昼食を食べ終えた私達三人は家の近所の児童公園に来ている。
ちびにゃんが行きたがった・・・・・・わけではなく、私が行こうと提案したのだ。
というのも私は家に帰るまでの時間稼ぎがしたかったのである。
・・・・・・昼食前の唯先輩の言葉が思い出される。

唯『おうちに帰ったらいっぱいちゅーしてあげるよ♪』

別にこの言葉を真に受けて、家に帰ったら唯先輩にキスしまくられる・・・///
とか思っているわけではないですが。
午前中のキス未遂の件もあるし万が一ということもあるので心の準備をする時間が欲しかったのだ。

さて、唯先輩とちびにゃんはと言えばベンチに座っている私をよそに公園を満喫している。
さっきまで滑り台で遊んでいたかと思えば今はブランコでどっちが高く漕げるか競っているようだ。
唯先輩?あなた今スカート穿いてるんですよ?
お昼を過ぎたばかりだからか公園には私達以外誰もいないのが救いですが。
あまりのガードの緩さにちょっと注意しに行こうかとベンチを立った時には
二人は既にブランコを離れジャングルジムの方に走っていっていた。
三人で手を繋いで歩いている時に唯先輩が『家族みたいだね』と言ったことを思い出す。
確かにそうですね。今の私は二人のやんちゃな娘を持った母親の心境です。

ちび「ゆいもはやくのぼってー!」

唯「あ、うーん・・・私今日スカートだからなぁ・・・・・・」

ジャングルジムに登りながら唯先輩に声をかけるちびにゃんに対し、ここに来て恥じらいを見せる唯先輩。
ブランコの時点で気づいてくださいよ・・・

ちび「えぇーゆいもいっしょにのぼ・・・」ツルッ

唯梓「「!」」

――――――――――――

私が慌てて駆け寄った時、二人は砂まみれで地面に倒れ込んでいた。

梓「ちびにゃん!唯先輩!大丈夫ですか!?」

唯「いたた・・・ちびにゃん!大丈夫!?ケガしてない!?」

ちび「・・・・・・・・・・・・・・・」

ちびにゃんは返事もなくポカンとしている。おそらくなにが起こったか分かっていないのだろう。
見たところケガは無いようだけど・・・・・・
手を滑らせたのか足を踏み外したのか、ちびにゃんは唯先輩の頭よりも高い程の位置から落下した。
真下で見ていた唯先輩がお姫様だっこのようにちびにゃんを受け止めたんだけど・・・
同年代の子に比べて小柄なちびにゃんであるとはいえ、10kgを超える落下物を受け止めて
微動だにしない程唯先輩は肉体派ではない。ムギ先輩ならあるいは大丈夫だったかもしれないが。
ちびにゃんに押し潰される様に後ろに倒れ、二人で砂場に転がった。

――――――――――――

梓「・・・二人ともケガは無いみたいですね」ホッ

唯「いやーびっくりしたよー。後ろが砂場で良かったねぇ」アハハ

ちび「よかったねぇ」エヘヘ

こちらの心配をよそに事故(?)の張本人である二人はけろりとしている。
まったく勘弁してほしい。さっきはホントに心臓が止まるかと思った。

梓「ありがとうございます唯先輩・・・ちびにゃんを助けてくれて」

唯「え?あ、あははー///もっとカッコよく助けられたら良かったんだけどね。あそこで潰れちゃうとは・・・」

梓(・・・充分カッコよかったですよ・・・///)ボソッ

そう。ちびにゃんにケガがなかったのは後ろが砂場であった事以上に唯先輩のおかげだ。
唯先輩は最後までちびにゃんをかばう様に倒れていた。
砂場がなかったらむしろ唯先輩の方がケガをしていてもおかしくない倒れ方だった。

唯「ん?あずにゃん、何か言ったー?」

梓「な、なんでもないです///!とにかく家に帰りましょう。二人とも砂まみれなんだからお風呂に・・・・・・」

・・・・・・ん?お風呂に入るの?誰と誰が?

