なんだろう、この気持ち…
あったかくて、ちょっぴりせつないこの気持ちは?
私はあの子が好きだ。
小っちゃくて可愛い、私の後輩。
あの子が笑うと私も嬉しい。
あの子が泣くと私も悲しい。
あの子が他の子と仲良くしてると、ちょっと悔しい。
ずっと不思議だったこの気持ち。
その気持ちの正体が今日やっとわかった。
そう、私はあの子に恋をしてたんだ。
朝、教室へと向かう途中。見慣れた黒髪の女の子を見つけた。
「あ~ず…」
いつもの様に抱き締めようと掛けた声がそこで止まる。
視線の先には知らない誰かと話しながら嬉しそうに笑うあの子。
普段はあまり見せる事のない楽しそうなその顔に
私は掛ける言葉を失くしてしまった。
最近、何度か同じ痛みを感じる事があった。
何だろう、この気持ちは…もやもやして凄く気分が悪い。
「すーはー」
こんな時は深呼吸。
何度か息を吸ったり吐いたりしている内に少し気分が落ち着いてきた。
ふと、あの子の方へ視線を向けると
さっきまで話していた誰かは既にその場を離れていた。
気を取り直し、私はあの子に向かって声を掛けた。
「あずにゃ~ん♪」
「にゃうん!?」
「えへへ~、あずにゃん何してるの~」
「もう、唯先輩!いきなり抱きつかないでっていつも言ってるじゃないですか!」
「あはは、そんな照れなくても良いのにぃ」
「照れてなんかいません!」
「あずにゃんは意地っ張りさんだね」
「もう、良いです!私は教室に戻りますから離して下さい」
いつもの私なら笑って離れる所なのに、何故か今日の私は違っていた。
「…やだ」
あずにゃんを抱き締めたまま俯いてそんな言葉を発する。
「え…?」
「…」
「な、何を言ってるんですか唯先輩…
もうすぐ始業のチャイムも鳴っちゃいますよ」
「さっきの…」
「え?」
「ううん、何でもないよ…ごめんね」
言いかけて、私は言葉を濁す。
何故、こんなにも胸が痛むんだろうか?
「唯先輩?」
「それじゃあね、あずにゃん!また
放課後ね~」
私はそう言って、逃げるようにその場を後にした。
「…唯先輩」
「…何で、あんな事を言っちゃったんだろ?」
「いつもはこんな事ないのに、どうして…」
キンコンカンコン
「あ、チャイム!」
答えが出ないまま、私は自分の教室へと急いだ。
それから、数日が過ぎた。
あの一件以来、私はあずにゃんに抱きつけなくなってしまっていた。
何故かはわからないけれど
あずにゃんを目の前にすると体が強張る様になった。
挨拶をしたり会話をする分にはそう問題は無い。
けれど、あの子の体に触れようとすると途端に体が動かなくなる。
「どうしちゃったんだろ、私…」
呟いてみても答えは出ない。
私は小さく溜息を吐きながら部室のドアを開けた。
「こんにちは、唯先輩…あれ、他の皆さんは?」
「澪ちゃんは日直、りっちゃんは部長会議で遅れて来るって」
「ムギ先輩は?」
「ムギちゃんは、私より先に教室を出たはずなんだけど…」
「珍しいですね、ムギ先輩が遅れるなんて」
「うん、だからお菓子とお茶はもうちょっと我慢してね」
「いえ、それは唯先輩にこそ言いたいです」
「てへ」
いつもと変わらぬ、他愛のないそんな会話。
「…じゃあ、皆さんが来るまでギターの手入れでもしておきますかね」
「そだね」
「…」
「…」
あずにゃんと一緒にギターの手入れをする。
今の私は凄くご機嫌だ。
さっきまでのもやもや気分がまるで嘘のようだ。
改めて思う。
やっぱり、あずにゃんと居ると楽しい。
「唯先輩」
「どうしたの、あずにゃん?」
「この間の事なんですけど…」
「この間?」
「はい、廊下で私に抱きついて来た時に、やめて下さいって私が言ったら「やだ」って突っぱねましたよね」
あずにゃんのその言葉で、ほんのちょっとだけ胸がチクッとした。
「…そんな事もあったかな」
「何だか普段と違う感じがして気になってたんです」
「別に何でもないよ…ちょっとあずにゃんを困らせてみたかっただけだよ」
「本当ですか?」
「…」
「それと唯先輩…ここ最近、私に抱きつかなくなりましたよね?」
「!」
あずにゃん、気付いてたんだ。
