「あ~、これカワイイ~」
「唯先輩……自分の物を買うんじゃないんですよ」

私達は今、ファンシーショップで買い物中です

「言われなくてもわかってるよぉ。……ねぇねぇあずにゃん!これなんかどう?」
「あ……良いですね!さりげなくお揃いですし」

私が贈るプレゼントを選ぶために

「でしょでしょでしょ~」
「じゃぁこれにしますね」

……とても大切な人に贈るプレゼントを……

「……喜んでもらえると良いね」
「……はい」

 ♯ 普通の休日 ♯

それは、昨日の事でした

「あずにゃ~ん、明日ヒマ?」
「特に予定は……買い物くらいですかね……なんですか?」
「あのね~、お父さんから映画のチケットもらってさ、……んしょ……これなんだけど……」
「あぁ、あの映画ですか。良いですよ、私も観たいと思ってましたから」
「え、でも買い物は?大丈夫なの?」
「はい。映画の後とかでも充分ですから」
「んじゃ、明日の九時半に駅で待ち合わせしよっか~」
「はい」


もう少しで九時半か……
唯先輩は今日も遅刻かなぁ~
……あれ?向こうから走って来るのは……

「ハァ……ハァ……あずにゃん……お待たせ……ハァ……」
「あ、私もさっき着いたところですから……てゆーか、まだ待ち合わせ五分前ですよ……」
「ん?……おぉ!ホントだ!」
「ふふっ……遅れると思って息を切らせる程に走ってきたんですか?」
「うん、映画の時間があるから遅れちゃいけないな~って思って」
「……いつもの待ち合わせもそのくらい緊迫した感じで遅れずに来て下さい」
「……善処します……」


私達が観た映画は、最近話題のラブロマンス
かい摘まんで言うと

恋人の親によって引き離された二人が、友達の協力で再会し駆け落ちをする……

というストーリー

使い古された感のある内容だけど……
主人公であるカップルが『女の子同士』なので、テレビや雑誌で特集されたりしている

「……グズッ……良い映画だったね……」
「……そうですね……グスッ……」
「それにしても、あの両親は許せない!」
「ホントですよ!『女の子同士だから』なんて理由になりませんよ!」
「だよね!」
「はい!」
「それを乗り越えたんだから……あの二人には幸せになってもらいたいなぁ~」
「そうですね……でも、絶対幸せになりますよ」
「……そうだよね!」
「……そうですよ!」


お昼は唯先輩オススメのパスタ屋さんで食べた
なんでも前に憂と一緒に食べてその美味しさにとてつもなく感動したらしい

「お待たせしました。『フレッシュトマトとモッツァレラチーズのトマトソースパスタ』のお客様」
「あ、私です……ありがとうございます」
「『たっぷりパルメザンチーズのカルボナーラ』のお客様」
「はいは~い。……ありがとうございま~す」
「では、以上で全てお揃いでしょうか……では、生パスタなのでお早めにお召し上がり下さいませ」

「……この二つがオススメなんですか?」
「うん!どっちも美味しいよぉ~」
「へぇ……。ん!……美味しい……」
「ね、美味しいでしょ~」
「ソースもさることながら、この麺が美味しいですね」
「だよね~。憂も『これは真似出来そうにないなぁ~』って言ってた位だし」
「……真似出来そうなら作る気満々って事ですか……」
「多分ね~。……あ、そうだ。半分食べたら交換こしない?」
「良いですよ。そっちのも食べてみたいですし」
「わ~い!あずにゃんありがと~」
「いえいえ、どういたしまして」


お昼の後は、私の買い物ついでにショッピングセンターをブラブラと見て回った
……買い物と言っても、何を買ったら良いのか今一ピンとこなくて……

「ねぇ、買い物って何を買うの?」
「……実は、何を買えば良いのかまだ悩んでいるんです」
「『何を』……?プレゼントかなにかを買うの?」
「はい……プレゼントです……」
「そっか~。……相手はどんな人なの?」
「……なんでそんな落ち込んだ声なんですか」
「だって……あずにゃんがわざわざプレゼントする相手って……少なくとも男の人でしょ?」
「まぁ、男の人ですけど……。てゆーか私の両親ですよ。贈る相手は」
「……ほぇっ!?」
「ですから、両親の結婚記念日に贈るんですってば」
「……そっかぁ~。私てっきり……」
「いや、そこで安心されても……まぁ確かに親以外プレゼントを贈る男性なんていませんけど……って、そう言う唯先輩はどうなんですか?」
「……誠に申し訳ございませんでした……」


