9 :akatsuki ◆7SWrUgoQ6Y:2007/06/29(金) 22:20:09 ID:tnf1a6xE0
人口15万人ほどの平凡な中都市。その中心より少し離れた所にある中学校。
雪欧中学。
生徒数300人ほどのそう大きくもない中学校。
これはその学校の一つのクラスに降り注いだ、ある戦いの宿命の物語。
第1話~戦いの鐘は鳴る~
「さて、全員揃っているな。突然だが、明日は特別授業を行う。」
教卓に立ち、そう発表する担任。
ここは雪欧中学2年1組。
はちゃめちゃに明るいクラスの人気者から、休み時間の友達は文庫本なやつまでいる、どこにでもあるようなクラスだ。
「明日は1時限目から5時限目までデュエル科だ。
場所も特別なデュエル場で行う。朝迎えのバスが来るからそれに乗っていくからな。遅刻するなよ。」
デュエル科。
遊戯王というカードゲームが全国、いや、全世界に広まってはや30年。
それはもはやカードゲームの域を超え一つのスポーツとなっていた。
デュエルの才能というのは社会に評価される一つのステータスとなり、デュエル科という新たな科目を行う学校も増えていた。
「え、一日デュエルなんて、なんで急に・・・。」
「マジかよ!明日の体育潰れんじゃん。ラッキー。」
突然の発表に教室内がざわつき始めた。
「静かにしろ。まぁ抜き打ちテストみたいなもんだ、成績にも関わるし、好成績者には数枚のオリジナルカード製作権が与えられるぞ。」
この世界で遊戯王がここまで流行ったのはある理由がある。
それがオリジナルカードシステムだ。
公式デュエルで成績を残すと、ポイントが手に入る。
そのポイントを払うことによって本社にオリジナルカード案を申請、あまりにもバランスが悪い場合などは本社側から修正が入り、カード化される。
そうして一般の人でも自由にオリジナルのカードが作れるようになったことで戦略の幅が大きく広がり、
その自由度から他のカードゲームユーザーも注目。今に至るという訳だ。
担任は話を進める。
「あと、持ってきていいデッキは一つだけだ。最高の状態にしておけよ。
最後に言っておく。明日は絶対に休むな、遅れるな。それじゃ今日は終わりだ。お疲れさん。」
そう言って担任は教室から出て行った。
生徒達もまだざわつきながらも、それぞれの帰路についていく。
「おう陽。帰ろうぜ。」
そう声をかけたのは髪を茶色く染めた長身の男子。
名前は城矢 魁(じょうや かい)。
勉強はさほど出来ないが、体育とデュエルの成績はいいという、典型的なおバカキャラだ。
「ん。」
陽と呼ばれた少年は眠そうな目でかばんを手に取り、立ち上がる。
赤っぽくツンツンした髪に常に眠そうな目が特徴。
名前を神崎 陽(かんざき よう)という。
勉強もそこそこ、デュエルの成績もいい。当たり障りのない平凡な中学生だ。
授業中にすぐ寝るという問題を除き。
二人は小学校低学年の頃からいつも一緒のクラスの親友だった。
家も近所なので毎日一緒に帰る。
ちなみに二人とも帰宅部だ。
「明日何すんだろうな。一日デュエルなんて楽しみだぜ。」
「そうだね。」
「お前何デッキ持ってく?俺はまぁいつものだな。」
「俺もいつもの。」
二人ともいくつかデッキを作ってはいるが、気に入って使っているのは一つだった。
デッキの内容についてはここでは省略しよう。
そんな会話を交わしながら分かれ道に着く。
「んじゃ、また明日な!」
「んじゃね。」
そして二人はそれぞれの帰り道についた。
これがいつも通りの「日常」。
この暖かく緩やかな当たり前の光景は、明日覆る。
その事をまだ二人は知る由もなかった。
10 :akatsuki ◆7SWrUgoQ6Y:2007/06/29(金) 22:21:07 ID:tnf1a6xE0
陽の部屋。
夕飯を食べ、シャワーを浴びた陽はベッドに横になりカードを眺めていた。
「これ、1枚でいいかな・・。」
陽は明日に向け、デッキの調整をしていた。
普段から使っているデッキだが、陽は細かい調製はしていなかった。
と、言っても陽はかなり腕が立つほうなので特に調整がいらなかったのだが。
明日はせっかくのイベントなので、改めてカードを1枚1枚吟味しているところだ。
「そういや、これ・・魁に貰ったけどめんどいから入れてなかったんだ・・。」
せっかく親友がよかれと思ってくれたカードを・・友情を投げやりにするやつである。
「入れてみようかな。結構相性よさそう。」
魁は基本的に成績は悪いが、人のデッキ、デュエルを観察する才能には長けていた。
