「あれ? 誰かお客さんかな」
家に帰ると、玄関に見なれない靴があった。
奥の方から唯と話している声が聞こえてきた。
「この声は、律先輩か」
私は挨拶をしようと思ってリビングに向かった。
「私ね、もう嫌なの」
「確かに付き合ってから長いからなぁ……」
「えっ……?」
部屋からそんな声が聞こえた。
何が嫌なの? それに付き合ってから長いって……、私のこと?
「どうしたらいいのかなぁ……」
「思い切って梓に言っちゃえば?」
律先輩の言葉で、私は確信した。
これは、私の話をしている。
私は部屋に入れずに固まったまま話を聞いた。
「唯はもう嫌なんだろ?」
「うん……。もう終わりにしたい」
「そっか……」
終わりにしたいって……。終わりって……。
「あ、
あずにゃん。おかえりなさい」
「お邪魔してまーす」
私が帰ってきたことに気づいて、2人が挨拶をしてくれた。
「ん? 梓、どうした?」
「あずにゃん?」
「ゆ、唯……。私とのこと、もう嫌なんですか……?」
「へっ?」
「私と付き合うの、もう嫌なんですか……?」
「な、何言っているの、あずにゃん……」
唯が慌てて取り繕うとしたけど、私はもう止まらなかった。
「何ですか! 嫌なら嫌って言ってください! 私……! 私……!」
「と、とりあえず落ち着いてあずにゃん。話を……!」
「うあああああぁ!」
「あずにゃん!」
私は悲しくなって、悲しくなって、悲しくなって……。
涙を流しながら飛び出してしまった。
「ぐすっ……! うあぁ……! うううう……!」
私は近くの河原でうずくまって泣いていた。
唯は私と付き合うの、もう嫌なんだ。
そうだよね。もともと女の子同士だし、いっぱい小言も言ったし、迷惑だったんだ……。
「唯のばか……! 私のばか……! もう嫌……!」
もう、終わりなんだ。
こんなに好きなのに……。独りで舞い上がっていただけだったんだ……。
「はぁ……! はぁ……! あずにゃん!」
背中の方から愛しい人の声が聞こえた。
「はぁ……! ちょっと……! 待って……!」
凄い息を切らせていて、急いで追いかけてきたのがわかった。
「話を聞いて? あずにゃん」
「……い、嫌です」
「お願いだから……。ね?」
「嫌です!」
嫌だ……。もう、お別れなんて嫌だ……。
私たちの関係が終わるなんて、嫌だ……!
「あずにゃん」
唯が後ろから抱きしめてきた。
「お願い。聞いてほしいの」
「……」
どうしてそんなに優しい声で言うんですか……。
私、終わりの言葉なんて聞きたくない……。
「あのね、あずにゃん。私たち付き合ってしばらく経つよね」
「……」
「でも、もうこの関係を終わりにしたいんだ」
「!?」
やっぱり……。私と、私と……!
「あずにゃん。いや、中野梓さん。私と結婚してください!」
「……えっ?」
「もう、女の子なんて関係ない。梓が好きだから。家族になろう?」
そんな……! そんなことって……!
関係を終わらせたいって……!
「ゆ、ゆいいいいぃ……!」
「梓……」
さっきとは違う涙がこみ上げて来て、私は大泣きしてしまった。
そんな私を、唯は温かく抱きしめてくれた。
「別れ話だと思った!?」
「う、うん……」
「もう、そんなことあるわけないじゃない」
私が
勘違いしたことを話すと、唯はそんな不安を吹き飛ばすかのように笑って抱きしめてくれた。
「私はあずにゃんのことが大好きで大好きでしょうがないんだから」
「私も、もっと唯のこと信じてあげればよかったです……」
あんな言葉で別れてしまうと勘違いするなんて、私もまだまだってことなのかもしれない。
「で、さっきの返事なんだけど……」
恐る恐る唯が聞いてきた。
「……そんなの決まっています」
私は涙を拭って、唯の唇を奪った。
「んっ……、ちゅっ……」
「っはぁ……。不束者ですけど、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしく。あずにゃん!」
こうして私たちの”恋人”という関係は終わりを告げた。
そして、新しく”家族”という関係が始まったのだった。
「……さて、そろそろ帰りましょうか」
「うん。……あ!」
「どうしたんですか?」
「りっちゃん……。家に残してきたままだった……」
「あ……」
「唯の奴、意外と遅いな……」
その頃、律先輩は部屋でそんなことを考えながらお菓子を頬張っていたそうです。
END
- なるほど!唯先輩も考えたね?あずにゃん良かったね♪ -- (あずにゃんラブ) 2013-01-07 22:01:57
最終更新:2011年12月03日 22:30