「ギ~太ぁ、むちゅちゅぅ~…zzz 」
「まったく、私とギー太のどっちが大事なんですか?」


幸せそうにまどろんだ表情で、ギー太を抱きしめながらベッドに横になる唯先輩を見て、
私は思わずそう呟かずにはいられなかった。
これはもう、嫉妬以外の何物でもない。私はギー太に嫉妬している。


「ごめんね梓ちゃん。私なにも知らなくて…」


隣にいる憂が申し訳なさそうに言う。
憂の困った顔を見ると、なぜか自分が悪い側であるように錯覚する不思議。
苦手とは言わないけど、どこか胸がチクリと痛む。


「仕方ないよ、電話で約束してからそのまま寝ちゃったんだし」
「ホントにごめんねぇ」


そもそも、呼び付けたのは唯先輩の方なのだ。
明日は休日で特にやることもないからと言って、朝から遊ぶ約束をしていた。
なのに、この人ときたら……。


「憂、ちょっと耳塞いでてくれる?」
「え?」


私は唯先輩を覆う毛布を力いっぱい引き剥がすとギー太を奪い取り、
ありったけの恨みをこめてベートーベンの『運命』を引っ掻き鳴らしてやった。


ジャジャジャジャーンwwwwww


案の定、唯先輩が泣きついてくるまでものの数秒も要さなかった。


「ごめんなさい……」
「まったくです!何様のつもりですかっ」


唯先輩は朝食のパンを頬張りながら必死に謝罪を繰り返していた。
そうだもっと謝れ。今日の私はいつもより怒り倍増なんです。


あずにゃんゆるしてぇ~?」
「ふんだっ、知りません」
「ふえぇ~ん」


ついに泣き出してしまう唯先輩。
これには流石の私も焦った。
憂も台所からオロオロした顔を覗かせている。
ああもう、なんでいつも私だけこんな損な役回りなんですか!


「ふぇ……あずにゃん…?」
「もう、本当に困った先輩ですね」


私は唯先輩を抱きしめた。
慣れないことをするものではないと思うけど、この時ばかりは仕方ない。
そうでもしないと、きっと唯先輩は泣き続けてしまいそうだったから。


「ほんと、もう次はないですからね?今回だけですよ?」
「うん…うん……」


一応念を押しておくと、唯先輩は何度も頷いて反省していた。
まあよしとしましょう。
ここまで必死に謝られて、それを蹴散らすほど私も鬼ではありませんから。
命拾いしましたね、唯先輩?




後から聞いた話……。
唯先輩は私に嫌われたと勘違いしてしまい、泣いてしまったらしい。
バカですね唯先輩は……
本当に嫌いなら、今まであんなにしつこく抱きつかれて、嫌がらない私じゃないですよ。
私だって、誰にでも抱きつかれて、喜ぶような気まぐれ猫じゃないんです。
唯先輩だから、唯先輩にだけなら、許せるんです。
そんなことにも気づけない唯先輩は、やっぱりダメな先輩です。




そんなダメな唯先輩だから、やっぱり私がついていないとダメなんですっ


……………なんてね




END


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最終更新:2010年06月02日 20:20