その洞察力のお陰でデュエルの成績も悪くない。
その魁が親友のために選んでくれたカード、相性が悪いわけがなかった。
陽はそのカードをデッキに入れ、軽くシャッフルすると大きなあくびをした。
時刻は22時。陽は早寝なのだ。
「寝よ・・。」
陽は電気を消すと、すぐに寝息をたてた。
次の日・・・
陽は、いつもの交差点で魁を待っていた。
陽は常に眠そうではあるが、朝に弱いわけではない。
だが、時間は既に8時半。
「おう!おはよ!悪ぃ、ちょっと寝坊した。」
逆に魁は朝が苦手だった。
「おはよ。急ごう。」
昨日担任がくれぐれも遅れるなと念を押していたので、二人は走って学校へ向かった。
学校につくと校門の前に修学旅行で使うようなバスが一台止まっていた。
どうやら今日この特別授業を行うのは2年1組だけのようだ。
「すいません遅れました!」
陽たちがついた時、他の生徒はすでに皆バスに乗り込んだところだった。
「遅いぞ!」
担任が睨みつけるが魁はへへっと笑ってバスに乗り込んだ。
陽も続く。
席はどうやら自由なようだ。並んだ席が空いていたので陽と魁は隣り合って座った。
「相変わらず遅いな。」
「遅いのは魁だよ。」
後ろの席から少年が陽に話しかけてくる。
青っぽい髪に整った顔。
女子からも人気の高いその少年。名前は氷室 蒼(ひむろ そう)。
容姿端麗頭脳明晰、まさに美少年。
魁の次に陽と仲のよい友達だ。
「もう少しで神崎まで乗り遅れていたぞ。少しは悪いと思うんだな。」
「へいへい。」
魁は軽く流すと、椅子を少し倒してカードを眺め始める。
「おい!勝手に倒すな!」
「いーだろ別に。空いてるほう座れよ。」
などと気楽な会話をしている。
魁とは氷室はそれほど仲がよくない。(原因は陽の取り合いだが。)
だが傍から見ればよいライバルだ。
と、担任が先頭に立って朝の挨拶を始めた。
「おはよう。少し危なかった者もいるが全員ちゃんと来て何よりだ。
さて、これからこのバスに乗って大型のデュエル施設に向かう。
1時間ほどで着くので自由にしててくれ。」
教師はつらつらと今日の予定を告げる。
そこは鮫島デュエルキャッスルという、人気のない山沿いに最近出来たデュエル施設なのだそうだ。
そこで5時間丸々使い、総当たり戦を行うという。好成績者にはオリジナルカードを作るためのポイントや、他にも特典があるそうだ。
生徒達は予定の詳細を聞き、俄然盛り上がっていた。
どんなデッキを持ってきたかなどの話題で持ちきりだ。
「どんな施設なんだろうな!楽しみだぜ。」
「そうだね。」
「神崎、今日は負けないぞ。なかなかいいカードを手に入れてな、僕のデッキは相当に強化された。」
「僕も負けないよ。魁に貰ったカードも入れたし。」
「え・・お前あれ今日になって入れたのかよ・・。使ってないなと思ったら・・。」
他愛のない会話を繰り広げる生徒達。
やはり中学生。ちょっとイベントがあるだけで大はしゃぎだ。
狭いバス内でデュエルを始める者もいた。
やがて一時間ほどが経過し、その施設に到着した。
11 :akatsuki ◆7SWrUgoQ6Y:2007/06/29(金) 22:21:49 ID:tnf1a6xE0
デュエルキャッスルと言う名に恥じず、本当に大きい施設だった。サッカースタジアムほどはある。
だが、それにしては人気がない。
人気のない山沿いだと言っていたが、本当に周りにはこれ以外の建物がない。
これだけの施設をなぜこんな辺鄙な土地に造ったのだろうか。挙句に建物からも人の気配がしない。
「結構でかいな・・。」
「だね・・。」
バスから降りた生徒達は生徒達もその大きさに感嘆の声を漏らしていた。
軽く確認を取ると、担任を先頭にぞろぞろとエントランスに入っていった。
やはり、中には誰もいなかった。
謎めいた静けさの中に生徒達の足音とざわめきが響いている。
担任は黙々と歩を進め、生徒達もそれに続く。
少し廊下を歩いた後、一つの部屋の入り口の前で歩を止めた。
「先生、なんで誰もいないんすか?」
皆が感じていた疑問を、クラスの中心的な少年が口にした。
名前は堀内 義(ほりうち ただし)。
「まぁ後でわかる、とりあえずこの部屋に入れ。」
生徒達はひとまず従って部屋に入った。
部屋は学校の視聴覚室的なつくりで、机と椅子が並んでいる。
とりあえず皆、思い思いの席に着くことにした。
「えー、ここが本日特別授業を行う、鮫島デュエルキャッスルだ。
人がほとんどいないのは俺達の貸切だからだ。気にしないでくれ。」
