唯「あずにゃーん」
背中一面に唯先輩の体温を感じる。
目が覚めても体を起こす気になれずしばらく布団の中で蹲っていたら唯先輩が起きた。
一生懸命体をゆすって何度も、何度も私の名前を呼ぶ。
その姿が愛おしくてしばらく寝たふりを続けていた。
そんな休日の朝。
梓「憂はどうしたんですか?」
唯「今日は中学のメンバーで遊びに行ったよ。」
梓「ああ、そう言えば純も言ってました。」
唯「寂しい?」
梓「何が?」
唯「憂も純ちゃんもいなくて。」
ちょっぴり意地悪そうに笑う先輩。静かな平沢家の朝。普段は階段下りれば憂が笑顔で朝食を用意し三人で談笑をしながらテーブルを囲う。
そんな憂がいない今日。テーブルの料理も寂しくて、でも不思議と嫌な気分ではない。
梓「今日はどうします?」
唯「ほえ?」
梓「この後ですよ。」
唯「えーと、TV見てーゲームしてー。」
梓「この間もそうじゃないですか。折角二人でいるんですからどこかに行きましょうよ。」
もうすぐ卒業なんだから。
梓「…。」
そう言いかけてやめた。そんな言葉口に出したら自分が寂しくなる。
唯先輩はそんな私の気持ちなんて露知らず。もうすでに床で寝そべっている。
梓「…先輩。」
唯「
あずにゃんもごろごろしよーよー。」
梓「…。」
唯「気持ちいよー。」
唯先輩の馬鹿。そんな顔で言われたら断れないじゃないですか。
溜息ついて先輩の横へしゃがむ。すかさず先輩は手を伸ばし私を組み敷く。
梓「…ごろごろするんじゃないんですか?」
唯「…えへへ。」
梓「まだ昼前ですよ。」
唯「関係ないよ。」
そう言って顔を近づける先輩を力いっぱい押しのける。こんな時間からこんな事したらまた一日を何もせずに終わってしまう。
唯「あずにゃんのいけずう。」
梓「はいはい。」
頬を膨らます先輩にそっぽを向ける。顔真っ赤なのバレたらまた茶化されるんだもん。
唯「あ、メールだ。」
梓「…。」
唯「…りっちゃんだよ。」
思わずほっとすると先輩はにっこり笑った。
唯「今日二人きりじゃなくちゃダメ?」
梓「律先輩来るんですか?」
唯「まだ返事してないよ。」
ちょっと悩んだ。春になったら今みたいに休日のたび先輩と会うなんて事はできない。
でもそれは先輩方も一緒。恋人としての時間か、軽音部としての時間を大切にするか。
梓「大丈夫ですよ。」
唯先輩は大人数が好き。ここは先輩の気持ちを優先した。
唯「30分後来るってー。」
梓「そうですか。」
30分…30分間唯先輩と二人っきり。
唯「あーずにゃん。」
ぽふんといつもの感触。先輩は正面より後ろから抱きしめるのが好きみたい。
梓「なんですか?」
唯「りっちゃん来るまであずにゃん分補給しておくのっ」
梓「来てもくっつくじゃないですか…。」
先輩の香りがする。今まで先輩に抱きしめられるたびこの香りを感じた。
ほんのり甘くて、服に染み込む家の香りすら愛おしい。
抵抗する気のない私に気づいてか先輩はしばらく私を抱きしめていた。
体制を変え、ソファーに座る先輩に正面で覆いかぶさるように密着する。
傍から見たらちょっとシュールな格好かも。
さっきの抵抗のせいもあってか先輩はすごく嬉しそう。
私の胸の中に納まる姿はまるで子供みたい。
唯「
ねえ、あずにゃん。」
梓「なんですか?」
唯「ちゅーしていい?」
梓「…。」
天然って怖い。私が素直にはいって言うわけないじゃないですか。
梓「別に…好きにしていいですよ。」
唯「ふへ。」
くしゃくしゃに私の頭を撫でる。もう、髪型崩れちゃうじゃないですか。
背中に回す手をより一層強めて私を見つめる。
ふわりと先輩の感触がする。
ただ目を閉じてそれを堪能した。
あと数カ月で先輩は学校から去っていく、私は取り残されたまま先輩との
思い出を噛みしめながら過ごしていく。
卒業しても先輩は私と一緒にいてくれるのかな?
浮気なんかしないよね?
でも、私の知らない人とじゃれあっている姿を想像するとちょっと嫌かも。
唯「…あずにゃん?」
梓「…はい。」
唯「いつもより、ちゅーが熱いよ?」
梓「…気のせいですよ。」
いつまでもこうしていたい。
さっきまでは外に出かけたがっていたのに。
玄関の外で物音がする。先輩の携帯が鳴る。
ごめんねと唯先輩は言って体を離す。
はにかんだ笑顔はいつもと変わりなくて、律先輩を迎えに玄関へ向かうその後ろ姿が寂しかった。
なんだかそのままどこかへいってしまう錯覚に陥る。
梓「…唯先輩。」
唯「?なあに?」
梓「…今夜も泊っていいですか?」
唯「うんっ」
先輩は私がこんな小さなことで悩んでいるのを知らないんだろうなあ。
でもそんな先輩だからこそいいんだけどね。
梓「ゆ、唯先輩っ」
唯「ほえ?」
何度も呼ばれ不思議そうに振り返る先輩。
馴れない手つきで先輩の頬に手を添え背伸びをした。
終わり
- いいね…… -- (名無しさん) 2014-03-26 21:54:21
最終更新:2010年06月09日 20:29