オリキャラ(二人の子、柚と愛)注意
柚…唯似、6歳
愛…梓似、5歳
「ごはんたべてからです!」
日曜日のお昼前。リビングの方から聞こえてきた愛の声に、
私は昼食を準備する手を止めた。
包丁を置いてリビングを覗きこむと、想像通り、
愛に怒られている柚の姿が見えた。
「えぇ~……ねぇ、あい~、ひとくちだけぇ~」
「だめです! ごはんたべてからです!」
テーブルの上のチョコ菓子を手で押さえ、しっかりした口調で愛が言う。
「いまおかしなんかたべたら、
あずさおかあさんのごはんたべられなくなるです!
だからだめです!」
「うぅ……でもぉ……」
ちょっと涙目で、未練がましくお菓子の袋の端を指でつまんでいる柚。
でも愛は、その袋をあけることを決して許さない。
こういうところを見ると、愛の方がまるでお姉ちゃんのようだった。
平沢家の血の影響か、それとも私と唯に似ているからか、
普段は柚よりも年下の愛の方がずっとしっかりとしているのだ。
「ほら、おねえちゃん! おかしたべるひまがあったら、
あずさおかあさんのおてつだいするです!」
「はぁ~い……」
注意する愛とちょっとしょぼんとする柚の姿に、
昔の自分たちが重なって見えて、私は小さく吹き出していた。
その笑い声に気付いたのか、柚がイスから飛び降りて、
私の方に駆け寄ってきた。
「あずさおかあさ~ん、おなかすいたよぉ~」
私のエプロンを掴んで、足をパタパタと動かす柚。
その頭を撫でてあげながら、
「ごめんね、柚。もうちょっとだけ待っててね」
と優しく言う。そんな私たちを見て、
「ほんとにおねえちゃんはしょうがないんですから」
愛がちょっと頬を膨らませた。
そんな愛を近くに呼んで、その頭も撫でてあげる。
「愛もごめんね。もうちょっとだけ我慢してね」
「わたしはへいきです。がまんできるです」
「わ、わたしだってがまんできるもん! あずさおかあさん、
わたしもちゃんとがまんできるよ!」
「うん、そうだよね。柚だって我慢できるよね」
そう言いながら二人の頭をまた撫でてあげると、
柚も愛も少しくすぐったそうな笑みを浮かべた。
そしてその笑顔は、
「ただいまぁ!」
「あ、ゆいおかあさんだ!」
「ゆいおかあさんです!」
玄関から唯の声が聞こえてくると、弾けるような笑顔へと変わっていた。
でも私は、二人のようにはちょっと笑えなかった。
なぜなら、
「あれ、この匂い……」
玄関から漂ってくる、香ばしくて甘い匂いに気がついたからだ。
嗅ぎなれたこの匂いは、ひょっとして……そう思った私の想像そのままに、
「ごめんねぇ、ちょっと遅くなっちゃった」
リビングに入ってきた唯の腕には、タイヤキ屋さんの紙袋が抱えられていた。
「もうっ、唯ったら……
これからお昼ご飯なのに、
タイヤキなんか買ってきて……」
「ごめんね、
あずにゃん。でも、
あんまりおいしそうな匂いだったから、つい……」
頼んだのは足りない調味料だけだったのに、
どうしておやつまで買ってくるのか。
ちょっと怒った口調で私が言うと、
唯は少ししょぼんとした表情を浮かべた。
まるでさっきの柚と愛のようなやり取りだ。
「ゆいおかあさん、おかしはごはんたべてから、なんだよ!」
さっきの愛を真似るように柚がそう言った。
柚の言葉に、唯は大げさな動作で身を震わせて見せる。
「おおぅっ……あずにゃ~ん、柚にも怒られちゃったよぉ……」
「当然でしょ。これからお昼ご飯で、柚もお菓子我慢したのに、
唯がタイヤキ買ってきてどうするのよ」
「あうぅ……柚ごめんねぇ、ダメなお母さんを……
グスッ……許してねぇ……」
「……でもたいやき、おいしそう……」
「でしょ! スーパーの前のタイヤキ屋さんが、今日は珍しくすいててね。
できたてのタイヤキも美味しそうで、もう我慢できなかったんだよぉ」
一瞬落ち込んだような態度を見せたものの、
すぐに嬉々とした表情を浮かべて、唯は紙袋の口を開けた。
途端、先程微かに感じた、香ばしく甘い匂いが周りに広がる。
スーパーの前の、この辺では人気のタイヤキ屋さん。
いつも混んでいて、近所なのになかなか買えないタイヤキだ。
その人気に見合うおいしさで、
もともとタイヤキが好きな私と愛は大好物で……と思ったところで、
さっきから愛が一言も言葉を発していないことに気がついた。
「愛?」
どうしたのだろうと視線を向けると……
愛は唯が持っているタイヤキから目を離せないでいた。
大好物のタイヤキを前に目を輝かせ、
ちょっと心ここにあらずといった風にすら見える。
さきほどはしっかり者として柚を注意した愛だったけれど、
やっぱりまだまだ子供で、
大好物を前にしては冷静ではいられないようだった。
そんな愛の様子に苦笑を浮かべ……できたてのタイヤキのいい匂いに、
私も誘惑されてしまう。
ご飯前に甘い物を食べるのは良くないけれど、
でもなかなか買えないお店のできたてだ。
冷ましてしまうのももったいない。それにたまの日曜日、
ちょっとぐらいお行儀を悪くしてもいいのではないだろうか。
そう思い、そして、
