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 夢のように楽しかったロンドンの旅だったけど、帰国すればすぐにもう学校という現実。
 登校してくるのは1、2年生ばかりで先輩達はいない。

「あ、来た来た。おはよー!」
「おはよう梓ちゃん。」
「おはよう。」

 教室の扉をくぐり見知った顔と挨拶を交わす。
 先輩達と一緒にいられないのは寂しいけど、向こう1年の不安は無い。
 だってここにはいつも私を気遣い元気付けてくれる最高の――

「お姉ちゃんと寝たって本当?」
「どこまで進んだの?」

 ――親友が何て言った?特にポンポン頭の方。

「とぼけても無駄だよお嬢ちゃん!」
「お姉ちゃん言ってたよ。布団にくるまってちっちゃくなってるあずにゃんかわいかったって!」
「さあさあ夜に起こった出来事を遠慮しないで洗いざらい吐いちゃいなよ!私たち親友でしょ!?」

 ちょ…あの、前言撤回していいかな親友達?

「まあこんなところで立ち話もなんだし。」
「はい、カバン置いて。れっつごー!」
「へ!?わわっ、ちょ、ちょっと!?」

 連行されてきたのは施錠された屋上へ続く階段の踊り場だった。
 当然辺りに他の人影は無い。

「で、どうだったの?」

 壁際に追い詰められ、片手を私の頭の横の壁についた姿勢で純が言った。
 何これ?何で私カツアゲされてるみたいになってるの?

「…どうもこうも別に何も無いよ。」

 私は正直に答えた。
 勘違いして勝手に盛り上がっているところ悪いけど、ご期待には添えないよ。

「そんなわけないよ!あのお姉ちゃんと梓ちゃんがホテルの一室で2人きりだったんだよ!?」
「もうっ!憂まで何言ってるの!?そして普段私どんな風に見られてるの!?」
「お姉ちゃんのことが大好きだけど素直になれない可愛い親友。」
「唯先輩の子猫ちゃん。」
「だっ…そ、そもそも何で私が唯先輩を好きなことが前提になってるの!?」

 まったく私の気も知らないで好き勝手言ってくれるよ。まあ言ったことがないから知らないのは当然なんだけど。
 ずいぶん悩んだけど、やっぱりこの想いは胸の内にそっとしまっておくのが一番なんだ。

「端から見てたらそうとしか見えないから言ってるんだけど。」

 つまり端からだと私は唯先輩の子猫ちゃんに見えるってこと?
 よし純。あんたとは一度じっくり話し合わないといけないみたいだね。

「そりゃ、先輩としては尊敬できるし好きだよ。でもそれ以上の感情はないよさすがに。当たり前でしょ?」

 毅然と言い切っては見たものの胸の痛みはごまかしきれない。
 嫌だな…もうすっかり諦めたはずなのに。2人がこんな話し始めるから…。

「ふーん…まあそういうことにしといてあげよう。」

 全然納得してなさそうな顔だったが、それでもそう言った。
 やれやれ。これで教室に戻れるかな。
 …と思ったが甘かった。
 私はすぐに思い知る。彼女らにとってはここからが本番だったのだということに。

「ところで…お姉ちゃんからは何かされなかった?」

 いつも通りのニコニコ笑みを浮かべたままの憂がよく分からないことを聞いてきた。
 される?何を?

「…?いやだから何もしてないってば。」
「うん、梓ちゃんから何もしてないのは分かったから…お姉ちゃんには手出しされなかったの?」

 言い直されてもまだ質問の意味を計りかねた。
 …いや、計りたくなかった。もう嫌な予感しかしない。

「唯先輩に…?えっと…え?」
「つまりだね、寝込みを襲われたりとかしてないの?って話だよ。」
「なっ…」

 なな何てこと言い出すのこのモップ頭は!?

