2月13日、明日は女の子の日。
「お姉ちゃん、できた~?」
私は、憂に教えてもらってチョコを作っている。
「まだだよ~」
自分で作るのは今回が初めてだから、上手くできない。
やっぱり無理なのかなぁ……。
「はぁ……」
隣を見ると、憂がお手本に作ってくれたチョコレート。
……憂は、本当に何でもできてうらやましいな……。
「お姉ちゃん?」
そんなことを考えて落ち込んでいると、憂に声をかけられた。
「ん……なに?」
自分の声に覇気が無いのがわかる。
「なんだか落ち込んでるみたいだけど、どうしたの?」
憂が心配そうに聞いてくれる。
……本当に、よくできた妹だなぁ……。
「なんだかね……」
「うん」
憂は静かに話を聞いてくれるから話しやすいな……。
「憂みたいに上手くできなくてね……」
「うんうん」
相槌も忘れないし。
「自分が嫌になってきちゃったの……」
「……」
私が話し終えると、憂は目を閉じて何かを考え出した。
「う、憂……?」
どうしたんだろうと思って声をかけると、憂は目を開いて、
「上手にできなくてもいいんだよ?」
と言った。
「へ?」
「味が変でも、形が不恰好でも、そこに気持ちがこもってたらそれでいいんだよ」
「そ、そうかなぁ……」
私だったらやっぱり嫌だと思うけど……。
「そうだよ!」
でも、憂は自信満々って顔でそう断言してくれた。
「ち、ちなみに……根拠とかあるの?」
憂のことだからあるに決まってるだろうけど……。
「お姉ちゃんだって、梓ちゃんから貰ったチョコなら、どれだけ味が変でも形が不恰好でも喜んで貰うでしょ?」
「そ、それはそうだけど……ってどうして
あずにゃん限定!?」
びっくりして確認すると、憂はあっけらかんと、
「だって、お姉ちゃん梓ちゃんのこと好きなんでしょ?」
そう言ってくれた。
「すすす好きぃ!?」
どきどき。
憂の突然の言葉に心臓の鼓動が速くなる。
「違うの?」
「ち、ちがうっていうか……どうしてそう思ったの?」
「だって、お姉ちゃん梓ちゃんのお話をするときが一番楽しそうなんだもん」
「そ、そうかな……?」
そんなつもりは無いんだけど。
「今作ってるチョコだって、梓ちゃんにあげるんでしょ?」
「そ、そうだけど……」
「だから、梓ちゃんのことが好きなのかなって」
「そうなんだ……」
憂は変なところで鋭いからなぁ……。隠し事ができないや。
「それで、実際はどうなの?」
「な、何が……?」
憂、ちょっと顔が怖いよ……。
「梓ちゃんのこと、好きなの?」
……ここまできたら、隠しても無駄だよね……。
「たぶん……好きなんだと思う……」
「……そう」
観念して打ち明けると、憂はようやく追究しなくなってきた。
「だったら、とにかく気持ちをこめて作れば梓ちゃんも喜ぶと思うよっ」
「そ、そうかな?」
「そうだよっ! ……あ、あとは作ってる間、梓ちゃんの喜ぶ顔を思い浮かべてるといいと思うよ?」
「あずにゃんの喜ぶ顔?」
「うんっ! お料理を作るときはね、そうするとおいしくなるんだっ」
「そ、そうなんだ」
「だから、お姉ちゃんもがんばってねっ」
「う、うん……。ありがと、憂」
素直に感謝すると、憂はそれじゃーねと言って二階へ上がってしまった。
……憂、泣いてた?
なんだか目から水が垂れてたけど……。
「――うんうんっ! 今はそれよりもチョコ作りに専念しよっ」
せっかく憂がアドバイスしてくれたんだもん。ちゃんと作らなきゃっ。
「――できたっ」
あれから何度も失敗を繰り返して、完成したのは結局2時ぐらいだった。
いつもなら寝ている時間帯だ。
「後はこれを冷蔵庫に入れてっと……」
明日の朝には固まってるよね?
「あずにゃん、よろこんでくれるかな~」
憂は気持ちがこもってればそれでいいなんて言ってくれたけど……。
「――うん、憂を信じるっ」
心配してもなるようにしかならないんだし、今日はもう寝よう。
……おやすみなさい――
翌日、
放課後。
「あ~ずにゃ~んっ」
だきっ。
「わわっ……どうしたんですか、唯先輩」
ティータイムの前に渡さないとっ。
「私ね、チョコ作ってきたの~」
ぴくっ。
そう言った途端、あずにゃんが反応した。
「唯先輩が、チョコレートを……ですか?」
「うんっ」
「だ、誰にですか……?」
「あずにゃん、ちょっと目が怖いよ……?」
「答えてください、誰に作ってきたんですか?」
「それはもちろん、あずにゃんにだよっ」
答えると同時に、チョコの入った箱をあずにゃんに突きつける。
こうでもしないと恥ずかしさで死んじゃいそう。
「え……私に、ですか?」
「そうだよっ」
「……」
あれ、どうして無言……。
「あ、あずにゃ――」
「ありがとうございます、せんぱいっ」
「――わわわっ」
どうしたのかなと思って顔を覗き込もうとしたら、急にあずにゃんに抱き付かれた。
「あ、あずにゃん……?」
「私、嬉しいです。先輩からチョコレートをもらえるなんて」
「えっと……」
とりあえず、あずにゃんには喜んでもらえたんだよ……ね?
「そ、それはわかったから……とにかく、食べてくれないかな?」
「あ、そ、そうですね……せっかく先輩が作ってくれたチョコレートですし……」
「う、うん……初めて作ったから上手くできてるかどうかわからないけど……」
――ぱくっ。
「ど、どぉ……?」
「もきゅもきゅ……ちょっと、苦いですね……」
「や、やっぱり……」
分量間違えたのかな……。
「でも」
また落ち込みそうになったところで――
「先輩の気持ちがこもってるみたいで、なんだか胸がほわほわします」
――あずにゃんがそんなことを言ってくれた。
「うんっ! だいすきって気持ちをこめたよ!」
もうやけくそっ!
「せんぱい――」
「うん?」
「――わたしも、せんぱいのことが、だいすきですよ」
「――うんっ!」
最終更新:2009年11月14日 02:17