

「金剛」

「――ぐッ」

たまらず悶絶する小吉を見下ろす十兵衛。

「やば、思わず使っちゃった」

富田流の『金剛』。
相手の心臓に打撃を加え、一瞬で気絶させる技である。
使いこなすには高い打撃力が要求されるが、極めれば大型の猛獣にすら通用するという。

――だが。

「痛ててて……。妻夫木くん、俺の見立てではたぶん剣術とか拳法とかやってるんだろうけど、そういう技は俺みたいなおじさんに振るっちゃダメ」

小吉はまったく怯むことなく起き上がってきた。

「嘘だろ……」

完全に極まっていたはずなのに、この小町小吉を名乗る大男は多少の痛みはあるものの平気の平左なのである。
人類の命運を背負って立つ宇宙船計画の艦長、アネックス2号の小町小吉は伊達ではなかった。

「とりあえず、扉開けない? 俺もちょっとさっきの人は怪しいと思うけどさ、ちゃんと話聞いてみたら――」

「佐藤十兵衛」

「ん?」

「俺の名前。ってかタブレットの名簿には妻夫木聡とか載ってなかったじゃん。マジで信じてたの?」

「いやそんなわけ――いや! 信じてた……かも……しれない……」

竜頭蛇尾に語気が弱まっていく小吉を尻目に十兵衛はこう考えていた。

このおじさん、完全に文さんと同じタイプじゃん!


◆ ◆ ◆


十数分後。やはりちゃぶ台を挟んで小吉と十兵衛が向かい合っていた。

「いいか、この殺し合いという異常な状況で生き残るためには、信頼できるグループを作る必要がある」

小吉の言葉にゆっくりと頷く十兵衛。

「この名簿の中で、十兵衛くんの信頼できる参加者はいるか?」

「うーん、この人……ぐらいかな……」

十兵衛は「入江文学」と書かれた部分を指さした。

「――っていうか、俺がさっきから納得行かないことが一つあって、なんか既に死んだやつの名前が載ってるんだよね……」

続いて「金田保」と書かれた名前を指差す十兵衛。

「ああ、それは俺もだ」

小吉は「アドルフ・ラインハルト」と書かれた部分をじっと見つめた。

「……とりあえず、生き返った(のか?)人たちが本当にそのままの彼らなのかが明らかにならない内は接触を控えたほうが賢明だろう。前置きはこれくらいにして、次の行動は――――」

ピーンポーン!

すると、また玄関先でチャイムが鳴った。

「……」

無言で目を合わせる二人。
二人の間に暫しの静寂が流れる。

「いや、いい。俺が出る」

十兵衛に先んじて、今度は小吉がドアを開ける。
そこには、日中の住宅街には似つかわしくない異様な出で立ちの人物が立っていた。

ゴリラである。

ゴリラ。学名、ゴリラ・ゴリラ・ゴリラ。
余計な脂肪が一切無く、その背筋力から繰り出す打撃の威力は推定2~5トン。その握力は500kg。

霊長類最強の生物が、そこに立っていた。

小吉と十兵衛は無言でドアを閉めた。

――ゴアッ!

だが、そんな脆い木と鉄で出来たただの板などはゴリラにとっては紙切れ同然。
ドアはあっという間に吹き飛ばされ、玄関先で固まる二人の姿は丸出しになった。

しばらく三者の睨み合いが続く。

合図は十兵衛のヒュッという泣き声ともうめき声ともつかない喉を鳴らす音であった。
小吉と十兵衛は今までに発揮したことのないほど素早く靴を履き、居間の窓ガラスを突き破って道路へ逃げ出した。

ゴリラはゴヒューゴヒューと獣特有の荒い息を吐きながら四足歩行で追ってくる。

「じゅじゅじゅ、十兵衛くん! 確かさっきの心臓を止める技、動物にも使えるんだったよね!? ちょっとあのゴリラに使ってみてくれない!?」

「馬鹿も休み休み言えッ! あんな屈んだ体勢のゴリラの心臓ににどうやって金剛当てるんだよ! そもそも富田流はゴリラを仮想敵にしてねーよ! ゴリラみたいな人間は仮想敵だけど、人間みたいなゴリラは仮想敵にしてね―よ!」

