もしも、軽音部に入っていなかったら?
近頃、私はそんな事を考える様になっていた。
あの時、憂が誘ってくれなかったら…
あの時、憂の誘いを私が断ってたら…
今頃、私は何をしてたんだろうか?
本当に楽しかった毎日、だけど楽しかった分だけ別れが辛い。
唯先輩にとっては最後の学園祭も終わり、今は受験に向かって頑張っている時期。
自ずと軽音部の活動も減り、最近は唯先輩と過ごす時間もめっきり減ってきていた。
だからだろう、こんな事を考えてしまうのは…
もしも、軽音部に入っていなかったら、唯先輩と出会っていなかったら、唯先輩を好きになっていなかったら。
こんな辛い気持ちになんてならずに済んだかも知れないのに。
「…なんて、今更考えてもどうにもならないんだけど」
そんな呟きと共に溜息を漏らす。
「はぁ、一度は覚悟を決めた筈なのになぁ」
ベッドに横になりながら携帯を手に取る。
「あれ、メール着てるや」
いつの間に?と思いつつメールを開く。
「あ、唯先輩からだ」
携帯の画面には『唯せんぱい』の文字。
「えっと、何々…」
from:唯せんぱい
件名:
あずにゃん、元気?
本文:私は勉強ばっかりで疲れちゃった、あずにゃん分が足りないから補充させてよぉ><
「ふふ、唯先輩は相変わらずか」
メールを読みつつ、思わず口元が緩む。
「しっかりしてください、頑張って勉強しないと皆さんと一緒の大学に行けませんよ…と」
メールを打ち返しながら、胸の奥が少しだけ痛んだ。
「一緒の大学…か、私だけが離れ離れになっちゃうんだ」
そして、またふと考えてしまう。
「…出会わなければ良かったのかな」
最近、ふとした事でそんな風に考える事が多くなった。
「まただ…何でこんなネガティブになっちゃうんだろう」
自己嫌悪に苛まれながら溜息を吐く。その時、不意に携帯の着信音が鳴り響いた。
「電話…唯先輩?」
私は着信ボタンを押し、携帯を耳に当てる。
『もしもし、あずにゃん?』
おっとりとした優しいその声は間違いなく唯先輩のもの。
「どうしたんですか、こんな時間に何か用ですか?」
嬉しいくせに、つい棘のある言い方をしてしまう自分を殴ってやりたい。
『用事って訳じゃないけど、あずにゃんの声が聞きたくなって~』
「声ぐらい学校でも聞けるじゃないですか」
『そうなんだけど、この頃はあずにゃんと会える機会も減っちゃったんだもん』
「それは確かにそうかも知れませんけど…」
唯先輩も私と会えない事を寂しく思ってくれていたらしい。
『あずにゃん分が足りないから、せめて声で補充しようと思ってね』
「はぁ、声で補充出来るのならもう抱きついて来ないで下さいね」
『え~、それは駄目だよ!あずにゃんを抱きしめてこそ満タンになるんだから!』
「意味が解りません」
『ぶ~、あずにゃんのいけず』
そんな他愛のない会話を交わしながら、私の心は少しずつ満たされていく。
「それで、勉強の方は捗ってるんですか?」
『和ちゃんや憂に教わりながら頑張ってるよ~』
「いえ、和さんは解りますが憂に教わってちゃ駄目でしょ…」
『そうかなぁ、そうかもね~』
「本当にもう…」
『それでね、あずにゃん』
「はい、何ですか?」
『明日、一緒にお出かけしない?』
「何でいきなりそうなるんですか…」
『久しぶりにあずにゃんとお喋りしたいなぁって』
「今も喋ってるじゃないですか」
『電話越しじゃなくて、あずにゃんの顔を見つめながら話したいのです!』
「恥ずかしい事をさらっと言わないで下さい」
『えへへ、駄目かなぁ?』
「…勉強の方は本当に大丈夫なんでしょうね?」
『大丈夫!』
「何ですか、その根拠のない自信は…」