「私、何かしましたか?」
「え?」
「私、唯先輩に嫌われるような事をしたんですか?」
よく見るとその目尻には涙の粒が光っていた。
「あ、あずにゃん…」
「私、私…」
「ち、違うよ!あずにゃんは何も悪くない!」
「唯先輩…」
「悪いのは私なんだよ」
「…どう言う事ですか?」
「あの時、あずにゃんが知らない誰かと話してて、凄く嬉しそうに笑ってる顔を見てたら何だか胸が痛くなったんだ」
「…」
「それで、あずにゃんに離れてって言われた時に、どうしても離したくない気持ちになってあんな風に言っちゃったんだ」
「…そうですか」
「その時から色々考えるようになって…
何でか理由はわかんないけど、あずにゃんに抱きつこうすると体が強張って動かなくなるんだよ」
「…」
「だから、あずにゃんは何も悪くないよ」
「ねぇ、唯先輩」
「なぁに、あずにゃん?」
「その胸の痛みって、その時が初めてですか?」
「ん、よくはわからないけど…それまでにも何度か似たような事はあったかも」
私はここ最近の事を思い出しながらそう言った。
「…」
「もしかして、何かの病気とかなのかな?」
「…病気、と言えば病気かも知れませんね」
「えぇ!?」
「心配しなくても大丈夫ですよ」
「え、でも病気なんでしょ?」
「病気は病気でも体に害はないですから」
「そうなんだ」
「はい、実は私も同じ病気に掛かってるんです」
「あずにゃんも?」
「私もね、たまにあるんですよ胸がチクッと痛んだり、締め付けられたりする事が…」
「それって、どんな時?」
「そうですね、唯先輩が私以外の人と楽しそうに話してたりするとチクッと来ます」
「ふむ」
「あと、誰彼かまわずに抱きついたりしてるのを見ると胸が締め付けられる感じがします」
「なるほど」
「…ここまで言ってもまだわかりませんか?」
「へ?」
「もう、特別ですからね」
そう言って、あずにゃんが私の肩をグッと掴む。
「あず…?」
戸惑う私を抱き寄せ、あずにゃんがそっと唇を重ねてきた。
『…』
「あずにゃん、何で…」
「…唯先輩の胸が痛む時は、どんな時ですか?」
私の言葉を遮り、あずにゃんが問い掛けて来る。
「えっと、あずにゃんが私以外の誰かと楽しそうにしてる時とか…」
「他には?」
「んと、あずにゃんが私にそっけない態度をした時とかも…」
「…そこから導き出される答えは?」
「あずにゃんのせい」
「50点です、私のせいだと思う理由は?」
「…」
「どうして、私のせいで唯先輩がそんな気持ちになるんですか?」
「あずにゃんが他の人と仲良くするのが嫌だから…」
「どうして嫌なんですか?」
「だって、あずにゃんは私の…」
「私の…なんですか?」
「私の…あ!」
「後輩にここまで言わせないで下さい…私だって、こんな気持ちになったの初めてなんですからね」
「ごめんね、あずにゃん」
「謝罪よりも先に聞きたい言葉があります」
「…うん、そうだね」
「教えてください、唯先輩の気持ち」
「うん、私はあずにゃんの事が好き…大好きだよ」
「奇遇ですね、私もです」
「あずにゃん、何か言い方がずるくない?」
「人にキスまでさせておいて何を言ってるんですか」
「じゃあ、次は私から…」
「ノーセンキュー」
「な、なんでぇ~!?」
「何日も唯先輩分をオアズケさせられたんですよ?唯先輩にも同じ目に遭って貰わないと私の気が済みません」
「それは、私だって同じだよぉ~もう、ずっとあずにゃん分を補給してないもん」
私は泣きそうな声で駄々を捏ねる。
そんな私を見て、あずにゃんはやれやれと方を竦めた。
「だから、ね…唯先輩?」
蕩けそうな甘い表情。
「なぁに、あずにゃん?」
あずにゃんは両手を広げ、私に向かって囁いた。
「イッパイぎゅ~ってしてくれなきゃ、許しませんから♪」
「うん♪」
私達の恋はまだ始まったばかり。
いつか蕾が花咲くようにゆっくりとこの恋を育んでいこう。
そんな、ちいさなこいのうた。
おしまい!
- ムギはどこに隠れてる -- (名無しさん) 2011-02-27 00:16:19
最終更新:2010年12月10日 13:53