Q.砂まみれなのは誰?A.唯先輩とちびにゃん。

いやいや。別に一緒に入る必要はない。一人ずつ入ってもらえば・・・
・・・ってこの状況で五歳児を一人でお風呂に入らせるなんて私は鬼か。
そうか、私も一緒に入ればいいんだ!
ちびにゃんはちっちゃいし三人でも入れるだろう。
いやまて、別に汚れてもいない私が一緒に入るなんて不自然なような・・・
うーん・・・自然に一緒に入るには・・・
・・・・・・!!
目の前には砂場・・・・・・今ここにダイブすれば・・・・・・!ゴクリ・・・

――――――――――――

梓「二人ともーお風呂湧きましたよー」

唯ちび「「はーい」」

結局砂場にダイブする勇気など私には無く。
どちらにしろ二人の汚れた服を洗濯しておかなければならなかったので
三人での入浴は断念した。
唯先輩とちびにゃんが脱衣所に入る。
私は脱衣所のドアの前で待機。
・・・誤解の無い様に言っておきますが別に覗こうとしてるわけじゃありませんよ?
二人が浴室に入ったら脱いだ服を洗濯する為に脱衣所に入らないといけないので待ってるだけです。
別に聞き耳を立てているわけじゃないですが服を脱ぐ衣擦れの音と共に二人の会話が聞こえてくる。

ちび「ゆい、おっぱいおっきいー」

おっきいのは知ってるのよちびにゃん!もっと色艶とか形とか具体的に言葉にして!

唯「あはは・・・///ちびにゃんも大人になったらこれくらいになるよー」

唯先輩・・・・・・うちの一族に対してそんな無責任な発言をしないでください。
ちびにゃんは私とほぼ同じDNAを受け継いでるんですから。

唯(――――――?)ちび(――――――!)

二人の声が遠ざかる。どうやら浴室に入ったようだ。
一応ノックしてから脱衣所に入る。
浴室からは二人のキャッキャとはしゃぐ声、そしてすりガラス越しに見える肌色―――。
このドア一枚隔ててそこには全裸の唯先輩が・・・・・・ゴクリ

・・・ゴクリってなんだ。私は同性の裸に興奮するような変態さんではない。
っていうか唯先輩の裸なんて合宿の時に見たことあるし!
・・・・・・綺麗だったなぁ・・・・・・///
しかも今はあの時よりおっぱいも成長して・・・・・・
じゃなくて!
そう!洗濯!さっさと先輩達の服を洗わないと夕方までに乾かない。

キャッキャッ・・・ユーイ!・・・ワ、チョットチビニャンソンナトコサワラナイデ///・・・アハハ・・・ユイノオッパイッテ・・・

聞こえない聞こえない聞こえない!

その後も唯先輩の下着の誘惑に負けそうになったりしながらも
なんとか洗濯機を動かし脱衣所を出た。
はあ・・・・・・どうにも今日の私はおかしい。唯先輩のことを意識してしまっている。
まあ朝から色々あったからしょうがないのかもしれない。
リビングに戻ると唯先輩のギー太が目についた。
そういえば今日は元々ギターの練習をする予定だった。
一応ギターは持ってきてもらったけどやっぱり今日は練習は無理かなぁ・・・
唯先輩はちびにゃんに夢中だし・・・
朝からずっとちびにゃんちびにゃんって抱きついて。イラ
ボーッとしてるからおっぱい触られたりして。イライラ
ほっぺにキスとかしたりされたり。イライライラ
・・・・・・・・・キス、か・・・・・・・・・・・・
あの時ちびにゃんが戻ってこなかったら先輩とキスしてたのかなぁ・・・
・・・先輩はどういうつもりだったんだろう。
いつものおふざけという感じではなかった。
私のことを大事な人だって、特別だって言ってくれたし・・・
唯先輩は基本的に『みんなが大好きっ!!』な人だけど
私はその中でも特別だって自惚れてもいいんですか?

(・・・アズニャーン・・・)

女の人とお付き合いするなんて今まで考えたこともなかったけど・・・
いや、まあ男の人ともないんですけどね。
唯先輩となら・・・ありなのかなぁ・・・?

(・・・オネエチャーン・・・)

とは言ってもそもそも唯先輩に付き合いたい
という気持ちがあるのだろうか?
仮に私の事を想ってくれているのが事実だとしても
今以上の関係になりたいなんて考えてないかもしれない。

ちび「おねえちゃーん。きがえないよー?」

パンツ一丁のちびにゃんがリビングに飛び込んできた。
その後ろには・・・・・・バスタオルを巻いた唯先輩!!?