『えへへ~』
「もう、笑って誤魔化さないで下さい」
『あずにゃ~ん』
「…はぁ、わかりました」
『え、お出かけしてくれるの?』
「明日は特に用事もないですし、それで唯先輩の息抜きになるんでしたら構いませんよ」
『ありがと~♪あずにゃん分を補給したらきっと勉強も頑張れるよ♪』
「調子の良いことばかり言わないで下さい」
『本当だもん』
「はいはい、それじゃあ…」
そう言って、待ち合わせの場所と時間を確認する。
『じゃあ、あずにゃんまた明日ね♪』
「はい、おやすみなさい唯先輩」
『おやすみ~♪』
「…ふぅ」
携帯を閉じ、枕に顔を埋めながら軽く息を吐く。
「素直じゃないなぁ、私…」
唯先輩の声が聞けて、唯先輩に誘われて本当は凄く嬉しかったのに。
「…明日、どんな服着てこうかな」
そんな事を考えながら、私は静かに目を閉じた。
「ん…」
窓から差し込む眩しい光に、私は思わず目を細めた。
「ふわぁ~あ…」
枕元にあった携帯を手に取り時間を確認する。
「10時16分…」
一瞬の間を置き、全身から血の気が引いた。
「え、え、え~!?」
思わず叫んで部屋の時計を見直す。
「どうしよう、約束の時間過ぎちゃってる…」
我ながら情けない、こう言う時こそ冷静に対処しないといけないのに。
「そうだ…とりあえず唯先輩に伝えないと」
私は再び携帯を開き、唯先輩の携帯に電話を掛けようとした。
「…あれ?」
おかしい、メモリ登録してある筈の番号が出てこない。
「おかしいな」
何度やっても唯先輩の番号は出てこない、それどころか着歴にも唯先輩の名前はなかった。
「何で?昨夜、唯先輩と電話で話した所なのに…」
時間がない事に苛立ちながら携帯を操作していた矢先、ふとある事に気が付いた。
「あれ、こんなに登録件数少なかったっけ…?」
登録している番号を五十音順に流して行く。
「…ない」
私は茫然と呟いた。
「澪先輩の番号もムギ先輩の番号も律先輩の番号も…」
どんどんページを捲るが登録していた筈の番号が出てこない。
「憂のも純の番号もない…何で?」
あまりの事態に、私は携帯を握ったままの状態で暫く途方に暮れていた。
「悩んでても仕方ないか…取りあえず待ち合わせの場所に行かないと」
こうして居ても時間は止まってはくれない、既に待ち合わせの時間から40分近く過ぎている。
「唯先輩、まだ待っててくれてるかな…」
不安げに呟きながらも、唯先輩ならきっと待っていてくれていると心の何処かでは確信していた。
私は出来るだけ素早く着替えを済ませ、待ち合わせの場所へと急ぐ事にした。
「唯先輩!」
時刻は既に11時を過ぎていた。
待ち合わせ場所に着いた私は唯先輩の姿を懸命に探す。
「…居ない」
辺りを見回すが唯先輩の姿は何処にもなかった。
「怒って帰っちゃったのかな…」
唯先輩が怒る顔なんてまるで想像出来なかったが、この寒空の中で1時間も待たせてしまったのだから怒らせてしまう事だって有り得る話だ。
「だけど…」
私は携帯を開き呟く。
「唯先輩から連絡が一切ないって言うのも、何か不自然な気がするんだけど」
唯先輩の事だ、私が待ち合わせ時間に来てなかったら心配してメールなり電話なりして来るはずなのに。
「まさかとは思うけど…」
私はもう一つの可能性を導き出す。
「もしかして、唯先輩…まだ家で寝てるとか?」
可能性がない訳じゃない、むしろ普段の唯先輩の行動から考えるとその可能性は極めて高い。
「見た限り此処にはいないみたいだし、家の方に行ってみようかな」
私は途中で行き違わない様、周囲に気を配りながら唯先輩の家へと向かう事にした。
「あ…」
