こんにちは、鈴木純です。
今は昼休み、学生のみならず全国の勤め人の憩いの時間。
私達──私と憂、あと梓──はいつものように机をくっつけて昼食を取ってるんだけど……。
最近少し気になる事があるんだよね。何かって?
「唯先輩ってば──」
「こないだ唯先輩と──」
「そうそう、唯先輩が──」
見ての通り、梓。というより、梓の『唯先輩』に関する発言の数。
机をくっつけてからお弁当を半分消化するまでのおそらく10分程度もないだろう時間で既に3回。
ちなみに今日全体での合計はこの時点で8回。昨日は13回、一昨日は9回。二学期になってからずっとこんな調子だ。
憂はニコニコしながら聞いてるけどさ……私は正直食傷気味だよ。この唯先輩大好き同盟どもめ。
……このままじゃいつまで経っても唯先輩一色だ。話題を変えよう。
「ねぇ梓、あのバンドの新譜もう聞いた?」
「ん?あ、あのバンド?聞いたよ。」
「カッコいいよね!イントロのギターソロとか、最高じゃない?」
「そだね。あ、そういえばアレ唯先輩が一回聞いただけで弾いてたよ!」
「…………」
何この最高の笑顔……梓の半分は唯先輩で出来てるの?残りは優しさなの?
あとそこの大好き同盟1号、お姉ちゃんやっぱり凄い!とか言って目をキラキラさせない。
ああ、私はもうこの唯先輩螺旋(ユインフレスパイラル)から逃れられないんだろうか……。
半分諦観の境地に達しつつお弁当のデザートポジションであろうカット済みバナナを口に放り込む梓に声をかける。
「あのさぁ、梓……」
「ん?」
もぐもぐしながら小さく首を傾げる。我が友人ながらこういうしぐさはあざといと思う。
そしてそんな梓を「梓ちゃん、ちゃんと飲み込んでから喋らないと」と諌める憂。
……この世話女房っぷりも唯先輩の影響なのか?
なんだか全ての事象の原因を唯先輩に求めかねない勢いになってきてるな、私。
とりあえず梓がバナナを飲み込むまで待つ。
「……んく。何?純」
言いながら水筒の蓋を開け、その蓋に茶を注ぐ梓。温かい紅茶である。ちなみに去年までは麦茶だった。だんだん軽音部化しているんだねぇ。
親友の変化に若干の寂しさを覚えつつも、ここ最近ずっと感じていた事を伝える。
「梓って唯先輩の事本当に好きなんだね」
「うん………………………………………………へ?」
「あああ、梓ちゃん!こぼれてる!こぼれてるよ!」
「え、あ……うわわ!」
慌てすぎでしょ……完全に図星じゃないの、これ……
「なななな、なんでいきなりそんなこと!?」
耳まで真っ赤にした梓に詰め寄られる。まず紅茶を拭いた方がいいんじゃ?
「いや、誰でも思うでしょ」
「そ、そんなことないでしょ!」
「だって梓、最近唯先輩の話ばっかしてるよ?」
「……嘘。そんなに?」
「そんなに。ね、憂?」
どこからかタオルを取り出してせっせと机を拭いている憂に同意を求める。
「まぁ、確かに……」とのお墨付きを頂いた。
「う、嘘ぉ……」
「ちなみに詳細に言うと今日はこの時点で9回、昨日は9回、一昨日は13回唯先輩の話をしていました」
「カウント済み!?」
「数えたくなる程度には唯先輩の話ばっかしてたってこと」
「そ、そうだったんだ……」
顔を赤くしたままうつむいて何やら考え込み始めた。……と思ったら、またもや詰め寄られる。
「で、でもでも!それだけじゃ私が唯先輩の事、す、す……好きだって事にはならないでしょ!?」
「え、じゃあ嫌いなの?」
わかりきっている問いを投げかける私。
誘導尋問のプロフェッショナル純と呼んでくれたまえ。
つーかその言葉で詰まってる時点で……わかりやすすぎるよ、梓……
「き!……き、嫌い、じゃ……ない、けど……」
もじもじという擬音がぴったりな様子。可愛いなぁこれ。
「じゃあ、好きなんじゃん?」
「……………………うん、すき……かも……」
たっぷりと間を空けて愛の告白(暫定)をいただきました。私がされたわけでもないのに思わず抱きしめたくなっちゃったよ。
憂も目をキラキラさせて「わぁっ」とか感嘆の声を漏らしてるし。
妬けるねぇ、
あずにゃんさんよ。
純に──無論私の事ではない──恋する娘さんを目の前にして当然湧いてくる疑問を口に出す。
「告白とかしないの?」
「……えっ???????」
きょとんとした顔で返される。疑問符が7つは頭の上に浮かんでそうな顔だ。
なんか違和感。
「いや、だから唯先輩に告白しないの?って」
「…………はっ、え?ゆいせんぱいに?こくはく?って?唯先輩にもらった虫除けバンド未だに大事にしてる事とか?」
「いやいやいや、愛の告白だよ」
「うん、きっとお姉ちゃん喜ぶよ~」
まぁ、虫除けバンド大事にしてる告白でも喜びそうな気もするけど。
「あい、の、って……えええええ!?」
ん、あれ?なんだこの反応。驚き?
