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第7話~それぞれの殺意~

121 :akatsuki ◆7SWrUgoQ6Y:2007/08/25(土) 18:18:16 ID:82OE88lU0
第7話~それぞれの殺意~

「きゃー!すごーい!本物の虚無の統括者さまー!」

ここに、実体化したモンスター、虚無の統括者をぎゅっと抱きしめている少女が一人・・・。
名前を藍沢 遙(あいざわ はるか)。
黒のセミロングの髪に赤いフレームの眼鏡。
いわゆる、腐女子と呼ばれる少女だった。

遙は持っていたカードの中でもお気に入りのモンスター、虚無の統括者を召喚し、そのかっこよさにはしゃいでいる。

「じゃあ今度は・・・虚無魔人さまを召喚!
きゃぁ~!!!」
虚無の統括者に続き、虚無魔人を召喚し、その理想どおりのかっこよさに卒倒する。
二人の虚無モンスターは、顔を見合わせて困ったような呆れたような顔をしていた。

「すごい、すごいわ、これは。このシステムを作った人は天才よ!
あぁ~虚無の統括者さまー虚無魔人さまぁー私を抱いてぇー。」

完全に暴走し二人のモンスターにぎゅっと抱きつく遙。

遙達がいるのは、少し広めの休憩室。
4方向の廊下に繋がっている。
歩き疲れて休憩していた所、ソリッドビジョンの悪用を思いつき、試している所だった。

しかし、この休憩室で声を上げてはしゃぐのは大分危険な行為だ。
4方向に続く廊下。その先に誰がいるかは分からない。
敵に存在を知られれば、いくらでも手のうち様がある。

そして、それは現実となる。

廊下の奥、声のする方向を睨む紅き目の少年が、そこにいた。


122 :akatsuki ◆7SWrUgoQ6Y:2007/08/25(土) 18:18:49 ID:82OE88lU0
紅く染めた髪と、見るものを竦み上がらせる鋭い眼を持つ少年。
赤星 維月(あかぼし いつき)。
静かに休憩室の方へと近づき、柱の陰から覗き込む。

(あれは、藍沢・・・。)

そこにいた女子の名を思い出す。
特に話したこともない。
情けを掛ける必要もない。

(殺すか。)

余りにも極端な思考だった。
自分に関わったことがなければ、クラスメイトだろうが誰だろうが殺すことなど厭わない。
いや、関わったことがある人間だろうと、今の維月にとっては殺すべき対象でしかない。

維月はデッキからカードを数枚選び出す。
それは一瞬で相手を倒すための凶器。
まともにデュエルなどする必要はない。相手を殺しさえすればいいのだ。

カードを構えると、柱の陰から遙の前へと飛び出した。

「!?」
「デスメテオデスメテオデスメテオ火炎地獄火炎地獄波動球波動球波動球波動球!!!」


それは一瞬の出来事だった。
躊躇いなどなく、構えたカードを連続でデュエルディスクに叩き付ける維月。
遙が、目の前に現れた相手が誰かを考える暇すらない。

巨大な火球が3つ連続で遙にぶつかり、あっという間に衣服が燃え上がり身体を焦がす。
更に、悲鳴を上げる間もなく地獄の業火が巻き起こり、その身を燃やしていく。

「キャアアアアアアアアアッ!!??」

そして止めの弾丸が4連発。

休憩室は文字通り火炎地獄と化し、遙は何が起きたかも分からず悲鳴を上げ焼け焦げていった。
生きた人間の焼ける臭いが維月の鼻を衝く。

「こんなもんか・・・。」

ツンとした臭いなど気にも留めず、燃え上がる炎を見つめそう呟く。


炎が治まると、黒コゲとなった遙の遺体に歩み寄る。
やはり、デュエルディスクやデッキはコゲ痕一つなかった。

そこに横たわる黒炭を一瞥し、無言でデッキとキーカードを抜き取る。

「これで、いいのか。」

それは誰に対する問いかけか。
この戦いの主催者か、それとも自分か。

答えはない。
維月はカードをポケットにしまうと、ゆっくりと歩き出した。


(俺は・・・。早くあいつの所に・・・。)


