味噌汁のいい香りとトリートメントのいい香り
湿った長い髪をひとくくりにし食卓に着く
母と私のみの食卓、父は遅くなるらしい
自分から話そうとはしない、いつも母から問いかけてくるのだ
仕事はどう?とか恋愛はどう?とか
仕事は軌道にも乗り順調だ、しかし恋愛はどう?と聞かれると頭にクエスチョンマークが浮かぶ
気になる人はいないの?っと少し笑ったように投げかけてくる母
気になる人なんていない、小学生からそういう話は聞いていたのだが今までカッコいいとかこの人と付き合いたいなんて思ったことがない
梓「いないよ、そんな人」
ばっさりと言い放ちまた晩御飯を食べ始める
また会話は止みテレビの音が大きく聞こえる
次に口を開いたのもまた母だった
母「梓は結婚とか考えたことある?」
結婚という言葉を聞き口へ運ぶ手が止まる
たぶん私は嫌な顔をしていたと思う
そんな私の表情を読み取ったのかまだ話を続ける
母「梓にはまだ早いかな?」
梓「別に早くは・・・」
つい口走ってしまいはっとする
意地を張ってしまうのは昔からの悪い癖だ
ちゃっちゃと食べ終えると食器を流しに入れ自室に戻る
何か思い当たることがある、なんだろう
ベッドへ潜り心につっかえた謎の気持ちを探る
仕事に悩み事なんてない、しかし恋愛、つっかえたのはこの辺りだ
好きな人はいない、ことになっている
最初はおかしいと思っていた、同性に好意を持つなんて常識はずれだと思った
でもその常識はずれな同性への好意を自分が持ってしまった
初めの頃はただたんに傍にいることが楽しかったしうれしかっただけなのだ
しかし大学へ行ってしまった1年間、私の胸は苦しかった
これが恋だと気付いた時には自分を責めたこともあった
それでもやっぱりその人を好きでいられたのはその人に魅かれるものがあったからだと思う
だけどその気持ちは伝えれなかった、というより伝えなかった
スキンシップはしていたもののあくまで先輩後輩の関係であってそういう好意はなかったはずだ
親友の憂にも、純にも相談できないまま成人し後悔したままなのだろうか
そんなの絶対に嫌だ
せめて、せめてこの気持ちだけでも伝えておきたい
もうフラれることなんてわかっていること、フラれて新しい恋を探そう
そう決心し自室で携帯を開ける
こんなに携帯を開けるのが重かっただろうか
カチカチカチと時計が時を刻む、まだ8時頃だ
電話帳にその人の名前があった
恐る恐るボタンに触れる、たぶん手は震えているのだろう
コールする電話、何回目だろう
ブツッと言う音がして向こうから雑音が聞こえる
心臓がバクバクと脈打つ
分かっていても怖い、あんな無邪気な笑顔を見せたあの人の顔が凍りついたと想像しただけで苦しくなる
「もしもーし?あずにゃん?」
携帯から聞こえる声にはっとする
深呼吸をし意を決める
「あの、こんな時間にすいません」
声は多少震えていたがなんとかごまかせたと思う
「別にいいよ、それでどうしたの?」
「話したいことがありまして・・・」
「ん?何々?」
「えっと・・・」
言葉が詰まる、この先の言葉は真っ白で思い浮かばない
少し間を開けゆっくり落ち着く
「あの、今一人ですか?」
「うん、そうだよ」
その方が話易いかもしれない
ここは単純に言ってしまおう、考えるだけ無駄だ
「率直に言います、貴女のことが、好き、でした」
「ほえ?私も好きだよ~」
完全に誤解されている
私はそういうそういう意味じゃないのに
その無邪気な貴女の発言が私の心を締め付けているのも知らずに
「いや、そういう意味じゃ・・・」
「うぅん、私あずにゃんのこと好きだよ?なんか伝えきれないくらいに」
「でも、可笑しいじゃないですか?だって女同士なのに」
「たとえそれが可笑しいって言われても、あずにゃんが私のことを好きって言ってくれたくらいに私もあずにゃんの事好きだよ、それに」
「それに?」
「ムギちゃんが教えてくれたんだ、あずにゃん私のことばっかり見てるって」
「な、ムギ先輩・・・」
「えへへーうれしいよあずにゃん、あずにゃんから告白してくれるなんて」
「そ、それはですね!」
また私の意地を張ってしまう悪い癖だ
でも今は違う、心の中からなんだか暖かかった
「ありがとうあずにゃん」
「へ?」
「私も迷ってたんだ、でもあずにゃんと同じ気持ちだと気付いたから」
「唯先輩・・・」
そういえば今日初めて名前を呼んだ気がする
「あ、そうだあずにゃん」
「はい」
「せっかく今日から恋人なんだし」
「恋人、ですか」
「下の名前で呼び合おうよ」
「え?下の名前ですか!?」
「そうだよ梓」
なんだか唯先輩から発せられた私の名前は優しく、そして激しく心を揺さぶった
もう後悔なんてしない、唯先輩と一緒なら法律だって乗り越えられる
そう決心した私が最後の告白
「ずっと、一緒にいてくださいね!唯」
「うん!」end


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最終更新:2011年07月13日 00:37