オリキャラ(二人の子、柚と愛)注意
柚…唯似、6歳
愛…梓似、5歳


「お外は雨降ってるから、走ったりしちゃダメだからね?」
「は~いっ」
「わかったですっ」

幼稚園の出入り口で柚と愛のレインコートを整えながら、
私はそう言っていた。夏のある日の午後、外は雨だった。
天気予報では一応夜まではもつはずだったのだけれど、
その予報はものの見事にはずれしまったのである。
はずれたときのことばかりが印象に残ってしまうせいもあるのだろうけれど、
ほんと悪いときほど、
天気予報というのはあてにならないものだと思ってしまう。

「おぉ、やっぱりそのレインコートかわいいね! 柚も愛も似合ってる!!」
「えっへへぇ……」
「じまんのいっぴんですっ」

と、幼稚園の先生に挨拶をしていた唯が、戻ってくるなりそう言った。
唯の言葉に、柚と愛はそろって笑い、
レインコートがよく見えるように両手を広げて胸を張ってみせたりする。
柚のレインコートはライトピンクで、愛のレインコートはライトグリーン。
そのどちらも、カラフルな水玉が全体を賑やかに彩っていた。
今年の梅雨前に、みんなで買いに行ったものだった。

「よぉし、しゅっぱーつ!」
「しゅっぱつです!」
「もうっ、そんなにはしゃがないの、危ないでしょっ」

先生に挨拶をし、元気な声を出して玄関を出ようとする柚と愛に、
私はそう注意していた。
今日は唯の勤める小学校が休校日で、唯の仕事もお休みだったから、
二人で柚と愛を迎えに行こうということになったのだけれど……
滅多にない唯のお迎えに、二人ともちょっとはしゃぎ気味だった。
いつもは真面目な愛までやけに元気なのだ。
子供が元気なのはもちろん嬉しいことだけど、
こういう雨の日だとちょっと困ってしまう。

「愛ー、おてて繋いでいこうね」
「はいです!」
「ほら、柚もこっちにおいで」
「うん!」

傘を広げた唯が愛を呼んで、
私も今にも駆け出そうとしていた柚の手を握った。
ちょっとはしゃぎ気味の二人を抑えるのには、
こうして手を握ってしまうのが一番だった。

「それじゃ、こんどこそしゅっぱーつ!」
「しゅっぱつです!」
「よぉし、出発!」
「だからはしゃがないの!」

子供をたしなめるはずの唯まで元気な声を出して、
私はため息まじりにそう言っていた。
幼稚園の先生や周りのお母さん方、
それに他の子供たちの笑い声が、私の頬を少し赤くしていた。

さて……雨の日にいつも思うことなのだけど……
なんで子供というのは、雨の日は元気いっぱいなのだろう?
お天気の悪さに憂鬱を覚え、足取りも重くなってしまう大人とは違って、
子供はほんとに元気だった。
大人は雨に濡れるのが嫌で、傘で身を守ろうと一生懸命なのに、
子供は簡単に傘の外に出てしまうし、

「おぉ! おっきなみずたまり!」
「こらっ、そっち行かないのっ」

と、このように水たまりにも好んで入っていこうとしてしまうのだ。
今も私が手を引っ張って止めていなければ、
柚は水たまりの中に足を入れていただろう。
一応長靴に履き替えてはいるけれど、
だからといって水たまりで遊ばせるわけにもいかなかった。

「あ、かたつむりさんです」
「おぉ、ほんとだねっ」

私たちの隣を歩いている愛は、
ブロック塀にいるカタツムリに目を留めたらしく、
手を伸ばして唯にそのことを教えていた。
柚ほど元気いっぱい遊ぼうとはしないけれど、
愛もやっぱり簡単に傘の外に出てしまう。
今も唯の傘の下から出した手に、大粒の雨がぶつかっていた。
柚と愛の二人にレインコートを買ったのは、実はこのためだったりする。
二人とも傘を持っても、その下で大人しくしているということがないのだ。
雨に濡れることも厭わずに、
興味を持ったものにどんどん近づいていってしまう。
それは唯に似た柚だけでなく、愛もほとんど同じで……
雨の日にお洋服を濡らしてしまうのは、ちょっと悩みの種だったりしたのだ。
だから梅雨の前に二人にはレインコートを買ってあげて、
唯と私が傘をさし、
手を繋いでその傘に一緒に入るというようにしているのである。
全身を包むレインコートのお陰で、
昔のように二人がお洋服を濡らしてしまうことは減っていた。
でも、じゃあまったく濡れることがなくなったかといえば、
そううまくはいかなくて……

「あ、わんちゃんだぁ!」

通りの反対側から近づいてくる犬を見つけて、柚が歓声を上げた。
真っ白な毛を雨で濡らした大きな犬だ。
柚と愛、二人を背中に乗せても普通に歩けそうなほどの、
本当に大きな犬で、その体格だけに毛の量も豊富で……