曖昧に見える出口に辿り着くための、次なる相手。
そして、心の奥に根付いて離れない一人の生徒を探しに。

燻りと焦りを胸に宿しながら歩いていく。


123 :akatsuki ◆7SWrUgoQ6Y:2007/08/25(土) 18:19:20 ID:82OE88lU0
───別の場所・・・

無機質な廊下。
蛍光灯の白い光と静かに響く空調の音。
この緩やかな空気に身を任せ、座り込む一人の少年がいた。

「はぁ・・・。これからどうしようかな・・・。」

そう呟きながらその少年、内山田 純一(うちやまだ じゅんいち)は辺りを見回す。
背はあまり高くなく、160前後。平凡な顔つき。あまりかっこいいとは言えない。
デュエルの腕は悪くはないが、頭はあまり良くはなかった。


「かわいい女の子がピンチになったりしてないかなぁ。
そこに偶然通りかかった俺が颯爽と助けてあげて・・・。
あーそれ理想の状況だなー。もしかしてこれチャンスなんじゃね?」

ぶつぶつと独り言を呟く純一。
彼は少々妄想癖があるのだ。
理想の展開を想像し、一人でにやにやとしている。

純一が妄想に耽っていると、やがてそこに、静かながら音が響き始めた。
誰かの、足音。

「・・・!?」

前の方からかつかつと足音が聞こえる。
この先はT字の分かれ道となっていて、姿は見えない。

(ど、どどど、どうしよう・・・。)

突然の来訪者に、純一は焦りを覚える。
逃げるべきか、出会うべきか。
慌てて考えるが、既にそんな暇はなかった。
足音はもうすぐそこまで迫っている。

純一は意を決すると、立ち上がり、目の前を見据える。

誰が現れるか知らないが、負けてたまるか。

      • 頼む、できれば弱い奴来てくれ。

そう念じながら、目の前に迫る相手を待ち構える。


そして純一の最初の相手となるであろうその相手はそこに現れた。


124 :akatsuki ◆7SWrUgoQ6Y:2007/08/25(土) 18:19:51 ID:82OE88lU0
「わっ・・・。あなたは・・・。」
「き、君は・・・宇田川さん・・・。」

純一の目の前に現れたのはすらりとした体系に美しく整った顔、長く伸ばした綺麗な黒髪。
宇田川 樹里(うたがわ じゅり)、クラスのアイドルと言っても過言ではない美少女だった。

「えっと、こんにちは、内山田くん。」
「え、あ、うん。こんにちは・・・。」

樹里はそこにいた純一に、暖かい笑顔で挨拶をしてきた。
そんな姿を見て、純一は完全に毒気を抜かれてしまう。

戦意をギラギラとさせているような男子、例えば伊川のような奴が現れたらどうしようかと思ったが、まさかこんな美少女の宇田川さんが現れるとは。
全く、身構えていた僕が俺が馬鹿みたいじゃないか。

ほっと息をつくと、構えていたデュエルディスクを下ろす。

「あ、えっとデュエル・・・しますか?」

純一が安堵していると、今度は樹里がデュエルディスクを持ち上げだす。
一応、この戦いのルールは把握しているようだ。
おどおどとしながら純一の戦意を確かめている。

しかし、純一の戦意などとうに消え失せていた。
まさか樹里のような美少女と命がけのデュエルなどしたくはない。

「い、いやいや!しないしない!
命がけのデュエルなんて馬鹿らしいよねー!宇田川さんとそんなことできないよ!」
「そうですか・・。よかったです。
私あんまりデュエルは得意ではないので・・♪」

樹里はほっとしながら、デュエルディスクをしまう。
それもそうだ、樹里はとても命がけのデュエルができるような人間ではなかった。

趣味はヴァイオリン、得意科目は英語。
いつも穏やかで柔らかな笑顔を絶やさず、彼女に笑いかけられて心動かされない男子などいないと言う。

命の奪い合いなどとは、とても遠い世界にいる女子だった。


「こんなことに巻き込まれて・・・。私怖くって・・・。」
「とんでもないよね、全く。
こんなの考えた奴はどんな頭してるんだか。」

相手に戦意がないことを知り、落ち着いた二人はその場で話し込む。

「さっきも言ったとおり、私デュエルあまり得意じゃないので・・。
その、誰かと戦うことになったら、内山田くんが私の代わりに戦ってもらえますか・・?」
「あ、うん!もちろん!
危ない奴が来たら俺が宇田川さん守るよ!」
「よかったです♪」

安心したのか、先程よりも満面の笑みを純一に向ける樹里。
その眩い笑顔に純一は一撃で心奪われてしまった。

(うはー、やっべー、超かわいい!
これってもしかしてフラグ立ってるんじゃね!やっほい!)

