「何か楽しい事を考えて走ったらどうだ?」

走る事に限界を感じつつあった私に、澪ちゃんが一つのアドバイスをしてくれた。
でも、楽しい事って言うと、何があるかなぁ・・・。

「唯先輩、頑張ってください!ゴールしたら、お汁粉が待ってますよ♪
 あっ、それとも冷たいかき氷が良いですか?それとも、唯先輩の大好物のアイスが良いですか?」

食べる事は楽しいなぁ~・・・でも、あずにゃん、そんなに用意されちゃったら、食べきれないよ~。

「唯先輩、頑張って走ったから、凄い汗かいちゃいましたね!まずは冷たい物を飲んで落ち着きますか?
 それとも、汗をかいたままでは風邪をひいてしまうのでシャワーにしますか?それとも・・・わ・た・し?」

「えへへ~、あずにゃん・・・何て大胆な・・・♪」
「何考えてるんだ・・・」

はっ・・・楽しい事と言われて、私はあずにゃんとのお楽しみを考えてしまっていた!
あんな事やこんな事・・・え、そんな事まで!?・・・でも、澪ちゃんの言葉で私は現実に戻ってきた。
想像だけでは物足りないので・・・マラソン大会が終わったら、あずにゃんにおねだりしようかな・・・。

「あっ・・・」

あずにゃんの事ばかり考えていたら、足を取られて転んでしまった。
待って・・・と声を出そうとしたけど、皆との距離はどんどん広がるばかり・・・。
結局、3人は心臓破りの坂を上り切り、背中が見えなくなってしまった。
私は足を擦りむいただけで、立ち上がれないほどのものではなかった。
だけど、ここまで走ってきた疲れと、照りつける太陽が私の体力を奪っていき、次第に意識も遠のいていってしまった。

「あずにゃん・・・」




何故だろう・・・。意識が遠のいていく瞬間まで、私はあずにゃんの名前を呟いていた。
今、あずにゃんはどこに居るかわからない。もしかしたら、もう学校に居るのかもしれない。
だけど・・・どうしてもあずにゃんの声が聞きたくて、助けてもらいたくて、ここに来てほしくて・・・。
ただただ、あずにゃんの名前を呼んでいた。


「・・・ぱい・・・せんぱい・・・」

あれ・・・何だろう・・・。何か・・・凄く愛しい声が聞こえる・・・。
真っ暗な所に・・・一筋の光が見えた。そこから聞こえる、私の大好きな人の声・・・。

「唯先輩・・・しっかりしてください、唯先輩・・・!」
「あ・・・あずにゃん・・・?」

一筋の光の先から、私の大好きな人が見えた。これって・・・夢じゃないよね・・・?

「唯先輩、大丈夫ですか!?」
「あずにゃん・・・ここ・・・は?」
「マラソン大会のコース近くの公園です!唯先輩が道で倒れていたので、公園の日陰のある場所まで抱えてきたんです!」
「そうなんだ・・・ありがとう、あずにゃん・・・」

心配そうな顔をして、私を覗き込むあずにゃん・・・後輩に心配かけさせちゃうなんて、ダメな先輩・・・だよね。

「心配かけさせちゃってゴメンね・・・」
「気にしないでください・・・私、唯先輩が無事だっただけで良いんです・・・。純から唯先輩が居なくなったって聞いた時、本当に心配で・・・」
「あずにゃん・・・ゴメンね・・・」
「唯先輩の姿を見つけた時、私が助けなきゃ!って必死でした。必死故に、こんな事しちゃってますけど・・・///」
「ふぇ・・・?」

そういえば、何か頭の感触がおかしいような。とっても気持ちいいというか、落ち着くというか・・・。

「あずにゃん・・・もしかして、これって・・・」
「はい・・・膝枕です・・・///」

今、私・・・あずにゃんに膝枕をしてもらっているの・・・!? 
膝枕って聞いて、意識が完全に戻っちゃった。それに、マラソン大会の疲れが一気に吹っ飛んじゃった。
ずっと走っていたから、体が熱く感じていたけど、それとは違う、体の火照りをジワジワと感じていた。
だけど・・・せっかくのこの時間を失いたくないな・・・。