「あ、ああああるわけないでしょ!?何考えてるのよ!?」
「どうして無いって言い切れるの?梓ちゃん一晩中起きてたの?」
「いや…そんなわけないけど。」
「ほらほら、唯先輩の気持ちになって考えてみてよ。」

 純が芝居がかった仕草で胸に手を当てて語り出した。

「唯先輩が夜中に目を覚ますの。何となく隣に目を向けるとベッドで眠る大好きな後輩。スタンドの小さな明かりだけが灯る見慣れないホテルの部屋の中、見慣れた梓の姿は一際目立って浮かび上がる。そっと起き上がって梓に近づいて寝顔をじっと見つめていると、やがてかわいらしい唇から目が離せなくなる。寝てるからバレないよね…ごめんね…。そしてゆっくりと顔を近づけて…。」

 ――ごくり
 自分が喉を鳴らす音でハッと我に返った。

「…いいいいやいやいや!ありえないありえない!!」
「そっかなー?お姉ちゃん、夢中になったことに対しては一直線だし。いざとなったら何をしちゃうか分かんないと思うよ?」
「それは…うぅ…で、でも唯先輩に限ってそんなことあるわけ――」

(あーずにゃんっ!)

(ほぅ…あずにゃんあったかいよぉ)

(よいではないかよいではないかー)

(あー!?私のあずにゃんに何してるのりっちゃん!?そのほっぺをむにむにしていいのは私だけなんだよ!!)

(澪ちゃんかわいいもんねー。あ!でも私はあずにゃんの方がかわいいって思ってるからね!?)

(ムギちゃん!私あずにゃん1つ!テイクアウトで!)

 …あ、あれ!?否定する材料が無い!?
 そ、そんな…それじゃ私…まさか…本当に…。

(…あずにゃん、起きてる?ちょっとお話しない?)

(ねぇあずにゃん…寝てるの?)

(寝てるんだよね?…ふふ…)

(あずにゃんがいけないんだよ?私の前で無防備に寝ちゃうから…ちゅ…)

「…ゆ、唯先輩?」

(起しちゃった?…でも逃げないなんて、ひょっとして期待してたの?…うふふ、かわいいなぁ…ん…む…。)

「ん…はっ…だ、だめですよこんなところで…。」

(何がだめなの?ホテルだよ?)

「それは…でも…。」

(怖がらないで。大丈夫、私に全部任せて?)

「あっ…唯先輩…だめぇ!」



「これ何?」

 一人で悶え始めた梓ちゃんをあきれ顔で見ながら純ちゃんが言った。
 だめだよそんな顔しちゃ。こうさせたのは私たちなんだし。

「うーん…妄想が爆発してる感じ?」
「この唯先輩、後輩の寝込みを襲う野獣になってるけど、姉をそんな風に見られてる点は妹としてどうなの?」
「え?だめ?かっこよくない?」
「そっか…別にいいならいいんだけど。」

 と、梓ちゃんが真っ赤になってぷるぷる震えだした。
 帰ってきたかな?

「あの…梓ちゃん?」
「う…」
「う?」
「…うぅぅぅぅぅにゃぁぁぁぁぁっ!!」
「あ、梓!?」
「梓ちゃーん!?」

 叫びながら走り去ってしまった。

「…さて、どう思う?」

 梓ちゃんが廊下の向こうに消えるのを見送った後、純ちゃんが言った。
 そのニヤついた顔を見る限りもう分かってるだろうと思ったけど、答えた。

「上手くいったと思うよ。」

 お姉ちゃんほどじゃないけど、梓ちゃんも大概隠し事が下手くそ。
 梓ちゃんは思い出したはず。お姉ちゃんを慕い愛する気持ちを。

「…だね。」

 実ればきっとすてきな恋になるだろう。
 あっさり諦めちゃうなんてもったいなすぎるよね、梓ちゃん、お姉ちゃん。

「とは言え――」

 そろそろ朝のホームルームの時間だ。
 私たちは会話を交わしながら教室に向かう。

「ゴールまで持って行けるかどうかはあっち次第じゃない?最後はやっぱり唯先輩からだと思うし。」
「梓ちゃんの妄想でもそうなってるしね。律さん達、上手くやってくれるといいけど。」
「あ、律先輩に報告しないとね。」

 携帯をいじりながら1歩前を歩く純ちゃんを追いかける。

「…ところでさ、憂。私達も旅行とか行かない?」
「え?旅行?」

 純ちゃんは振り返らない。

「うん…2人で。」



――fin


  • え?憂純完成? -- (あずにゃんラブ) 2013-01-07 16:26:28
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最終更新:2012年01月22日 23:35