唯先輩が純に抱きついた。
もちろんそれは衝動的なもので、深い意味なんてないだろう。誰かに抱きつくのは唯先輩の癖みたいなものだから気にすることなんてない。
そう頭ではわかっていても、どこかで引っ掛かってしまう。そのせいで不機嫌になってしまうのもなおさら子供っぽいってわかってる。
でも好きな人が誰かにスキンシップするのを見て微笑ましいなと片付けてしまえるほど、私は大人じゃないんだ。

「ねぇねぇあずにゃんってば、どうかしたの?」
「……」

憂と純がおやつのお菓子を買いに出かけて、私と唯先輩は部屋で二人きりになっていた。

あずにゃん?」
「……」

唯先輩の問いかけを全て無視してギターを弾く私は、情けないほどに子供だ。
これじゃ拗ねればかまってもらえると信じる幼稚園児や小学生と変わらない。ホント、私ってどうしてこうなんだろう。

「…もしかして、さっきのこと怒ってる?」

図星を突かれて、私はきゅっと下唇を噛む。そうだよね。唯先輩はわかるんだよね、私の気持ち。
いつも私の隣にいる唯先輩から見れば、態度が変わった原因なんて一目瞭然なんだろう。

それゆえに、悔しくなる。そんな唯先輩に甘えてる自分に。

「あずにゃん…ごめんね」
「…なんで謝るんですか」
「私が純ちゃんに抱きついたから…」
「そうじゃないです。なんで私に謝ろうって思ったんですか」
「…あずにゃんが怒ってるって思ったから」
「なんでですか」
「…私はあずにゃんの恋人なのに、あずにゃん以外の子に抱きついたから」
「……」
「あずにゃん…?」
「唯先輩…」
「あずっ…!」

私は飛びかかるようにして唯先輩を床に押し倒した。
…私は本当に子供だ。こんなにも簡単に自分の気持ちを抑えきれなくなるなんて。
私のことを全て受け入れてくれる唯先輩への信頼と愛情。そして自分が気に入った人には誰彼構わず抱きつくことへの嫉妬と独占欲。
その全てがぐちゃぐちゃに混ざり合って、訳がわからなくなって…沸き上がる衝動に身を任せることしか、できなくなっていた。

「あずにゃん…」
「…唯先輩なんか大嫌いですっ…!」
「……」
「大嫌い…大嫌い、大嫌い、大嫌い…」
「…ごめんね、あずにゃん」

体の上に重なる私の頭をあやすように撫でる手のひら。その感触は少しずつ荒らぶった感情を癒していく。
そうされてからやっと私は素直になれる。言いたいことを、言えるようになれるんだ。

「…もう私以外にああいうことしないでください」
「うん…しないよ」
「ホントだよ、約束だよ?これからはずっと私のことだけ見てて。私以外に触らないで。私以外にかわいいなんて言わないで。私以外に…」
「大丈夫だよ。私が好きなのはあずにゃんだけだから」
「……」
「だから安心して。ね?」
「……」
「好きだよ…あずにゃん」

唯先輩は私を抱きしめるとすばやくキスをした。
もちろん私はそれを拒まない。意思なんてない。理性なんてない。唯先輩が私にしていることが謝罪だろうとなんだろうと関係ない。
私はただそれを本能で受け入れるだけなんだから。

「んっ…んぷっ…っ…ぁっ……」

深く差し込まれた唯先輩の熱い舌は、私の口の中を何かを求めるかのように激しく這い回る。
最初は荒い息が、数十秒後には絡み合う舌が発する音が、静かな部屋に妖しげに響いた。

「クチュ……チュ…ぁ…ゃ…っ……」
「はぁ、はぁ…あずにゃん……しても、いい…?」
「…ぅん……」
「…えへへ…ありがと…ね…」

唾液で光る私の口の周りを舐めながら、唯先輩は微笑んだ。
胸や尻を優しく撫でる手のひらは、さっきと同じように私の力を抜いていく。

「…唯先輩」

「ん…?」
「私ね…?唯先輩のこと、独り占めしたい。誰にも、渡したくない」
「…うん」
「でも…唯先輩が誰かと仲良くしたくなったり、抱きつきたくなったら…そしたら、がんばって我慢する。だって…」
「なに?」
「…その分、こうやって私のこと好きって言ったりしてくれるから」
「…うん、大丈夫だよ。私の一番はいつだってあずにゃんだからね」
「ありがと…ひゃっ!あ、ぁ、ぁうっ……」
「だから…いっぱいしようね」
「ふ、ふぁ…うっ…うん…」

そろそろ、憂と純が帰ってくる頃だろう。あるいは既に、気まずそうに部屋の前で立ち尽くしているかもしれない。

でも、そんなのどうでもいい。今はただ、大好きな唯先輩と愛を確かめ合うことが出来れば、それで――

END


  • 最高にGJじゃ -- (名無しさん) 2010-08-10 22:40:29
  • や、やば!鼻血が!?そして優と純が凄い顔してる。 -- (あずにゃんラブ) 2013-01-20 02:35:15
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最終更新:2010年05月12日 21:08