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第5話~残酷なる出会い、悲劇のデュエル~(後半)

86 :akatsuki ◆7SWrUgoQ6Y:2007/07/14(土) 21:07:39 ID:nCFqbPqM0
「美羽ちゃん!いつもの、美羽ちゃん!?」
「りこちん・・・。」

いつの間にか、美羽はいつもの美羽に戻っていた。
痛みに苦しむ梨琥を見て、心が動いたのか。

「りこちん・・。ごめんね・・・?痛かったよね・・・?」
「う、ううん、大丈夫!大丈夫だよ!」

当然気が触れるほど痛いのだが、美羽がいつも通りに戻った嬉しさでそんなことは気にならない。

いつも通りに戻ったのなら、もう殺しあう必要などない。
一緒に生きて、一緒にここから出る手段を探せる。
嬉しさに胸を躍らせながら、梨琥は美羽を再度説得する。

「美羽ちゃん!もうこんなデュエルやめよう!
デュエルなんかしなくても、きっと一緒にここから出れるよ!」
「それは、だめだよ・・・。」

だが、梨琥の説得はあっさりと却下されてしまった。

「な、なんで・・・。」
「一回デュエル始めたら、もう途中でやめられないから・・・。
どっちかが勝つまで、デュエルは終わらないんだよ・・・。」

悲しそうに目を伏せ、そう言う美羽。
だが梨琥は納得がいかなかった。どちらかが勝つということは、どちらかの死。
何故梨琥と美羽がそんなデュエルをしなければいけなかったのか。

「なんで・・・そんな・・・。」
「あたしね・・・。さっき氏倉君とデュエルしたんだ・・・。」
「氏倉君・・・?」

氏倉。突然出てきたその名前に梨琥は困惑する。
氏倉、氏倉 祢久(うじくら ねく)と言えば、確かなんか暗くて、髪がグレーで・・・。
その程度の印象しかない。あまり目立たない男子だ。

「んで、あたし氏倉君に負けちゃって・・・。
そんであたしすごく辛くって、氏倉君が言うこと聞いたら辛さから開放してくれるって言って・・・。」

「そんで、あたし氏倉君の操り人形にされちゃって・・・。
出会った相手を殺せって言われて・・・。なんだか、逆らえなくて、適当にふらふらしてて・・・。
最初に出会ったのが、りこちんで・・・、そんで・・・。」

段々と涙声になりながら、事の次第を説明する美羽。
梨琥は黙ってそれを聞いている。

「だから・・・ホントはりこちんと戦う気なんかなかったのに・・・
だから・・・だから・・・ごめんね・・・・。」
涙を流しながらひたすら梨琥に謝る。

やがて、梨琥が口を開く。その目に涙を湛えながら。

「美羽ちゃん・・・でも私・・やっぱり美羽ちゃんとなんか戦えないよ・・・。
だってこのデュエルが終わったら、どっちかが・・・。」

必死で現実を拒否する梨琥。
どうにか、二人で生き延びる方法はないのか。その微かにも見えない希望を胸に。

戦うことを拒否する梨琥に、美羽が静かに首を振る。


「あたしはね、もう一回死んでるんだよ・・・。
それは、りこちんが悪いんじゃなくて、あたしが弱いのが悪いんだ・・・。
ごめんね・・・勝手に死んじゃって・・・。りこちん辛いよね・・・。」

「りこちん・・・あたしに勝って。りこちんが罪に感じることなんかないよ・・・!
あたしの気持ち、りこちんに託すから、あたしの分まで、りこちんが生きて・・・♪」

美羽が梨琥に笑いかける。
全く美羽らしくない、それは儚い笑み。

美羽の命はもう戻ってこない。
認めたくない、その事実。
だが認めなければならない。認めて、美羽の意志を無駄にしないためにも梨琥が生き延びなければいけない。


涙と共に、梨琥は意志を固める。
美羽に、勝つ。勝って、生きる。
まだ微かに揺れるその意志を胸に、カードをドローする。


87 :akatsuki ◆7SWrUgoQ6Y:2007/07/14(土) 21:08:10 ID:nCFqbPqM0
「ドロー・・・!!」

煌の効果によって梨琥の手札は潤った。
だが、まだ勝利へはほど足りない。
梨琥のライフは僅か200。もう後がない。
梨琥は全てをこのデッキに賭け、奇跡を呼ぶカードを使用する。

