部活の
帰り道、最終的には私と唯先輩の二人で帰路につく。
「ひゃん!」
「先輩?」
隣を歩く唯先輩が突然可愛らしい悲鳴を上げた。
何事?と思った矢先、私の顔に何かが当たる感じがして、
先ほどの唯先輩の悲鳴の意味を理解した。
「あ、雨……振ってきちゃいましたね…」
「天気予報じゃ 今日降る なんてこれぽっちも言ってなかったのに~…」
「そうですよね、今日って一日晴れマークでしたよね…」
天気予報だから、こんな事もあるだろう。文句言ってもしかたないし。
それにまだ雨はぽつぽつと降り始めたばかりだ。
「私も持ってないです…天気よかったですからね」
「そっか~…じゃあ、本降りになる前に帰らないとだね!急ぐよあずにゃん!」
そういって唯先輩は私の手を握って少し駆けだす。
「あ、ちょっ…引っ張らないでくださいっ」
「だーめ!ぬれちゃうよ?」
だけど運の悪い事に雨はすぐさま本降りになった。
ズブ濡れになって帰るには厳しい寒さだから、それは避けたい。
出来れば帰り道によく寄るコンビニまでもって欲しかったけど、そうはいかなさそうだ。
唯先輩もそう思ったのか、
「あずにゃん!コンビニまで無理っぽいから、そこの雑貨屋さんね!」
「は、はい!」
パシャパシャと駆け、手近な雑貨屋さんの軒先に身を寄せた。
そこは個人経営の小さい雑貨屋さん。
入った事はないけど、お店の外観はおしゃれでいい感じだ。
ひとまずこれで雨は凌げたので一安心。
ポケットからハンカチを出し、服から水滴を払う。
すると頭の上に柔らかな感触が落ちる。
唯先輩がタオルをのせたのだ。
「あずにゃん、髪拭いてあげるね」
「え…そんな悪いです」
「いいからいいから~♪」
「あ、ありがとございます///」
唯先輩はそう言うと、すごく丁寧に私の髪を拭いてくれた。
ワシャワシャッと拭くのではなく、髪が傷まないように、
タオルで少しづつ髪の束を押さえて、水分を吸い取ってくれているのだ。
さりげない気遣いに、胸がときめく。ずるいですよ、先輩。
「あずにゃんの髪って、ほんとキレイだよね~」
「そ、そんな事ないです///」
「ううん、そんな事あるよぉ~ ツヤツヤでキレイだよ~」
「ぁぅ///」
唯先輩に髪を触られてくすぐったく恥ずかしいけど、
いつもなでなでされている時と同じように、すごく気持ちがいい。
幸せな気分で、もっとこうしていたいとさえ思ってしまう。
そうやってサイドで二つに結んだ髪の先まで丁寧に拭いたくださった後は、
取り出したブラシでサッと梳いてくれた。
「うん、こんなことかな?」
「あ、ありがとうございました」
すごい、すっかり乾いてるし、全然乱れてない。
それに丁寧に扱ってくれたのが心から嬉しかった。
だから、今度は私が…と思い、鞄からタオルを取り出したのだが…
唯先輩はすでに先ほどのタオルで、自分の髪をワシャワシャと乱暴に
拭いてるではないか!
「ちょっ!先輩!なんで自分で拭いてるんですか!?」
「ほぇっ?いや、だって、私も濡れてたし…」
「いや、じゃなくって…お返しに私が先輩の髪、拭きたかったのに…」
「そ、そうだったの?ご、ごめん、あずにゃん」
「だ、だから、ちょっと頭コッチに向けてください!
…あーもう、あんな風に乱暴に拭くから、ボサボサになっちゃってるじゃないですか!」
そう言って私は自分のタオルで唯先輩の頭を拭き始める。
結構ボサボサにされちゃったので、ブラシで梳かしながら拭いていく。
「も~、ダメじゃないですか…もっと丁寧に拭かないと傷んじゃいますよ?
…せっかくキレイな髪なんですから…」
「別にキレイなんかじゃないよ? 私の髪、癖ッ毛だし、まとまりないし」
「そんな事無いです!
唯先輩の髪はふわふわしてて柔らかくって…その、素敵…なんですよ?」
「そ、そっかな///」
「はい!
私なんか、直毛でベタッとして真っ黒だから、唯先輩みたいな髪は憧れなんです」
「え~? 私はあずにゃんみたいな、サラッサラで真っ直ぐな髪、好きなんだけどな~」
「あ、ありがとございます/// でも、もちょっとふわっとしてると良かったんですけどね~」
唯先輩の髪を梳かしながら髪談義に花が咲いた。
お互い無いものねだりをしているみたいでなんか楽しい。
暫くし髪もだいぶ乾いてきたのはいいが、最初に乱暴に拭いてしまったので
あちこち跳ねまくっている。
「あ~…だから言ったじゃないですか…」
「えへへ いいよ、いつものことだもん」
「…もぅ…」
私がもうちょっと早く唯先輩の髪を拭けていたらと思うと、悔しくてたまらない。
そう思い跳ねた髪を撫で付ける。
「あ、あずにゃん?」
「じっとしてて下さいね? 少しでも跳ねを押さえたいですから…」
「あ、いいよ、いいよ、そこまでしてもらうのも悪いし」
「ダメです!
