唯「……ただいまー……えっと、あずにゃーん?」
梓(寝たふり、寝たふり……ん、唯先輩、気配が近づいてくる)
唯「あ、いたいた。ちゃんと約束守ってくれたんだ……」
梓(私は約束は守る女ですからね)
唯「かわいい寝顔……ふふ、
あずにゃんはやっぱりかわいいねぇ」
梓(あ、頭撫でられてる……気持ちいい)
唯「……」
梓(もう、そんな無心に撫でないでください……気持ちよすぎて、本当に寝ちゃいそうです)
唯「ごめんね、変なお願いしちゃって」
梓(って、自覚してたんですね)
唯「でもね、こういうのやってみたかったんだ」
梓(そうなんですか)
唯「帰って、ベッドを見たらそこであずにゃんがすやすや寝てるの……ふふ、そんなの普通じゃありえないもんね」
唯「……そのね、普通じゃないのをね、一回でいいから味わってみたかったの」
梓(……唯先輩?)
唯「あはは、変だよね、こんなの――わかってる、自分でも」
唯「だから、あと少しだけ、ね。あずにゃんが寝てる間だけ、この気持ちに浸らせてね」
梓(……唯先輩、それって……?)
唯「いいよね、今だけ――あずにゃんは、私の恋人」
梓(……っ!)
唯「大好きな大好きな、私だけのあずにゃん」
梓(ゆい、せんぱい……)
唯「――えへへ、なんでだろ、嬉しいのに……なんで、なんで涙がこぼれちゃうんだろ」
梓(……唯先輩)
唯「笑わなきゃ、あと少しだけなんだもん。今だけは、私の夢、叶ってるんだから」
梓(唯先輩……っ)
唯「あと、少しだけ。それが過ぎて、終わったら――また」
梓「唯先輩!」
唯「ふぇ?え、あ、あずにゃ――っ!?」
梓「唯先輩、私、正直混乱してます」
唯「え、あ……?と、というか、あずにゃん、寝てたんじゃ……っ」
梓「いいえ、寝付けませんでしたから、寝たふりしてただけです」
唯「……じゃ、じゃあ!さっきまでの……っ!」
梓「はい、全部、聞いてました」
唯「や……っ!な、なんでっ!」
梓「ちょ……唯先輩、暴れないでください」
唯「やあっ、やだぁ!あずにゃんに嫌われちゃう……!」
梓「ああもう!おとなしくしてください!というか、嫌いになったりしてませんから!」
唯「嘘だもん!だって、だって……」
梓「ああもう、というか、嫌いになった相手をこうして抱きしめたりなんかしませんから!」
唯「あっ……」
梓「はあ、とにかく落ち着いて聞いてください」
唯「……」
梓「えっと、とりあえず混乱はしましたけど……嫌いになったとかそういうのはないです」
唯「……うん」
梓「というよりですね、自分でも不思議だったんですけど、全然嫌じゃなかったんですよ」
唯「……え?」
梓「だから、唯先輩さっき言ってましたよね。今だけ私は……唯先輩の恋人だって」
唯「そ、それは……」
梓「というかですね、実は私も同じこと考えてましたから」
唯「え?」
梓「ベッドに潜って先輩の帰りを待ってるとき――これって、まるで私が唯先輩の恋人みたいって」
唯「あ……」
梓「嫌じゃなかったんですよ、それも。そして、唯先輩にそのあと、そうされたことも」
唯「あずにゃん……」
梓「だから――つまり、そういうことです」
唯「どういうこと?」
梓「って、なんでそこできょとんとした顔するんですか!も、もう、ここまで言えば全部言ったようなもんじゃないですか!」
唯「へ?え、え?」
梓「だからつまり……もうこの合鍵は返さなくていいですよね?ってことです」
唯「あ……えっと……ほんとに?」
梓「そうです、唯先輩と私は同じ気持ちってことです」
唯「……ふふ」
梓「……何がおかしいんですか」
唯「いやだってさ、そこまで言っておいて……あずにゃん、その言葉言ってくれないんだもん」
梓「ああもう!だって、恥ずかしいじゃないですか!」
唯「そういう遠まわしなほうが恥ずかしい気もするけど」
梓「そんなことないです!」
唯「あずにゃん、好きだよ?」
梓「――っ」
唯「はい、あずにゃんも」
梓「う、うう……す、好きです、唯先輩」
唯「はい、よくできました……えへへ、これで私とあずにゃん、恋人同士だね」
梓「そう、なりますね」
唯「……なんか夢みたい――私ね、ずっとずっと夢見てたんだよ。あずにゃんとこうなること。ああ……ひょっとしたら、夢なのかな、これ」
梓「夢なんかじゃないですよ、ちゃんと現実です。私と、先輩の現実ですから」
唯「……えへへ、そう、でいいんだよね」
梓「そうですよ」
唯「じゃあ、あずにゃん……ね、証明、して?」
梓「証明、ですか?」
唯「うん、私がね、あずにゃんの恋人だってこと……このまま、証明して欲しいの」
梓「……じゃあ、私にも証明してください。私が、唯先輩の恋人、だってこと」
唯「えへへ、そうだね……じゃあ、証明しあおっか?」
梓「はい……いっぱい、しちゃいますから」