「手札からアルテミスを捨てて、魔法カード、エレメンタル・ドロー!!」
捨てられたアルテミスが光の球となり梨琥のフィールドに滞空する。
梨琥のデッキトップ3枚。そこに光属性の仲間がいることを信じて。

「お願い・・・。いて・・・・!」
祈りを籠めデッキの上から3枚をめくる。


勝利の女神は、梨琥に微笑んでくれた。


「いたよ。光属性モンスター・・・。輝光聖、エルド・・・・!」
「アハ、さすがりこちん。ここで切り札引けるんだ・・・。」

アルテミスの魂が優しく輝き、3枚のカードを招き入れる。
切り札を含めた3枚のカードを手札に加える梨琥を見て、苦笑いする美羽。
しかし、切り札モンスターを引いただけで勝てるような状況ではなかった。

「癒しの小天使イリヤを召喚、この効果でライフを1000ポイント回復・・・!
カードを2枚伏せて、ターンエンド・・・。」

 《癒しの小天使イリヤ》
 効果モンスター
 星3/光属性/天使族/攻1500/守1500

攻めに出ることはできず、ライフを回復し、カードを伏せてターンエンドする梨琥。
2枚の伏せカード。シムルグの効果によるダメージは防ぐことが出来た。


梨琥 LP:1200
美羽 LP:4600


「あたしのターン・・・。りこちん・・・。」
「美羽ちゃん・・・。全力で、来て。
これが、最後のデュエルになるんだよ・・・ね・・・。」
「うん・・・。
わかった・・・。全力でいくよっ!」

シムルグの攻撃が通れば美羽の勝利となる。
勝ちたくなんかない。梨琥に生きて欲しい。
そう思って何もせずターンエンドしようかと思った美羽だったが、梨琥の言葉に攻撃することを決心する。

梨琥を信じて、攻撃命令を下す美羽。


(りこちん、この攻撃、お願い、止めて!!)





「行くよ美羽ちゃん!!罠カード、エンジェルハイロウ!!」

シムルグの攻撃に感応し、フィールド上に現れる巨大な天使の輪。
美羽のフィールドを包み込むそれは、梨琥の天使達の魂が宿る。

「さっすがりこちん・・・!」
「ライフを1000払い、墓地の天使モンスターを5体以上除外して、美羽ちゃんのフィールドのカードを全て除外する!!」

梨琥の墓地の9体の天使達の魂が美羽のフィールドをひらひらくるくると飛び回る。
巨大な天使の輪は天使達の魂と梨琥のライフを吸収し、神々しい輝きを放つ。
それは美羽も、梨琥も、見惚れてしまいそうになるほど美しい輝き。
黄金の輝きはやがて直視できないほどの眩さとなって、美羽のフィールド上のカード全てと共に消え去った。