「すごいおっきなわんちゃん!」
「おっきいです」

大きな犬に喜ぶ柚と、目をひかれている愛。
二人の存在に犬の方も気がついたのか、
大人しそうな顔をこちらに向けて、ちょっと足を止めて……
あ、マズイと思ったときにはもう遅く、

「わっ」
「にゃっ」

二人が傘の下から身を乗り出した丁度そのタイミングで、
犬が大きく体を震わしていた。
毛についた水滴が飛び散り、柚と愛の体に降りかかる。
レインコートのお陰で、お洋服が濡れることはないけれど……
でも二人の顔は、びっしょりと濡れてしまっていた。
さすがのレインコートも、
顔まで全部覆っているわけではないのだから当然だった。
慌てた飼い主さんが謝ってきて、
私と唯は逆に恐縮しながら「気にしないで下さい」と言って……
そんな大人たちの振る舞いも気にせずに、

「あはは、おかおぬれちゃったっ」
「つめたいです」

子供二人はのんきに笑っていた。
それにあわせるように、犬も機嫌良くわんと鳴いていた。

「ほら、もうっ、こっち向いて」
「は~いっ」
「おっきなわんちゃんだったねぇ」
「ほんとおっきかったです」

犬を見送った後、私と唯は道の端で、柚と愛の顔をハンカチで拭っていた。
レインコートでお洋服は守られているけれど、
こうして顔を濡らすことはしょっちゅうだった。
大人は雨に濡れるのが嫌だけれど、
子供にとってはそれほどでもないのだろう。
それよりも、自分たちの好奇心を満たすことの方がきっとずっと上なのだ。
そういえば……と、自分が子供の頃のことを、私はちょっと思い出していた。
私も子供の頃は、長靴を履いて水たまりに入っては
わざとその水を跳ねさせたり、雨に濡れるのも構わずに
傘をぐるぐる回したりしたものだった。
それでお洋服を濡らしては、お母さんに怒られていたものだ。
いつだって元気な子供の好奇心は変わらなくて……
それに悩まされてしまうお母さんの姿も、
きっと昔から変わらないものなのだろう。

「わっ、すごい、たきみたい!」
「おみず、すごいです」

と、そんなことを考えている私の耳に、柚と愛の声が聞こえてきて……
柚が指す道路の方に目を向けると、移動中のクレープ屋さんの車が見えた。
閉じたひさしにたまった水が、まるで滝のように道路に流れ落ちている。
それを見て……あ、マズイと思ったときにはやっぱりもう遅くて、

「「わっ」」
「「にゃっ」」

道路に落ちて跳ねた水が、思いっきり私たちにかかっていた。
柚と愛だけでなく、今度はしっかり、私と唯にも。
柚と愛はお顔をまた濡らしただけだけど、
レインコートに守られていない私と唯は、
お洋服もびっしょり濡らしてしまっていた。
突然のことにちょっと呆然としてしまう私たちに、

「あはは、またおかおぬれちゃったっ」
「つめたいです」

はしゃいだような柚と愛の声が聞こえてきた。
濡れたことをむしろ喜んでいるような明るいその声に、私と唯は、

「くすっ……ぐっしょりだね、あずにゃん!」
「もうっ……ほんとに!」

二人揃って、柚と愛に負けずに明るく笑っていた。
この後のお洗濯のことを考えたら、
笑ってばかりはいられないはずなのだけれど……
でもなぜだかこのときは、どうにも笑えて仕方なかったのだ。

「エヘヘ……今日は帰ったら、まずはみんなでお風呂だね!」
「フフ……そうだね。このままじゃ風邪ひいちゃうものね」
「わーい! みんなでおふろだ!」
「おふろです!」

唯と私の言葉に、柚と愛が手を挙げて歓声を上げた。
四人一緒にお風呂に入るということはあまりないから、
柚も愛も、「みんなで」ということが嬉しいのだろう。
それに、夕方の早いうちにお風呂に入るというのも珍しいから、
ちょっとはしゃいでしまっているみたいだった。
もっともお母さんの立場からすると、
晩ご飯の支度があるからあまり笑ってもいられないのだけれど。
ほんと、雨の日というのは母親泣かせだ。
私が子供の頃も、私が雨でお洋服を濡らしたりする度に、
お母さんは困ったため息を吐いたりしていたのだろう。
だけど、でもきっと、

「よぉし、じゃあいそいでかえろー!」
「かえるです!」
「うん! 急ごう!」
「もうっ、だからはしゃがないの!」

困ったため息を吐きながらも、今の私や唯のように、
ちょっと笑ったりもしていたのではないだろうか。
私はそう思っていた。
うん、だって、こんなにも子供が元気なのだから。


END



  • お風呂で唯が梓に抱きつく! -- (あずにゃんラブ) 2013-12-29 03:40:26
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最終更新:2011年08月26日 00:10