オリキャラ(二人の子、柚と愛)注意
柚…唯似、6歳
愛…梓似、5歳
「あずさおかあさん、おはようです」
聞こえてきた朝の挨拶に振り向くと、台所の入り口に立つ愛の姿が見えた。
薄いグリーンのパジャマに身を包み、まだ少し眠たそうな目をこすっている。
私は濡れた手をエプロンで拭きながら、
「おはよう、愛」
笑顔でそう言った。
私の朝の挨拶を聞いて、愛が笑顔を浮かべて台所に入ってくる。
「あずさおかあさん、おてつだいすることあるですか?」
「ん~……それじゃ、テーブル、拭いてくれる?」
「はいです。まかせるです」
お手伝いを申し出る愛に布巾を渡すと、
愛はそれを受け取ってトテトテとリビングの方に駆けていった。
真面目でしっかり者の愛は、お手伝いもよくしてくれるし、
朝もちゃんと一人で起きてきてくれるのだ。
「それに比べて、まったく……」
未だ起きてこない二人の姿を思い浮かべて、私はため息をついた。
寝室の方は静かなもので、誰かが起きてくる気配は感じられなかった。
我が家のお寝坊さん二人組は、今日もまた熟睡中のようだった。
「仕方ない……起こしにいきますか」
コンロの火を止めて、私は寝室の方へと足を向けた。
寝室の二つくっつけたベッドの上では、唯と柚が二人並んで眠っていた。
二人揃って、横向きのくの字の姿勢。
布団を足下まで蹴飛ばして、枕の端に頭を載せて。
幸せそうな寝顔もまったく同じで、本当に似た者親子だと思わされる。
愛がカーテンをあけてくれたので、
寝室には朝の日の光がたっぷりと入っていた。
だけど二人に起きる様子はなく、
気持ちよさそうな寝息が寝室の入り口にまで届いていた。
「ほんとに、まったく……」
そんな二人の様子にため息をつきながら、
私は足音高くベッドへと近づいていく。
これで起きてくれれば楽だけど、
もちろんこの程度の足音で二人が起きてくれるわけがない。
ベッド脇に立ち、幸せな寝顔を間近で見ながら、またため息を一つ。
次いで、顔を二人の耳元に近づけて、
「唯! 柚! 起きる!!」
「「わっ!」」
私が大声を上げると、二人は同時にびっくりした声を出して、目を開けた。
「び、びっくりしたぁ……って、あ、あずにゃ~ん。おはよぉ~」
「あずさおかあさん、おはよぉ~」
「もうっ、おはよぉ、じゃないでしょ。二人ともいつまで寝てるの。
愛はもう起きて、
お手伝いしてくれてるんだよっ」
ベッドの上で上半身を起こす二人を見ながら、私は怒った声を出した。
両手を腰にあて、いわゆる仁王立ちのポーズで。
「そっかぁ。やっぱり愛は偉いねぇ。柚も見習わないとダメだよ?」
「は~い」
「唯もでしょ!」
二人ののんきなやり取りにまた怒った声をだし、
続けて注意をしようとした私だけど、
「よしっ、朝の
あずにゃん分、補給!」
「あずにゃんぶん、ほきゅー!」
「にゃっ!」
私のお説教が続くよりも先に、唯と柚の二人に抱きつかれてしまった。
首に腕を回した唯が頬ずりをしてきて、
腰にしがみついてきた柚が胸に顔を押しつけてくる。
二人のぬくもりに、もうそれ以上怒る気分は続かなくて、
「……もうっ、ほんとしょうがないんだから……
ほらっ、朝ご飯食べるから早くして」
苦笑を浮かべながら、私はそう言っていた。
唯の背中を軽く叩き、柚の頭を撫でてあげる。
二人は一度だけ腕に力を込めてから体を離し、
「は~い。いくよ、柚!」
「うん!」
そう言って、寝室を出ていった。
リビングに向かう二人の背中を見て、
それから皺だらけになってしまっているシーツを眺めて、
「朝のあいにゃん分、補給!」
「あいにゃんぶん、ほきゅー!」
「にゃっ!」
リビングの方から聞こえてきた三人の声に、私はまた、
「もうっ、ほんとしょうがないんだからっ」
と呟いていた。
「「「「いただきますっ」」」」
皆でテーブルを囲み、揃ってご飯を食べる。
今朝の献立は、塩鮭、ほうれんそうのおひたし、
きゅうりとなすの漬物、とうふとわかめのお味噌汁。
味付け海苔とふりかけはお好みで。
朝食がパンの日もあるけれど、我が家ではご飯の方が圧倒的に多かった。
まぁ、ごはんはおかず、なので。
「それでね、ゆずちゃんもあいちゃんもじょうずねって、
