夕暮れの
帰り道。
ふと会話を切った唯先輩は思い出したように叫んだ。
「憂に買い物頼まれてたの忘れてた!!」
はぁ、なんというか、さすがは唯先輩クオリティと言ったところでしょうか。
なんでもない一日の風景ですら、唯先輩と一緒にいるだけで、
退屈の二文字はありえないみたいです。
私は「仕方ないですね」と渋々唯先輩に同行することにした。
その旨を伝えると、唯先輩はさっきまでの慌ただしい様子は何処へやら、
途端に元気になったかと思うと「じゃあ行こう!」と言って私の手を引っ張りだした。
ホント…退屈しないです。
それから数分歩いて……。
近くのスーパーに付いた私と唯先輩は、なぜか意味もなく店内を物色する。
そして、唯先輩がプリンやらお菓子やらを大量に取り出しては、
私が籠に入れるのを阻止すると言う奇妙な光景が繰り広げられた。
「え~~、
あずにゃんのケチんぼ~~」
「憂に頼まれた買い物はどうしたんですかっ、私だって好きでこんなことやってません、憂のためです」
「はぁ~、あずにゃんも憂も、なんで私の周りの人たちはこんなできた娘ばかりなんでしょう……」
「唯先輩はむしろ幸せ者ですよ。憂や私がいなかったら、いったい誰が唯先輩の世話をするんですか」
「じゃあ、あずにゃんがずっと死ぬまで私の面倒見てくれるぅ~?」
「そこで人生放棄しないでください!唯先輩はまだまだ
これから輝くんです、そんな簡単に諦めちゃダメですっ」
「でもでも……言われてみると、確かにあずにゃんや憂の助けがなかったら、なにもできない私だしぃ」
「それでも、唯先輩は頑張ってるじゃないですか、最近はギターの上達も目覚ましいですし、
そんな唯先輩だから、私も憂も、助けてあげたくなるんですよ?」
「そっかぁ……うんわかった!皆の気持ちを無駄にしないためにも、私は私の今できる精一杯をします!」
「それでこそ唯先輩です。見直しましたよ」
「えへへ~それほどでもぉ、もっと褒めてぇ~?」
「こらこら、そこで調子に乗るのも唯先輩の悪い癖ですよ?」
「はっ、はい!あずにゃん隊長!」
「よろしい」
なんだか、わざわざスーパーでするような会話でもないが、
一応一区切りついたところで、私たちは本来の目的に戻った。
唯先輩のリクエストにより、平沢家の晩ご飯はスキヤキらしい。
そういえば、スキヤキなんて最後に食べたのはいつだっけ…。
最近は親が出張で忙しかったりして、まともに食卓を囲めていない気がする。
ちょっぴり寂しい気持ちになった……。
「あっ、あずにゃんもよかったら一緒に食べて行きなよ!スキヤキ美味しいよ~♪」
そんな私のちょっと落ち込んだ様子が目に映ってしまったのか、
買い物籠を片手の唯先輩は、いつも通りの、のほほんとした雰囲気でそう提案してきた。
「え?で、でも……なんか悪いですよ。それに、私だって食べるものがないわけでは……ないですし」
「遠慮しないでよあずにゃん。付き合ってくれたお礼だよ♪それに、あずにゃんだって私たちの家族みたいなもんだしね♪」
家族……。私はその言葉にひどく心を揺さぶられた。
唯先輩は私のことを家族と言ってくれた。
私はその言葉に、ポッと胸の奥に明かりが灯ったように暖かくなるのを感じた。
「じゃあ、今回だけ、お言葉に甘えさせてもらいます…」
「べつに今回だけじゃなくても、いつだってあずにゃんなら大歓迎だよ!」
ああ、どうしてこの人はこんなにも、私が望んだ言葉を惜しげもなく言ってしまえるんだろう。
その度に、私がどれだけあなたを意識してしまうのかも知らずに……。
「ずるいです……唯先輩は、ほんとうにずるいですよ。そんなこと言われたら……」
「あずにゃん?」
私は、この日一番の笑顔を
誰よりも見て貰いたい一番の人に
向けた
「…………嬉しすぎて、にやけちゃうじゃないですか」
おわり
最終更新:2010年06月02日 20:24