「はぁ……」
「どうした? 唯がため息なんて珍しいな」
「りっちゃぁ~ん……あずにゃんがさぁ~」
「惚気話かよ……」
「違うんだよ……」
「何だよ?」
いつもと違う暗い雰囲気を感じ取ったりっちゃんが、少し訝しげに聞いた。
「う~ん、何だかあずにゃんとの関係がわからなくなってね……」
「どういうことだよ?」
「あずにゃんは私のことどう思っているのかなって……」
「そりゃあ、好きなんじゃないの?」
「本当にそうなのかな……」
「どうしたんだよ。お前ら付き合っているんだろ?」
「それは、そうだけど……」
私はあずにゃんのことが好きだ。大好きだ。
確かにあの時告白して、あずにゃんも私のことを好きだと言った。
でも、それは同じ”好き”なんだろうか……。
あずにゃんも私と同じように、相手を独り占めしたいとか、いちゃいちゃしたいとか思っているんだろうか。
キスとかもあまりさせてくれないし、やっぱり違うのかな……。
「私、不安なんだよ……。あずにゃんは私のことそんなに好きじゃないのかなって……」
「告白して、OKしてもらったんだろ?」
「うん……」
「だったら、信じてやれよ」
「……そうだね」

しかし、あれからもあずにゃんとの関係は相変わらずで、キスもろくにできない。
何度もアプローチはかけたものの、あずにゃんはあまり乗り気ではなかった。
何とかキスはするけど、ディープキスなんてさせてくれない。その先なんて夢のまた夢だ。
勇気を出して、告白して、付き合い始めたのに……。
ため息と嫌悪感ばかり出ていく。
あずにゃんが欲しい。欲しいよ……。
でも、君は拒む。
そういう関係は望んでいないってこと? 私とそういうことしたくないってこと?
じゃあ、あの”好き”は何だったの?
ねぇ、あずにゃん……。
このままの関係を続けることなんて耐えられない。
どうしたらいいのかな……。
あずにゃんへの欲望が募る一方で、受け入れてもらえない不安が大きくなっていた。

それから少し経って……。
あずにゃんの家で2人っきりのお泊まり。
とても楽しいはずなのに、今となってはあずにゃんと過ごす時間も苦痛だった。
付き合う前と同じような関係でいることにイライラしていた。
もっとお互い進んでもいい気がするんだけど、あずにゃんは未だに私を拒む。

……私のこと、そんなに思っていないのかな。

部屋でギターを演奏しているあずにゃん。
あまりにも無防備な背中だった。ピックを振る度にその小さな背中が揺れる。
ねぇ、私とギターどっちが大事なの?
ふとそんなことを聞きたくなる。
でも、そんなことを聞いても君は呆れた声で有耶無耶にしてしまうんだろうね。
だからさ……。
「あずにゃん……」
「何ですか?」
「私のこと、好き?」
「何ですか、いきなり」
私の質問を聞いて、あずにゃんがギターを弾くのをやめて振り向く。
「ねぇ、好き?」
あずにゃんは少しの間をおいて、好きですよと言った。
「本当に?」
「好きじゃなかったら、付き合っていませんよ」
それだけ言うと、あずにゃんはまたギターを弾きはじめる。
私は耐えきれなくなって、静かにあずにゃんに近寄る。
「それって、どういう意味の好きなの?」
「えっ?」
あずにゃんがもう一度振り返った時には、もうお互いの距離は30センチも無かった。
「ゆ、唯先輩……」
「ねぇ、本当に私のこと好きなの?」
じりじりと寄っていくと、あずにゃんは息を詰まらせて後ずさった。
「私、本気なんだよ?」
あずにゃんはそれでも私を受け入れない。目を逸らして口をパクパクさせて何も言わない。
「っ!!」
私は痺れを切らしてあずにゃんの唇を奪った。
「んんっ! ちょ……! 唯先輩……!」
「はぁ……! んちゅ……!」
キスの合間にギターを取り上げ、そばに下ろす。
「お願い……! やめて……!」
床へ無理矢理に組み伏せると、あずにゃんが涙目で訴えかけてくる。
「もう、我慢できないんだよ……。限界なんだよ……!」
「待ってください! 私……!」
目の前には必死に私を拒むあずにゃんがいた。こんなに体を震わせて、涙目で……。
「……ねぇ、何でだめなの? ねぇ……」
「……」
その問いに、あずにゃんは口を固く閉ざして答えない。
「ねぇ……、あずにゃん……ぐすっ」
私は辛くて、本当に辛くて自然と涙が流れていた。
「ねぇ! 何で!? 何でよ……」
あずにゃんの胸に顔をうずめてむせび泣く。
「唯先輩……」
「私じゃだめなの!? ねぇ……」
「……ごめんなさい」
「何で謝るの……? 何で謝るのぉ……!」
謝ってほしくなかった。
謝ることの意味を考えたくなかったから……。
私のこと、受け入れられませんという意味なのか……。
それとも、他の意味なのか……。

