オリキャラ(二人の子、柚と愛)注意
柚…唯似、6歳
愛…梓似、5歳



夏のある日の午後。我が家のリビングでは、

「あ~つ~い~」

と言いながら、ソファーの上で唯がくったりしていた。
全身をだらしなく伸ばし、暑い暑いと同じ言葉を繰り返している。
そんな唯の姿を見て、いい大人がだらしないと思うけれど……
でも同時に、仕方ないとも思っていた。確かに今日は暑かった。
風もあまりなく、窓を開けても風鈴の音色もろくに聞くことができない。
エアコンは唯と柚が苦手なため滅多に使われることはなく、
頼りの扇風機は調子が悪くてお休み中で、帰宅は明日の午後の予定だ。
結果、今リビングは結構な暑さで、
唯がくったりしてしまうのも無理はなかった。

「ゆいおかあさん、むぎちゃです」

そんな唯を見かねたのか、氷と麦茶を入れたコップをお盆にのせて、
愛がリビングに入ってきた。

「まぁ! ありがとー、愛ー!」

麦茶を持ってきてくれた愛に目を輝かせて、
ソファーから起き上がった唯が愛に抱きつく。
突然のことに、愛は聞き覚えのある「にゃっ」という悲鳴を上げて、
コップが倒れないよう慌てていた。
そんな愛に唯は更に頬ずりをして、

「……あ~つ~い~」
「……です」

二人の表情はすぐにぐんにゃりとしてしまっていた。
それもまたどこかで見覚えのあるもので……
「ならやめろよ……」という澪先輩の声が聞こえたような気がした。

「それにしても、今日はほんと暑いね……」

手にした団扇で、唯と、抱っこされてしまっている愛を扇ぎながら、
私はそう呟いていた。

「ほんとだねぇ……今年の夏は特に暑い気がするよ」

唯が麦茶を一口飲んで、夏定番の台詞を口にする。
いつだってその年の夏は、前の年の夏よりも暑く感じてしまうものだった。

「そういえば、軽音部の部室も暑かったなぁ……」

ふと、私は高校の頃の、軽音部の部室のことを思い出していた。
長くエアコンがなかった軽音部の部室。
ドタバタの末にエアコンを設置してもらったけれど、
唯がエアコンが苦手なためにろくに使えなくて、
暑い日はいつも大変だった。でもその分、
ムギ先輩が持ってきてくれた冷たいお菓子やジュースを
本当に美味しく感じていたことも思い出す。
ムギ先輩の思い出につられるように、
軽音部の夏の思い出が他にも頭の中に浮かんできた。
あの暑い部室で、少しでも涼もうと、
唯とムギ先輩が水着姿になったこともあったっけ……

「じゃ~ん!!」

と、思い出に浸る私の耳に、柚の元気な声が聞こえてきた。
大人と違って、子供はいつも元気だよねと思いつつ入り口の方を見て……
私は目をぱちくりとさせてしまった。
リビングに入ってきた柚は、水着姿だったのだ。

「おぉ! 柚、それおニューの水着だね!」

リビングの入り口でなぜだか仁王立ちする柚に向かって、
唯がのんきにそんなことを言う。
柚が着ている水着は、確かにこの前買ったばかりの新しいもの。
淡いブルーの子供用ビキニだった。

「もうっ、柚、お部屋で水着なんて着ないのっ」
「えぇ~、だってあついんだも~んっ」

水着を着た柚を私は注意するけれど、
柚はそんなことを言いながらリビングに入ってきて、
床に座っている私に抱きついてきた。
無邪気に笑う柚を見て、私はしょうがないなぁと苦笑を浮かべながら、

「もうっ、お夕飯の前には、ちゃんと着替えないとダメだからね」

と言った。いつもだったらもうちょっとちゃんと注意をするところだけど、
さすがに今日の暑さでは、
少しぐらいは大目に見てあげてもいいかなと思えてくる。
扇風機だって今はないのだから。
私の言葉に、柚は「は~い!」と元気に返事をした。
そして私の腰に腕を回したまま寝っころがって、
バタ足をするように足をバタバタと動かす。
暑い暑いと言っても、やっぱり子供は元気だ。