唯先輩の家に向かうべくその場を離れようとした時、視界の端にふと見知った顔が映り込んだ。
「純~!」
私は名前を呼びながら彼女に向かって軽く手を振る。しかし彼女がこちらに気付く様子はない。微かに聞こえた声に辺りを見回し首を傾げるだけだった。
「あれ、聞こえてないのかな?」
私は彼女の方へと歩きながらもう一度その名を呼ぼうとした。けれどその時、私とは正反対の方向から彼女を呼ぶ声がした。
「お待たせ、純ちゃん!」
「もう遅いじゃない、憂」
手を振りながらその場に現れたのは憂、急いで走って来たのか心なしか息が荒い。
「ごめんね~、お姉ちゃんが中々起きてくれなくて…」
「相変わらずだね、憂のお姉ちゃん」
二人の会話が聞こえた私はホッとして胸を撫で下ろす。
「やっぱり、唯先輩も寝坊してたんだ」
人間とは現金なもので、安心すると同時に今度は怒りが沸々と沸いて来た。
「唯先輩から誘って来たのに…ここは厳しくお説教した方が良いよね」
そんな事を考えていると、いつの間にか私は憂達の目の前まで来ていた。
「憂、純、二人揃ってお出掛け?」
私が掛けた声に二人はこちらを振り向く。
「…」
「…」
二人は私を見つめるが何も答えない。
「…?どうしたの、二人とも?」
再度の問いに、純が少し困った様な顔で口を開く。
「え、えっと…確か同じクラスの中野さんだったかな?」
「え?」
思いも寄らぬ純の返答に、私は茫然と呟いた。
「純ちゃん、クラスメイトなんだからちゃんと覚えておかないと」
「そうだよね、ごめんごめん」
憂に窘められ、純が私に向かって頭を下げる。
「ちょ…純?憂?一体、何の冗談…」
「中野梓ちゃんだよね…今日はどうしたの、梓ちゃんもここで待ち合わせしてるのかな」
「!」
憂の言葉に私は凍りついた。今の言葉はどう聞いても友達に対してじゃない、他人に対して放つそれだったから。
「梓ちゃん?」
「あ…うん、ちょっと友達と待ち合わせしてたんだけど来なくてさ」
「ああ、そうなんだ」
屈託のない笑顔で憂が言う。その表情からは私をからかおうとしている様子など微塵も感じない。
「良かったら、友達が来るまで一緒にお話してようか?」
「う、ううん…ちょっと来るの遅れてるみたいだから迎えに行く事にするよ」
「そう?それなら良いけど…」
「うん、ごめんね…ありがとう…また、ね?」
何とかそれだけを言い残し、私は逃げる様にその場を立ち去った。
「行っちゃったね、梓ちゃん」
「うん、だけど…」
「どうしたの、純ちゃん?」
「あの子って意外と明るいんだね、教室ではいつも一人で居るからちょっと驚いちゃった」
「うん、そうだね」
「…と、急がないと映画始まっちゃうね」
「本当だ、もうこんな時間」
「さて、それじゃあ行きますか」
「うん、行こっか」
「何で…どう言う事なの?」
憂達と別れた後、私は我武者羅に走り続けた。
「訳わかんない…」
事態が飲み込めず、私は混乱する一方だった。
「これって、まさか…」
混乱する頭を何とか働かせ、私は考えを巡らせる。そして一つの結論に達した。
「私がずっと考えてた…もしもの世界?」
ここ最近、私がずっと考えてた事。
もしも、私が軽音部に入っていなかったら?
あの時、憂が誘ってくれなかったら…
あの時、憂の誘いを私が断ってたら…
その結果が、今のこの世界なのだろうか?
もしそうならば、携帯のメモリに唯先輩達の名前がないのも納得できる。
そもそも、出会って居ないのだから携帯番号なんて知ってる筈もない。
「だけど、それなら…」
私のこの記憶は何なのだろう?出会ってもいない人を想うこの気持ちは何なのだろう?
