中学生の時、ある高校の学園祭でそこの軽音楽部のバンドを見た。
そこのギターの人がなかなか上手な人だったので、印象に残ったんだろう。
ある日偶然その人を見かけたときに声をかけてしまった。
私的には、「ギター上手いですね。」みたいな音楽の話をするつもりだったけど
「俺彼女いるんだけど」
と言われてしまった。

はぁぁ?と本気で言ってしまいその人を怯ませてしまったことも覚えている。
男って変な勘ぐりをするんだなぁって。
ペラペラ喋ってるその人を無視して帰ってあんまりイライラしたんでムスタングを掻き鳴らしたのも記憶してる。若気の至り。
私の恋愛経験はこれだけ。
…どこが恋愛なのか。少し見栄を張ってしまったか。
こんな感じに恋愛のことを私はいまいちよくわかっていない。
ただ、それでも。

「あずにゃ~ん、今日もたい焼き買わない?」

この人が大好きなのは、理解してる。

「金欠だったんじゃないんですか?」
「むっふっふ…実は昨日お小遣いが入ったのです!だから平気!」
「無駄遣いしてたらまた困りますよ」
「無駄遣いなんかしてないよー。この前あずにゃんとのデート費用の時に使い過ぎただけだよ」
「ちょっ…唯先輩、大きい声で…」
「あずにゃん的には無駄だったんだね…うぅ…」
「なっ…そんなわけないじゃないですか!」
「先輩と一緒に食べたハンバーガーも美味しかったですし!
電車に揺られながら先輩の隣でお喋りしたり!
お揃いで買ったストラップだって二人の携帯に付け合いっこしたり!
帰りに食べたたい焼きだって美味しかったです!
無駄遣いなんて一つもしてないです!」
「…あずにゃん、そんな大声でデート解説しなくても」
「はっ!」
周りの人がクスクス笑ってるのが見えました。
うぅ…暴露しちゃったよ…恥ずかしい…
「あずにゃん、ありがと」
「え?」
「そんな風に考えてくれてたんだね。すごく嬉しいよ。」
来ましたよ!唯先輩の笑顔です!!
もう一度言いますよ?唯先輩の笑顔です!!
これが見れただけで先ほどの羞恥を僥倖に思ってしまいます。
これが恋は盲目ってやつですか?悪くないですね。
はぁ、唯先輩可愛いなぁ…
「ねぇねぇ、ちょっと君」
すると一人の男が歩み寄ってきました。
何なのよもう。せっかく唯先輩とお話してるのに。
どこかの高校男児だろうか?少し軽い感じ。

「はい?」
あ、唯先輩が返事をしてしまった。
それにしても可愛い返答の仕方ですね。
「はい」の「い」の部分を少し高めに言って疑問度を上げているところとか。
…なんだ疑問度って。
「いや、君じゃなくてそっちの小さい子」
この男は唯先輩の返事を無駄にしました。
許せないです。その顔を覚えましたよ。
…ん?私に用事なの?
「あ!やっぱりあの時の!俺俺、覚えてる?」
…誰だこいつ。全然覚えがない。
元同級生だろうか?いや、こんなあからさまに軽そうなのはいなかったかな…イメチェン?
まぁ男なんてどうでもいいや。唯先輩がいればそれで。
「そうそう、そのはぁ?って顔!やっぱりあの時俺に声かけてくれた子だよね?」
………………………………
……………………
…唯先輩
…………

あ。あのギターの人か。
思いだすまでずいぶん時間がかかったなぁ。私。
「思いだした?いやぁ可愛くなったねぇ君」
相変わらずペラペラしゃべる人だなぁ。
もうなんでもいいから早く離れたい…
「な、なにか用ですか」
「あ~そのね、俺、今だったら彼女いないけど」
だから何ですか…?
「よかったら付き合う?」