「柚のおニューの水着、やっぱりかわいいね!」
「えへへ……はやくぷーるのひ、こないかぁ」

唯に褒められて、柚が笑顔を浮かべて更にはしゃいでみせる。
柚と愛の幼稚園は指定の水着がなく、派手なものでなければ自由なのだ。
新しい水着を着てプールに入るのは、やっぱり子供心にも楽しみなのだろう。
と、愛の方を見ると、
少し羨ましそうな視線を柚に向けていることに気づいた。
新しい水着を着てはしゃぐ柚を見て、
自分も水着を着たいと思ってしまったのだろう。
この暑さだし、それに新しい水着を買ったのは愛も同じだ。
水着にしろ、他の洋服や小物にしろ、
買ったばかりの新品というのはワクワクするもので、
ついつい部屋で試してみたくなるものだった。
それは愛だってもちろん同じだろう。

「愛もおニューの水着、着てみよっか?」

そんな愛の様子に唯も気づいたのだろう、
腕の中の愛の顔を覗きこむようにして、
笑顔を浮かべてそう言った。
真面目な愛は、その唯の言葉に、

「わ、わたしはきないです!」

と言った。でもそう言いながらも、チラチラと柚の方は見ていたりする。

「えぇ~、あいもみずぎ、きようよぉ~」
「せっかくだし、愛も着てきたら?
お母さんも、愛の新しい水着、また見たいから」

そんな愛に、柚がおねだりするような声を出し、
私は愛の頭を撫でながらそう言った。
唯も、優しく「愛?」と話しかける。
みんなにそう誘われて、

「……そ、それじゃ、すこしだけなら、きてみるです」

ちょっと恥ずかしそうに頬を染めながら、愛はそう言った。

「よし! じゃ、愛! お着替えタイムだね!」

愛の言葉に、唯は愛以上にはしゃいで見せながら、
愛を抱っこしたままリビングを出ていった。

「えへへ……あいといっしょにみずぎ♪ みずぎ♪」

愛が水着を着てくることが嬉しいのだろう、
柚が歌うような口調で「みずぎ♪」と繰り返す。
その声を聞きながら待つ私も、愛の水着姿がちょっと楽しみだった。
さっきは柚に注意をしたけれど、
でも新しいものを身に着けてはしゃぐ子供の姿は微笑ましく、
そして親にとってはとても嬉しいものだった。
自分たちが買ってあげたものを、子供が本当に喜んでくれている、
その姿こそ親には何よりも嬉しいお返しなのだ。

「お待たせ~!」

と、数分もたたずに唯がリビングに戻ってきた。
私は視線をそちらに向けて、「お帰り」と言おうとして、

「エヘヘ、どう、あずにゃん?」

何も言えず、また目をぱちくりとさせてしまっていた。
水着を着た愛と一緒に戻ってきた唯もまた、水着姿だったからだ。
しかもその水着は、高校の頃のスクール水着だった。

「あずさおかあさん、どうですか?」

この前買ったばかりの新しい水着を着た愛が、
トテトテと私に方に駆け寄ってくる。
私が高校の頃着ていた水着とよく似ている、
フリル付きのピンクのワンピース。
ちょっと恥ずかしそうにもじもじする愛の頭を撫でてあげながら、

「よく似合ってるよ、愛」

と私は言った。私の言葉に愛がはにかんだ笑みを浮かべた。

「エヘヘ……あ~ずにゃん、私は?」

続いて私の側に立ち、満面の笑みを浮かべながら唯がそう聞いてくる。
学生が着る紺色の水着を見て、私は深くため息を吐いた。

「あぅ……なんかあきれられてる!?」

私のため息に、大げさな仕草で唯が驚いて見せた。
そんな唯を見て、私はまたため息を吐いた。

「もうっ、あきれるに決まってるでしょっ。
いったいいつの水着を着てるのよっ」
「エヘヘ……いやぁ、この前押し入れの整理をしたとき、
偶然見つけまして、それで懐かしくってつい……
でもあずにゃん、ちゃんと着れてるでしょ?」
「う……それは否定しないけど……」
「でしょでしょ! ちょっと胸のところがきついけど、
でも体形、まだまだ頑張ってます!」

