あずにゃん手繋ごっ」
「仕方ないですね。ちょっとだけですよ」

夕暮れの帰り道。
唯先輩が手を差し出す。
私はそれを掴む。

「ちょっとだけなんて勿体ないこと言わないでよぉ」
「じゃあいいですよ。ちょっとだけじゃなくても」

行き交う人たちが私たちを見ている。
なんてことはない。
女の子同士が手を繋ぐなんてよくある話だ。
男同士ならまだしも女同士なら、
仲の良いスキンシップ程度にしか見えないだろう。

「ほら、あずにゃんもぎゅって」
「はいはい」

注文の多い人だ。特に私には。
唯先輩は最近スキンシップをする際に、
よく私に注文をつけてくる。
初めは私からも手を回してだとか、
ナデナデしてだとか可愛いものだったから良かった。
けど、

「あずにゃんチューしてよ」
「バカ言わないでください」

コレである。
自分からはしない癖に、
人にばかり無茶を言う。

「ここどこだと思ってるんですか」
「外だけど」
「そうですねなに考えてるんですか」

いたって正常な思考だろう私は。
おかしいのはこの人だ。
路上で堂々とキスする?
そんなの、公式男女カップルがやったとしても、
傍から見ればいい迷惑だ。進路妨害だ。

「だってあずにゃんとキスしたいよ」
「冗談もここまでくれば笑えないです」
「ぶー、冗談じゃないのにぃ」

だから笑えないと暗に示しているのに。
この人はどこまで私を振りまわせば気が済むのか。
私だって、キス……したいですよ。

「やめてください警察呼びますよ」
「えぇーーー!!」

なんて理不尽なと声を上げる先輩。
それはこっちの台詞ですと言ってやりたい。
言うけど。言ってやったけど。

「あずにゃんの意気地なし」
「そう言うなら唯先輩がしてみろってんですっ」

今なら言える。
こんなことを言うんじゃなかった…。
言葉を選ぶべきだった。
いや、結果は変わらないかもしれないが。

結果から言うと私は唇を塞がれた。
私がその言葉を口にした約2秒後に。

1秒悩み、そしてもう1秒で決断、実行に移す。
トータル2秒。これぞ唯先輩クオリティ。
どういうことかというと唯先輩の行動は早かった。
私が息をつく暇もなく、その距離はゼロになっていた。

「んむ…んっ…」

噛みつかれるようなキス。
身長差があるためか、必然的に、
唯先輩が下を向き、私が上を向く姿勢になる。
それはまるで、唯先輩が私の生き血を啜るようだった。
濃厚なスープを啜るように、私の顔を両手で挟んで、
身動きをとれないようにして、一滴一滴、丁寧に……。

「ごちそうさま、あずにゃん」
「も、もうっ…バカ…」

夕日に照らされた唯先輩が舌なめずりして妖しく笑む。
対して私はその光景があまりに眩しすぎて目を逸らすしかなかった。
そしていつも思うのだ。この人には敵わないと。

「じゃあ次はあずにゃんね♪」
「し、仕方ないですね……場所、変えますよ……」






END


  • はい…ご馳走様でした -- (あずにゃんラブ) 2013-01-17 23:10:50
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最終更新:2010年07月13日 22:53