「はぁぁぁぁっぁぁぁぁ?」
本気の言葉だった。男の人はまた怯んだようだった。
どうやら私のはぁ?は威力が高いらしい。
「い、いや…いいじゃん!君ギターやってるんでしょ?よかったら教えるよ!」
うぅぅしつこい。
他意は無いとはいえなんであの時声かけちゃったんだろ…
唯先輩との楽しい時間が邪魔されちゃってもうほんと最悪。
……!
「唯先輩…」
先輩はいつもと変わらない顔だった。
…いや、違うぞ。異様に笑ってる。
ちょっと怖いです。流石に2度は言えません…
「あずにゃんその人だぁれ?」
「え。あ、えっと、その」
「あれ?お友達?おっほぉ君も可愛いねぇ」
「違うよ、あずにゃんは私の…」
「ね、ね。よかったら君も一緒にどう?なんなら奢っちゃうよ?」

あぁ…どうしよう。唯先輩まで巻き込んじゃった…
本当に気が滅入る。最悪だ。
いつもは楽しいこの時間が、どんどん浸食されていってる。
嫌だ…どうしよう、どうしよう。
唯先輩…

「あずにゃん、こっち向いて?」
「えっ?唯せんぱ…っ」
キスされた。

もう一回言いますよ?キスされた!
もう一回言いましょうか?唯先輩に、キスされた!
なにやっちゃってるんですか唯先輩。
今はそういう場面じゃなかったでしょう。
唯先輩の天然もここまで来ると尊敬します。敬愛します。
あの男の人だけじゃなく、きっと周りに人もいたでしょう。
さっきの羞恥とかの比じゃありません。どういうつもり…
唯先輩が私の腰に手を回し強く抱きしめてくる。
少しかがんで、目もつぶったりして、強く口づけてくる。
…あ。唯先輩、これ本気のキスだ。
いやだ…駄目なのに。
こんなのされたら唯先輩大好きって気持ちが抑えられなくなっちゃう。だめ…

無理。私は唯先輩の首に腕を回し、唯先輩に引き寄せられるように私からも唇を強く押し付けた。
そして私たちは、その場所は人通りがあまりないところだったからよかったものの(後で気付いた)本気でキスしました。
たくさん啄ばんで、舌を入れて、舐めて、噛んで、押し付けて…
気がつけばとろんとした唯先輩の顔が近くにあった。
あぁ。色っぽい…

「…あずにゃんは私の恋人だよ?」
近くに居た男の人にそう言った。誰だろう。
「あ、はい。分かりました。すいません、調子のってました。はい。ごめんなさい。あ、じゃあ自分はこれで。本当、お邪魔しちゃって申し訳ありませんでした。」
そう言って鼻血を出した人は去っていった。見られちゃったかな…
「…あずにゃんが昔どんなだったか知らないけど…今は、私だけを見ててほしいかな。」
そう言った唯先輩の顔は、少し寂しそうに感じた。
「…見てますよ。今。」
「…うん。もっと見てね。」
「…見ますよ。ずっと。」
「…うん。」
そうして、唯先輩は笑顔を見せてくれました。
二度も言いません。
唯先輩は笑顔を見せてくれました。
「…たい焼き。買いましょうか。」
「…ほんと?」
「はい。なんだか私も食べたくなってきちゃいました。」
「そんなこと言って、本当は初めから食べたかったんじゃないの?」
「…敵わないですね。」
「あはは、やっぱり~」

私は恋とかそういうのはいまいちよくわかってないけれど。
この感情が恋じゃないとしたら、私は一生恋をしないだろう。
いや、もうしなくてもいいよね。
もうすでに私がこの人を愛しているのは、確かなんだから。



その日、ゆいあずファンクラブの名簿に一名追加されたのは、別のお話。



  • 一名はあの人か、にしても鼻血を出すとはあの人もわかるね。ちなみに僕もファンクラブ名簿に名前あります。唯先輩も人前でキスだなんて大胆不敵! -- (あずにゃんラブ) 2013-01-12 08:18:33
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最終更新:2010年11月26日 06:40