先輩達の色々な事情が重なり、今日の部活は休みとなりました。
唯先輩は居残り勉強、律先輩と澪先輩は買い物、ムギ先輩は掃除当番…と皆さんからそういう内容のメールがきて。
というわけで、今日は一人で
帰り道を歩いています。一人で部活するわけにもいきませんしね。
…うーん、いつも先輩方と一緒に帰っているから、少し寂しい。
こんなに静かに帰るのは久しぶりだ。
…いや、嘘をつくのはやめましょうか。
この寂しさは、唯先輩がいないからだ。
さっきから唯先輩のことが頭から離れない。
「今日一緒に帰ろうね」なんて言いながら居残りって。
無責任な発言はやめてほしいです。
彼女を一人で帰らせるなんて信じられません。
襲われちゃいますよ?私。
大体メールとかでなく直接教えてくださいよ。もしくは電話。
大事にしてくださいよ!
なんて。悶々と愚痴を心の中で零す。
…えぇ、私は、唯先輩の彼女です。
そして唯先輩は私の彼女です。
面倒臭いです…
唯がよく使う表現なので、つい私も使ってしまう。
…まあ、構いませんが。
はぁ、と今度は声に出して息を零す。
そういえば最近二人きりになれてないなぁ。
寂しいよ。唯先輩。
と、思っていると、前方に律先輩と澪先輩が歩いているのが見えました。
ビニール袋を持っているところを見ると、買い物帰りでしょうか。
そこで私はお二人に声をかけようと思ったんですが…
何だか二人を取り巻く空気が怪しい。
どちらも無言で歩いている。
なんだろ…まさか喧嘩!?
と一人勝手にオロオロしてたら、澪先輩の空いている方の手がおずおずと律先輩の手に触れ…
律先輩はその手をギュッと握って、指を澪先輩のと絡ませて…
恋人繋ぎ。をしていました。
…いえ、お二人が交際しているのは知っているのですが。
お二人共特に人前でいちゃつくようなことはしてなかったんですよね。
それを今目の当たりに。
しかも…まるで初めて手を繋いだみたいな空気…
いや、きっとそうです…
というわけで、私は別の道を回って帰りました。
あの雰囲気は邪魔しちゃ駄目です。
部屋に入り、ベッドに寝転り、ふと考える。
「恋人繋ぎ…」それは、まだ経験してないなぁ。
というか、意識してしっかり手を繋いだことあったっけ。
…無い気がする。
いつもは、唯先輩からのハグばかりだし。
…実は、ち、ちゅーなんかは経験済みだったり
…あれ?…私たち順序を飛ばしてませんか。
それにしても新鮮だった。
律先輩の紅潮した頬と、ぎこちなく指を絡ませる姿。
澪先輩の赤くなりながらも、凄く嬉しそうな表情。
純愛って感じがする。
正直、そういうのは憧れる。
あ、いや別に今のに不満があるわけじゃないです。
ただ唯先輩と一緒だといつもくっついてばかりで…あの人には恥じらいが無い。
嫌じゃないんですけど、ね。
でもそういうのも大切だと思うから。
唯先輩と、恋人繋ぎ…
彼女、っていうより…恋人。
えへへ…
そして、翌日の帰り道。
他の先輩方と別れ、先輩と二人きり。
「昨日はごめんね、
あずにゃん」
「全く…なんで居残りなんか…」
「いやぁ久しぶりに赤点とっちゃってねー…」
「大丈夫なんですかこの時期に…」
「駄目だろうねぇ」
「私の為に成績を上げてください」
「あずにゃん寂しかったんだねぇー」
なんて呑気に笑う唯先輩を睨みながら、歩くペースはゆっくり。
今日は昨日の分もお話して帰るんだ。なんて考えたり。
そして今日は…
「あっ」
そこで私は今更気付いた。
話に夢中で気付かなかった。
唯先輩手袋つけてる…
一昨日はつけてなかったはず…
「どうしたの?あずにゃん」
「先輩、手…」
「んー?あぁ手袋…今日は特に寒そうだったからつけてきたんだよぉ」
