梓「ん…あれ…?」
ぼやけた視界に広がっているのは、夕日に染まった部室。
見慣れているはずの光景なのに、一瞬自分がどこにいるのか分からなくなる。
唯「うーん…」
ふと体の左側に目をやると、そこには私に寄りかかって眠る唯先輩の姿があった。
ああ、そっか…私たち、学祭が終わって寝ちゃったんだ…
梓「…先輩、唯先輩」
唯「むにゃー…」
梓「先輩ってば、起きてください!」
唯「いでっ!」
ほっぺをつねると、ようやく唯先輩は目を覚ました。
すっかり熟睡していたらしく、不機嫌そうな声を上げて辺りを見渡している。
唯「うー…あれ?ここは…」
梓「部室ですよ。私たち、寝ちゃってたみたいです」
唯「あ、そっかー…あれ?皆は?」
梓「そういえば…いないですね」
辺りを見渡すと、荷物はそのまま置いてある。
学校にいるのは確かのようだ。
梓「教室にでも行ってるんじゃないですか?」
唯「ふーん…わぁ!
あずにゃん見て見て!夕日がきれいだよ!」
唯先輩が窓を開けると、夕方の涼しくてさわやかな風が顔に当たる。
その風に髪をなびかせながら外の景色を眺める唯先輩は、なんだかいつもより大人びて見えた。
唯「…ねぇ、あずにゃん」
梓「は…はい?」
唯「ライブ、楽しかったねー」
梓「それ、さっきも言ってませんでした?」
唯「え、そうだっけ?寝てる間に忘れちゃったよ」
梓「もう…」
でも確かに、今日のライブを終えて抱いた気持ちを表すのに一番しっくりくる形容詞は、『楽しい』だと思う。
そしてそれは、他の先輩たちも同じなんじゃないだろうか。
梓「…そう、ですね。私もすごく、楽しかったです」
唯「でしょー?とっても楽しかったよねー♪」
梓「はい…ってちょ、唯先ぱ…」
しんみりしかけたかと思いきや、唯先輩はまたしても私に抱きついてきた。
抵抗しようとしたものの、そのぬくもりに心地よさを感じてしまって、結局されるがままになる。
梓「…なんか唯先輩、昨日から抱きついてきてばっかですね」
唯「最近あずにゃんに会えてなかったからねー♪取り返さなきゃだもん」
梓「別に取り返す必要はないと思うんですけど…」
唯「えー?あずにゃんだって私に会いたかったくせにー」
梓「そ、そんなことないです!何言ってんですかもう!」
唯「だって今のあずにゃん、なんだか嬉しそうな顔してるよ?」
梓「なっ…」
私は急に恥ずかしくなった。無意識のうちに、そんな顔をしていたのだろうか。
…まぁ、不快でないことだけは事実なんだけど。
梓「これからはって、今までだってくっついてきてたじゃないですか」
唯「そうかなー?」
梓「…まぁ、別にいいんですけど」
唯「え!それって私のこと大好きってこと?」
梓「ち、ちが!なんでそうなるんですか!?」
唯「いいじゃーん!私もあずにゃんのこと大好きなんだからー♪」
梓「それは唯先輩が一方的に言ってるだけであって……」
ああだこうだと言い合いながらも、私は唯先輩の腕の中にいる。離れようと思えば離れられるけど、私はそうはしなかった。
その理由は…ライブを終えて、機嫌がいいから。多分そうだ。そういうことにしておこう。
だから…もう少しこのまま唯先輩のそばにいても、いいよね。
おわり
最終更新:2009年11月15日 03:25