私は足を止める。いつの間にか私は唯先輩の家の前に立っていた。
「…」
私はドアの前に立ちインターホンを押すが返答はない。
「…」
再度、インターホンを鳴らすが一向に出てくる気配はない。
「…」
三度目のインターホンを鳴らした時、家の中から微かに音が聞こえた。
「…」
その音に私の体がわずかに強張る。私の想像が正しいかどうか、唯先輩と会えば全てがはっきりとする筈だ。
暫くするとドタドタと激しい物音が聞こえ、ガチャっと言う音と共にドアが開いた。
「はい、どちらさま~?」
目の前にパジャマ姿のまま寝癖が付いたボサボサ頭の唯先輩が現れた。
「唯先輩」
「?」
唯先輩はキョトンとした顔で私をじっと見つめている。
「おはようございます、唯先輩」
とりあえず挨拶を交わす、今にも叫び出しそうな気持ちを抑えて静かに唯先輩の言葉を待つ。
「あ、おはようございます」
よくわからないと言った表情でそう返す。
「もう、寝惚けてるんですか…唯先輩!?」
唯先輩の反応に、私は思わず口調がきつくなってしまう。
「あの、どちらさま?」
「!」
その言葉を聞いて…私の中で何かが音を立てて崩れていく気がした。
「初めまして…だよね?」
少し訝しげな表情をしながら唯先輩が首を傾げる。
「何を…言ってるんですか、唯先輩?」
「私を先輩って呼ぶって事は二年生の子?あ、小っちゃいしもしかして一年生?」
その言葉を引き金に、ずっと抑えていた私の理性の糸がぶち切れた。
「誰の胸が小さいですって!例え唯先輩でもそんな暴言許しません!」
「えぇ!?言ってない言ってない!胸の事なんて一言も言ってないよぉ~!」
ぶち切れた私に涙目で言い訳をする唯先輩。
「今更、謝っても許しません!ヤッテヤルデス!ヤッテヤルデスヨ!」
私はその勢いのまま唯先輩に襲い掛かる。しかし、そんな私を唯先輩は真正面から抱きしめてくれた。
「よしよし、良い子良い子♪」
そう言いながら、優しく私の頭を撫でてくれる。
「ふぅふぅ…にゃ~ん♪」
「可愛い♪猫さんみたいだねぇ♪」
「にゃ~ん…はっ!?」
あまりの愉悦感に意識が飛びかけた。…と言うか飛んでいた。
「貴女、名前は何て言うの?」
「梓…中野梓です」
「梓ちゃんか…じゃあ、あずにゃんだね♪」
「あ…」
唯先輩にそう呼ばれた瞬間、私の中のもやもやが全て弾け飛んだ気がした。
「あ~ずにゃん♪」
「唯先輩…」
何だろう、ついさっきまで絶望に打ちひしがれていた気持ちが、何もなかったように解けていく感じがする。
「あずにゃんは私の事、知ってるの?」
「知ってます…唯先輩は私の大切な先輩なんですから」
「そっか、嬉しいな♪」
「だけど、唯先輩は私の事を知らないんですよね?」
「…うん」
その言葉に、またさっきの暗い感情が顔を出す。
「…」
「ねぇ、中に入って少しお話しようよ?」
私は答えなかったが、唯先輩は構わず私の手を引いて家の中へと通してくれた。
じゃあ、あずにゃんは本当に私の後輩だったんだね」
「はい」
「こんな可愛い後輩が居るなんて、もう一つの世界の私が羨ましいよ~」
「…そうですか?」
「うん」
唯先輩に招き入れられ、私は自分が置かれているであろう状況(あくまで想像だが)を説明した。
「私がもしも…なんてずっと考えてたからこんな事になっちゃったんでしょうか」
「もしもの世界かぁ…これってあれだよね?パラパラワールドってやつだよね?」
ちょっと待て、何だその愉快の世界は…?