「えっへ、シムルグ倒されちゃった・・。」
美羽が舌を出して笑う。
梨琥も静かに笑っている。
二人の想いの間に立ちふさがっていた巨大な神鳥は消え去った。

後は梨琥次第だ。

「ターン、エンドだよ。」


梨琥 LP: 200
美羽 LP:4600


88 :akatsuki ◆7SWrUgoQ6Y:2007/07/14(土) 21:08:40 ID:nCFqbPqM0
敵は消えた。

今目の前にいるのは、いつも通りで、だけどなんだかちょっと悲しげな笑顔の美羽ちゃん。

もう邪魔するものはない。

私は、勝つんだ。

私のモンスターで、美羽ちゃんを攻撃して。

美羽ちゃんの意志を、私が引き継いで、美羽ちゃんの分まで生きるんだ。

私が、美羽ちゃんを、殺して。


89 :akatsuki ◆7SWrUgoQ6Y:2007/07/14(土) 21:09:12 ID:nCFqbPqM0
「ドロー・・・!」

もう敵はいない。
もう迷うことはない。
そのはずなのに。
全身全霊で美羽を攻撃し、勝てばそれでいいはずなのに。

梨琥の手は震えていた。

「わた・・・しは・・・。」
「りこちん!」
「私は・・・、罠カード、異次元からの帰還を発動・・・!」

ライフポイントの半分を払い、梨琥のフィールドにエンジェルハイロウによって除外されたモンスターが舞い戻る。

仇なす者を斥ける天使、光を繕いし者、コーリング・ノヴァ。
梨琥のフィールドが天使族モンスターで溢れかえる。

「さすがりこちんだねー。さっきのドローでそのコンボを揃えてたんだ・・・。」
「・・・。」

梨琥は口を開かない。
その口はカラカラに乾いている。

「りこちん・・・!見せてよ・・・!りこちんの切り札・・・!!」

美羽の言葉に、ゆっくりと頷く梨琥。
梨琥はその手札に眠る、最強の天使を召喚する。

「私は・・・、マシュマロン、イリヤ、コーリング・ノヴァを生け贄に捧げて・・・・。」

「輝光聖エルドを、召喚!!」

眩い光に3体の天使が包まれる。

光と共に空が割れ、そこから現れたのは純白の体に金と銀の翼を持つ巨大な天使。
三幻魔のうちの1体、最強の悪魔ラビエルと対を成す最強の天使、輝光聖エルド。

 《輝光聖エルド》
 効果モンスター
 星10/光属性/天使族/攻4000/守4000

「すっごい・・・。」
その神々しい姿に美羽がため息を漏らす。
そして、その眩さに少しだけ震えた。

これで梨琥の総攻撃で梨琥の勝利が決定する。
奇跡的な逆転劇。美羽の命を無駄にしないために、女神がもたらしてくれた梨琥の勝利。
今梨琥が、最後の攻撃命令を下そうとする。

親友との別れを。

「エルド・・・。美羽ちゃんに・・・・。」

だが、梨琥はなかなか言葉を切り出せない。
親友への止めの一撃。
その事実が頭から離れない。いくら美羽は一度死んでいると言っても、この手で殺すことなど・・・。

戸惑い、震え、最後の言葉が搾り出せない。
エルドと他のモンスターで攻撃すれば、もう終わるのに。
氏倉にその死体を蹂躙される美羽は、やっと天国へ行けて幸せになれるのに。

やはり梨琥は美羽との別れが怖かった。

「美羽ちゃん・・・ごめん・・・。」
「りこちん・・・。」

「ターン、エンド・・・。」

別れへの恐怖に負け、ターンエンドを宣言する梨琥。
その言葉と共に、仇なす者を斥ける天使と光を繕いし者が異次元へと帰っていく。

フィールドには巨大な金銀の翼の天使が1人残された。


梨琥 LP: 100
美羽 LP:4600


90 :akatsuki ◆7SWrUgoQ6Y:2007/07/14(土) 21:09:54 ID:nCFqbPqM0
「りこちん・・・。」
目を伏せ、梨琥の名をつぶやく美羽。
その表情は伺えない。

そして、無言でカードをドローした。

「りこちんは、優しいね・・・。」
顔を上げる美羽。その顔は笑みを浮かべながら、目には涙が溢れている。

「あたしだって、りこちんと一緒にいたいよ・・・。もっと一緒に遊びたいよ・・・。
一緒に遊んで、高校も一緒の所行って、きっと大学も・・・。それからもずっと・・・。
でも、もう無理なんだ。だってもうあたしは、死んじゃってるもん・・・。
仮に今どうにかして二人で生き延びても、昨日までみたいな日々は戻ってこない・・・。
あたしはまた氏倉君の言いなりに戻るだけ・・・、あたしはあたしじゃない心に支配されてきっとまたりこちんを・・・。」

そこまで言って、嗚咽をあげる美羽。

今のこの美羽の意志は、梨琥に出会ったときから、デュエルが始まった時からも、ずっと心の奥底にあった。
だが、体が、心が言うことを聞かない。
梨琥と戦いたくなんかない、梨琥を攻撃したくなんかない。
そう心の底で叫んでいるのに、その意思に反して体と心がデュエルを続ける。

必死で、必死で叫んで、出ない涙を流して、やっと表に出ている心を打ち破ったのだ。

もう美羽は自分じゃない心が梨琥と戦うなんていうのは嫌だった。
自分が自分でいられる今のうちに、消えてなくなりたかった。

「美羽ちゃん・・・ごめん・・・。」
美羽の気持ちを思い知り、梨琥も涙を流す。
友情とはとても大切な物だ。しかしそれは時に我侭となる。
梨琥はそれを心の底から理解した。