「あれ、なんか違った?」
「ち、違うも何も!私は別に唯先輩にそんな、そんな気持ち……」
「そうなの……?」
なんで憂が悲しそうにしているのか。いや、それよりも。
「でもさっき好きって言ったじゃんか」
「う……で、でも、その好きは先輩としてっていうか、尊敬してるっていうか、憧れてるっていうか……」
まさか、この純情ギター馬鹿は……。
「あのさ、梓……もしかしてあんた、気づいてないの?」
「いやだから、気づくもなにも……」
「……はぁ。じゃあさ、梓は唯先輩みたいになりたいって思うの?」
「そ、それは……でも」
「でももヘチマもないの。梓がなりたい、って思うのは澪先輩みたいな人なんでしょ?」
「そう……かも」
「それが先輩への尊敬、憧れってものなの。唯先輩とは違うでしょ?」
「うん、違う……」
「ほら。やっぱり梓は唯先輩の事好きなんだよ。それも、友情以上に」
「………………そうなのかな?」
「そうなの」
どうやら本気で気づいていなかったらしい。世話の焼ける猫だこと。
「そっかぁ……」
憂がホッと息をつくように言った。だからなんで憂が喜んでいるのか。
「そう……なんだ……私は……」
スーパーで売っている鮮烈な色をしたタコを越えんばかりの勢いで赤くなっている。
さしずめゆでダコにゃんといったところか。あ、梓要素消えちゃった。
「ど、どどどどうしよう純、私どうしたら……」
「どうしよう、て……。そりゃ、伝えるか諦めるかの二択じゃない?」
「つ、伝えるなんて無理だよ、絶対無理!」
「じゃあ、諦める?」
「そんなぁ……もう気づいちゃったのにそんなの……」
「だったら伝えるしかないじゃん」
「でも、でも……怖いよ……」
「大丈夫だよ、梓ちゃん」
「憂?」
梓の手を取って自信満々に言う憂。いや、これはもはや自信というより確信の表情か?
しかし、ほんとに大した自信だなぁ。
「絶対大丈夫だから、安心して。ねっ?」
「大丈夫、ってどういう……あ」
ぶーん、と微かな振動音。どうやら梓の携帯みたい。
梓は携帯を開いて何やら操作すると、ふゃっ、みたいな妙な声を出して硬直してしまった。
エロ迷惑メールでも来たのかな?と、推測。あれ鬱陶しいけどちょっと面白いよね。
「……お姉ちゃんからでしょ?」
憂がいつもの3割増しくらいのニコニコ顔で言う。
唯先輩から?ああ、なるほど。だから動揺したんだ。よくわかったなぁ。
「へっ、あ、うん……」
「行ってきなよ、梓ちゃん」
「え?な、なんでわかって……」
行ってきなよ?どういうこっちゃ?ま、まさか憂は実はエスパーだったの!?
なわけないか。でもなんで……?
「ほらほら、行ってきなって。お姉ちゃん待ってるよ?」
「でもお弁当箱……」
「私が片付けておくから、梓ちゃんは行ってきて!」
「わ、わかった……」
憂の突然のESP能力発動について思いを巡らせている内に梓は手際よく教室の外に押し出されていた。
ええい、考えてもわからん。聞いてみるまで。
「憂?」
「ん?なに、純ちゃん?」
「さっきのメールだけどさ、なんで唯先輩からってわかったの?それに行ってきな、ってのは?」
「ああ……ふふっ」
クスクスと笑う憂。さてはお主、全て知っておったな?
「あのね、実は昨日お姉ちゃんから相談を受けたの。梓ちゃんが好きだ、って」
「へぇ……じゃあ、相思相愛なんだ、あの二人。道理で憂が自信満々で太鼓判押すわけだよ」
「うん、ふふふ……。それでね、私、とりあえず伝えたらどうか、って言ったの。
そしたらお姉ちゃん、『わかった、明日の昼休みにあずにゃんとお話してみるよ!』って」
「なるほど!それでメールの内容わかったんだね!」
「うんっ」
憂、ハイパーニコニコモード。もはや後光的な何かが出ているような気すらする。
「憂、なんかすっごいうれしそうだよ」
「え?そうかも……でも、純ちゃんもなんだかうれしそうだよ?」
「え?」
そう言われて自分の顔を触ってみると、確かに笑顔になっていた。
こりゃ一本取られた。でも、
「友人の恋が上手く行くんだから、嬉しいに決まってるじゃんか」
「そうだね。えへへ」
……かわうい。
その後戻ってきた梓が幸せオーラ放ちまくりだったのは言うまでもない。
- 純ちゃんの良さが一番引き立つのは唯梓だと思うw -- (鯖猫) 2012-09-18 15:26:30
- 純が梓に梓が唯先輩のことを好きと教えなかったら、告白はうまくいったかな? -- (あずにゃんラブ) 2013-01-04 03:43:17
- 唯先輩螺旋(ユインフレスパイラル)に吹いたwww -- (名無しさん) 2014-04-23 06:38:39
最終更新:2012年02月19日 16:03