梓「な、な、なんて格好してるんですか!!///」

唯「ご、ごめんね?でも着替えが無かったから・・・」

はっ!そうだ。唯先輩達の服を洗濯した後、私の服を着替えとして
脱衣所に持っていくつもりだったんだ。
なんだか色々考え込んでしまってすっかり忘れていた。

梓「す、すいません!でも、脱衣所から呼んでくださいよ!そんな格好で出てこなくても・・・///」

お風呂上がりの上気した肌、湿った髪、そしてバスタオル一枚・・・
あなたは私の理性をどうにかする気なんですか。

ちび「なんかいもよんだよねー?」

唯「う、うん。あずにゃん全然返事してくれなかったから・・・」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
どうやら私は何も耳に入らない程自分の考えに没頭していたようです。

梓「すいません・・・・・・す、すぐ用意しますんで脱衣所で待っててください!」

唯「はーい。じゃあよろしくね、あずにゃん」

ちび「ゆい、いこー?」ギュッ

脱衣所に戻ろうとする二人。
ちびにゃんが唯先輩を引っ張る。
引っ張る?
どこを?

バスタオルを。

ハラリ

唯「ふぁっ!!?///」

梓「!!!!!///」

・・・・・・少々羞恥心に欠けると思っていた唯先輩ですが
さすがにこの状況で平然としていられるわけもなく。
慌ててバスタオルを拾って巻きなおすその顔はお風呂上がりだから、では
済まされない程真っ赤に染まっていて。
チラリ、と私の方を横目で見るとちびにゃんを連れて逃げる様に脱衣所の中に入ってしまった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

すごかった。

予想以上に。

・・・・・・全部見てしまった・・・は、鼻血でてないよね・・・?
確かに以前合宿のお風呂で唯先輩の裸を見たことはありますが。
その時より格段に成長していて。
しかも恥じらう姿が妙に色っぽくて。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
しかしここでまた妄想の世界に浸ってしまうわけにはいかない。
二人に着替えを届けないといけないのだ。
鼻の下を触り、血が出ていないことを確認しながら自分の部屋へと向かった。
唯先輩には私の持っている服の中でも大きめでゆったりとしたものを、
ちびにゃんは・・・私のTシャツをワンピースのように着てもらおう。
二人の着替えを持って脱衣所へと戻る。

梓「・・・着替え持って来ましたよ」

ちび「はーい」

・・・唯先輩の返事はない。
ドアを開け、ちびにゃんに二人の着替えを渡す。
唯先輩はバスタオルを巻いたままこちらに背中を向けていた。

梓「失礼します・・・」

脱衣所のドアを閉め、リビングへ戻る。
唯先輩の様子が少し変だ。照れてる?怒ってる?
バスタオルを引っ張ったちびにゃんに怒ってるなら後でフォローしてあげなきゃ。

しばらくして着替え終わった二人がリビングに現れた。
ちびにゃんは特に問題なさそうだ。
私が言うのもなんだが大きなTシャツをワンピース風に着ている姿が可愛らしい。

梓「唯先輩は・・・やっぱりちょっと小さかったですか?」

唯「え?・・・あ、ううん?大丈夫だよ」

なんだか対応がそっけない気がする・・・やっぱり怒ってるのかな・・・

梓「ちびにゃん。髪乾かすからこっちおいで?」

ちび「はーい」

唯先輩の機嫌も気になるがとりあえずちびにゃんの髪を乾かすことにする。
ちびにゃんを私の前に座らせドライヤーを当てる。

梓「唯先輩も。これ使ってください」

もう一つのドライヤーを差し出すと先輩は私の隣に座り無言で髪を乾かし始めた。

ブオオオオオオオオオオォォォォ・・・・・・・・・

ドライヤーの音だけがリビングに響く。
ちょっと気まずい空気・・・
やはり唯先輩は怒ってるっぽい。
ちびにゃんに悪気は無かったんだから許してあげてください
と口を開こうとした時、

唯「・・・・・・エロにゃん・・・・・・」

・・・・・・はい?

おそらく私に向けて発せられたであろう不名誉なあだ名に唯先輩の方を振り向くと
先輩は頬を膨らませジト目で私を睨んでいた。
まあそんな表情をしても可愛らしさの方が前面に出てあんまり怖くないんですが。
・・・・・・もしかして・・・・・・怒られてるの、私、ですか?