木陰に吹いてくるそよ風がとても気持ち良いなぁ。さっきまで辛かったのに・・・今は凄く幸せな気分だよ。

「ねぇ、あずにゃん・・・膝枕、とっても気持ち良いよ♪」
「ほ、本当ですか?///」
「うん・・・何だか、こうしてると恋人みたいだね///」
「こ、恋人・・・って、何言うんですかぁ///」
「あ、あずにゃん、顔赤いよ?」
「ゆ、唯先輩こそ・・・顔赤いですよ!」
「私は・・・暑くてまだちょっと具合悪いから・・・」

な~んて嘘。照れ隠しだけど、ちょっと強引だったかな。
実際は、火傷しちゃうくらいに体が熱くなってるんだよ。こんなの、あずにゃんのせいだからね・・・。

「あっ・・・日射病対策で、スポーツドリンク買ってきたんです!・・・これ、飲んでください!」

      • 私、今病人って事になってるんだよね。病人なら、ちょっとは甘えても・・・許されるよね。
あずにゃんなら、きっと応えてくれるはず・・・♪

「あずにゃん・・・それ、飲ませて・・・」
「飲ませて・・・って、どうやってですか!?コップとか持ってないですよ・・・?」
「それは・・・あずにゃんの・・・口移し・・・」
「なっ・・・!?何言ってるんですかぁー!!」
「わ・・・私・・・あずにゃんからの口移しじゃないと・・・もう・・・死んじゃぅ・・・」
「何で急に弱ってるんですかぁー!!」

ここはちょっと演技であずにゃんを押してみる。あずにゃんって、結構押しに弱いからなぁ。
言葉で押して、ちょっと目を潤ませて・・・表情でも押してみよう。

「あずにゃ・・・もう私・・・ダメ・・・」

弱々しくあずにゃんの体操服に手をかけてみた。行動でもさらに押してみる。
すると、あずにゃんも観念したのか、小さな声で呟いた。

「うぅ・・・わかりました・・・。で、でも・・・一回だけですからね・・・」
「うん・・・」

そう言うと、あずにゃんはしきりに周りを気にし始めた。そりゃそうだよね。
真っ昼間から公園で女の子同士が膝枕で口移しの為にキスなんて・・・どう見てもバカップル・・・というか変態さんだよね・・・。
だけど、それを大好きなあずにゃんに要求するなんて・・・私って罪な女・・・♪
キョロキョロしながら、あずにゃんはスポーツドリンクを口に含み、私の口に注入してきた。

「ん・・・ちゅ・・・んぅ・・・」
「・・・んぅ・・・・・・・・・はぁ、はぁ・・・ど、どうですか、唯先輩・・・///」
「あずにゃんの味がして・・・美味しかった」

あずにゃんからの口移しは、私にとっては至高の味だよ。この味を楽しめるのは・・・世界でも私だけ♪
      • なんて考えたら嬉しくなってきた。
あずにゃん・・・もっと、もっとこの味を欲しくなってきちゃったよ。

「それじゃあ、これでもう大丈夫ですね・・・///」
「あずにゃん・・・おかわりが欲しいなぁ・・・」
「こ・・・ここじゃダメです///」
「えー、今じゃないと、私・・・死んじゃ・・・」
「またですか・・・」
「今欲しい~!」

私はすっと起きあがり、勢いよくあずにゃんの肩に手をおいた。
すると、その勢いのままあずにゃんを押し倒す形になってしまい、あずにゃんに覆い被さってしまった。

「ゆ・・・唯先輩・・・元気じゃないですか///」
「あずにゃんの特製スポーツドリンクのおかげで、元気になったの・・・」
「そう・・・ですか・・・」
「私の特製スポーツドリンク・・・どう? あずにゃんも元気になれるよ・・・?」
「お、お願い・・・します///」

私達は誰にも邪魔されず、2人だけの時間を堪能した。
今日って何の日だったっけ?って思うくらいに、このかけがえのない時間を味わえた。
そう、誰にも気付かれずに、2人だけの時間を・・・。


「澪、ムギ・・・私達・・・何を見てるんだろう・・・」(゜д゜;)
「居なくなった唯を探して・・・そしたら、公園で唯と梓が・・・いや、何も見てない事にしよう・・・」(・∇・;)
「こ、これは・・・撮影をしておかないと・・・!あ、これは個人で楽しみますので悪しからず♪」(´д`*)


今日の出来事は、澪と律の心の中と、ムギのムービーカメラの中にそっと残され、以降軽音部メンバーの前で話に出る事はなかったという。


END


名前:
感想/コメント:

すべてのコメントを見る

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2010年07月29日 20:35