ぶーくろちゃん!とか言って私に見せつける。
…手袋のことをこんなに疎ましく思ったのは初めてかもしれません。
タイミング悪いです…なんで今日…
「マフラーは忘れちゃったんだけどね」
「抜けてますね」
「えへへへへぇ」
「褒めてないんですけど…」
「ほらぁぶーくろちゃん!私の彼女さんだよー」
…んー…
こうなったら昨日の澪先輩に学ばせて頂こう。
確か、こうおずおずと唯先輩の手に触れて…
「んー?あずにゃんも寒いのー?」
「あ、いえ、そういうわけでは」
「それじゃあ、片方貸してあげようか?」
「いえ…いいです」
駄目だ…この人には通じないようだ。
ていうか澪先輩は天然であれやってるんだろう。うーん…凄いなぁ。
じゃあ…話題をふって…
「そ、そういえば昨日は帰る途中律先輩と澪先輩に会いました」
「へー、買い物だったっけ?」
「はい、確か」
「ふむ…」
「そ、それで二人が不意にですね…って、どうしたんですか唯先輩」
「なんかお腹空いちゃったなぁ」
「…はぁ」
「私たちも買い物しよっか」
「………はぁ」
「はぁ、肉まん美味しい」
「…」
んー…
からし付けすぎました。からい…
はぁ。どうやったら唯先輩と恋人繋ぎできるのかな。
肉まんを持つ手で更にバリケードは強くなる。
どうすれば…
「あずにゃん…本当にごめんね」
「えっ?何がです?」
「昨日の事まだ怒ってるよね…」
「へ、いや、そんな」
「あずにゃんずっと難しい顔してるし…」
しまった、顔に出ていたか。
「違います!ちょっと…考え事というか…」
「何の?」
あなたと手を繋ぐことです。
何て言えるはずもなく。
「悩みがあるなら何でも言って?」
「いえ、別に…」
「頼っていいんだよ!あずにゃんは私の彼女なだから」
………
「じゃあ、唯先輩」
「ん、なあに?」
「私、彼女は嫌です」
先輩の顔から笑顔が消えた。
「えっと…どういう、こと…」
動揺したかの様に目を泳がす唯先輩。
…あ、しまった、さっきのじゃまるで別れ話を切り出したみたいだ。
違う違う。そういう意味じゃなくて…
と、そこで私は急いで唯先輩の食べかけの肉まんを奪って、一気に飲み込み。
先輩の手袋を外し…
ギュッ
「恋人、がいいです」
なんて。
いいながら指を絡ませる。
暖かい。それでいて、少し汗がついてるのか、しっとりしてる。
あぁ、これが恋人繋ぎ。
ワクワクしてドキドキしてる。
うん、純愛っぽい。
当の唯先輩は少し目に涙を溜め、驚いているような表情をしている。
「…びっくりさせないでよー」
「す、すいません…」
「別れたい、とか言われるかと思った」
「まさか」
有り得ない。
唯先輩と一緒に帰れなくなるのは、嫌。
こんなふうに。
「肉まん、後でまた買いに行きます」
「うん…えへへ、なんか恥ずかしいね、これ」
「そ、そうですね」
「なんか私たち、恋人同士っぽい」
「そうでしょう…」
「確かに、彼女っていうのも、ややこしいしねー」
「はい、唯先輩だって可愛いんですから…」
「…あ、あずにゃん…」
「あ、いえ、その…」
「ふふふ、あずにゃんも可愛いよ」
「…うるさいです…」
…という感じに、その後は無言で帰りました。
律先輩と澪先輩のお気持ちが今なら解ります…
恥ずかしくて、嬉しい。
あぁ、私たち今、純
愛してる。
私たち今、恋人してる。
END
- 良いなぁこういう純愛話…ほっこりするよね^^* -- (るん) 2012-05-12 04:58:25
- ビバ!!純愛 -- (あずにゃんラブ) 2012-12-29 09:53:49
最終更新:2011年02月09日 22:49