部室の中にいるのに、吐く息が白い。ストーブを点けているといえ、やってきたばかりの部屋は予想以上に寒かった。
気を紛らわそうと窓の外を見つめても灰色の空が広がっているだけで、いっそう体が冷えたような気がするだけだった。

唯「あずにゃーん♪」

センチメンタルな気分になりかけていた私の耳に、部室の扉を開く音と聞きなれた甘いったるい声が飛び込んできた。唯先輩だ。
なんですか、と聞こうと思ったけどやめた。この声は、この後私に抱きつく合図のようなものだから。

唯「ぎゅー♪今日も寒いねー♪」
梓「わ、私に抱きついたところで寒くなくなるわけじゃないです」
唯「そうかな、私はすっごくあったかいよ?あずにゃんはあったかくない?」
梓「それは……あったかいですけど」
唯「ならいいじゃーん♪」
梓「……」

唯先輩といると、どうも調子が狂う。無遠慮に抱きついてきたり、無理矢理お菓子を食べさせてきたりして、いつだって私を温かい気持ちにさせる。
本当は突き放してしまいたいのに…不思議と唯先輩のぬくもりを受け入れてしまう。

私は、唯先輩のことが好きなのか、嫌いなのか…自分の気持ちが、よくわからなかった。

唯「…あずにゃん」
梓「はい?」
唯「私のこと、どう思ってる?」
梓「い、いきなりなんですか?」
唯「別にー?ただ聞いた通りだよ。どう?」
梓「そ、そうですね…だらだらしてて、お菓子ばっか食べてて、無神経に抱きついてきて…ちょっと迷惑な先輩だと思ってます」
唯「そっかー…」

不意に唯先輩が私を抱きしめる力を緩めたので、私は肩透かしを食らったような気分になる。
ひどいよあずにゃん!なんてツッコミを入れてくると思って少し厳しいことを言ったんだけど…
その表情を窺うと、先輩はいつものように微笑みながら私を見ていた。けど…どういうわけか、その目は寂しそうだった。

少し言い過ぎたかな、謝った方がいいかな…そんなことを考えていると、唯先輩がポツリと言った。

唯「…私は、あずにゃんのこと好きだよ」
梓「え…?」
唯「どんなにあずにゃんに嫌われてても、迷惑に思われてても…私はあずにゃんのこと大好きだからね」
梓「唯先輩…?」
唯「やっぱりこういうこと言われるの、澪ちゃんの方がよかった?」
梓「え?あ、いや…」
唯「…ごめんね」

唯先輩は私の頭を撫でると、にっこり笑いかけた。…なんだか、らしくない笑い方だった。

…私、本当は唯先輩のことをどう思ってるんだろう。
確かなのは、唯先輩に嫌悪感を抱いはいないということだけど…うまく言い表すことができない。

でも…こんな顔をしている唯先輩になにも言わないわけにはいかない。

梓「…あの、唯先輩」
唯「…なに?」
梓「私は…唯先輩のこと嫌いでも、迷惑してるわけでもないですから」
唯「え?でもさっき…」
梓「あ…あれは言葉のアヤです!だから…そんなしょぼくれた顔しないでください」
唯「あずにゃん…」
梓「…あと、ほどほどなら抱きついても…」
唯「あずにゃぁぁーん!」ギュッ
梓「きゃっ…せ、先輩…ってなに泣いてるんですか!?」
唯「だっでぇぇー…」
梓「もう…唯先輩はすぐに泣くんですから」
唯「…あずにゃん……」
梓「はい?」
唯「大好きだよ」
梓「…そ、そうですか」
唯「ねぇ、あずにゃんは私のこと好きじゃないの?」
梓「そっ…それは…ほ、保留しときます」
唯「えーなにそれー?」
梓「…い、いいんです!」

そう、今は無理に答えを出さなくたっていいんだ。
こんな風に唯先輩と一緒にいられるだけで居心地いいんだし。それに…
唯先輩はこんなに幸せそうに笑ってくれているんだから。


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最終更新:2009年12月31日 14:14