「もしかしなくても、パラレルワールドの事ですか?」
「そう、それ!」
「やっぱり、何処の世界でも唯先輩は唯先輩ですね」
呆れながらそう言いつつも、心の何処かでホッとする私が居た。
「だけど、あずにゃん…『もしも』の世界をずっと考えてたって事は元の世界が嫌だったの?」
「嫌だなんて、そんな訳ありませんよ!」
「そうなんだ、じゃあ何で『もしも』なんて考えてたのかなぁ?」
「…」
唯先輩の問いに言葉が詰まる。嫌だった訳じゃない、それは誓って言える。だけど…。
「私は逃げたかったのかも知れません」
「逃げたかった?」
「私以外は三年生で、皆さん同じ大学を志望してて、もうすぐ卒業で、それで…」
「自分だけ置いて行かれる様な気がしちゃった?」
「…はい」
「ふふ、そっか」
「…何で笑うんですか?」
全てを見透かした様な唯先輩の顔に、私はちょっとムッとした。
「ごめんごめん、馬鹿にして笑った訳じゃないよ?ただ…」
「ただ、何ですか?」
「ただ、あずにゃんはどうして自分だけ置いて行かれるなんて思ったのかな~って」
「え?」
何を言ってるんだこの人は…現実に私だけが置いて行かれるじゃないか。
「あずにゃんは追いかけようとは思わないの?」
「どう言う意味ですか?」
「先に卒業して行く私達を、あずにゃんは追い掛けて来てはくれないのかな?」
「追いかける…ですか?」
「もし、今の私にあずにゃんみたいな可愛い後輩が居たら…無理矢理にでも連れて行っちゃいたいよ」
「何を言ってるんですか、そんな事出来る訳が…」
「そう、出来ないよね…気持ちではそう思っててもそんな事は現実には出来ないもん」
唯先輩の言いたい事がよくわからない。ただ、『現実には出来ない』と言う言葉に激しく感情を揺さぶられた。
「出来ないなら、どうしようもないじゃないですか」
「うん、出来ない…私には」
「私には?」
「私達が別れて、また一緒になれる方法…それが出来るのはあずにゃんだけなんだよ」
「私…だけ?」
唯先輩が真剣な顔で私を見つめる。
「先に行く私を追いかけて来てよ、あずにゃん」
「私が唯先輩を追いかける…」
「そう…追いかけて来て欲しい、あずにゃんに」
そうか…唯先輩が私を連れて行くことは出来ないけど、私が唯先輩を追いかける事は出来るんだ。
「唯先輩…」
「なぁに、あずにゃん?」
「もしも、私が追いかけて行ったら、唯先輩は私を受け止めてくれますか?」
「駄目だよ」
「え…」
「もしも…じゃ駄目」
「あ…」
「もしも…じゃない、あずにゃんの本当の気持ちを教えて?」
「私は…私は唯先輩を追いかけます、このまま終わりにはしたくないから!」
「うん、あずにゃん…待ってる♪」
「唯先輩…」
唯先輩が優しく私を抱きしめてくれる。甘い香りと共にその柔らかな感触が私の全てを包み込んでくれた。
「唯…先輩?」
私を包む柔らかな感覚はそのままに、少しずつ意識が遠のく。
「あずにゃん、待ってるからね…」
その言葉を最後に、私は優しい香りと感触に包まれたまま深い眠りへと誘われていった。
「ん…」
窓から差し込む眩しい光に、私は思わず目を細めた。
「ふわぁ~あ…」
枕元にあった携帯を手に取り時間を確認する。
「8時32分…」
昨夜は遅くまで起きてたせいか、普段よりも遅い起床時間。
「今日は唯先輩と出掛ける約束…を…」
そう呟いた瞬間、私は目を見開いた。
「そうだ…もしもの世界!」
私は携帯を開き、登録された番号を確認する。
「あ…」
そこには間違いなく『唯せんぱい』の番号が登録されていた。
「私、戻ってきたの?それとも夢…だったの?」
今となってはそれが現実だったのか夢だったのかはわからない。
「夢…だとしても」
ただ、私の心には明らかな変化があった。
「もう逃げない、だって私には出来るんだから」
あの人が教えてくれた。あの人が待ってるよって言ってくれた。だから私は追いかけようあの人を。
「唯先輩…」
そして、いつの日か私の想いをあの人に伝えよう。
「待ってて下さいね、唯先輩!」
ただ一言、貴女が好きです…と。
終
- これはかっこ唯 -- (名無しさん) 2013-10-14 09:50:07
最終更新:2010年10月10日 17:37