必死で駆けながらもゴリラを撒こうとする十兵衛たち。
だが、ゴリラは機敏に、しかし付かず離れずのスピードで追ってきていた。

ゴリラは怒ってなどいない。
玩具を与えられた赤子のように遊んでいるだけなのだ。

しかし、だんだんと彼らの距離が詰まり、いよいよゴリラの手が十兵衛の服の裾を掴みそうになった時――

小町小吉は覚悟を決めた。
すなわち、この少年のために獣(オオスズメバチ)と化す覚悟を。

走るのを止め、ゴリラに向き直る小吉。
十兵衛はそれを信じられない、という目で見る。

小吉はデイパックから変身薬を取り出した。

そして、自身の腕に突き刺す。

――その時。

「ピガガーッ!」

ロボットの駆動音のような異音が周囲に響き、気づくとゴリラはアスファルトに叩きつけられていた。

十兵衛が目を擦り見ると、小吉とゴリラの間に仁王立ちになっているのはどこからどう見ても二足歩行のロボットであった。
スマートなフォルムに、デジタルカメラのような頭部。胸部からはコードがむき出しになっている。

「もう一度問おう。『貴方は神を信じるか?』」

そして、二人の方に向き直ったロボットは、先ほどの神父の声でそう言った。

トダー。

かつて最強の兵士として作られた"機械のような人間"ガルシア28号に米軍が差し向けた"人間のような機械"である。
破壊力は3トンとゴリラに匹敵する膂力を持ち、時速100キロで歩行。
鉄パイプで殴打してもまったく傷つかないボディに自己修復機能も備え、ありとあらゆる武闘家の技をコピー、再現することも可能だという。

そんな神のようなロボットを支給された男がいた。

名は、天堂弓彦。

先ほど小吉と十兵衛の前に現れ、宗教勧誘的活動を行った神父だ。
天堂は天賦の才と異常な知識量によってトダーの操縦方法を紐解き、既にゴリラ一匹程度であれば撃退することが可能なほどの熟練度を身に着けていた。

天堂の操縦するトダーに叩き伏せられ、ピクピクと痙攣するゴリラ。
一撃で顎の骨を砕かれ、もう永くはないだろう。

「おお、神よ。このような状況下での殺生は罪でしょうか……」

天堂はよくわからないことをぶつぶつと呟きながら、トダーを操りクルクルと舞わせる。
十兵衛と小吉(変身し損ね)はそれを唖然と眺めているだけであった。

グシャッ、という音とともにゴリラの頭が破裂する。
天堂のトダーが彼の頭を踏み抜いたのだ。


【ゴリラ@TOUGH外伝 龍を継ぐ男 死亡】
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「いいえ、いいえ。殺生が罪などということはないでしょう。"私"が、"私"がそれを赦しましょう――」

周囲を鮮血が染め、地面をゴリラの脳漿が汚していく。

「そしてできるならば――――もっと多くの者に救いを求められんことを――――」

ザッザッ

後ろからなにかの歩行音が響く。
これは……先ほど聞いた音だ。
それが重なって響いている。

「……これ、ヤバくね?」

後ろを振り向いた十兵衛がぽつりと漏らす。

そこには隊列を組んだトダーたちが、天堂の操る『トダーたち』が群れを成して行軍していた。


【F-3/民家/1日目・午前】
【小町小吉@テラフォーマーズ】
[状態]:疲労(中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、変身薬、ランダム支給品×1
[思考・状況]
基本行動方針:脱出方法を探る
1:ゴリラ!?
2:ロボット!?
3:十兵衛を守る

【佐藤十兵衛@喧嘩商売】
[状態]:疲労(中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×2
[思考・状況]
基本行動方針:脱出優先
1:ゴリラ!?
2:ロボット!?
3:文さんと合流したい

【天堂弓彦@ジャンケットバンク】
[状態]:トダー操縦中
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×1、トダー操縦機
[思考・状況]
基本行動方針:罪人を赦す
1:???
[備考]
トダー操縦機によって会場内に配置されていたトダー5体を操っています。


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警死庁24時 投下順 人面獣心のオソマ野郎
警死庁24時 時系列順 人面獣心のオソマ野郎

前話 登場人物 次話
START 小町小吉
START 佐藤十兵衛
START 天堂弓彦
START ゴリラ GAME OVER
最終更新:2024年05月21日 20:03