オリキャラ(二人の子、柚と愛)注意
柚…唯似、6歳
愛…梓似、5歳
11月27日……唯の誕生日であるその日を間近に控えた、祝日の午後。
居間を満たすギターの音に、私と唯は笑みを浮かべていた。
壁越しに聞こえてくるその音は小さいけれど、
でもしっかりと私たちの耳に届いている。
曲は定番の誕生日の歌。
普通よりもゆっくりとしたその調子は微笑ましく、
弾いている子の一生懸命さが伝わってくるようだった。
と、その曲が突然途切れてしまった。そして聞こえてくるのは、
ちょっと怒ったような口調の愛の声と、謝る柚の声だった。
「もうっ、おねえちゃんまたまちがえたですっ」
「うぅ、ごめんねぇ、あい……でもここ、わかんなくて……」
「もうっ……ここは……こうするです……」
「ん~……こう、と……わっ、できたっ。ありがとねっ、あい~」
「にゃ!」
聞こえてくるのは声だけで、その姿は壁に遮られて見えないけれど……
柚と愛の様子は、容易に想像することができた。
それは、放課後ティータイムでの私と唯の姿を思い出させるもので、
「エヘヘ……」
「フフ……」
唯と私は、顔を見合わせてまた笑みを浮かべていた。
11月には家族のお誕生日が二つある。
11日の私の誕生日と、27日の唯の誕生日、その二つだ。
その間はわずか2週間ちょっとで、
普通の家庭なら一緒にお祝いをしてしまうところなのかもしれないけれど……
我が家ではちゃんと、それぞれのお誕生日会をその日にやるようにしていた。
11日には私のお誕生日会を開き、27日には唯の誕生日を祝う。
この世に生を受けた誕生日はやっぱり大切な日だと思うし、
その日に大事な人のことをちゃんとお祝いしてあげたいと思うからだ。
それは結婚前からずっと変わらず、
柚と愛が生まれた今も変わってはいなかった。
そんなわけで、11日に私のお誕生日会を開いてもらったばかりだけど、
27日にも唯のお誕生日をお祝いする予定であり……そしてそのために、
柚と愛は奥の部屋で「ひみつとっくん」をしている真っ最中だった。
二人の唯への誕生日
プレゼント……
子供用ギターで二人が弾いてくれる、誕生日の歌。
そのための「ひみつとっくん」だった。
「とーじつまでひみつだからねっ」
「のぞいちゃだめですっ」
お昼ご飯を食べ終えると、そう言って部屋のドアを閉めた柚と愛。
でも、普通の家の壁の防音性がそんなに高いわけがなく……
二人の「ひみつとっくん」の音は、
こうして居間にまで届いてしまっているのだった。
もちろん、私も唯も、それには気づかないふりをしていた。
ほんとは唯は出かけていた方がいいのかもしれないけれど……
一生懸命練習してくれている音も聞きたいと思ってしまうのは、
まぁ親心として仕方ないところだろう。
「エヘヘ……楽しみだなぁ……」
そう言って、クッションを抱きかかえてラグカーペットの上を転がる唯。
誕生日当日が待ちきれない、そんな表情をしていた。
その表情は無邪気な子供とまったく変わらないもので、
私は苦笑を浮かべてテーブルの上の雑誌へと視線を戻し、
「そだ!」
突然の唯の声に驚いて、また顔を唯の方へと向けていた。
「どうしたの、唯?」
「あのね、
あずにゃん、私も特訓しようと思うのっ」
「特訓? 何の?」
「決まってるよっ、私のお誕生日会のときに、
柚と愛をいっぱい褒めてあげるための特訓だよっ」
身を起こし、ふんすと息を吐いて言う唯。
そのどこか自信満々な表情に、私はあきれてため息を吐いた。
「もうっ、また変なこと言って……」
「え~、変なことじゃないよぉ。だって、
あんなに柚と愛が頑張ってくれてるんだよ?
これはもうっ、私も柚と愛をいっぱい褒めてあげないと!」
「褒めてあげたいのはわかるけど……褒めるのに特訓は必要ないじゃない」
「必要だよぉ。だって、
いつもよりももっともっと褒めてあげたいんだもん!」
私の方へ身を乗り出してそう言う唯。
その発想の独特さというか、
突拍子もなさは学生の頃とまるで変わっていなかった。
「ということで……あっずにゃ~ん!」
「にゃ!」
付け加えて言えば……
こうしていきなり抱きついてくるところもまるで変わっていない。
さっきまで抱えていたクッションはいつの間にか姿を消し、
その代わりに唯の胸の中に抱えられてしまう私。
ぎゅうっと抱きしめられて、私は思わず文句を言っていた。
「もうっ、いきなり抱きついたら危ないでしょっ」
「あ、そだねっ。いきなり抱きついたりしたら、
柚も愛もびっくりしちゃうよねっ」
私の文句に、ずれた返事をする唯。どうやら唯の、
「柚と愛をいっぱい褒めてあげるための特訓」は、
もう始まっているようだった。
「ん~、じゃあゆっくり抱きついて、
それから思いっきり頬ずりしてあげるなんてどうかな!?」
「ちょっと、唯っ……」
「それとも、久しぶりにたかいたかいしてあげるとか!?」
「わっ、ちょっと危なっ……」
「いややっぱり、ここはむちゅちゅーっとちゅーをっ!」
「え、まっ……ん~~っ!」
抵抗する暇もなく、
私は唯の「特訓」につきあわされることになってしまった。
誕生日の前だというのに、既にはしゃいでしまっている唯。
でもまぁ、それも仕方ないかなとも思ってしまう。
だって、自分たちの可愛い子供が誕生日をお祝いをしてくれるのだ。
親として嬉しくないわけがなかった。
「よぉし、ここであどりぶっ!」
「もうっ、おねえちゃん、ちゃんとえんそうするですっ!」
壁越しに聞こえてくるギターの音と、柚と愛の声。
それをBGMに、「柚と愛をいっぱい褒めてあげるための特訓」をする唯。
クッションの代わりに私を抱きかかえたまま、
ラグカーペットの上を転がって……
そんな私たちを見下ろす壁の絵が、ふと私の目にとまった。
壁に飾られた一枚の絵。
それはクレヨンで描かれ、リボンで飾られた私の似顔絵だった。
笑顔で見下ろす私の似顔絵と目が合って……
自然と、自分のお誕生日会のときのことを思い出していた。
「特訓」なんて言っている唯に文句を言っている私だけど……
自分の誕生日のときのことを思い出せば、
あまり文句は言えないなぁとも思ってしまう。
今の唯とあの日の私は、端から見たらきっとあまり代わらないだろうから。
私がそう思ったのと同時に、
「私もあずにゃんに負けないぐらい、柚と愛を褒めてあげないとねっ」
唯がそんなことを言って……私は思わず、小さく吹き出していた。
そんな私を、唯と壁の絵が笑顔で見つめて……
ゆっくりとした調子で奏でられる誕生日の歌が、みんなを包み込んでいた。
END
- なぜこれが公式じゃないんだ? こっこクラブ(まだあるのかは知らないけど)辺りで掲載されてても不思議じゃないのに……解せぬ -- (名無しさん) 2012-01-25 07:44:30
- これ梓唯の親子コミックアンソロジーを創れるな。4人の家族愛を描いたコミック出せるな。 -- (あずにゃんラブ) 2013-01-08 00:49:59
最終更新:2011年12月03日 22:39