その後、唯先輩に
「あんまり背伸びしないで、自分が出来る範囲でプレゼントしたほうが喜んでもらえるよ~」
と言われたので、唯先輩オススメのファンシーショップに向かって一直線……

「あ~!このマグカップカワイイ~」
「……唯先輩、目的のお店ってここでしたっけ……」
「ハッ!!」

前言撤回、色んな店に寄り道をしながらファンシーショップに到着し、冒頭のようなやり取りをして……


「あずにゃ~ん、どうしたの?」
「あ、いえ、今日の事を思い出していただけですよ」
「そっか~、色んなお店見たもんねぇ~。はい、噂の鯛焼きアイスだよ~」
「……本当に鯛焼きの形なんですね……」
「ね、面白いでしょ~」

今は買い物を終えて、ショッピングセンターの中庭でおやつを食べるところです

「でも……本当に良いんですか?」
「い~のい~の。たまには私も先輩らしいところを見せないとね~」
「はぁ……そですか。では遠慮なく……いただきます……」

美味しそうだなぁ~
では頭から……

「あぁっ!痛い!!」
「ど、どうしたんですか!?」
「えへへ~、鯛焼きアイスの気持ちを代弁してみましたぁ~。……なんちゃって……」
「いきなり変なこと言わないで下さい……本気で驚いたじゃないですか……」
「いや~、つい出来心で……」

出来心でって……
コッチは本当に本当の本気で心配したんですからね!
……あ!……良いこと考えちゃった……ふふっ

「まぁ、今回は許してあげますけど……」
「ホントに!?ありがと~、あずにゃ~ん」
「今回だけですからね。……そんなことよりも唯先輩」
「ん?な~に?」
「アイス溶けちゃいますよ」
「おぉ!すっかり忘れてた!!」
「忘れないでくださいよ……」
「いただきます!あむっ」

今だ!!!

「んぁっ!いったーい!!」
「どどどーしたの!?……って……あぁー!!」
「やったー!大成功!!」
「……しまった……まさかあずにゃんが同じ事をするとは思わなかった……」
「ふふっ……たまには私だってこんな事しますよ♪」
「……!?」
「……どうしたんですか?私の顔に何かついてます?」
「あ、別に何もついてないよ~。ちょっと考え事してただけ~」
「はぁ」
「ま、取り敢えずさっさと食べて帰ろっか~。もうすぐ五時だし~」
「え!?……はぁ、もうそんな時間ですか……」

楽しい時ってのは……本当、あっという間だなぁ~


「今日はありがとね~」
「いえ、私こそプレゼント選びの手伝いをしていただいて……ありがとうございました」

二人で話しをしながら歩いていると、気付けばそこはお互いの家へと向かう分かれ道だった

「それじゃぁ、また月曜日ね~」
「はい」

いつもと同じように唯先輩は西へ
いつもと同じように私は東へ
いつもと同じようにそれぞれの家へと向かい歩みを進める

……でも……
いつもと違うのは……少し、寂しい気持ちになっている、自分……
……今日は楽しかったからな……
仕方がないのかなぁ……

「あ~ずにゃん!!」

そんな事を考えていたら、不意に後ろから声をかけられた
慌てて振り向くと……

「あずにゃ~ん……むぎゅ~」
「にゃっ!!……なんですか!?いきなり……」
「えへへ~、今日は一度も出来なかったからね~。あずにゃん分補給~」
「んもぉ……特別、ですよ……」
「えへへ……ありがとね、あずにゃん」
「……どいたしまして……」

……本当は、特別なんかじゃない
私も唯先輩を抱きしめたい
その温もりを全身で感じていたい
そして……
貴女の傍に……ずっと……寄り添っていたい

「あったかあったか~」
「……唯先輩も、あったかあったかですよ」
「……へへっ」
「……ふふっ」

でも……まだそれを言うにはは早過ぎる
……唯先輩の気持ちも……ハッキリとわかっている訳じゃないし……

「よーっし!あずにゃん分補給完了!!」
「……そですか」

だけど……いつかちゃんと伝えますからね……
私の気持ちの全てを……

「それじゃ~、まったね~」
「はい……それでは」

その日まで……待っていて下さいね

走り去る唯先輩に向かって、私は小声で呟く

「……唯先輩……私もしっかりと補給しましたよ……」

おしまい!!


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最終更新:2010年12月21日 22:05