先程の妄想とは少し違うが、似たような展開に純一は心躍らせる。

妄想は激しいが、純一には恋愛経験、というか恋をした経験がなかった。
理想と現実にはギャップが付き物で、少しかわいいと思った女性でも、その内面に落胆させられることが多々あった。

対して樹里は、外面も内面も純一の好みと言える物だった。

純一は、このような異常状況下で初恋を迎えることとなったのだ。


125 :akatsuki ◆7SWrUgoQ6Y:2007/08/25(土) 18:20:35 ID:82OE88lU0
「内山田くんはどんなデッキを使っているんですか?」
「あぁ、俺のは機械デッキ!かっこいいだろ機械!」
「機械ですかー、かっこいいです♪
見せてもらえませんか?」

少しずつ歩きながら話をしていると、樹里がデッキに関しての話題を切り出した。

樹里の要求に純一は素直に答える。
デュエルディスクからデッキを取り出し、樹里に手渡した。

「これ!S(サイバー)・DX(ダブルエックス)!
これが俺のデッキの切り札!かっこいいだろー。」
「へぇー、かっこいいですねぇ・・・♪」
「まぁほとんど出せたことないんだけどね。」

純一は融合デッキの中でひときわ輝いているカードを手に取ると、自慢げな笑顔で能力を説明する。
その後も純一のデッキ自慢が続いていった。
基本的に見た目のかっこいい機械族で組まれているが、見た目だけじゃなく実践でも十分動かせるデッキなようだ。

カードを1枚見せるたびに出てくる純一の「かっこいいだろ!」に、樹里は笑顔で合槌をうっている。
傍から見ていると、とても仲のよい男女に見える。
しかしそれも、樹里の人当たりのよさによる物だが。

「じゃあ、このデッキ貰っちゃいますね♪」
「えぇー、それは困るなぁー。」

樹里の軽い冗談に純一は困ったように笑ってみせる。



だが、対する樹里の顔には先程までの暖かい笑顔はなくなっていた。

代わりにあるのは、愚かな相手を見下す冷笑。


そして、デュエルディスクにセットされた1枚のカード。




「・・・ありがとう、お馬鹿さん・・・♪」


126 :akatsuki ◆7SWrUgoQ6Y:2007/08/25(土) 18:21:06 ID:82OE88lU0
「あ・・・れ・・・?」

樹里の態度に疑問を感じる間もない。
純一の体から力が抜け、ふらふらと膝を床につける。

「な・・・んだ・・・これ・・・・。
え・・・、何・・・?宇田川さん・・・?」

純一はそのまま床に倒れこんでしまった。
全身が痺れ、頭がぼーっとする。

宇田川さんに、やられたのか・・・?


「うふふ・・・本当に馬鹿な人、救いようもない。」

意識は残っているが、もう顔を上げる力すら残っていない。
しかし耳に響く声が、まだこの現状を信じられない純一の心を突き刺していた。

まさか、今の今まで可愛らしく笑っていた樹里が、自分を殺すなんて・・・。


「私に対して全く警戒せず、挙句デッキまで手渡すなんて、おめでたい人だわ。
私、頭の弱い人に興味はないの。ごめんなさいね♪」

先程までの樹里の姿は何だったのか。
愚か者を蔑む様な笑みを浮かべ、倒れ伏せる純一を見下ろす、冷たき悪女。

殺し合いという極限環境によって、穏やかな樹里の中に眠るもう一つの性格が目を覚ましていた。

「そのままそこで眠ってなさい。虫けらさん。」
純一のデュエルディスクからキーカードを抜き取ると、すたすたと歩き去っていく樹里。


そこには一人、悪魔のような女の毒牙に掛けられ横たわる純一だけが残された。


127 :akatsuki ◆7SWrUgoQ6Y:2007/08/25(土) 18:21:59 ID:82OE88lU0
あぁ・・・俺、このまま死ぬのかー・・・。

一度でいいから、女の子と仲良くなりたかったなぁ・・・。

けど、最後の最後で、宇田川さんと、仲良く話せたからいっか・・・。


あっは・・・俺、ホント、おめでてぇー。俺殺した本人だぜ・・・・。



けど、いつもと違う、Sっぽい宇田川さんも・・・・ちょっと・・・いいかも・・・。




薄れ行く意識の中、白い光と無音の中で樹里の姿を思い返す純一。


最後の最後まで、純一は笑顔を浮かべていた。



第8話に続く。

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最終更新:2007年09月04日 16:26
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