私の言葉に胸を張り、ふんすと息を吐く唯。
古い水着だけど、確かに唯はまだちゃんと着られていて、
それほど違和感もなかった。
そこはまぁ、素直にすごいと思ってしまう。

「じゃ、あとはあずにゃんだね!」

と、突然の唯の言葉と、一緒に差し出されたピンク色の布に、
私はまたも目をぱちくりとさせてしまった。
一瞬何を言われたかわからず、「え?」と小さく呟いてしまう。

「だから、あとお着替えするのはあずにゃんだけでしょ? だからはい!」

そう言いながら渡された布を、私は両手で持って広げた。
ピンクの正体がわかると同時に、唯の言葉の意味も理解できて、

「って、私も水着!?」

ついそんな大きな声を上げてしまう。
しかも渡された水着は、高校の頃着ていたあのピンクのワンピースなのだ。
懐かしの水着を渡されたせいで、余計声は大きくなってしまっていた。

「わ、私はいいよっ」
「え~、そんなこと言わずに着ようよぉ」
「あずさおかあさんもみずぎ♪ みずぎ♪」
「……です」

慌てて辞退しようとする私を、
でも周りのみんなは許してくれそうになかった。
唯はおねだりするような声を出し、
柚は歌うような口調で「みずぎ♪」と繰り返す。
その上愛まで、期待するような目で私を見てきて、

「はぁ……もう、わかりましたっ」

仕方なく、私はため息混じりにそう言っていた。
私の言葉に、みんなが手をあげて喜んだ。

「エヘヘ、あずにゃん、似合ってるよ!」
「あずさおかあさん、かわいい!」
「かわいいです」
「……それ、ちょっと複雑」

懐かしの水着を着てリビングに戻った私を、みんなの歓声が出迎えた。
でも私は複雑な思いだった。
古い水着は少し窮屈だったけれど、でもちゃんと着ることができて、
動くにも支障なかった。まだ体形を維持していると考えれば嬉しいけれど、
でも同時に女性としては成長していないようにも思えてしまい……
やっぱり素直には喜べなかった。

「もうっ、着るならせめて新しい水着にさせてよっ」
「え~、いいじゃん、似合ってるんだもんっ」

私は頬を膨らませてそう言うけれど、唯はのんきに笑うだけだった。
その笑みを見ていると、私の不満も長続きはしなくて……
最後は苦笑を浮かべながらも、しょうがないなぁと受け入れてしまう。
私と唯のこんなところも、学生の頃から変わっていなかった。

「エヘヘ……たまにはこんなのもいいよねぇ」
「まぁ、たまには、ね」

笑う唯に、私もそう返事をした。お部屋で水着を着ているのは、
やっぱりちょっとはしたないような気もするけれど……
でも洋服を着ているよりは涼しくて、たまには悪くないかな、
なんて思えてしまった。

「ざぶーん! ざぶーん!」
「にゃっ……もうっ、おねえちゃん、おかえしです!」

ソファーの上では柚と愛が、
まるでプールで泳いでいるかのような仕草ではしゃいでいた。
水着姿での涼しさを喜んでいる私とは違って、やっぱり子供は元気だった。

「エヘヘ……あずにゃん! ざぶーん!!」
「にゃっ……もう、唯!」

と、突然唯に抱きつかれ、
私はバランスを崩してソファーに倒れ込みそうになってしまった。
そういえば、我が家には元気な子がもう一人いたなぁと思いつつ、

「もうっ、おかえし!」

そう言いながら、私は唯をソファーに押し倒していた。
唯が明るく悲鳴をあげ、揺れるソファーに柚と愛がはしゃいだ声を出した。
それから夕飯まで、私たちはリビングで水着姿のままだった。
夏のある日の午後。我が家のリビングは、私たちだけのプールサイドだった。


END


  • 貸し切りだな…ふふ。 -- (あずにゃんラブ) 2013-01-08 02:14:34
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最終更新:2011年09月16日 22:31