泣きじゃくる私を抱きながら、少しの間をおいてあずにゃんが謝罪の理由を言った。
「……だって、不安にさせたから」
「……何さ! 今まで何もさせてくれなかったくせに……!」
キスだって、えっちだって、恋人らしいこと何一つさせてくれなかったくせに……!
床に押し倒されたまま、あずにゃんがそっと私の頭を撫でる。
「うぅ……、ばかぁ……」
「私のせいで、ごめんなさい……」
「好きって言ったくせに……」
「それは本当です」
「嘘……」
「嘘じゃないです」
「嘘……!」
こんな時ばっかり恋人らしくなってさ……。
もう、何もかもわからなくなってきたよ……。
あずにゃんが少しため息をついて、私の頭を抱きしめながら話し始めた。
「唯先輩……聞いてほしいことがあるんです」
「……やだ」
今、あずにゃんの話は聞きたくなかった。
今の私の頭の中はネガティブな思考で埋め尽くされているから、悪い方向に考えが流れる。
「……別れ話とかじゃないですから」
その私の思いを察してなのか、ゆっくりと頭を撫でながらあずにゃんが諭す。
優しく諭されている私が惨めだ。一方的にあずにゃんに迫って、断られて泣いて、慰めてもらってさ……。
でも、あずにゃんだからこそこんなこともできる。
私の弱い所をさらけ出しても、受け止めてくれる。
「……じゃあ、聞く」
涙でぐしゃぐしゃになった顔を見せたく無くて、胸にうずめたまま話を促した。
「私、不安だったんです。唯先輩とこういう関係になることが怖かったんです……」
「……」
「この思いが届くとも思っていなかったのに、告白されて、恋人同士になって……、私の思い描いたような未来が来た」
「でも、私達の先は? このまま進んで、未来があるのかなって……」
きゅっと私を抱く力が強くなった。
「唯先輩が好き。大好き。だからこそ、お互いの未来を考えると……、このままじゃ……」
あずにゃんの声が震えていた。
「このままいって、幸せになる見込みがあるのかって……。むしろ、別れたほうがいいんじゃないかって……!」
「……あずにゃんはバカだね」
胸から顔をあげると、泣いているあずにゃんの顔が見えた。
「じゃあ、なんで私の告白を受けたのさ……」
「だって……好きなんだもん……!」
「あそこで終わっていれば、こんな思いせずに済んだのに……!」
あずにゃんも泣きながら私に反論してきた。
「……唯先輩こそ、告白なんてしなきゃ……」
「だって……好きなんだもん……!」
お互いに涙目で、こんなに必死で。
そして、こんなにも好きで……。

「あずにゃん……もう一度聞くよ? 私のこと、好き?」
涙が流れていたけど、あずにゃんは笑顔をつくって私を見つめて言った。
「……好きです。大好きです」
「だったら、最後まで好きでいてよ……」
私はあずにゃんの頬に手を添えて、ゆっくりと近づいた。
「どんなことがあっても、私を……好きでいてよ……」
あずにゃんは少し考えると、口を開いた。
「本当に、あなたには敵いませんね……」
あずにゃんが私の首に腕をまわしてきた。
「もう絶対別れてやらないです」
「うん。ずっと、ずぅーっと一緒……」
そして、お互いに唇を重ね合い、今まで抑えていた欲望を満たしたのだった。
何度も、何度も、時間の許す限り……。

翌日。
「ふふふ~♪」
「唯、上機嫌だな」
「えっ? わかるぅ?」
「うん。気持ち悪いほどにな」
人がいい気分なのに、その顔を見て気持ち悪いとは失礼な。
まぁ、どうでもいいけどねぇ~♪
「実はあずにゃんとキスできたんだよ!」
「へぇ、そりゃよかったな」
「うん! それで、勢いに乗ってあずにゃんとえっ……」
「ストオオオォォップ! それ以上言うなぁ!」
「えっ? 何で?」
「あのなぁ……、一応ここは部室なの。学校なの。全年齢版なの。自重してくれ……」
「だってりっちゃんのおかげだから、とりあえず結果報告と言うか……」
「いや、しなくていいし……」
「それと、また相談なんだけどさ……」
「今度は何だよ……」
「テクニックというか何というか……」
「何で私に聞く……」
「だって澪ちゃんと○○とか××とかして……」
「な、なんでそれを……!」
「あ、本当にしてたんだ」
「なっ……! おま……」
驚きで目を見開いて、りっちゃんが口をパクパクさせている。
「ふふふ、修行が足らんぞ、りっちゃん」
「は、謀ったなああぁ!」
「ちょ! ごめんって! 本気で叩かないで!」
「唯のばかあああぁ!」

END


  • あずにゃんは不安かもしれないけど唯先輩がいつまでも居てくれる。未来はある!
「人間をつくるのが理性であるとすれば人間をみちびくのは感情である」 J=J・ルソー
18世紀フランスの思想家

さらに
「成功は大胆不敵の子供である」 B・ディズレーリ 19世紀イギリスの政治家 と言う名言がある!なので頑張ってくれ。 -- (あずにゃんラブ) 2013-01-10 20:32:37
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最終更新:2011年02月03日 03:06