せんせーにほめられたんだよ」
「おおっ、さすが私たちの娘っ!!」
「おかあさんたちのめーよにかけて、がっきでまけるわけにはいかないです」
「ふふ……じゃ、今日の演奏会の練習もがんばらないとね」
「うん!」
「がんばるです!」
皆でお話しながらの朝食はあっという間で、
すぐに家を出なければいけない時間になってしまう。
柚と愛が食器を台所に運んでくれている間に、
唯が二人の幼稚園の準備をしてくれる。
私は手早く食器を洗いながら、今日の予定を頭の中で整理していた。
小学校の先生をしている唯と、近所の楽器店に勤める私。
二人を幼稚園に連れていくのは唯の役目で、
夕方迎えにいくのは休憩時間をとりやすい私の仕事だった。
今日もその予定に変わりはなかった。
ちなみに放課後ティータイムは、今では社会人バンドとして続けている。
プロのお誘いがなかったわけではないのだけれど……
放課後ティータイムを仕事にしてしまうのは、
ちょっとなにか違うと思ったための選択だった。
放課後ティータイムは、やっぱり「放課後」だからこそだと、
皆が思ったためだった。
「柚ー、愛ー、そろそろ行く時間だよぉ」
「はぁーい」
「はいです」
唯に呼ばれ、柚と愛が廊下を駆けていく。
朝、二人のお着替えを手伝うのも唯の役目だった。
未だにちょっとだらけてしまうところもあるけれど、
でも母親になって、唯も大分しっかりするようになってきていた。
「あ、あずにゃ~ん! 私のストッキング、持ってきてぇ~!」
「……もうっ」
まぁ、自分のことではやっぱり、
だらしないところの方が多かったりするけど……。
「よしっ、準備完了!」
「かんりょー!」
「かんりょーです」
身支度を整えた三人を見送るため、私も玄関に立つ。
楽器店が開くのはもう少し先のため、
私だけ家を出る時間は少し遅めだった。
「それじゃ、あずにゃん、戸締りお願いね」
「うん。柚、愛、行ってらっしゃい。気をつけてね」
「うん!」
「あ、はいです」
私の言葉に、元気いっぱい返事をする柚。
でも愛は、なぜかちょっと言いよどんで……
もじもじする様子を見て、それがなぜなのかを私はすぐに察した。
「ほらっ、愛、おいで」
私は少し身を屈めて、両手を広げる。
そう、今朝はまだ、私と愛の二人はスキンシップをしていないのだ。
唯と柚は私に抱きついて、それから愛にも抱きついて、
しっかりお互い補給をしているけれど、私と愛の二人はまだだった。
でも愛の性格上、自分から素直に抱きついてくることは滅多にない。
だからちゃんと、こっちから誘ってあげないといけないのだ。
腕を広げる私を見ても、愛はまだちょっと逡巡していたけれど……
私が笑顔でもう一度名前を呼ぶと、トテトテとこちらに駆けてきた。
そんな愛を、私はぎゅっと抱きしめた。
「あいにゃん分、補給っ」
「……あずにゃん分、ほきゅう、です……」
私が笑顔で言うと、愛がちょっと照れたような小声でそう言った。
寝室での柚のように、腰に手を回して、胸に顔を押しつけてくる。
しっかり者で真面目な愛だけど、でもやっぱりまだ子供で、
柚と同じように甘えん坊なところもあるのだ。
そして、そんな子供をぎゅっと抱きしめてあげたくなるところは、
スキンシップ好きの唯と私も変わりがなかった。
「私も! あずにゃん分あいにゃん分、追加補給!
もちろんゆずにゃん分も補給!!」
「わたしもほきゅー!」
「にゃっ……もうっ……私も補給!」
「ほ、ほきゅーです!」
朝家を出る前に、みんなでぎゅーぎゅー抱き合って……
結局みんな似た者親子の平沢家。
スキンシップはいつもたっぷりだった。
「それじゃ、行ってきます!」
「いってきます!」
「いってきますです!」
「はい、行ってらっしゃい!」
笑顔で玄関を出る三人を、私は笑顔で見送った。
今日もいつもと変わらない、一日の始まりだった。
END
- この一家にいたら幸せに暮らせそうだな〜 -- (名無しさん) 2012-01-12 15:07:47
- いや〜♪本当に幸せそうだ。いや、そうだじゃなくて、なんだ、だ。ニコニコしてしまう -- (あずにゃんラブ) 2013-01-08 17:54:44
最終更新:2011年07月08日 23:41