それは冬の温かな土曜日の昼下がりの出来事


ソファーでゴロゴロしながらTVを見ていたら、『大切な人と行きたい…おしゃれなクリスマスディナーSP』という番組をやっていた。
普段は私達が行かないような高級でオトナな雰囲気のレストランと、そこで出されるクリスマス限定のメニューが次々と紹介されている。
きらびやかなイルミネーション。
見るだけでヨダレが出てきちゃう美味しそうな料理。
女の子だったら絶対に食べてみたくなるクリスマススイーツ。
あっという間に私は心を奪われてしまった。

「ねぇ、あずにゃんあずにゃん!」

こうなったら善は急げ。
早速、隣で雑誌を読んでいる我が家のお財布係である彼女の肩を叩いた。

「なんですか、唯先輩?ご飯ならさっき、おうどん食べたじゃないですか」
「違うよ!私達もクリスマスにこんなお店に行こうよ!」
「……唯先輩の事だからそう言うと思ってましたよ…」

雑誌のページを捲る手を止めて彼女はジト目で私の方を向いた。

「いいでしょ、いいでしょ♪」
「ダメです」
「えぇ~なんで?!折角のクリスマスだよ?!聖夜だよ?!」
「お金もかかるし、第一、こういう人気のお店は今からじゃ予約も取れないですよ」
「きっと大丈夫だよ!それにクリスマスは神様の誕生日だよ?だから、お祝いしなきゃだよ!」
「先輩の家、仏教だって前に言ってたじゃないですか…」

素っ気なく返事をして、彼女はまた雑誌を読み始める。

「そんなぁ~、いけずぅ~」

私はいつもおねだりする時のように、彼女に抱きついて頬擦りをした。

「いいじゃ~ん♪美味しいもの食べに行こ~よ、あずにゃ~ん♪」
「行きません……だって、そうしたら私が先輩のために料理作れなくなるじゃないですか…」
「えっ…?」

その言葉を聞いて、一瞬、私の中で時間が止まった。
彼女は雑誌を傍らに置いて、私の胸元に顔を埋める。

「初めて唯先輩と二人で過ごすクリスマスだから、家で二人きりで過ごしたいです……代わりに私が先輩の為に、いっぱいご馳走とデザートを作りますから…」

それじゃダメですか…彼女は小さな声でそう呟いた。

「あずにゃん…」

少し顔を赤らめたそんな彼女を見て、私の胸がどきんと高鳴った。

「…ダメじゃない!それどころか、そっちの方が100倍……ううん、10000倍いいよ!」
「良かった…先輩がそう言ってくれて…」

私が返事をすると彼女は安心したように笑顔を見せた。

「ありがとう、あずにゃん。私、凄く幸せモノだね…二人で楽しいクリスマスにしようね♪」
「はい…私、頑張りますから」
「うん、私もお手伝い出来ることがあったら頑張るから…大好きだよ、あずにゃん」

私の事をこんなにも好きでいてくれる人がいる。
それが嬉しくて、愛しくて―
私は小柄な彼女の精一杯にぎゅっと抱きしめた…。


おしまい。


  • こんな風に静かにいちゃいちゃしてるのも好きです -- (鯖猫) 2012-09-05 03:45:50
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最終更新:2011年12月30日 22:49