「えへへ・・・。
りこちん・・・今度こそ、お別れ・・・。」
涙を拭いて、いつも通りの笑顔を見せる美羽。
そして伏せモンスターを攻撃表示にした。

そのモンスターは、ドラゴンフライ。

「美羽ちゃん・・・!」
「ドラゴン・フライ、エルドに攻撃・・・・!」

その小さな体で、トンボがエルドに突撃していく。
当然適うはずがなく、あっけなく天使の光球に焼き払われる。
そしてその爆風が美羽を襲った。

「美羽ちゃぁん!!」
「ドラゴン・フライの効果で、デッキからドラゴン・フライを特殊召喚っ!」

一度死んでいる美羽の体は痛みなど感じない。
表情を変えず、明るい笑顔でドラゴンフライをリクルートする。

美羽のライフは残り2000。次の特攻で勝敗は決する。

「これが最後の攻撃・・・。」
「美羽ちゃん・・・私・・・・私っ・・・・!」
梨琥になす術はない。
ただ目の前の光景を見守ることしか出来ない。
涙を流しながら、ただただ親友の名前を叫ぶ。


「えへ・・・。あたし、りこちんに会えて幸せだったよ。
りこちんがいたから、今のあたしがある・・・。りこちんいなかったら、きっとあたし今より全然暗かったよ。」

「私も、美羽ちゃんに会えて幸せだった!
美羽ちゃんいつも明るくて、私が落ち込んでても、いつも励ましてくれて!
美羽ちゃんが笑ってたから、私も笑っていられた!」

梨琥の言葉に、美羽も耐えられなくなったのか、堪えていた涙を流しだす。
そして、一息入れて、最後の攻撃命令を下す。

「りこちん、ありがとう・・・。今までありがとう・・・!
これで、お別れ・・・!ドラゴンフライ・・・!
エルドに、攻撃・・・!!」

命令を受け、先程と同じようにエルドに突撃していく小さなトンボ。
当然エルドに容赦はない。
その全力。攻撃力4000の光球が放たれ、ドラゴン・フライを焼き払う。

そしてその最後の爆風が美羽に襲い掛かった。


「バイバイ、りこちん・・・元気で・・・・・」




「美羽ちゃぁぁーーーーん!!!」




美羽 LP:0


91 :akatsuki ◆7SWrUgoQ6Y:2007/07/14(土) 21:10:46 ID:nCFqbPqM0
───エルドの輝きによって消え行く美羽。
それを遠くから眺める、一つの影。


「・・・あーぁ・・・途中で自我が戻るなんて、君の技もたいしたことないね・・・。」
このデュエルを遠くから眺めていたグレーの長髪の少年はそう呟いた。

隣には実体化したアンデットモンスター、ソンビマスター。
技を侮辱されたそのモンスターは心なしかふてくされた表情をしている。

「せっかく手に入れた駒だったのになぁ・・・。
まぁいいか・・・結構面白かったし。」
少年はくすくすと笑いながらゾンビマスターの頭をなでる。

「さてと、次の駒を捜しにいこうかな・・・。
次も女の子がいいなぁ・・。」

少年はゆらりと立ち上がり、ふらふらと歩き出す。
そしてゾンビマスターもそれに続く。

美羽の死体を操ったその技を携え、次なる獲物を探しに・・・。


92 :akatsuki ◆7SWrUgoQ6Y:2007/07/14(土) 21:11:17 ID:nCFqbPqM0
デュエルは終わった。

デュエルディスクが収納され、ソリッドビジョンが消える。

そこに残っていたのは、梨琥ただ一人。

美羽の体はデュエル終了と共に、デュエルディスクを残して灰になって消えてしまった。

これが一度死んでいる体ということか。

梨琥はゆっくりと、美羽のデュエルディスクを拾い上げ、抱きしめる。

そして声を殺してひたすら泣いた・・・。



泣いて、泣いて、涙も出なくなり、俯く梨琥。

やがて、一言だけ呟いた。




「氏倉・・・・許さない・・・・・。」




その目には、聖女と呼ばれた少女の面影は残っていなかった。




第6話に続く。



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最終更新:2007年09月04日 16:22
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