…それにしてもホント唯先輩の髪ってふわっとして気持ちいいですね」
「ふふっ…頭撫でられるのって、結構くすぐったいんだね?」
「そうですよ? 分かりましたか? 普段の私の気持ちが」
「うん! 恥ずかしいけど……でも、全然嫌じゃないよ?」
「そ、そうですね…私も…嫌だと思ったことはない…ですよ…///」
「おお、あずにゃんが素直だ…」
「べ、別にいいじゃないですか、たまには!///」
暫く唯先輩の頭を撫で撫でさせてもらい、その感触を楽しんだ。
その間唯先輩は えへへ と笑いながら、私の好きにさせてくれた。
ちょっと顔が真っ赤になってる唯先輩が新鮮で可愛い。
「あ、すいません、長々と…///」
「ううん、気持ちよかったよ? ありがとね、あずにゃん!」
「それはそうと、雨やみませんね…」
「あ、そだ! このお店に傘売ってないかな?」
「あ、なるほど!」
「それにぃ~ 何か可愛いものあるかもしれないし~」
私もお店自体に興味はあったから丁度いい。
♪カラコロン
「いらっしゃいませ~」
若い女の人が声をかけてくれる。見た所、この店のオーナーさんだろう。
「あ、あの、すいません
急に雨が降ってきたので、店先で
雨宿りをさせてもらってたんですけど…
あの、ここ、傘ってありますか?」
唯先輩がそう聞いてくれた。
「あらあら、それは大変だったわね? ちょっとまっててね」
そういってオーナーさんは店の奥へ引っ込み、ややあってから再び姿を現した。
「はい、これ」
可愛らしい色の傘を二本、渡してくれる。
「ね、あずにゃん、この傘可愛いね~」
「そうですね~
あ、ありがとございます…えと、おいくらですか?」
「それ、売り物じゃなくって家のだから、貸してあげるわよ
あなた達、桜高の子でしょ? 返すのは下校途中とかでいいからね」
「あ、ありがとうございます!」
「すいません、親切にしていただいて」
「困ったときはお互い様よ」
親切な人でよかった。
「お店の中、ちょっと見ててもいいですか?」
ここは趣味の良い雑貨屋さんと言うイメージだった。
唯先輩はどうやらお店の商品に興味があるみたいだ。
あれこれ見ては目を輝かせ、感嘆を漏らしていた。
かくいう私もセンスのいい小物に目を奪われていた。
「あ、コレすっごく可愛い♪」
唯先輩が指差したそれは、オレンジのグラデーションがとてもキレイなヘアピンだった。
音符のマークがアクセントになっていて、すごく素敵なヘアピン。
きっと唯先輩にお似合だと思う。
唯先輩はちょっと悩んで…
「私、コレ買っちゃうね!」
「はい!唯先輩なら似合いますね!」
値段は少々張ったが、オーナーさんが少しまけてくれた。
傘の分も併せて深々とお礼をし、お店をでる。
店先でさっそく借りた傘をさそうと思ったが、唯先輩はさっき買ったヘアピンを
袋から取り出していた。
「ここでつけるんです?」
「うん! だって、せっかく買ったんだもん
早くつけたいじゃん!」
というが早いか、いつもつけてる黄色いヘアピンの片方をはずし、
さっき買ったオレンジのヘアピンをつけた。
思った通りだ、すっごく似合っている。
「どう?あずにゃん?」
「はい!とっても似合ってますよ、唯先輩♪」
「えへへ、ありがと~」
「もう片方はつけないんですか?」
「ん……あずにゃん、ちょいちょい」
「?なんですか?」
私を手招きする。
言われるまま唯先輩の方へ寄って行く。
唯先輩は私の左の前髪をそっと持ち上げると、先ほどのヘアピンの片方を
髪に留めてくれたのだ。
「え?唯…せんぱい?」
「片方はあずにゃんにあげるね!
うん、思ったとおり、すっごく似合っててすっごく可愛い~!」
「あ、ありがとございます///
で、でも、いいんですか? 頂いちゃって?」
「うん! だって最初からあずにゃんとお揃いのつもりで買ったんだ~」
「もう……そうゆうところがずるいんですよ、唯先輩///」
今日の唯先輩はずるい!
さりげなく乙女心を揺さぶっていくんだから…
これ以上あなたを好きにさせてどうするんですか!?
私にも何かかっこいい事させてくれたっていいじゃないですか!
「ゆ、唯せんぱい!」
「なぁに、あずにゃん?」
ちゅっ
そんな先輩に一矢報いるため、私は唯先輩の頬にキスを落とした。
「あ、あ、あ、あずにゃ…///」
「ヘ、ヘ、ヘアピンの、お、お礼です…から///」
「そ、そっか///」
「そ…です///」
お互い耳まで真っ赤。
借りた傘をさして帰路に着く。
雨はまだ降り続けていて肌寒かったが、
並んで歩く私たちにはそれすらも温かく感じられた。
繋いだ手の温もりが、それを物語っていた。
FIN.
- やばいニヤニヤが止まらない -- (名無しさん) 2012-06-27 19:35:03
- 店員もニヤニヤ -- (あずにゃんラブ) 2013-01-07 14:13:22
- ラブラブじゃん -- (名無しさん) 2014-04-23 06:35:54
- 素晴らしい -- (名無しさん) 2014-10-17 12:52:44
最終更新:2012年02月19日 16:02