唯「見たでしょ・・・?」


→見ちゃいました・・・

 見てません!


非常に重要な選択肢のような気がします。
ゲームで言うなら一方がハッピーエンド、もう一方がバッドエンドに繋がる選択のような。
って言うかなんで私が怒られてるんですか?
着替えを忘れたのは確かに私が悪かったですけど
その後の・・・・・・あれは事故みたいなものじゃないですか!

梓「そ、その・・・チラッと見えちゃいましたけど・・・一瞬でしたし、あんまり・・・///」

とりあえず選択肢は無難な折衷案を選んでみました。
ホントは目に焼きついてますすいません。

唯「嘘つき。あずにゃんすごい目つきでジーッと見てたもん」

バレバレでした。

唯「エロにゃん。エッチにゃん。スケベにゃん。セクハラにゃん」

語呂がどんどんひどくなってますよ?
というか私は何故こんなに責められているのだろう。
確かに唯先輩の体を凝視してしまったのは認めますが・・・女同士ですし
以前に裸の付き合いをしたこともありますしそこまで怒ることじゃ・・・
私はなんと言っていいか分からず、そして唯先輩もそれ以上なにも言わず
またしばらくドライヤーの音だけが鳴り響いた。

ちびにゃんの髪を乾かし終わり、そういえばさっきからやけに静かだなと思い
顔を覗き込むと、私の前に座ったまま器用に寝てしまっていた。
そう言えば叔母さんがいつもこれくらいの時間にお昼寝してるって言ってたっけ。

唯「ありゃ?ちびにゃん寝ちゃったんだ?ふふ、可愛い寝顔ー♪」

唯先輩も自分の髪を乾かし終え、寝てしまったちびにゃんのほっぺをつんつんとつつく。
奇しくも二人っきりになってしまった。
しかし唯先輩は私に対してまだ怒っているはずだ。
なんと話しかけたらいいものか。
まずは謝るべきだろうか?しかし何故怒っているのかわからないのに謝るというのも
失礼な気がするし・・・・・・

唯「ごめんね。あずにゃん」

梓「え?」

先に謝られてしまった。

梓「なんで唯先輩が謝るんですか」

唯「だってさっきひどいこと言っちゃったから・・・その・・・エ、エロにゃんとか・・・」

梓「・・・唯先輩は私に怒ってるんですよね?じゃあそれくらい言ってもしょうがないかと・・・」

唯「ええっ!?な、なんで私があずにゃんに怒るの?あずにゃん何も悪いことしてないじゃん!?」

梓「えっ!?怒ってなかったんですか?」

じゃあ着替えてからのあの反応は一体・・・?

唯「怒ってないよー。あずにゃんに、その・・・裸見られちゃたのが恥ずかしかっただけで・・・・・・///」

ああ、あれは照れてた反応なんですか。

唯「なんでかなぁ・・・女の子同士だし、一緒にお風呂入ったこともあるのにね?
 さっきあずにゃんに見られちゃった時すっごく恥ずかしくなっちゃって・・・
 前はそんなことなかったのに・・・・・・」

梓「唯先輩・・・・・・」

ちび「うぅーん・・・・・・」ムニャムニャ

ちびにゃんが苦しそうな寝息を立てる。
そう言えば座ったまま寝てしまっていたんだった。

唯「ふふ・・・お布団に運んであげようか」

梓「そうですね」

ちびにゃんを私の部屋に運びながら私は唯先輩との関係が変わり始めたことを感じていた。


  • これは続編を期待してもいいのかな・・・? -- (鯖猫) 2013-04-23 23:33:47
  • 時間かかってもいいなら続編書くって言ってたよ -- (“世界一小ズルい者”タイチ) 2013-04-25 05:41:43
  • 続編希望 -- (名無しさん) 2013-04-27 02:00:22
  • 唯先輩もあずにゃんもちびにゃんも登場人物全員かわいすぎる!続編をぜひ -- (名無しさん) 2013-05-02 22:35:41
  • 是非 続編をお願いします。 -- (名無しさん) 2013-06-06 00:34:46
  • 続きを! -- (名無しさん) 2014-04-26 13:28:03
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最終更新:2013年04月23日 21:37