「あずにゃん」
エヘヘと笑う唯の顔がとどめだった。
「そうだね……ご飯前だけど、味見に一個ぐらいなら、いいかな?」
私がそう言うと、唯と柚が顔を見合わせて満面の笑みを浮かべた。
私も頬を緩め、愛も喜ぶだろうと目を向けると、
「わ、わたしはいらないです!」
顔を俯けて、愛はそう言った。
予想外の言葉に、私はちょっと驚いてしまう。
ひょっとしてお腹でも痛いのだろうか、
そう思い、私が愛に聞くよりも先に、
「あい? たいやきだよ? たべたくないの?」
愛の隣にいた柚が、そう聞いていた。
愛の顔を覗きこみ、ちょっと心配そうな声音で言う柚。
そんな柚に、
「た、たべたいです……でも……でもわたし、さっきおねえちゃんに……」
愛はそう言った。そこまで言ったところで黙り込んでしまうけれど……
そこまで聞けば、愛の気持ちを理解するには充分だった。
きっと愛は、さっきのことを気にしているのだ。
ご飯の前だから、お菓子を食べたりしたらダメだと、愛は柚に注意していた。
それなのに、いくらお母さんに許されたからといって、
自分が大好物のタイヤキを食べてしまうのはズルイと思っているのだろう。
大好物のタイヤキを前に、愛はきゅっと唇を閉じて、俯いていた。
ほんとは喜んで食べたいだろうに、
さっきのことを気にして我慢している……
しっかり者だけど、融通が利かなくて
自分を傷つけてしまうようなところが愛にはあった。
今がまさにそうだった。
ちょっと泣きそうな表情を浮かべている愛に近づき、
そんな風に我慢しなくても大丈夫なんだよ……
そう言ってあげようとした私を、
「あずにゃん」
唯が止めた。驚いて唯の方を見ると、
まるで「大丈夫だよ」って言っているかのような優しい笑顔がそこにあった。
唯の笑顔を見て、ああそうだと、私も思う。
こういうとき、いつもあの子を助けてくれるのは……
「あい~」
聞こえてきた柚の声に、私は視線を戻した。
見ると……柚がタイヤキを持って、愛の前に立っていた。
笑顔でタイヤキを両手で持ち、
まるであ~んってするかのように愛に向かって差し出していた。
「あい~、いっしょにたいやきたべよっ」
「わ、わたしはいらないです……
これからおひるごはんですから……がまんするです……」
「うん、これからおひるだから、わたしといっしょにたべて、あい」
「……おねえちゃん?」
「おひるまえに、たいやきいっこたべたら、
わたしおなかいっぱいになっちゃうもん。
だからあい、たいやきはんぶんこして、いっしょにたべて!」
柚の言葉に、愛が目を丸くした。
驚いているような、ちょっと困っているような表情を浮かべて、
柚とタイヤキを交互に見て、
「……お、おねえちゃんがそういうなら、たべてあげるです……」
そう言って、愛が小さな口でかぷっとタイヤキに噛り付いた。
大好物のタイヤキに表情を緩め、でも笑顔の柚を見て、
ちょっと怒ったような表情を浮かべたりもする。
頬が赤いのは、きっと照れているからだろう。
「ありがとね~、あい~」
「お、おねえちゃんもたべるですっ、
わたしひとりじゃおなかいっぱいになっちゃうですっ」
「うん!」
愛に言われて、笑顔でタイヤキに噛り付く柚。
それから二人は、一個のタイヤキを代わりばんこに食べていった。
そんな二人を見て、やっぱり柚は愛のお姉ちゃんなんだと私は思った。
普段はだらしなくて、ちょっと頼りないところもあったりするけど、
愛が苦しんでいたり困っていたりするときにすぐに気付いて、
助けてあげるのはいつも柚だった。
そんな二人の姿に、やっぱり昔の私と唯が重なって見えて……
温かくも照れくさい感じを覚えてしまう。
そういえば昔は、私もよく唯に「あ~ん」ってしてもらったっけ……
そんなことも思い出していた。
そんな私の気持ちを察したかのように、
「エヘヘ……あずにゃん、私たちもタイヤキ、はんぶんこしよっかっ」
柚と愛の二人を見ながら、唯が笑顔でそう言った。
唯の顔を見つめて、私も笑みを浮かべながら言った。
「そうだね。お昼前にタイヤキ一個は、やっぱりちょっと多いもんね」
私の言葉に、唯が柚と同じように、タイヤキを両手で持って差し出した。
「あ~ん」と言う唯に誘われて、私はタイヤキに噛り付いた。
感じた甘さに、顔がほころんだ。
END
- なんか泣けた 素晴らしい -- (名無しさん) 2011-07-11 03:33:21
- 俺、鯛焼き屋になってくるわ。 -- (名無しさん) 2011-12-21 15:10:27
- 俺、鯛焼きになってくるわ。 -- (名無しさん) 2011-12-21 21:41:48
- 俺、鯛焼きの生地になってくるわ -- (名無しさん) 2012-01-12 15:03:33
- 俺、店のおじさんとけんかして海に飛び込んでくるわ -- (名無しさん) 2012-06-14 21:22:05
- たい焼き食べたい! -- (あずにゃんラブ) 2013-01-08 17:36:26
最終更新:2011年07月08日 22:39