貸切とは言ってもエントランスの受付にまで誰もいないのはおかしいと思ったが、
陽も、誰も口にすることはなかった。何か理由があるのだろうと軽く考えた。
「デュエルは奥のフロアで行うが、とりあえずここで説明をしておく。」
そう言って、担任は部屋の前のほうに置いてあった段ボールからデュエルディスクを取り出した。
「これが今回使用する特別なデュエルディスクだ。
デュエリストの戦術レベル、テクニックを測定できる優れものだ。
名前順に取りに来い。借り物だからな、壊すなよ。」
担任の言葉に従い、一人ずつ前に出て行く。
陽や魁もそれに従いデュエルディスクを受け取った。
見た目は市販されている一般的なデュエルディスクと変わらない。
とりあえず腕にはめてみる。付け心地もおかしな点はなかった。
「よーし、みんな、装着したな。
それじゃ、これから行うデュエルのルールを説明する。」
「簡単なことだ。
今日はお前達に、生きるか死ぬかのデュエルロワイヤルを行ってもらう。」
「デュエルロワイヤル・・!?」
いきなり出てきた言葉に生徒達は困惑する。
無理もない。普通に特別授業を行うと言われて連れてこられ、いきなりこんなことを言われたら誰だって戸惑う。
「お前達はそれぞれこの建物のどこかに送られ、出会った相手とデュエルをする。
そしてデュエルに勝つとキーカードを手に入れることが出来る。
そうして全員分のキーカードを手に入れたものが勝者だ。この建物から出られる。」
「じゃあ、敗者は・・・。」
「敗者は死ぬ。」
担任はあまりにもさらっと言ってのけた。
12 :akatsuki ◆7SWrUgoQ6Y:2007/06/29(金) 22:22:19 ID:tnf1a6xE0
「死ぬって・・!」
「何ふざけたこと言ってるんですか。」
「意味わかんねぇ。」
生徒達がざわつき始める。
結構昔に、バトルロワイヤルという映画があったそうだ。
中学生達が突然殺し合いという運命を突き付けられる。そんな内容から社会問題にもなったそうな。
今の状況はそれに酷似していた。
「静かにしろ。魔法カード悪夢の鉄檻。」
担任が手に装備しているデュエルディスクにカードをセットする。
すると、生徒達の周りに鉄檻が張られた。
遊戯王を題材とした漫画でマリクが遊戯の攻撃を封じるために張った檻だ。
その漫画にも登場したソリッドビジョンシステムが実用化されたことで、実際に鉄檻が張られているように見える。
だが一つ、普通のソリッドビジョンとは違う点があった。
「な、なんだこりゃ!?」
「ちょ、まじで出れねぇぞ!」
立体映像と思われた鉄檻は、なんと実体化していた。
触れると本当に鉄の感触。本物の檻だ。外に出られない。
いきなりの事態に生徒達は大騒ぎだ。
「驚いただろう。この建物内ではカードの効果が実体化するんだ。」
淡々と説明する担任。
「くそ!なんだよこれ意味わかんねぇよ!出せよ!」
だが生徒の混乱は収まることはなかった。
ガンガンと鉄檻を叩き出す生徒もいる。
「静かにしろと言っているだろう。」
再び担任がデュエルディスクにカードをセットする。
その瞬間、鉄檻を叩いていた生徒に向かって稲妻が放たれた。
罠カード、サンダーブレイク。
「ぎゃああああああ!!」
稲妻の直撃を受け、悲鳴をあげ倒れる生徒。
近くにいた生徒が驚きながらも肩をゆすってみるが、動かない。
「ひっ・・・・。」
他の生徒達は倒れた生徒を見て声を失った。
「いつまでも騒いでいると、お前らも同じ運命をたどるぞ。」
生徒達は、震え、冷や汗を流し、必死で口をつぐむ。
担任に下手に逆らうと命を奪われる。
「よーし、いい子達だ。
これからお前達は眠りにつき、目覚めた時には一人でどこかの部屋にいるだろう。」
そう言って担任は、「暗黒の眠りを誘うルシファー」をちらつかせる。
「起きた時、近くに袋が置いてある。
詳しいルールをプリントした紙をその中に入れておく。
それをよく読み、外に出て殺し合いの相手を探せ。さぁ、戦いの始まりだ。」
三度デュエルディスクにセットされるカード。暗黒の眠りを誘うルシファー。
実体化する、眠りを司る悪魔。デュエルでの実用性は非常に低いが、実体化されたその能力は強力なものだった。
眠りを誘う黒き霧が広がる。
もはや生徒達に選択肢はなかった。一人一人と眠りにつき、倒れていく。
陽、魁、氷室、他27名の生徒。
今、何気ない日常を生きてきた中学生達の、命がけのデュエルの幕は切って下ろされた。
第2話に続く。
最終更新:2007年08月25日 18:33