「熱いうちにtake out」

 夏。
 青い空。
 高い太陽。
 コバルトブルーの海。
 そしてビキニのかわいい女の子!

「・・・と来たら普通泳ぐでしょ?」
「そうだよ梓ちゃん。せっかくの機会なのに。」

 夏休み。
 放課後ティータイムのメンバーが一泊で海水浴に行くイベントに招待された私だったけど、
 この日まだ一度も海に入っていない。
 同じく付いてきた憂と共に、レジャーシートに腰を下ろしていた。

「だから・・・もういいってば。」

 私たちの間には梓の姿がある。
 空とは対照的な、どよーんという感じの淀んだ空気をまとわせながら。
 私たちと一緒に泳ぎに来たはずだけど、Tシャツに短パンというその恰好は
 どちらかというと海の家の従業員に近い。

「ほら、私の貸してあげるから。ダメもとでやってみよ?」
「効かないの分かってて使ってもしょうがないよ。もったいないし。」

 私の手にあるのは何の変哲もない普通の日焼け止め。
 夏の女の子の必需品であり、別に不思議じゃない。
 問題なのは「普通の」というところ。
 何でも梓はこの日の為にインターネットで強力な日焼け止めを購入したらしいんだけど、
 それを家に忘れてきたというのだ。

「大体・・・やっぱり私にこういう水着似合わないし。」

 梓が服を脱ぎたがらないもう1つの理由がこれ。

「似合うかどうかはお姉ちゃんが決めることだよ?」
「そうそう。ま、唯先輩の反応なんて簡単に予想できるけどねー。」
「なっ・・・べ、別に唯先輩に見せるためじゃ・・・。」

 そんな顔で言ったって否定したことになってないんだけど。
 その後もあれこれ説得してみたけど首を縦に振ってはくれず、
 とりあえずかき氷でも買おうと3人で立ち上がった時だった。

「あ、どっか行くの?」

 アイスクリームを両手に持った唯先輩がやってきた。
 後ろの方には他の先輩達もこちらへ歩いてくるのが見える。
 唯先輩だけ先に走ってきたのだろう。
 当然、全員水着姿だ。
 その辺で泳いでいたはずだけど、やっぱり気を遣われたらしい。
 何にせよ、これは強硬策のチャンスだ。

「唯先輩、梓の水着見たいですよね?」
「え!?脱いでくれるの!?」

 途端に目を輝かせる唯先輩。
 あずにゃんが嫌なら無理にとは言わないよーって真っ先に引き下がったのはこの人なのに。
 まあ何て言うか、愛されてるよねほんと。

「あ・・・えと・・・あの・・・。」

 また赤くなってもじもじする梓。
 その横顔を観察し、「別に嫌じゃない」という空気を読んだ私は憂と目配せを交わす。
 同じタイミングで同じ結論を下したらしい憂の反応は早い。
 私たちは同時に梓に襲い掛かった。いや変な意味じゃなくてね?

「え?ちょ!?・・・きゃあ!?」

 ほい水着梓の完成。
 うん、気にする気持ちは分からないでもないけど、悪くないと思うよ?

「何するのよもう・・・。」

 両手で胸を隠す仕草をしながら文句を言う梓。
 でも、私たちに向かって言わないといけないのに視線はすでに唯先輩の方にいっている。
 さて、気になる唯先輩の反応やいかに。

「・・・。」

 ―――ボトッ
 潮騒と喧騒に満ちた世界に、唯先輩がアイスを落とした音が大きく響いた。
 あの唯先輩に大好物を取り落させるほどの衝撃とは・・・。
 しばらく固まっていた唯先輩は、数回の瞬きの後突然動きだした。
 梓の腕をガシッと掴み、そのまま踵を返す。

「え?ゆ、唯先輩?どこ行くんですか?」
「・・・だめだよあずにゃん・・・そんな恰好して・・・分かってるの?」

 そう言って梓の耳元に口を寄せた。
 何事か囁かれた梓はというと、それきり茹でダコみたいに真っ赤になって黙り込んでしまった。

「ごめん憂、純ちゃん、私たちもう部屋戻るね。じゃ、そういうことで。」

 何がそういうことなのか分からないままの私たちを残し、梓を引きずって行ってしまった。
 途中、律先輩達とすれ違い2言3言交わしたみたいだけど立ち止まることは無く、
 私たちの今夜の宿でもある、砂浜に隣接したホテルの方へ足早に消えていった。



「これを予想してたの?純ちゃんは。」
「んーん。もうちょっとソフトな感じのを想像してた。」
「梓ちゃん、明日起きてこれるかな?」

 本当にそれが心配だよ。

「さぁ・・・?」

 あの様子じゃ無事では済まなさそうだけど、何とも言えないね。
 答えを探して私は何となく視線を上に向けた。
 目に映ったのは、答えどころか雲1つ無い突き抜けるような夏の空と眩しすぎる日差しだけ。
 ・・・暑い。
 憂も同じように空を見上げた。

「そうだね・・・ふふっ、熱帯夜にならないといいけど。」

 私は「うん・・・」と曖昧な感じで頷き、
 憂が意味深にチラチラ見てくることに気付いたのは10秒後で、
 ようやく理解し吹き出して笑ったのはさらに10分経ってからだった。

 fin



  • テイクアウト後をkwsk -- (鯖猫) 2012-06-14 07:20:11
  • 唯先輩凄いリアクション!アイスが!? -- (あずにゃんラブ) 2013-01-07 03:44:58
  • 続きを! -- (名無しさん) 2014-04-24 22:15:06
名前:
感想/コメント:

すべてのコメントを見る

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2012年06月13日 22:35