「今日はなかなか上手でしたよ」
「ほんと?」
「えぇ、少なくとも最近の中じゃ一番でした」
「やったぁ~」
「あ、こら、抱きつかないでくださいよ」
「どうして?」
「それはほら、人前ですし、こういうのをするべきじゃぁないでしょう」
「んー、そっか、なら仕方ないね」
 そう言うとあっさりと私から離れてしまった。
 んー、確かに頼んだのは私だけど、もう少し粘ると思ってたからちょっと拍子抜けしてしまう。
「? どうしたの?」
「いえ、何でもありません」
 どうせ家に着けばすぐに抱きついてくるのだ。それは不変の未来であり今抱きつかれないからといって特に気にする必要は無い。
 つまらないことで唯先輩の気を惹くのはよくない。そう考えて止めていた足を再び帰路に向けて動かしだす。
「あ、待ってよ~」
 慌てた風に私の隣にやってくる唯先輩と歩調を合わせて、通学路を逆に歩いていくと、前方に猫がいた。
 毛並みのいい、黒い子猫。
「わぁ~、猫さんだ~」
 当然動物好きのこの人がそれを見逃すはずが無く、私のことを放って子猫さんのところへ駆け寄っていく。
「……」
 別に子猫に嫉妬している訳じゃ無いけど、なんだかなぁ。
 ま、いっか。
「よ~しよしよし」
「にゃぁ~」
 嬉しそうに撫でている人間と、気持ちよさそうに撫でられている子猫。
 んー、そういえば最近は私の頭を撫でる回数が減ったような気がする。どうでもいいけど。
「ねぇあずにゃん
 顔を上げないで一言。
「この子、ウチで飼っちゃだめかな?」
「気に入ったんですか?」
「うん。それにちょっと、怪我してるみたいだし」
 言われて見てみるとなるほど確かにお腹のところを怪我しているように見えるかもしれない。しかしこんなところよく見つけられましたね。
「んー、あまり乗り気はしませんけど……」
 あ、そこ、まだ暗くならないでくださいよ。この先の言葉を聞いてください。
「ま、怪我が治るぐらいまでだったら、許可しましょう」
「ほんと!?」
「えぇ、本当です。ま、お金はあなたに出してもらいますが」
「それぐらいなら大丈夫だよ。あずにゃんありがとう!」
「わぁっ!」
 突然の抱擁に反応できなかった。
「よかったね! あずにゃん3号!」
 3号?
「……それ、もしかしてもしかしなくてもその猫の名前だったりするんですか?」
「うん! いい名前でしょ?」
「…………」
 頭が痛い。
 いやでもそもそも私が預かったときに2号なんてつけたからこうなったのかもしれないうんきっとそうだつまり私のせいではないか。
「ま、いっか」
「うん?」
「いえ、なんでもないです。それより早く帰りましょぅ。その子の家も作らないといけませんし」
「あ、そうだね! 早く帰って一緒にテレビ見なきゃ」
「それは違うでしょう」
 ともあれ、私たち2人のほかに、新しくペットが増えて3人。新しい家族と一緒に、私たちの家、マイホームへと帰ることになった。
 ――夕日に伸びる子猫の影は、これから帰る新しい家がどんなところなのか、期待に胸を躍らせ楽しそうに体を揺らしていた。
Fin


  • なんだ〜てっきり子供かと -- (あずにゃんラブ) 2013-01-22 00:28:03
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最終更新:2009年11月15日 01:21